竜王族4-二代天竜王
始祖様がお待ちかねです。
アオ、紫苑、珊瑚が、陶芸工房から竜骨の祠に戻ると、サクラと虹藍が出て来た。
【お♪ 揃ったか。
楽器は拝聴の間に色々あるからな】
王子達が入ると、モエギが苦笑しながら端の扉を指した。
「お借り致します」三人、礼。
妖狐王城で奏でたように、笛と琴と鼓弓で数曲。
紫苑と珊瑚が舞に転じ、また数曲――
カルサイとドルマイと、もうひと神、現れた。
【コバルト! 王子達に危険が及ばぬよう、付いていなさいとは言いましたが、邪魔をしてよいなどとは言っていません!】
ドルマイがシルバコバルトを引っ張って行った。
少し離れた所で『始祖様』が叱られている。
(モモお婆様と父上みたいだね~)
(確かに、そっくりだね)(そうなのですか?)
(うん、つい最近も見たよ)(モモお婆様が……)
【サクラ、アカが新たに剣を持って来てくれました】
カルサイが二つの水晶を差し出した。
「ありがとうございます、カルサイ様」
【私達が不在の時には、このバナジンが代わりに魂を移しますので、いつでもおいでなさい】
【父がご迷惑をお掛けした分も励みますので、宜しくお願いします】
「では、二代王チェリーバナジン様ですか?」
【王としては短期でしたが……認めて頂けるのは、大変 嬉しく思います】
「それは当然でございます。
未熟な私共へのお導き、どうか宜しくお願い致します」
【神と成ったのはバナジンの方が先。
穏やかですが力は有ります。
存分に頼ってくださいね】
まだ妻に叱られている息子を見、苦笑しながら、カルサイが言った。
【その魂は、彩白と翠星】
「お姉様方!?」
【そうです。まだ眠っておりますが、すぐにお話しも出来ますよ】
「ありがとうございます」
サクラから水晶を受け取り、抱きしめた。
【では、早く ここを】「はいっ」
そそくさと楽器を仕舞い、揃って礼をして、曲空した。
紫苑、珊瑚、フジは地下魔界へ。
アオ、サクラ、虹藍は魔竜王国へ――
♯♯ 老竜の神殿 ♯♯
「サクラ、城ではないの?」
「うん。当面は、水晶をここに納めるからね」
「うん……」二人は神殿に入った。
「おお、戻ったか」【虹藍……】
「えっ!? お父様!?」
「あの複製体が携えていた剣に、魂が込められていたんだ。
竜魂の水晶に移したから、いつでもお話し出来るからね」
サクラは優しく言い、虹藍の背をそっと押した。
「お父様……」溢れる涙そのままに歩み寄る。
【虹藍、苦労させたね……
ひとりぼっちにしてしまって……すまない】
「お父様も、お母様も、淡黄お兄様も……
私を護ってくださった事、知っているわ。
だから謝らないで……ありがとう、お父様。
私……護って頂いたから、今とても幸せよ」
【そうか……良かった……
サクラ様、もう護れぬ私に代わり、娘をどうか宜しくお願いします】
「明緑王陛下、若輩者では御座いますが、力を尽くし、虹藍様をお護り致します事、お誓い申し上げます」
【王は既に貴方だ。
私に、そんな御大層に付けなくてもいいよ】
「サクラ、畏まらず、父と呼んであげてはくれまいか?」
「長老様……婚儀も まだですのに……」
「構わぬ構わぬ。儀式など」ほっほっほ。
「よろしいのですか?」長老と虹藍が頷く。
「あの……
義父上様、宜しくお願い致します!」
【嬉しいものだな。息子が増えた。
出来れば『義』も無くして欲しいな。
気持ちに付けていたであろう?】
「あ……
では、私にも『様』など付けないでください」
【うむ。そうしよう。
サクラ、この国を頼んだぞ】
「はいっ! 父上!」
その後は、静かに見守っていた祖父母と伯父一家、そして兄が話し始め、肖像画でしか見た事が無かった家族、親族が、突然 身近になった和やかな時を過ごした。
「虹藍、その水晶は?」
「彩白お姉様と翠星お姉様よ♪」
「長老様、ラン、こちらと城の宝物庫の目録を見せて頂きたいのです。
無くなっている剣には、きっと何方かが込められている筈ですので」
神官が持って来た目録を受け取り、サクラと虹藍は蔵に入った。
順に剣の名を呼ぶと、剣が光る。
光らない名が有ると、サクラは目を閉じる。
「何をしているの?」
「竜宝の国に無いか確かめてるんだ。
だいじょぶ。そこには無いから、ちゃんと形が有る」
「どれが剣なのか判るの?」目録をなぞる。
「もっちろ~ん♪」
「やっぱりサクラって凄いわ……」「そぉ?」
そうして目録の最後まで確かめた。
「けっこう無くなってるね。
絶対 見つけるからね」にこっ。
「ありがとう! サクラ!」ちゅっ♡
♯♯♯
「竜宝達が歓声を上げております」
神官が台座を整えながら言った。
【ほう、分かるのか?】
「少しばかりでございますが……
サクラ様は、竜宝の王でもございますので、竜と話すように、竜宝とも話されます」
【竜宝の王……不思議な子なのだな……】
【サクラの兄……アオ様と話がしたいのだが、呼ぶ事は出来るのか?】
「はい。千里眼という竜宝で話せますので」
【あの二人が行ったら、呼んで欲しい】
「畏まりました」
♯♯♯
そのアオは――
これで書類は終わりだな……
魔竜王城の執務室に居た。
千里眼が鳴る。
『アオ~、何で来ねぇんだよぉ』
「ハク兄さん、またですか?」
『今、どこなんだよぉ?』「魔竜王城です」
『何で?』「サクラの代わりに執務を――」
『それは許さねぇっ!』「何で許しが――」
『何でもだっ! こっちに来い!』切れた。
ったく……
再び千里眼が鳴る。
「あ……はい。すぐ参ります……大丈夫ですよ」
ハク兄さんに……
繋がった。
「急用が出来ましたので、頑張ってください」
切った。
♯♯ 天竜王城 ♯♯
「アオ! おいっ、アオ!
切りやがった……アイツ、何 考えてんだろな……」
扉を叩く音がし、開いた。
「アオ♪ やっぱ来てくれたのか♪ あ――」
「アオでなくて、すまなかったな。
どうしたんだ? ハク」コハク王、御帰還。
「いや、何でもありません」執務してる振り!
「どれどれ……『再検討』か……
こっちの書類は、キンがしていたのか?
いや……この字はアオだな……
ふむ。文章の言回しもアオに間違い無いな。
そういう事か」クスクス。
「いやぁ……量が多くて~」
「まぁ、実際キンとハクの代には、執務はアオが殆どしてしまうだろうからな。
ふむ……これは凄いな……
こんな考え方もあるのか……
一件一件、真剣に、よく考えているな。
今からでも任せてしまいたいところだな。
こちらの書類は……
ああ、私が確かめればよいのだな。
これはまた、丁寧に書いているな」
「あ……謁見が重なってる時間だっ」
「頼んだよ。私は、これを読みたいからね」
執事が迎えに来た。
「ハクが行くからね」
渋々、ハクは立ち上がった。
♯♯ アオの屋敷 ♯♯
琉蛇は仕事を交替し、風蛇を抱いて、託児所から自室に向かっていた。
「風ちゃん、おねむ?」「ん……」
「お昼寝の時間だものね。
一緒に ねんねしましょうね」
風蛇は既に寝息を立てていた。
「いい子ね~、風ちゃん……」自室に入る。
子供用の寝台に横たえ、とんとんしながら考えるのは、どうしても爽蛇の事だった。
王族の執事長が結婚できないのは、
もう昔話だって、蓮蛇様と愛ちゃんも
言ってたのに……
爽蛇さんは結婚って考えていないのかしら?
それとも……私をまだ子供だと思ってる?
お仕事だけのお付き合いなの?
私……嫌われ――
それだけは考えたくない。
私の記憶が無いから?
子供の頃に何かあったの?
ずっと前から知り合いだったのかしら……
何があって記憶が無くなったの?
お父さんとお母さんは、
どうして死んでしまったの?
爽蛇さんは知ってるはず……
なのに、どうして教えてくれないの?
風蛇が もそっと動いた。
掛布を直していると、小さな手が袖口を握った。
空いている手で、柔らかな髪を撫でる。
「『とーちゃ』は何を考えているのかしらね……」
「かぁ……ちゃ……」「はい?」「しゅき……」
「え……」寝言……よね?
でも……『好き』って……
それって、爽蛇さんが?
ううんっ、風ちゃんが、よねっ!
熱くなった頬を手で扇いだ。
凜「バナジン様、はじめまして♪
えっと、チェリーバナジン様の方が
正しいんですか?」
バ【天竜王としてはチェリーバナジンですが、
神としてはバナジンです】
凜「もしかしてシルバコバルト様も?」
バ【そうですよ。
当時、天竜は長い名を貴びましたから、
王としては長くしたそうです】
凜「それにしても、バナジン様は
カルサイ様そっくりですね~
見た目も雰囲気も♪」
バ【よく言われます】
凜「良かったですね~
父親じゃなくて、お祖父様に似て♪」
バ【まぁ……そうですね】
バナジン様は、やんわりと笑った。




