竜王族2-明緑王
かつて天界から嫁いだジョンブリアンが、
持ち込み、魔竜王族の魂を込めた竜魂の水晶は、
未だ発見されていないようです。
と言うか、存在すら忘れ去られているような……
♯♯ 天界 竜骨の祠前 ♯♯
【ふむ。午前の部は、このくらいにしておいてやる。
魔界では提弦やら胡弓やら奏でていたな。
いつでも聴いてやるぞ】わはははは!
「お耳汚しですが、また宜しくお願い致します」ぐったり……
【午後も来いよ】
「はい」え~っと、この後は……
【行き場が無いなら、まだ聴くぞ♪】
「ありがとうございましたっ!!」
アオとサクラは曲空して離れた。
(次は、長老の山に新しく出来た陶芸工房に、ちょっと寄りたいんだけど)
(俺も行きた~い♪
この前、魔王の薬品 釉薬にしてって頼んだんだ。
アオ兄も何か頼んでるの?)
(うん。外周結界の鍵用に五彩を増やそうと思ってね。
そろそろ試作が出来ていると思うんだ)
(そっか~。外周の祠も整えないと、内周は満杯だもんねぇ)
(地下を進めば、また浄化をお願いしないといけないからね。
あっちもこっちもだけど、動くしかないよね)
(そぉだね~。あ♪ あれだよ。降りよ~♪)
「シトリンさ~ん♪」屋外で見つけた。
「あ♪ サクラ様、アオ様。
立派な工房をありがとうございます。
それぞれ出来ていますよ」取りに行った。
「五彩の試作は、十枚 作りました。
先日の釉薬は、基本が、このカムセラブルー。
陶芸の父が生み出した、陶芸家が憧れる有名な色です」
嬉しそうだ。
アオとサクラ、顔を見合わす。
(五代王様かな?)(うん♪)
(優しい青磁だね)(キレイだね~)
「そして、二つの薬品を比率を変えて加えたのが、こちらです」
二つの壺は、底の方がカムセラブルー。
次第に色が変化し、壺の口は鮮やかな赤紫と、青み掛かった透き通るような美しい緑だった。
「二つとも混ぜると、こうなりました」
三つ目の壺を取り出す。
「星空だ~♪」「透明感は海のようですね」
深い深い紺。角度に依っては、赤み掛かっているようでもあり、緑掛かっているようでもあり…
何層にも重ねて塗っているかのように神秘的な色艶が出ていた。
その深い色に、星の煌めきが入っている。
「星は、何か散らしたの?」
「いえ、焼き上がりましたら勝手に入って、こうなっていました」
「不思議だね~♪」
「この二薬の比率を変えると――」
「あ……♪」「俺達の鱗……」
「はい♪ 美しい色が出ました♪」
「あ!
俺の鱗と、この星空の間の色も出来ますか?」
「もちろんです♪」
「シトリンさん、お願いが――」耳打ち。
「はい♪ では、後程」「宜しくお願いします」
二人、にこにこ。
「アオ兄、なぁに?」「うん、後でね」
そして、魔竜王国、老竜の神殿へ――
【ここは……老竜の神殿……貴殿方は……?】
神殿の入口扉前で、水晶から声がした。
「あ、お目覚めになられましたか、明緑王陛下」
「私達は天竜、アオとサクラと申します。
剣に込められておりました陛下の魂を水晶に移し、長老様の元にお連れ致しました次第にございます」
【天竜……私が死して、どのくらい経ったのでしょう?
何があったのでしょう?】
「それは、これから ゆっくりと。
まずは入りましょう」
「あ、アオ様。その水晶は……?
あっ、サクラ王様も!」
「神官さん、慌てなくても~」
「落としたりしませんので大丈夫ですよ」
「落とすなどとは思ってはおりませんが……
とにかく、台座をご用意致しますね。
長老様のお部屋にどうぞ」
神官は奥に行った。
【今、王と……?】
「おお、アオ様、サクラ。
今日は如何しましたかな?」
【お二人は、一体……】
「その声……もしや……いや、まさか……」
【長老様、明緑です】
「本当に?
いや……明緑は死した筈……何故……」
【面倒だ。手短に話してやる】笛から声。
「始祖様、余計ややこしくなりませんか?」
【お前ら~】「いえ、どうぞ」
【シルバコバルトだ】「えっ!?」【は!?】
【俺は今、神だ。
つまり、お前ら子孫は、神の血を受け継いでいる。
それに、俺が受けた呪も、個紋としてな。
俺の血と呪により、この『竜魂の水晶』に、お前ら子孫の魂を込める事が出来るんだ。
コイツらが持って来た七つの水晶には、剣に込められていた七人の魔竜の魂が入っている。
この水晶に入れば、魂は神竜と同じく永遠だ。
話す事も出来る。
どうだ、解ったか?】
「あ……はい。何とか……」「始祖様、呪とは?」
【既に、それ自体は無害化している。
ただ、個紋が魔王にとって、標的とする目印になっているだけだ】
「個紋って、そんなモノだったんだ~」
【お前ら、さっさと終わらせて、また来いよ】
「はい」ついつい ため息。
【何だ? 文句あるのか?】「いいえ!」
【ふんっ。
魔竜の子孫共、あとはコイツらに聞け。
では、な】
「ありがとうございました!」アオとサクラ。
二人は笛を外に投げたかったが、そんな事をすれば、また絡まれるので我慢し、長老の方を向いた。
「長老様、明緑王陛下。
始祖様が仰った通りなのです。
天界では『竜骨の祠』という場所に、全ての水晶を納めており、よくお話を伺いに参っております。
こちらの水晶を納める場所なのですが、天界、魔界、どちらがよろしいでしょうか?」
「今後、剣が見つかる度に、魂が込められているのかを確かめますので、水晶は増える可能性がございます」
「そうじゃな……ひとまず、この神殿の奥に置かせて頂けますかな?
明緑、ゆっくり考えようではないか?」
【私は、それで構いません。
まだ、今がいつなのか、国がどうなっているのか、何も把握出来ておりませんので……】
「明緑が亡ぅなって九年じゃ。
朱麗王妃が王代理をしておったが、
六年前、淡黄王子と共に亡くなり、その後は虹藍が女王と成っておる。
サクラは虹藍の婚約者。
先日、即位したのじゃ」
【現王であったか……アオは?】「兄です」
【そうか。では、天竜王に成るのだね】
「いえ、王太子には上の兄が成っております」
【兄弟が多いのか……】「七人なんです」
【王妃が複数なのか?】「いえ、同腹です」
【凄いな】笑う。「奇跡と言われています」
【いつの間にか、天竜が魔界に来れるようになっていたのだね?】
「六年前、人界で虹藍様にお会いし、通路について伺いました。
私の天性は闇障ですので、通る事が出来たのです」
【闇障なのか……アオも、なのか?】
「私は光明なのですが、妻が闇障なのです。
妻は体を失っており、私の内で生きているのです」
【不思議な事だらけだな……虹藍は?】
「今は謁見の時間ですので、後程お連れ致します」
【サクラ王は謁見しないのか?】
「龍神帝王を倒す事を優先しておりますので、城には複製を置いております」
【複製?】「このように――」複製を作った。
「各々動く事が出来ますので」複製が話す。
【まったく……不思議な事をするのだね】
「この二人は、特別だそうじゃ」
【龍神帝王を倒すと言ったな。本気なのか?】
「はい」アオとサクラはキッパリ言った。
【良い王を見つけたな】【その声、明緑か?】
【もしや、兄上ですか?】【これは一体……】
「火紅か? 説明するからの。
サクラ、虹藍に知らせてくれるかのぅ」
「はい」
「そろそろ、皆様お目覚めになられると存じます。宜しくお願い致します」
二人は魔竜王城に曲空した。
――サクラの執務室。
「サクラ、今日の予定は?」
「謁見は、今の方で終わりだよ。
後は執務。この書類の山、片付けなきゃ」
「手伝ってもいいかな?」
「いいの!?♪」
「基準は同じだろうか……」「だいじょぶ~」
二人は書類を読み始めた。
「アオ兄、この山は?」
「虹藍様に確かめようと思ってね」
「こっちは?」「署名しておいて」
「真ん中は?」「再検討。案は書いてあるよ」
「うわっ♪ すっご~♪ さっすが~♪
ハク兄が頼るの納得~」きゃははっ♪
虹藍が戻って来た。
「アオお兄様がいらしてたのね♪
サクラの楽しそうな声、廊下に聞こえてたわ」
「そぉ?」「あら、その書類は?」
「アオ兄に手伝ってもらったんだ♪」
「この山は、確かめて欲しいんだけど――」
「それは後にして、ちょっと来て欲しいんだ」
「どこに?」「天界♪」
サクラは、虹藍とアオの手を取って曲空した。
――竜骨の祠前。
「サクラ、何で俺まで?」「あ……つい」
【おっ♪ 笛を吹くのか?】出た。
「それは後程!」アオは曲空した。
始【おい、さっきのは?】
菫【あ、始祖様……
私の方が伺いたかったのですが――】
始【個紋が有るから子孫なんだろうが……
俺は知らん】事にする!
菫【何方が再誕させてくださったのでしょう?】
始【ふむ……待ってろ】消えた。
待っているとゴルチルが現れた。
ゴ【この件は私が預かる。王子達には言うな】
菫【あ、はいっ!】
ゴ【他にも知っている者が居るならば
口止めしておけ。
滅されると言ってもいい】
菫【そんな御方なのですか?】
ゴ【そうだ】
菫【……はい。仰せのままに】
ゴ【彼奴は、望み通りセレンテに預けた。
ウロチョロ出来ぬ程に厳しく鍛えさせる。
もう現れぬから安心しろ】
菫【ありがとうございます!】
既にアオに言ってしまった事をすっかり忘れ、
喜んでいるスミレであった。
――――――
明緑王には前妻・天藍、後妻・朱麗が
居りました。
前回、天藍王妃が救出されましたが、
虹藍の母親ではありません。
漢字の名前だらけですが、虹藍の周りも
これから賑やかになる、という事を
表したかっただけですので、お気になさらず
です。m(_ _)m
天藍 = 明緑 = 朱麗
┌───┬┴─┐ ┌─┴─┐
紫紅 彩白 翠星 淡黄 虹藍




