王の道7-補佐の道
ハクだって頑張っているんです。
♯♯ 天界 ♯♯
アオは地下魔界に戻る前に、轟雷の祠に寄った。
この日、一度目の襲撃後に運び込んだ元・影達は、既に、かなり回復していた。
「この中で一番の側近だった方、少しお話を伺っても大丈夫ですか?」
「貴方は、私達を戻してくださった――」
「ただの竜です」にっこり。
「とは、とても思えませんが、何なりと」
「魔王――龍神帝王は、ここ数日 静かでしたが、今日、襲撃を再開したのは何故でしょうか?」
「先日、鏡を使って何方かを飛ばした時、鏡からの強い光を浴び、以降、城に籠って姿を見せませんでしたが……
今朝、何故 攻撃を続けていないのかと檄が飛び、慌てて態勢を整えた次第です」
「今朝は姿を見たのですか?」
「いえ、声だけでした」
「皆様は影だった時、城に入れたのですか?」
「いえ、今は入れません。
以前――ひと月程前までは、術を掛け、鏡を使えば入る事が出来ましたが、城近くに新たな結界を成して以降、入れなくなりました」
「鏡……」
「はい。その鏡を与えられた者だけが入城出来ていたのです」
「城内の見取り図を描いて頂けますか?」
「はい。私達が知り得ている限りを描かせて頂きます」
「ありがとうございます。
御体に無理の無い範囲で、どうか宜しくお願い致します」
長老の山に曲空し、大婆様の部屋に向かう。
(魔王は私より回復が遅いのだな。
アオの光を浴びたのであろう?)
(攻撃するつもりは無かったんだけど……
ルリを護る為に、全力で自分を包んだだけだよ)
(ありがとう、アオ)(当然だから)にこにこ♪
もしも再び失ったら、
今度こそ俺は死んでしまうから……
伝わってしまっているぞ。
それほどの者だとは思えないが……
離れるなど考えたくもない。
だから――
(――ありがとう、アオ)(なら、後で御褒美♪)
(それは――)(有るよね♪)(うっ)(ねっ♪)
(いや、だから――)(えっ? まさか無いの?)
(それとこれとは――)(楽しみに待ってるね♪)
(う……)(あと半日、ルリと一緒に頑張ろ~♪)
(時々サクラだな)(そぉ?)(ほら)(どこ?)
(目の前だが)(ルリにだけ特別だよ♪)(フッ)
(ああっ! 鼻で笑ったな~)(笑うだろ、普通)
(ひっど~い!)(ぷふっ♪)(また笑ったぁ~)
(着いたぞ)(話逸らしたぁ~)(事実だからな)
「大婆様、失礼致します」恭しく一礼。
「アオ、今日は如何したのじゃ?」にこにこ♪
「はい。
母が王妃修行を希望しておりますので、お願いに参りました」
(さっきとは別人だな)
「そぅか。悦ばしき事じゃな。
ボタン殿とミカン殿が王妃修行を終えた所じゃ。
丁度良いからの、空いた時に通うよぅ、伝えてくれるかの」
「はい。ありがとうございます、大婆様」
(ルリ、何か言った?)(独り言だ)(そう?)
「アオは城に通うておるのか?」
「毎日ではございませんが、皆の婚儀の調整など、母と致しておりますので」
「ほぅ、ミドリ殿が調整を……
アオはいろいろと、よぅ働くのぅ。
して、人界の任の間、城に入れぬのは不便ではないのか?」
「ルリの姿でしたら自由に入れますので、不便はございません」にこっ。
「ルリ殿の姿とは?」ぱちくり。
「このように――」変わる。
「おやまぁ……愛らしき姿じゃのぅ。
ギンが喜んでおるのではないか?」
「はい……少々困る程に……」赤面。
「もしや、サクラも、そぅしておるのか?」
「はい。ルリの妹アンズとして登城しており、ルリとアンズの部屋と、魔竜王城を繋いでおります」
「面白い事をしておるのじゃな」ほっほっほ♪
「工夫しなければなりませんので」
「また改革をするのかと思ぅとったぞ。
今後の為にせぬのか?」
「人界の任、それ自体を無くせるよう、魔王を倒すつもりですので。
ただ、王族でも、親子が自由に会えるようには、変えるべきかと考えている所です」
「ほぅ」
「しきたりにも意味は有るとは解っておりますが、風潮も変わるものです。
平和な世になれば変えてもよいのではないか、と考えるようになったのです」
「そぅじゃな……それも良かろぅな」
「勿論、長老の山での勉学や修行は無くせません。
その期間は離れる事にはなりますが……
最近、両親と接する事が増え、学ぶ事の多さを知りましたので、幼少期と成人以降は、共に居ても良いのではないかと思ったのです」
「そぅかそぅか。
アオ、出来る限り早ぅ政に加わり、皆の為、変えるがよいぞ」にこにこにこ♪
「もうひとつ……考えているのですが……」
「何じゃ? 遠慮のぅ言ぅてみよ」
「お許し頂けるならば、天魔両国の政に携わりたいのです。
元々は魔竜も天竜です。
両国共通の事案や、片方が解決済みの事案も有ると思うのです。
共に栄える為に力を尽くしたいのです」
うんうん。
「兄達と共に、そしてサクラと共に、両国の未来を開く礎と成れ、アオよ」
にこり。
「ありがとうございます! 大婆様」深く礼。
「後押しは、するからの」にこにこにこ。
「はいっ! 宜しくお願い致します」再度、礼。
「実はのぅ、いずれ魔界に行くと聞いた時、魔竜王国の事を頼みたかったのじゃ。
交流が断たれ、その後、如何な事になっておるのか、ずっと案じておったのじゃ」
「以前、力が戻ったら、と仰っていたのは――」
「その事じゃ。
父モエギより最長老を継いだ時に託され、七王子のうち誰ぞ ひとりでも、行ける力を持ってくれぬかと、ずっと待っておったのじゃ。
じゃからのぅ、アオ。
両国にて存分に、その力、発揮せよ」「はい!」
(すこぶる嬉しそうだな)(そりゃそうだよ♪)
(重責を喜んで担うとは)(重責? どこが?)
(流石、アオだな)(誉めてる? 呆れてる?)
(両方だな)(ふ~ん……そうなんだ……)
(不服か?)(まぁね)(両方だが立派だ)
(そう?♪)(それはそうと――)(何?)
(男には戻らぬのか?)(あ……)
モモの部屋の前で、慌てて戻った。
モモは、ミドリの王妃修行を快く引き受けてくれた。
外に出、外周の祠も収容所に出来るだろうかと、上昇すると、東端の祠近くが光っていた。
竜宝かな?
光を目指し、降下する。
地中か……そこそこ深いな……
神眼と掌握を使って、引き出した。
掲げて見る。「大剣だな……」浄化 。
これは……雅剣なのかな? 五眼?
光を当てる。(目覚めて……)
「アオ兄、見っけ♪」「あ……サクラ」
「それ――」「うん、光っていてね」
「繝雅だ♪ ちょ~だい♪」
「知ってるの?」渡した。
「うん♪」なでなで♪
「繝雅は未完成なんだ。
だから、アカ兄トコに持って行くねっ♪
せ~のっ♪」曲空♪
――赤虎工房。
「アカ兄♪ 繝雅だよ♪」「ん……」受け取る。
アカは剣を確かめ、壁に掛けた。
そして、箱を持って来て、差し出した。
「千里眼だ」
「腕輪だ~♪」嵌める。
アオの千里眼が鳴る。「どう鳴らしたんだい?」
「アオ兄って思っただけ~♪」切れた。
「あ♪ クロ兄、何も起こってない?
……うん♪ 何かあったら鳴らしてねっ♪」
ぴょんぴょん♪「みんなに配る~♪」ぴょん♪
「アカ、ありがとう」「うむ」
「それじゃ――」サクラに掴まれた。
♯♯♯
夜、アオが再び城に行くと――
執務室では、ハクだけが机に向かっていた。
「キン兄さんは? 予定外の何かですか?」
「アオ~♪ 待ってたんだっ♪
兄貴、大婆様んトコに行くって、夕方 出たっきりなんだ」
「そうですか。それで、残りは?」
「そっちに置いた♪」
「まさか……全然、進んでいない……?」
「兄貴が進めてくれてたんだが、追加があって、そうなったんだ」
「で、今まで何を?」「署名♪」
「って、昼に俺が見た分じゃないですか!」
「謁見が長引いたんだよぉ、しゃあねぇだろ」
「ったく――あ、キン兄さん……はい。これから……はい、大丈夫です。
ハク兄さんに任せていたら、朝になっても、このままですよ……はい、では」
「その腕輪、何だ?」「千里眼です」
それだけ言うと、アオは書類を読み始めた。
「兄貴、何だって?」「仕事をしてください」
「って言ったのか?」「話す暇ありませんよ」
「教えろよっ!」「今夜は戻れないそうです」
「何で? どこにいるんだ?」「知りません」
「聞いたんだろーが」「地下に行きますよ?」
「わかったよ」チラッと睨み、書類に戻った。
紙を捲り、書き込む音だけの静かな時が流れる。
カタッ。「ん?」アオが出て行こうとしていた。
「どこ行くんだ?」「終わりましたので」
「ウソだろっ!?」「失礼致します」礼。
「おいっ待てよ!」「まだ何か?」
「なぁアオ、お前……俺達の大臣になってくれるんだよな?」
「勿論です。ただ……」「な、何だよっ」
「考えている事が有るんです。
まだ、相談しなければならない方々がいらっしゃいますので、この話は後日、改めまして致します」
そう言うと、ハクの方に歩み寄り、机に二つの腕輪を置いた。
「それでは、失礼致します」にこっ。
菫【あ♪ アメシス様♪ 伺いたい事が――】
ア【すみません! 急いでおりますのでっ】
菫【行っちゃった……あ! ヒスイ!】
翡【大声で呼ばないでくれる?】
菫【昨日の続きなんだけど――】
翡【だから、僕は知らないってば!】
菫【アメシス様にも逃げられちゃったのよぉ】
翡【それは当然だと思うけど?】
菫【どうして当然なの?】
翡【ちゃんと生きていた筈なのに……
どうしてこうも世間知らずなんだろ……】
菫【どうしてそうなるの?】
翡【そういう所だよ。
とにかく、僕は知らないからね。
コバルト様に相談してみたら?】
菫【それって……
どっちもどっちじゃないのよぉ】
?【見つけた! スミレちゃん!】
菫【えっ!?】振り向きもせず逃げっ!!
?【おや? 聞こえなかったのかねぇ……
でも、アオイさんでもいいさね♪
ねぇアオイさん、さっきのは
スミレちゃんだったわよねぇ?】
翡【確かにスミレでしたけど……
あの、私はヒスイです】
?【あら、そっくりさんかい?
それにしても……本当に違うのかい?】
翡【違いますので。失礼致します】
?【アオイさんも神に成ったらしいんだけど
会えないのよねぇ……
あ、そこの神様っ!】飛んで行った。
ホッとしたヒスイも逃げた。
?【そうなんだよぉ、孫が生きていてね、
護りたいから、早く神に成りたいのさ。
鍛えてくれる偉い神様には、
何処に行ったら会えるのかねぇ?】
神【鍛えると言えば、セレンテ様ですが、
何処にいらっしゃるのかは――】
?【セレンテ様だねっ! ありがとよ♪】
嬉々として飛んで行った。




