王の道6-妖狐王太子
各々が不安を抱いて集まってしまった夜が
明け、各々が一歩踏み出しました。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
アオ、クロ、フジ、爽蛇と慎玄は、四ヶ所に分かれて警護していた。
魔人の軍は、その殆どを妖狐王城の警護に充てており、天魔両竜王軍は天界と地上界を警護している為、各々その区域を翌日迄、通して護ると決めていた。
(アオ、いい加減これを解いてくれないか?)
(あ、起きたの?)
(とっくに起きている!)
(でも、あと今日一日は休んでね)
(嫌だ! 飽々だ!)
(まだだよ。我慢してね)
(もう出来ぬわ!)
ルリが気を高めた 。(はあっ!!)バッ!!
(あ……流石、ルリだね♪)
(あのなぁ……)
(うん?)
(助けて貰ったし、心配も有難いが、雁字搦めは無いだろ)
(本当に元気になったら、自力で抜けると思っていたからね)くすくす♪
(ひとりの方が楽しいのかと思っていたぞ)
ぷいっと背を向ける。
(まさか! しっかり休んで欲しかっただけだよ)
背中から抱きしめた。
(良かった……本当に良かった……)
(アオ……)ルリが手を重ねる。
向かい合い、顔を寄せ――
(こんな時にっ)(行くぞ! アオ!)曲空!
――地下魔界、フジの警護区域。
(フジ!)(アオ兄様! 突然 現れました!)
(闇の穴ではないんだね?)(はい!)
(アオ、穴では無いが、歪みを感じるぞ)
(……確かに)
(神眼ならば……見えた!)光を放つ!
魔王の影が、現れたと同時に、光に包まれた。
既に現れていた影は、フジの神聖光輝を浴びた。
(来るぞ!)
ルリの声に一瞬 遅れて、歪みが生じた。
アオとルリが、光を合わせて放った。
「極炎豪放!」神聖光輝を乗せ、拡散する。
周囲、三ヶ所から現れた影達が落ちる。
アオが落下した元・影達を光で包む。
フジが別の宙に放水した。
(それ、色が着いているんだね)
(はい♪ 混ぜていますので)
話しながらも、次々と影達を落としていった。
(……弾切れかな?)
(歪みの気配も消えたな……)
暫く、警戒したまま待ち――
(また出るまでに運ぼうか)下を指す。(ふむ)
(フジ、神竜様方を運ぶから、ここにいてね)
(はい。神聖光輝で浄化出来そうですが――)
(うん、頼んだよ)(はい♪)
轟雷の祠に、神竜を運び終え、アオが戻った。
「追加は無いみたいだね。
さっきの色は何だい?」
「いくつか混ぜていますが、色は碧守閃鉱の粉です。
性別が変わる程の事はありませんが、魔王の因子は蒼月効果を受けるようです」
「凄いね、それは」
「毎日サクラが運んでくれる竜宝薬の知識が、とても役に立ちます♪」にこにこ♪
(アオ兄! フジ兄! ちょっと お願いっ!)
「サクラ!?」言い終わる前に掴まれた。
「ここは……?」「妖狐王城♪」「どうして?」
サクラはフジに答える代わりに笛を構えた。
その後ろで紫苑と珊瑚が微笑んでいる。
二人も笛を構える。
(そういう事ですか)アオとフジも構えた。
五人の笛の音が大広間に満ちる。
爽やかに煌めく音色に、皆、聴き惚れた。
(サクラ、今日は手薄なんだから、一曲だけだよ)
(うん♪ ごめんよぉ)(精一杯、奏でるからね)
(すみません、急に求められてしまいまして)
(昨日の今日だから想定内だよ、妖狐王太子)
(確かに、魔竜王国から、そのままいらした方も多くいらっしゃいますね)
(そうだろうね)
(一曲で済むでしょうか?)
(済まないだろうね。三曲って所かな?)
(すみません)
(俺達に遠慮しないで)
(しかし――)
拍手に包まれ、二曲目に入る。
(大丈夫、代わりにコギ殿が行ってくれたよ)
(え……いつの間に……)
(俺達が来て、すぐにね)
(気付きませんでした)
(気にしなくていいよ)
(アオ兄様、次は弦をお借りしませんか?)
(いいね、そうしよう)(俺も~♪)
三人は弦楽器を選び始めた。
再び湧いた拍手の中、フジは琴の前に移動し、アオとサクラは胡弓を借りて座った。
厚みを増した音色は荘厳華麗に響く。
(ねぇ、アオ兄……)(うん、いいよ)
(紫苑さん、珊瑚さん、次、舞わない?)
(次ですか!?)
(たぶん拍手は鳴りやまないから、頼むね)
(よろしいのですか?)(いいから~♪)
アオが言った通り、拍手は収まらない。
紫苑と珊瑚は笛を仕舞い、進み出た。
アオは笛に戻し、吹き始めた。
フジとサクラが、弦の音色を重ねる。
わざわざ呼吸を合わせる必要も無く、二人は舞い始めた。
そして、もう一曲――の途中で――
(短くするよ)(はい、クロ兄様ですね)
(うん)(サクラは来ちゃ駄目だろ)
(もぉ十分だよぉ。儀式は見たもん)
(ちゃんと役目を果たせよ、魔竜王)(ぶぅ~)
並んで立ち、優雅にお辞儀をし――
五人共、消えた。
――地下魔界、クロの警護区域。
(主役が来て、どうするんだ!)
(もう十分です♪)
(魔竜王も!)
(この数だよ、こっちが大事!)
闇に対抗する、光と水と御札が飛び交う。
(皆、集まってたから呼ばなかったのに……)
(変な遠慮するな!)
(そぉだよ~)(そうですよ)
(一気に片付けるぞ!)
(ルリ姉、合わせるねっ)
(フジ、水と御札を拡散して!)(はい!)
「極炎豪放!」「浄癒閃輝!」
(おっしま~い♪)(魔竜王、戻れよ)睨む。
(え~っ)(戻れっ!)(また出るよ?)
(虹藍様をおひとりで放っておくのか?)
(戻るよぉ)(ちゃんと送れよ)(うん)
くすくす聞こえる。
(妖狐王太子も!)(魔人を運びます♪)
「紫苑様! 珊瑚様!」(コギ殿がお怒りだよ)
(仕方ありませんね……では、後程また)消えた。
「また……って……」
サクラが笑う。アオが睨む。サクラが消えた。
(また後でね~♪)きゃはははっ♪
千里眼が鳴る。「どうかしましたか?」
『アオ! すぐに来てくれっ!』切れた。
ため息……
「クロ、フジ、ここを頼んだよ」曲空。
――とりあえず人界に出たとたん、
(アオ♪ 父上の執務室だ♪)
ハクの声が聞こえた。
――天竜王城。
アオはギン王の執務室の扉を開けた。
「何ですか? ハク兄さん」
「急がない物は置いといていいって言われたんだが、急ぎが――」
忌々し気に書類の山を叩く。
「こんなにも有るんだ。手伝ってくれよ~」
「キン兄さんは……ああ、会議ですね」
「よく知ってんだなっ」「当然です」
ハクを睨んでいても仕方がないので、最上の書類に目を通す。
「次の謁見まで、あまり時間はありませんよ。
急いでください」半分取る。
「恩に着るっ♪」「半分だけですよ」
目を通し、書き込み――三つの山を作った。
紙の小片を乗せる。
「『可』は署名だけしてください。
真ん中は『再検討』、案は書き込んでいます。
『保留』は、コハク王様のお戻りを待ってください。
明日の昼には帰城なさいますので。
それでは――」「待てっ!」「まだ何か?」
「もう終わったのか?」書類を指す。
「はい。
地下は二度も襲撃を受けているんです。
今、最前線はクロとフジだけなんですよ。
戻らせてください」
「そっか……悪かった!」掌を合わす。
「謁見の時間ですよ」「ゲッ……」
「サクラと妖狐の皆さんが戻ったら、もう一度 来ますので、頑張ってください」
「アオって……やっぱスゲーな……」
「普通ですよ」曲空。
「普通って……」アオが作った山を確かめる。
どこが『普通』なんだよっ!!
扉が叩かれる。『ハク様、お時間で御座います』
「今、行く」
サクラには、絶っっ対! 渡せねぇ!
謁見の間に向かうハクから、心の声が漏れた。
キンが会議から解放され、会議書類を置く為に執務室に入ると、来客用の卓に整然と積まれた書類が目に入った。
これは……アオの字だな。
ハクが呼んだのだな。仕方のない奴だ。
この案……流石だな。これも……ふむ……
いくらサクラと仲が良かろうが、
渡す訳にはいかぬな……
そして執務机を見る。
まったく……仕方のない奴だ。
机上を整理し、手付かずの山を読み始めた。
四苦八苦しているであろうハクの事は忘れて……
兄貴、遅っせ~なぁ……
ハクに呼ばれ、執務室に向かう前に、
ルリが主になりたいと言い出した。
青(ルリ、どうしたんだい?)
瑠(せっかく城に来たのだからな。
体を貸せ。寄り道する)
青(いいけど……どこに行くの?
え? 衣装部屋?)
瑠(黙っていろ。なんなら眠らせるが?)
青(いや、静かにするよ)
瑠(心配するな。戦える服を選ぶだけだ)
青(え~~~っ!)
瑠(うるさい!)
青(ぶぅ~っ!)
注)ルリと話しているのは、サクラでは
ありません。
この後、こそっと元の服に戻して、
また怒られるアオだったりします。
アオが、こんな事をするのは、
もちろんルリに対してだけですが……
父親の事、とやかく言えそうにない気もします。
青「ルリって本当は、とっても女の子なんだ」
瑠(アオ、誰に何を言っているのだ?)




