王の道4-魔竜王サクラ
サクラ、即位してしまいました。
♯♯ 魔竜王城 ♯♯
「サクラが王かぁ……」
晩餐会になり、にこやかに挨拶をして回っているサクラを目で追う。
「王のサクラは、立太子の時のハク殿より、ずーっと別人じゃのぅ。
あの時、大婆様と話しておったのは、ほんにサクラじゃったのじゃなぁ」
「ああ。まぁ、普段は今まで通りだろうがな」
「さよぅか……何やら安心したぞ」
「心配すんな。遠くに行ったりはしないさ」
「うむ。まだ魔王を倒さねばならぬからのぅ。
そぅいえばクロは途中、姿が見えぬよぅになっておったが、何処に消えておったのじゃ?」
「厨の様子を見に行ってたんだ。
突然こんな大勢 集まっちまったろ。
だから食材とか、人手とか心配でな」
「手伝ぅておったのか?」
「いや、さすがにそれは出来ねぇよ。
皆の屋敷から執事長と料理長、それと食材を運んだだけだ。
あとはアオの屋敷から来たんじゃねぇか?」
「それで蛟達が大勢おるのじゃな。
カリヤから、蛟族は皆、天竜王国に住んでおると聞いた所じゃったから、サクラの屋敷だけは蛟が多いのかと、不思議に思ぅておったのじゃ。
言われてみれば、箜蛇殿も居るのぅ」
「そのカリヤ達もいるぞ。コギ達もだ」
「お、挨拶回りが終わったよぅじゃぞ」
「曲が変わったから、踊るんじゃねぇか?」
人々が動き、広間の中央が開ける。
サクラが虹藍の手を取って、進み出た。
新たな王と成った少年と、可憐な女王が微笑み合い、舞い始めた。
「真、愛らしいのぅ」「だな……」
(兄貴達~♪ 次の曲、入ってね~♪)
兄達、頷き合う。
(姫、急いで!)ルリに掴まれた。
「お願いします!」背を押された。
女中達に囲まれ、あっという間に着替え完了。
「戻るよ!」アオとルリに挟まれ、曲空。
「間に合ったな。
クロ、急に連れ出してしまって、すまない」
「あ、ありがとう、アオ……なんだよな?」
「まだルリは起きられないからね」
「じゃあ、そっちのアオが複製なのか?」
「そうだよ。まぁ、どっちでもいいんだけどね」
曲の区切りで、兄達が婚約者を伴って優雅に加わり、サクラと虹藍を囲むと、二曲目が始まった。
二曲目も終わり、お辞儀をして退こうとしたが、拍手が鳴り止まず、もう一曲――
またも拍手が鳴り止まないので、兄弟は楽団の方に向かい、大小の提琴を借り、奏で始めた。
「笛だけではないのじゃな……」
「アカが楽器を……初めて見たわ」
「何でも器用ですよね」
「いつ練習してるんでしょ?」
「お茶会でお願いしては如何かしら?」
「それ、いいわねっ♪」
「あ……ミドリ様が……」
「号泣じゃな……」
「ギン王様、お優しいですね」
「素敵ね~」
婚約者達が各々勝手に、王子達の優しさのお手本は王なのだ、と納得した所で演奏が終わった。
その後、再び壇上に虹藍女王と別人全開な――いや、本来のサクラなのかもしれないが――新王が現れ、挨拶をして閉式した。
♯♯♯
アオが卓に地上、地下魔界の地図を広げる。
「地下は妖狐王国と古狸帝国の間という事で、王、帝、両陛下の承認を得ております。
地上は、魔竜王国の西端で如何でしょう?」
「西端なの?」元に戻ったサクラが首を傾げる。
「これまでは隔離されていたけど、これからは隣国が出来るだろうからね」
「いらしてくださるかしら……」
「地下の平和が確立すれば、そういう事にも目が向くでしょうな」
近付いて来た古狸帝が微笑む。
「王子達が助けた魔人で、社が狭くて敵わぬ。
さっさと国を建てて貰わねばな」
妖狐王がニヤリとし、紫苑と珊瑚が苦笑する。
「地上も地下も栄えていくよう、その位置でよろしいのではありませんか?」
その声に竜達が顔を上げると、多くの魔人達の笑顔に囲まれていた。
「魔竜王国は、もっと拡げなされよ。
今のままでは大使館を建てる場所もございませんからな」
「大きな竜の皆様が、縮こまる必要はございませんよ。
地上は広いですからな。
御存分に確保しておいてくだされ」
「過去の侵攻で、廃墟と荒野ばかりですから、整備して頂くと移民も増える事でしょう」
若い王と女王に暖かい言葉が降り注ぐ。
サクラと虹藍は、立ち上がり、深く礼をした後、決意を新たに頷き合った。
♯♯♯
そして、魔竜王国の西端にカルサイ、妖狐王国と古狸帝国の国境にドルマイが立ち、通路が開かれた。
【この道の条件は『魔王の闇拒絶』のみです。
ご自由に通行なさってください】
アオとドルマイが通って来た。
「今は細い道ですが、魔竜王により拡張と周辺整備を進めます。
どうぞお通りください」
魔人達は、にこやかに地下へと帰って行った。
さて、城へ――おや?
振り返ると、人と天人が居た。
「如何なさいましたか?
もしや、送る者が不足しておりましたか!?」
「いえいえ、私共も地下魔界とやらを拝見致したく、残りました次第にございます」
天馬王太子の言葉に、皆が頷く。
「では、どうぞ。私共がご案内致します」
紫苑と珊瑚が微笑む。
ぞろぞろと入って行くのを見送りながら、
「カルサイ様、人も天人も、鍵は必要ないの?」
サクラが首を傾げた。
【はい。異空間を通りますので、何方でも通って頂けます】
【実は、火神子山の通路も、そのように変えさせて頂きました】
「ありがとうございます」(――最高神様)
「あ……解空鏡は……?」取り出す。
【通路の見守り役を仰せ付かりまして御座います、我等が王】
「良かったぁ」
♯♯♯
魔竜王城に戻ると、まだミドリが泣いていた。
「母上、そんなにお泣きにならずとも――」
アオが飛んで寄る。
「サクラの立派な姿に感動なされるのは、よく解りますが、父上もお困りですよ」
(サクラ、鏡の事、言ってもいいかい?)
(いいよ~)
「魔竜王城と天竜王城は繋がっております。
サクラは遠くに離れるのでもありませんから、お泣きにならず――」
優しく涙を拭く。
「さ、こちらへ」肩を抱いて、連れて行く。
「この鏡をくぐれば天竜王城です」
ギンが先に通り、手を差し伸べる。
「さあ、母上も」
ギンの手を取らせ、アオも一緒に通った。
――天竜王城。
「このお部屋は?」「ルリの部屋です」
「いつでも行っていいの?」「はい」
「ですが、王の忙しさは、よく御存知ですよね?
事前に千里眼で御連絡くださいね」
「ええ、解りましたわ♪」
「ミドリ、明日の支度は?」
「そうでしたわ♪ では、アオ、またね♪」
嬉しそうに出て行った。
「アオ……ミドリの扱いが上手いな」
「息子ですから」にっこり。
「それに……いろいろ気付いていたんだな……
スミレから聞いたよ。ありがとう」
「子供にとって、両親が仲良き事は、最高の幸せですので。
父上、もう退位など、考えていらっしゃいませんよね?」
「ああ、何か成すまでは退位など出来ん。
俺の代での功績は、全てお前らだからな。
負けられん」ニヤリ。
バンッ! 扉が開く。「アオ♪ ルリさんは?」
「母上、扉を開く時は上品に。こうですよ」
アオはルリの姿になり、ミドリに並んで軽やかに扉を叩き、美しい所作で開く。
「素敵な動作ね♪ こうかしら?」真似る。
「流石、お上手でございますね」ルリの声。
「ねぇルリさん、明日の服、どちらがよろしいかしら♪」
「こちらでしたら、鱗色にも、人姿の髪色にも映えますね……しかし、こちらの落ち着いた艶も捨て難いですね……」
服をあてがい、微妙な心の色の変化を見る。
そして微笑み――
「こちらですね」
「やはりそうよね♪
ルリさんに相談して正解でしたわ♪」
嬉々として飛んで行った。
「アオ……扱い方を教えてくれ……
何で、ここに来たのか……
何で、喜んで帰ったのか、サッパリ解らん」
息子は、困惑する父を微笑ましく思いながらも、苦笑した。
桃「サクラ王さま~♪」ぱふっ♪
桜「あ、タォ♪ 来てくれてたんだねっ♪」
桃「うん♪ おいしかったよ~♪」
桜「よかった~♪」
王「タォ!」慌てて走って来ている。
桜「いいんですよ、友達ですから♪ ね♪」
桃「うん♪」尻尾ぶんぶん♪
王「しかし……」
桜「これからも、ただの竜です」にこっ♪
王「そういう訳には――」
桜「これまで通りでお願いしますっ!」深々礼!
王「いえっ、そのような――」
桜「俺は、ランを支えたいから……
そのために必要だったから、王に成った
んです。でも、外では、これまで通りで
お願いします。
あ♪ タォ、大人になったら、ここで
俺達を助けてよ♪ ねっ♪」
桃「いいの? 竜じゃなくても?」
桜「天竜王城には、もう魔人の執事さんが
大勢いるんだよ♪
友達が来てくれたら嬉しいからっ♪」
桃「うんっ♪」




