羽座魔7-進む為に
主役が寝ていては、お話が進みませんので――
♯♯ ハザマの森 ♯♯
「爽蛇、この辺りに立っててくれ。
姫、気を掴む練習だ。
オレを追いかけて、爽蛇に戻る。
それの繰り返しだ」
「あい解った♪」
「この森で気を掴めれば、地下魔界での移動も大丈夫だ。
ゆっくりでいい。確実に掴めよ」
「うむ♪ いざ始めよぅぞ!」
「爽蛇、姫が慣れるまでは、気を高めておいてくれよ」
「徐々に下げればよろしいので御座いますね?」
「ああ、姫の気を見て加減してくれ。
姫、行くぞ!」曲空。
「確かに……掴み難いが……見つけたぞ!」曲空!
ガサッ。「およ!?」少し離れた場所から声。
「姫様~、こちらで御座いますよぉ」
気を少し高める。
姫が駆けて来た。「もぅ一度!」目を閉じる。
「参る!」曲空!
ガササササッ! 「あやややっ!!」
「えっ!?」ドサッ! 「う……」
「ミズチ、何処じゃ?」
「下で御座いますぅ」いたた……
「下? ……すまぬっ!!」慌てて立つ!
「いえ、大丈夫で御座いますよ」
「なかなかに難しいのぅ」
「しかし、ここで出来なければ、地下魔界で失敗しますと、異空間に出てしまいますので」
「異空間とな?」
「鏡の中など、この三界とは別の空間で御座いますよ」
「さよぅか……
然らば確実にせねばならぬのじゃな。
よしっ!」
目を閉じ……曲空!
♯♯ 真神界 ♯♯
ディアナは、掌から小首を傾げて上目遣いに、こちらを見詰めている芳小竜の力を見ていた。
そして、元竜――アオと、サクラの心も――
これ程までに強い芳小竜が作れるなんて……
この強い想い……
私は、ただ滅することだけを考えていたのに、
この子達は――
アオとサクラなら、本当に救えるのかも……
【ディアナ♪ あそぼ~♪】
【この魔法円に入ってね】
【うん♪ じゅつ おてつだい~♪】
【術を知っているのね】
【アオもサクラも、じゅつ するの♪】
【お手伝いしているのね。良い子ね】
【ボク、よいこ~♪】きゃっ♪ きゃっ♪
【ちゃんと解っているのね】なでなで。
ディアナは術を唱え始めた。
♯♯ 竜宝の国 祠 ♯♯
「アオ兄~、まだ寝てなくちゃダメだよぉ」
「解ってはいるけど……
魔王が待ってくれるとは思えないからね」
「でも、ルリ姉に負担が――」
「眠らせているし、光も当てているよ。
ちゃんと考えているし、無茶はしないよ」曲空。
「アオ兄ってばぁっ!」追いかけて曲空。
「え? 城?」「無茶はしないって」ぽふっ。
「これから存分に戦うためには、こっちを片付けておかないとね。
アンズも来るかい?」着替えに行く。
「もぉっ、心配したんだよぉっ」
「説明が足りなかったね、すまない。
この前の打合せでは調整しきれなくてね。
さっき父上と兄さん達と話して、今からならって決まってね」
「父上とも?」
「サクラが手を当ててくれていただろ?
だから話せたよ。
ああ、そうか。
あの祠に居たんだから、兄さん達とも話せない筈だよね。
手を繋げば話せるんだね」
「そっか~♪」
「サクラ、心配してくれて、ありがとう。
でも、大丈夫だからね。
サクラは、サクラにしか出来ない事をしないとね。
父上に見つかる前に行った方がいいよ」
扉を叩く音。
「来てるのか?」「着替えています」
(ほら、行って)(うん。後で合流しよぉね)
「執務室で待ってるからな」「はい」
(老竜の神殿に行くからね)(うん)手を振る。
サクラは双掌鏡をくぐって行った。
♯♯♯
「では、アサギ様の御婚儀は、そのように進めます。
それでは、これで――」
「なぁ、キン、ハク。婚儀を早めないか?」
「何かあったのですか?」
「いや、久しぶりに国の空気が良くてな。
この前の襲撃なんぞ、すっかり忘れられているんだ。
だから更に高めて、情勢を安定させたいんだよ」
「アサギ様の御婚儀では足りないと仰るのですか?」
「アサギ様に続けて王太子も、と考えている」
(アオ、どう考える?)
(父上は、王に飽きてしまったのでは?)
(やっぱ、そう感じるか~)
「しかし、魔王との戦は、これからが山場です。
深魔界に入れば、天界に揃うのは、かなり難しくなりますが――」
「だから、入る前に。どうだ?」
(シロ爺が俺達と絡んでるのが、すこぶる楽しそうに見えるんだろな)
(きっとそうですね)
(だが、まだ退位は早いよな)
(うむ)(はい)
「遅くなって、すまなかったな」
コハクが入って来た。
「コハク王様も同じ御意見なのですか?」
「アオ、何の事だい?」
「王太子の婚儀を早める件です」
「早める事に、特に異論は無いが、どうして、そんな話になっているのだ?」
「国の空気が良いから、そうした方が良さそうだと思っただけだ」
「そうか。
王子達さえ集まる事が出来るのなら、良いとは思うが……」
キンとハクを見る。
「深魔界に入れば、いつ集まるなどと確約する事は出来ません。
それでも、と仰るのでしたら、大至急 準備しなければなりませんが、アサギ様の御回復を考慮致しますと、実現は出来ないと考えます」
「確かにアオの言う通りだな。
ギン、アサギ様の御生還と御婚儀で盛り上げたらどうだ?」
「アオ、お前に無理とか不可能とかは無いんだろ?」
「ありますよ。
俺を何だと思っているんですか?」
「その姿で睨むなって」
「好き好んでしていません!」更に睨む。
「キンとハクは、どうなんだ?
早く結婚したくはないのか?」更に嬉しそう。
「国内情勢も考慮しなければならない事は理解していますが、出来る事ならば、魔王を倒す方を優先したいと思います」
「模範解答だな。ハクは?」
「婚約した事で、今は満足してますから、急ぎはしません。
国の為、ただそれだけでしたら、早めても構いませんが……早めるのは婚儀だけ、と御約束頂けますか?」
「ギン、他に何かあるのか?」
「いや……何も。早めたいのは婚儀だけだ」チッ。
「それなら、俺は調整出来るならば、早めても構いません。
現状、まず無理ですがね」
「何故、無理だと断言する?」
「魔王は既に動き始めました。
俺達も動かねばならないからです」
「何かあったのか?」「はい」王子達、揃う。
「アオ、調整してくれないのか?」
「これから魔界に行きますので、アサギ様の御婚儀のみ調整致します。
父上、最初から考えていたなどと仰って、他の何かを早めないでくださいね」
ルリが立った。
「何かって――」睨まれて口籠る。
「アオ、ルリ殿は?」キンが心配そうに見る。
「大丈夫です。眠らせていますので。
今だからこそ、せねばならぬ事もあるのです。
それでは、お時間を頂き、ありがとうございました」
お先に失礼致します、と礼。スタスタスタ――
「何があったんだ?」
「ルリ殿が襲われたのです」
「無茶しそうなので、魔界で様子を見ます」
キンとハクも退室した。
「アオの中に居るルリ殿が、どう襲われたんだ?」
【それは私からお話し致します】
「スミレ……ずっと居たのか?」
【私は、アオの守護神ですもの】にこっ。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
「アオは、地上かぁ?」
「ふむ。魔竜王国だな」
「兄貴、追い掛けるのか?」
「いや、サクラが近くに居る。大丈夫だろう。
拠点調査に戻ろう」
「なぁ、兄貴」
「何だ?」
「兄貴も曲空回数、増えたのか?」
「クロの曲空を入れた小器を込めて貰った。
アカと同じだ」
「んなっ! 何で俺だけ!?」
「その点は聞いていない。
アオかサクラに確かめればいい。
ただ、まだ私は曲空を控えるつもりだ。
クロを鍛える為にな」
「そっか……なら、俺も、その為なのかなぁ?」
「与えれば酒泥棒になるから、ではないのか?」
「兄貴ぃ~」
キンは笑って曲空した。
ギンが王太子の婚儀を早めたいと言い出した時、
アオはスミレを呼び出した。
青(スミレ、この前の話、どうなったの?)
菫【この前って?】
青(父上と母上を仲良くしたい、って話だよ)
菫【進むとでも思ってるの?】
青(なら、俺が執務室を出たら姿を見せて、
きっかけを掴むのは任せるから、
その後で――)
アオが何を吹き込んだのかは次話以降で。
菫【えええっ!? それを私が言うのっ!?】
青(父上の性格は、よ~く知ってるだろ?
大丈夫だよ。慈愛の王妃様)
菫【そんなぁ……】
青(今が好機だからね。頼んだよ。
それじゃ、行くからね)
菫【ま、待って! 兄様っ!
もぉっ! 待ってよぉ~】




