羽座魔6-蛟と天竜王子
カリヤは、半兎姿で ぴょこぴょこしています。
♯♯ ハザマの森 ♯♯
「姫様ぁ~! 静香姫様ぁ~!」ぴょんぴょん!
「カリヤ、如何したのじゃ?」
姫は大きな岩の上から顔を覗かせた。
「皆様、お食事も召し上がられず、どちらで何をなさっていらっしゃるのでしょうか?」
「皆、地下魔界にて、魔王の隠し部屋を探しておるのじゃ」
「姫様は?」
「ワラワは気の調節が自在になるまで、ここで修行じゃ」
「お食事なさいます?」
「そぅじゃな」降りる。「それも大事じゃ♪」
馬車に向かって歩きながら――
「ミズチは?」
「慎玄様と修行なさっておりましたが、お役目を離れましたようで、お墓参りにお出かけになられましたよ」
「墓参りとな?
ミズチの故郷は、この森なのか?」
「昔々大昔のお話ですが――
蛟族は蛇なのに足が御座いますので、他の蛇族から忌み嫌われておりました。
三界全てに蛇族は居りますので、蛟族には住む所が無く、やむ無くハザマの森に住むようになったので御座います。
その頃は、まだ妖狐族や古狸族は、ハザマの森には住んではおりませんでした。
ある日――」
――――――
「ここは? ……俺は何故 倒れているんだ?」
見回しても鬱蒼と繁る木々ばかりで薄暗く、空すらも見えず、方角も何も分からなかった。
確か、狩りをしていて……そうだ!
何か大きな影に掴まれたんだ!
……皆は……?
「ローズ! アンバー! リーフ!
返事をしろ! 誰もいないのか!」
目を凝らし、気を探っても、誰も居ないようだった。
じっとしていても仕方が無い。
陽でも星でも見えれば、方角だけでも判るだろうと空に向かった。
しかし、いくら飛んでも空に抜けなかった。
それならばと、水平に飛んだが、行けども行けども木々の向こうが見える事は無かった。
まさか迷いの森か!? そんな遠くに!?
そこは狩り場から遥か離れたハザマの森であった。
まだ立ち入る事を許されていない、その森に、少年は置き去りにされたのである。
ガサッ……背後の茂みが揺れた。
茂みから現れた闇黒色の魔物が、何かを放った!
ギリギリで躱す。
武器は剣ひと振りと、己が身のみ。
躱すばかりで近寄れないっ!
焦っていると、横合いから何か細長い生物が飛んで来た。
「逃げて!」
その生物は、持っていた籠の中身を魔物に向かって ぶち撒き、渾身の衝撃波を放って身を翻し――
飛び始めた少年の前に出て「こっち!」
二人は木々を縫って、岩影に身を隠した。
岩に彫ってある紋様を指し、
「この印を辿って行けば村に出る。
似てるの沢山だから気をつけてね。
これが、次の印の方向だよ。
僕が囮になるから逃げて」早口で囁いた。
そして、迫って来ていた魔物に向かって飛んで行った。
「待って! 君は!?」
「いつもの事だから! 早く逃げて!」
木々の擦れ、ざわめく音が遠ざかる。
ここは言う通りにしない方が迷惑になる。
そう思って、少年は印を辿った。
村が在った。木々が唐突に途切れた場所に。
これは……結界?
木々の壁に接するように、初めて見る結界のようなものが村を囲んでいた。
少年に向かって、細長い生物達が寄って来た。
「珍しいねぇ、竜だよね?」
「しかも子供だ」「さあ、入って」
結界にできた隙間から滑り込むと――
「どうして、こんな所に?」「迷子?」
「お腹すいてないかい?」「怪我ない?」
人懐こい眼差しに囲まれた。
「あっ! 助けてくれた方が魔物に!」指す。
「大丈夫、逃げるのには慣れてるよ。ほら」
助けてくれた生物が、結界を開け、村に入った。
にこにこと飛んで来る。
「慣れて……るんだ……」
「ここは魔界にも繋がってるからね。
魔物なんて茶飯事だよ」
「そんな危険な所に、何故 住んでいるんだ?」
「住めば都……そう思うしかないんだよ」
「何故……?」
「僕達は蛟。蛇なんだ」
「竜に、そっくりなのに?」
「だから、他の蛇に疎まれているんだよ」
「それで、ここに隠れ住んでいるんだ」
「好き好んで、ではないんだね?」
「そりゃそうだけど……」
蛟達が困り顔になった時、大きな青銀の竜が現れた。
「こんな遠くに居たのか……」「お爺様っ」
「魔物に連れ去られたと聞いた。
助けて頂き、ありがとうございます」
「いえいえ、そんなっ」「大した事では――あのっ」
竜に頭を下げられ、更に困り顔で恐縮しまくる蛟達。
「お爺様、この勇敢で優しい方々を、私の住まいに招いてもよろしいでしょうか?」
「お前の屋敷だ。好きにすればいい」
「はい! ありがとうございます!
皆、来て欲しいんだ! お願いします!」
――――――
「そうして、古の天竜王子様は、半ば以上 強引に蛟族の皆様を、御自分と妹姫様のお屋敷に住まわせたので御座います。
それから代々、天竜王族方々のお世話を、蛟族がなさるようになったので御座います」
「では、今はハザマの森には、蛟は住んでおらぬのじゃな?」
「はい。以降、天竜王国に皆様いらっしゃいますので――」
「あ♪ 姫様♪ お戻りで御座いましたかぁ」
噂をすれば飛んで来た。
「ミズチ♪ 天竜王国だけでのぅて、中の国にも住んでよいのじゃぞ♪」
「は?」ぱちくり。
♯♯ 真神界 ♯♯
【ドルマイ、それは?】
【アオが倒れていた近くで拾ったのよ。
アオの気を感じるの】
【確かに、アオの写し身ですね】
【その芳小竜、私が届けましょう】
【ディアナ様が御直々に、ですか?】
ハッとする。【もしや……術に……】
【最終手段として……
使わずに済む事を祈りますが……】
ディアナが手を翳すと、芳小竜は目覚めた。
【ボクのアオ……どこ?】首を傾げる。
【キュルリ、お願いがあるの】
【うん。なぁに?】じっと見上げる。
【一緒に来てね】
【アオ、いる?】
【後で会わせてあげますね】
【うんっ♪】
ディアナはキュルリを連れて消えた。
♯♯ ハザマの森 ♯♯
「お♪ クロ、終わったのか?」
「美味そうだな♪」
「クロ様もどうぞ♪」
「ありがとなっ♪
姫、どうだ? 調節の方は。
曲空 出来そうか?」
「出来そぅな気はしておるぞ。
食事を終えたらば手伝ぅてくれるか?」
「もちろんだ♪ コレ美味ぇな、カリヤ♪」
「お褒めに与り光栄に御座います」恭しく礼。
「爽蛇は慎玄さん乗せて行かなかったのか?」
「墓参りをしておったそぅじゃ」
「あぁ、そっか。故郷だったな。
しっかし、よく場所が分かったな」
「カリヤ殿に教えて頂きました♪
子供の頃、一度だけ親に連れられて天界から参りましたきりで御座いましたので」
あとは以前、偶然 入りましたが……
「しかし、続けて行かれるとは、何かございましたのですか?」
「あ、いえ、荒れておりましたので、道具を持って掃除しに参っておりましただけで御座いますよぉ」
「終わりましたのですか?
仰って頂ければ、お手伝い致しましたのに~」
「ありがとうございます、右大臣様♪
すっかり綺麗になりましたので」にっこり。
「いやっ、あのっ、その呼び名はお恥ずかしくっ」
焦ってぴょこぴょこ!
「カリヤ、その通りなんだから慣れろよな。
爽蛇、この後ヒマか?」
「特に何も御座いませんが……」
「んじゃ、手伝ってくれ」
「はいっ♪」
凜「シルバコバルト様は、どうして絆神に
ならなかったんですか?」
始【んな面倒な事、やってられっか】フンッ。
凜「あ♪」
始【何だよ?】
凜「アオとサクラの絆神をスミレとヒスイに
とられちゃったからでしょ?」
始【んな事あるかよっ!!】
凜「あ♪ 図星なんでしょ♪」
始【違うからなっ!!
絆なんぞ不要だからだっ!!】
凜「どういうことですか?」
始【俺は、まだアオと繋がっ――何でも無い!
俺ほどの大神には不要なんだよ!】
凜「繋がってるんですね?
じゃ、続きはカルサイ様に伺いましょ♪」
始【おいっ、待て! 親父に聞くなっ!】




