羽座魔5-リジュンと竜血環
アオが動けない分を、サクラは補おうと頑張っています。
♯♯ 長老の山 大婆様の部屋 ♯♯
「おぉ、サクラ、よぅ来たのぅ」にこにこ。
「大婆様、これは……?」
外周祠の事で相談しようと訪れたサクラが、床に並ぶ瓶に驚いて入口で立ち止まった。
「キンが地下から持って来たのじゃ。
あぁ、リジュン殿、お加減は如何じゃな?」
「ありがとうございます。
すっかり良くなりました。
これは……私の――」
呼ばれて来たリジュンも立ち止まる。
「嫌な事を思い出させるが、きちんと始末せねばならぬからのぅ。
お教え頂けましょうか?
せめて、この記録の読み方だけでも」
「その記録は、魔王に読めぬよう書いておりますので、きちんと残します。
私自身、そうしたいと思っておりましたので」
「付いておった呪は浄化しておる。
サクラ、これを新しい蔵に運んでくれるかの。
書物はリジュン殿の工房でよいかの?」
「はい。ありがとうございます」
♯♯♯
リジュンとサクラは、竜血環が入った瓶を棚に並べながら話していた。
「リジュンさん、竜血環を、竜の病気や呪を吸い取るよぉに改良できる?」
「この環を……役立つ物に……」
じんわりと笑みが広がり、満面の笑みに。
「できれば竜だけじゃなく、みんなの役に立つよぉにして欲しいんだ」
「やります! やらせてください!」
目をキラキラさせてサクラに抱きついた。
「サクラ様は本当に素晴らしいです!
そんな事、思いもよりませんでした!
魔王に隠れて作ればよかった!」あはははっ♪
「よろしくお願いします!
良かったね~、竜血環♪」なでなで♪
「物にまでお優しいのですね」
「竜宝にも、魔宝にも、魂があるんだ。
魔王が作った魔宝にもね。
その魂達が、滅して欲しいって泣いてたから……
だから、なんとかしたいんだ。
でも俺自身は、なんにもできないから……
リジュンさん、よろしくお願いしますっ!」
「その御言葉……私の心も救われました。
生き甲斐も得られました。
精一杯 改良させて頂きます!」
「他にも持って来ていい?」
「勿論ですよ。妹と弟も居るんですから」
「あ、そぉだ♪
教授だったんですよね?
ここにも大学ありますけど、どぉしますか?」
「改良に没頭したいのですが……」
「うん♪ じゃ、博士♪」
「サクラ様は竜宝学博士でしたよね?」
「なんで知ってるの!?」
「魔竜王国の大臣様がお見えになられて――」
「もぉっ! おしゃべりなんだからぁ」ぶぅ~
「王立大学の教授もなさって――」
「や~ん」真っ赤。「あ……クロ兄だ」
「いたいた♪
リジュンさん、ちょっと来てください」
手を取って曲空。サクラはクロの尻尾を掴む。
――地下魔界。
「クロ、ありがとう。サクラも来たのか」
「コレなぁに?」「作りかけの神禍乱です」
「やはり、そうでしたか。
移動させても大丈夫ですか?」
「はい。作動しないように、肝心な部分は付けていませんので」
「そうですか。安心致しました」
「この奥に、もうひとつ部屋を作っています」
リジュンが何も無い壁を数ヶ所 触ると、壁の一部が開いた。
「また神禍乱?」
「少し変えてあります。
箱に入れた神様から、少しだけ力を頂いて、その神様を別の場所に飛ばします。
と言っても、せいぜい地上ですが」
「それでも脱出できるから凄いよ!」
「私自身に竜血環が掛けられ、中断せざるを得なくなりましたが……」
「眠ってたのも自分で?」
「はい。操られるくらいなら死んでも構わない。
でも、そうなると、家族がどうなるか分からないので、仮死状態に」
「ってことは、そんな環を作ったの?」
「はい。そうですが……」
(魔王に掛けちゃう?)(依代が人ならばな)
(体には影響ナシで中身にだけね♪)(ふむ)
「竜に掛けても、血や力を吸わなくできるんだよね?
魔王は竜を依代にするから、中身だけ眠らせたいんだ」
「やってみましょう」
「この箱で飛ばしたら、境界の影響は、どぉなるの?」
「異空間を通る鏡を利用していますので、境界は通過しません」
「じゃあ、改良すれば、誰でも、どこでもになる?」
「鏡次第ですが……」
「いろんな鏡あるし、神様が改良してるから、きっと だいじょぶ~♪
道は多い方がいいでしょ♪
将来、三界を繋ぎたいし~♪」
「将来……それは良いですね♪」
「竜宝も魔宝も、みんな友達だから~♪
みんな、ちゃんと使いたいんだ♪」
「大いに賛成です」二人、にこにこ。
「キン兄、ここの物、ぜんぶ運んでもいいの?」
「そうして欲しい。
クロ、次の部屋は、ここなのだが、行けるか?」
地図と拠点の図で示す。
「ん……掴んだ!」キンと慎玄を掴んで曲空。
♯♯♯♯♯♯
「治癒じゃあ、ここまでだ!
フジ! あとは頼んだぞ!」「はい!」
フジは神聖光輝を両掌から放水した。
闇黒色の魔物達が、元の姿に戻っていく。
「双璧! お♪ 出た出たっ♪」
あっという間に浄化は終わり――
「水浸しだなっ」あはははっ♪ 水筒、ぽいっ。
「運んでくれるか?」
「はい。あ……サクラが近くにいますね」
(サクラ、魔物にされていた方々を運びたいのですが、鏡はありますか?)
(うん♪ 使ってるから、ちょっと待ってね~)
♯♯♯
少しして、サクラが鏡を持って現れた。
「水晶玉の部屋?」「そうらしいですね」
「浄化しようとしたら、魔物が出てきたんだ」
「紅蓮の祠に繋ぐね」「紅蓮に?」
「深蒼も星輝も、もぉいっぱいなんだ。
ちゃんと浄化と回復の竜宝 置いてるし、神竜さん達もいるからね~」
「他の祠は?」
「属性祠は、ぜ~んぶ浄化できるよ。
これから外周十二祠も整えるからね」
「アオとルリさんは大丈夫なのか?」
「二人とも眠らせてるよ。
ほっといたら、いくらでもムリするから~
それじゃあ、みなさ~ん、鏡くぐってね~」
手を振って、くぐって行った。
「優しいんだか、容赦ねぇんだか――わっ!」
鏡から、ヒュッと光が尾を引いて飛んだ。
――と思ったら、先端がバッと広がり、水晶玉を掴んで、鏡へと引き込まれた。
「投網ですか?」『見てないで集めてよぉ』
「あ……」集めると、再び投網。
三度で全ての水晶玉が引っ越した。
『フジ兄、神聖光輝よろしくね~』
フジが鏡をくぐると、水槽に水晶玉が入っていた。
♯♯ 竜宝の国 ♯♯
「ヒスイ、スミレ、ありがと。
そろそろ起こすね」光を当て、様子を伺う。
「アオ兄、気分どぉ?」
「あ……眠ってしまったのか……」
「ほら~、疲れてるんだから~
アオ兄が疲れると、俺にも影響あるんだよぉ」
「すまない。ありがとう、サクラ」
「でも、そうしたいんだ。でしょ?」真似る。
二人で、ひとしきり笑って、サクラはアオを抱きしめた。
「ホントに……よかった……」
「サクラ……ありがとう……」なでなで。
「クロ兄式供与~♪」「それは無理」曲空。
寝台を挟んで向かい合う。
「遠慮しないで~♪」「あのなぁ」
もう一度、心から笑った。
♯♯ アオの屋敷 ♯♯
「えっ? もう一度ですか?」
「無理でしょうか?
できれば風ちゃんも一緒に……」
「そうですね……」
もしかしたら、連れて行けば、
何か変わるかもしれませんね……
「今でしたら王子様方もいらっしゃいますので、普段よりは安全かもしれませんね。
参りましょう」
「とーちゃ、おでかけ?」
「ご先祖様にお会いしましょうね」
「うんっ♪」
凜「リジュンさんは何族なんですか?」
潤「山羊魔族です」
凜「魔人の強い魔力の源は角なんですか?」
潤「どうなんでしょうね。
でも確かに、魔人には有角な種族が
多いですね」
凜「竜でなくても、魔宝が作れるんですねぇ」
潤「あ……竜でなければ作れない物だとは
思っていませんでした」
凜「あ、そっか。作れるんだ~
そういえば、竜宝と魔宝の違いって
何なんですか?」
潤「厳密には、私にも分かりませんが、
おそらく、竜宝は光の力で、
魔宝は闇の力で命を吹き込んでいるのだと
思っています。
サクラ様から、魂が有ると伺うまでは
『起動させている』と思っていたのですが」
凜「じゃあ、やっぱり同じ物なんだ~」
潤「そうですね。属性の違いだけですからね」




