羽座魔1-肩慣らし
魔界編、始まります。
「じゃ、アオ兄♪ せ~のっ♪」曲空♪
人界・ハザマの森入口から、森の真ん中へ――
アオとサクラは、馬車をそっと降ろした。
「みんな、ここで体を慣らしてね~♪」
「新たな力の限界を確かめてください」
皆、思い思いの方向に散って行った。
「アオ兄、これから どぉするの?」
「竜人用の鍵竜宝を貰って来るよ。
その後は、少し探したい物が有るんだ。
サクラ、クロと姫を頼んだよ」
「うん、じゃあ追いかける~♪」
(クロ兄、姫、気の調整だいじょぶ?)
(いや、助けてもらえるか?)(うんっ)曲空。
――すると、姫が横たわっていた。
「目を閉じててね」光を当てる。
「すまぬのぅ……」
「姫は感覚が鋭いから、酔っちゃったんだよ。
すぐ慣れるからね~」
(フジ兄、ちょっとお願い~)
フジが現れた。「薬ですね。どうぞ」差し出す。
「姫、飲める?」「うむ……甘い♪ 美味じゃ♪」
「水薬を甘くしてみました。
クロ兄様、持っていてくださいね」渡して曲空。
「姫、体が慣れるまで寝ててね」
(寝たのか?)
(眠らせたの。治癒の一効果だよ)
(なぁ、サクラ……オレ、迷惑かけてるよな……)
(何 言ってるの?
そりゃ、早く天性を使い熟して欲しいけど、迷惑とかぜんぜん無いからね)
(やっぱり、いつものサクラはフリなんだな?)
(ん~~……わかんない……
前は確かにフリだったんだけど……
なんか抜けなくなっちゃって~
それに……急に変えるのも恥ずかしいし……
なんか……怖がられるから……)
(こないだ――大婆様と話してたアレは、まだ隠すって事か?)
(やっぱり見てたんだ……
あれは……アオ兄の真似だから……
たぶん……あれは俺じゃないよ……
フリな俺の方が、ホントは俺なんじゃないかって、最近 思うんだ。
最初はホントに頑張ってフリしてるつもりだったんだけどね)
(ふ~ん……
アオを護る為に、やり始めたんだよな?)
(全部 俺のせいだからね……)
(そーゆートコ、ホント、アオそっくりだな)
(おんなじなんだよ。
アオ兄と俺は、元々『ひとつ』だったからね)
(どういう事だ?)
(ガーネ様――スミレとヒスイの父上が、母上に宿った卵を、最初に術で増やせたのは五つなんだ。
でも、どうしても七つ以上必要だったから、一番 生命力が強かったキン兄を半分に分けて、他の兄貴達から少しずつ貰って、出来た卵を更に二つに分けたのが、アオ兄と俺なんだ。
だから同調してしまう。『ひとり』だから)
(キン兄って、半分で、あんなに強いのかよ~
それに、お前ら、更に半分って……)
(アオ兄と俺は、ガーネ様が作った命で、キン兄の力を貰ってて、ヒスイの光輪と翼、それと沢山の竜宝が込められてるんだ。
キン兄の命も、保つ為に、竜宝いくつかとベニ様の天性と欠片が込められたんだ)
(ベニ様の天性って?)
(昇華。自分の力を一時的に高めるんだ)
(アオとサクラの天性って?)
(キン兄から貰った治癒は二人共。
アオ兄は、神眼も少し貰ってる。
二つに分けた時に発生したのが、アオ兄の光明と、俺の闇障。
あとは竜宝の力だよ)
(少し貰った神眼が、あの湖かよ……)
(クロ兄のは海だったでしょ)
(そっか。知ってるんだよな。
待てよ……皆、天性が複数なんだよな?
って事は……少しずつ取った代わりか?)
(うん。だから俺達なら魔王を倒せる。
そう信じてるんだ)
(そっか……うん! オレも頑張る!)立ち上がる。
(どこ行くの?)
(風に乗ってくる! 姫を頼む!)飛んで行った。
サクラが姫に光を当てながら、兄達の様子を見ていると――
(言い忘れたっ!)
(何っ!? 唐突なんだからぁ~)
(どう作られようが、何があろうが、オレ達は兄弟だ!
七人兄弟なんだからなっ!)
(ありがと……クロ兄……)うるうる……
♯♯♯
(サクラ、そっちは、どうだい?)
(姫が、ちょっと酔っちゃったけど、みんな順調だよ~)
(そう。天界に来れる?)
(うん。クロ兄、飛んでっちゃったから、戻ったら行けるよ)
(竜綬が、もう少し掛かるんだよ。
クロ待ちで丁度いいかもしれない。
工房に取りに来てくれるかい?)
(うん♪
アオ兄、探し物 行っちゃうの?)
(うん。
その前に、爽蛇が『蛟の村』に行きたいって言っているから、送るつもりだよ)
(蛟の村?)
(昔、蛟族が住んでいた村がハザマの森に在るんだよ。
場所はカリヤ殿に聞かないといけないんだけどね)
(あ♪ ハザマの森の村の跡かぁ~♪)
(そうか。
天界に在る村のどれかだと思ったんだね?
それじゃあ、頼んだよ)
(うん♪ まっかせて~♪)
♯♯♯
「姫、だいじょぶ?」
「うむ……もぅ大丈夫じゃ♪」キョロキョロ。
「クロ兄、風に乗ってくる! だって~
気を調整しよっ」にこっ♪
「おぅよ♪」
「自分では掴みにくいでしょ?」
姫の額に掌を翳す。
「ゆっくり高めてね~、朱鳳に込めて~
炎を放って!」
「うむっ!」炎の召喚竜が飛ぶ。
「さっすが~♪」
「何やら……同じよぅな事があったのぅ……
あ! 島で舞踏を習ぅた時じゃな!
サクラは真、優しぃのぅ」
「やめてぇ~」照れる~
「それに、いろいろと知っておるのじゃなぁ」
「もぉいいからぁ。
次、風の竜、出してねっ」
また掌を翳し、姫が気を高め――
風の召喚竜が天に昇る。
「出たねっ♪ いい調子~♪」
「のぅ……サクラは、額を付けずとも、気の調整が出来るのじゃな?」
「俺が くっつけたらタイヘンでしょっ。
クロ兄、なんで隠れてるの?」
「あ、いや……任せといた方がいいかな~と……」
「いいワケないでしょ!
俺、行くからね~」「待てっ」「なぁに?」
「ちょっと見てくれねぇか?」
掌 翳す。「うん。神眼 開いてきたね~」
「それだけかよっ」
「その調子で がんばって~」曲空。
(待てって!)(すぐ戻るから~)(すぐだぞ)
「クロ兄、なぁに~?
姫、万装甲と交換しよっ」
「これか?」
「うん♪ クロ兄、コレ。
首飾りの竜鱗璧に、しっかり結んでね」
「何だコレ?」
「竜綬、護竜宝の仲間だよ」
「ふ~ん……」姫の首飾りに結び付ける。
「地下界への鍵なんだよ。
竜は鱗と護竜宝が必要なんだ」
「何でも知ってるんだな……」
「竜宝の王として当然だよなっ♪」
「ハク兄、それ、やめてってばぁ」
「教授♪ 博士♪ どれならいいんだ?」
「王? 教授? 博士? 何だソレ?」
「もぉ~っ! ハク兄、何しに来たのっ!」
「サクラ、ちょっと見てくれよ♪」
「なんで俺なのっ!?」
「サクラだから~♪」ハクとクロ、ニヤニヤ。
「俺、忙し~のっ!」ぷいっと曲空。
「おい、待てよっ!」追いかけ曲空。
「オレもまだだっ!」聞くため曲空。
「ワラワもじゃっ♪」もちろん曲空。
「サクラは、どこに行ったんだ?」
「気が消えたな……」
「サクラ~、何処じゃ~?」
――の少し前。
【如何なさいましたかな? 我等が王よ】
「ちょっとね~♪ 祠にっ♪」曲空♪
♯♯♯♯♯♯
「琉蛇さん、ここが、貴女と初めてお会いした場所です」
「蛟の村……なのね?」
「はい。ご両親のお墓は、こちらです。
危険な場所ですので離れないでください」
「はい……」
琉蛇は警戒しつつ前を歩く背を追った。
♯♯♯♯♯♯
(爽蛇は無事に蛟の村に着いたね。
じゃあ、探しに行こうか)
(アオ、何を探そうとしているのだ?)
(魔王作、闇の歪みを作る鏡だよ。
魔王の鏡達は大半が話してくれなかったからね。
自力で探るしかないんだ)
(魔王の鏡達は、話せる程の力を持っていないのか?)
(どうだろうね……
話せないのか、話さないのか……
魔王の意志を継いで、俺とは話したくないのかもしれないし、封じられているのかもしれないよね)
(ふむ。どちらも可能性が大有りだな)
(ま、とにかくアカの暗室に行こう)曲空。
凜「羽座魔?」
青「昔、ハザマの森は、三界の神を象徴する
文字を当てていたんだよ。
天神様の鳥の翼のような『羽』、
人神様の御居姿から『座』、
魔神様の閻魔の『魔』なんだよ。
その、もっと前は『間の森』だったんだ」
凜「へぇ~
で、ここで体を慣らすの?
王子達は、もう地下に行ってたのに?」
青「フジは行っていないし、姫と慎玄殿は
竜人になったばかりだからね」
凜「そっか。で、その間に探し物?」
青「そのつもりだよ」
凜「爽蛇は、なんで蛟の村に?」
青「お墓参りだとか……でも、あの場所で、
ずっと前に何かあった気がするんだよね。
引っ掛かっているんだけど、どうしても
思い出せないんだ」
凜「また、封印されてるの?」
青「そうかもね。違和感が大きいから」
凜「平然としてるのねぇ。
封印され慣れちゃってるの?」
青「かもしれないね」ははは……




