執事長6-幕開けを彩る音色
大陸編のオマケは、ここまでです。
次回からは、魔界編です。m(__)m
「まさか……故郷って……」
挨拶の為に、愛蛇の家へと竜宝艇で向かっていた蓮蛇が唖然とした。
「驚くかな~、と思って、わざと話さなかったの♪」
蓮蛇の横で道案内していた愛蛇は、すこぶる楽しそうだ。
やはり……どこかで
お見掛けしていたのですね……
「そこに停めて♪ もう近いから♪」
降りる。
「じゃあ、手を引いて飛ぶから~」すぽっ♪
「えっ!?」何を被せられたのでしょう?
「おとなしく被ってて♪」
引っ張られて何処かへ――
「あ、愛。何やってんだ?」
え? その声……
「もおっ! なんで居るのよぉ~
せっかく、びっくりさせようとしてるのにぃ」
「その、袋被ってるヤツ……蓮蛇か?」
「あーーーっ!! もおっ!!
兄ちゃんは、どっか行って!!」
「兄……が、磊蛇!?」
「やっぱ蓮蛇か~♪
何やってんだ?♪ んなモン被って♪」わはは♪
「磊兄ちゃんのバカッ!!」
ポコッと叩いて、蓮蛇に被せていた袋を取った。
「あ……本当に……この家……」
「よっ♪ 蓮蛇♪
何しに……あ! マジかっ!?
まさか、これか!?
急に帰って来いって親父が言ったのは!!」
「父ちゃんなのっ!?
兄ちゃん呼んだら台無しじゃないのっ!!」
騒いでいたので玄関から顔を出していた父親が、家の中に逃げ込んだ。
「あ♪ 愛ちゃん♪」「愛姉だ♪」「休みか?」
「蓮兄、久しぶり~♪」「入ればぁ?」「ね♪」
「畏まった格好で、どうしたの?」「珍しいね」
「あ、磊兄もいる~♪ クビになったのかぁ?」
畑から磊蛇の弟妹達が駆けて来た。
子を抱いている者もいるし、小さな子供達も駆け寄って来る。
笑い声が溢れ、とんでもなく賑やかだ。
「なんで……揃ってるの!?」
「良かったぁ、間に合った~♪」
「鈴ちゃんまで……
執事長になったばかりなのに大丈夫なの!?」
「サクラ様は、お城だから~」
「ま、とにかく入れよ。
あ、こっちに卓と椅子、出すか?」
「それがいいね」「増えたからな」「ねっ♪」
「全部出すぞ~♪」「よぉし♪」「任せて♪」
「子供達は先に手を洗って~♪」「は~い♪」
「母ちゃ~ん! 皆が持って来たお菓子は?」
「父ちゃんも出て来いよ!」「早く早く~♪」
バタバタガタガタわいのわいのと大騒ぎ。
庭――というよりは空き地に、卓やら木箱やらが並び、ありったけの椅子が出されて、皆が座った。
「さ、蓮蛇さんも座って♪」
「焼けたわよ~♪」
「お♪」「鈴ちゃん、何だソレ?」「綺麗♪」
「知らないが旨そうだな♪」「美味しそう♪」
子供達が群がる。「ふわふわだ~♪」
「お茶も淹れるからね~♪」
「なんか上等な香りがする~♪」
「茶葉まで持って来たのか?」
「お家に有ったお茶よ♪」
「母ちゃん、お客様用なんて買ったのか?」
「フンパツ?」「何てお茶?」「旨そう♪」
「他になんてないないっ!
いつものだよっ」首を横にブンブン!
「蓮兄、何ぼ~っとしてんだ?」「大丈夫?」
「ふわふわ冷めちゃうよ?」「甘いのダメ?」
「いらないなら、ちょーだい♪」「こらっ!」
変わってないな……あったかい家だよな……
何日も何日も考えていた挨拶も、ひと言も言う隙を与えてもらえないまま、賑やかな昼食に突入し――
満足した子供達を寝かしつけ、少し落ち着いたので、着いてから改めて考えた挨拶をしようと、蓮蛇が両親の方を向くと――
「蓮蛇さん、こんな娘ですが、どうかよろしくお願いします」
父親に先を越されてしまった。
「あ、あのっ、私の方こそ!
よろしくお願い致しますっ!」
それだけを、やっと言う事が出来たのだった。
♯♯♯
「やっとここまで来れたね。
やっと……幸せ掴んだねっ♪」
「鈴ちゃん……ありがとう!
ここまで来れたのは鈴ちゃんのおかげだよ。
お屋敷勤めできるように、勉強も作法も、いろいろ教えてくれたからだよ。
ホントにホントに、ありがとう!」
愛蛇と鈴蛇は、少し離れた草の上に座り、お辞儀合戦をしている両親と蓮蛇を見ていた。
「でも、鈴ちゃんは、どうするの?
磊兄ちゃん、バカだから気づかないよ?」
「私も執事長になっちゃったからね……」
「でも、これからは執事長も結婚していいって――」
「うん……でもね……
それぞれが執事長だと……
どう考えてもムリよ……」
「諦めちゃダメ!
きっと王子様方なら変えてくださるわ!」
「ありがとう――あ……」
愛蛇が鈴蛇の視線を追う。
「あっ! 磊兄ちゃん!」飛んで行った。
「蓮蛇さんを殺す気なのっ!?」
磊蛇が蓮蛇の背をバシバシ叩いていた。
もちろん最上級の友情を込めて、だが――
愛蛇が勢いよく体当たりして、磊蛇を弾いた。
「ごわっ!!」
「手加減って言葉知らないの!? バカ兄!!」
蓮蛇の背を、背で庇う。
「愛――」
蓮蛇が振り返り、後ろから愛蛇の肩に手を添えた。
「大丈夫だから心配しないで。ね?
子供の頃から、こうだったから。
慣れていますよ」
「もうっ! そんなこと慣れないでよぉ」
くるっと蓮蛇の胸に顔を埋めた。
「悪ぃ、つい――」
言いかけた磊蛇を、父親が連れて行った。
母親が蓮蛇に微笑み、夫に付いて行った。
「心配してくれて ありがとう、愛」よしよし。
「鈴姉、入ろ」家を指す。
弟妹達は、そおっと家に向かっていた。
鈴蛇は頷き、義弟に付いて行った。
「でも……本当に気づいてなかったの?」
「うん……
知っている娘さんな気はしていたけれど、あまりに綺麗になっていたから……」
「う……
確かに、蓮蛇さんが磊兄ちゃんに勉強教えてた頃の私って酷かったよね~」
「それは仕方ないよ。
畑で、しっかりお手伝いしていたんだから」
「いつも泥んこで……だから恥ずかしくて……」
「元気で可愛いな、って思っていたよ」
「え……」ますます顔を埋める。
「顔……見せてよ」
「でも……」
蓮蛇は髪を撫でていた手を止め、愛蛇の肩を少し押した。
離されて驚き、上げた顔に微笑み、顎に指を添え、そっと顔を寄せる。
驚きを宿した瞳を瞼が隠し……
唇が触れようとした、その時――
「あああっ!!」ドッバフッ!!
「きゃあっ!!」ドドドドッ!!
「うわぁっ!!」ガッシャッ!!
「うげっっ!!」「痛って~~」
二人が慌てて体を離し、音の方をサッと向くと――
「あ……」
家の壁が倒れ、皆が山盛りになっていた。
「ぃててて……」むくっ、むくっ、むくっ――
「あっ!」「やべっ!」「早く!」「戻せ!」
一斉に、散乱している家具やら何やらを集め、壁を戻そうと持ち上げた。
蓮蛇が吹き出し、愛蛇も釣られて笑った。
家族が動きを止め、笑いだした。
♯♯♯♯♯♯
二人の結婚式もまた、準備中から賑やかだった。
親族や近所の人を集め、故郷の丘の上での人前式――の、つもりだったが――
竜宝艇が降下した。
田舎では、まずお目に掛かれない物に、子供達が歓声を上げ、駆け寄る。
艇から爽蛇が降り、扉を開けると――
「司祭様!?」
蓮蛇の声に、大人達が固まる。
天竜王城の司祭が、やわらかに微笑み、二人の前に立った。
「新たな時代の幕開けです。
私にも、お手伝いさせて頂けますか?」
緊張でカチコチの二人と親達がコクコクと頷いたところに、大きな竜宝艇が降りて来た。
箜蛇と魁蛇が扉を開ける。
その場に居た全ての者が息を呑んだ。
駆け寄ろうとした磊蛇、蓮蛇、鈴蛇を恒蛇が制した。
「今日は、主役と親族なんだからね」
天竜王子達が揃って、にこにこと寄って来た。
「蓮蛇、愛蛇、おめでとう」箱を渡した。
「アカ様……」
「私達にも祝わせて欲しい」
「だが、気になるだろうからなっ」
「隅の方で拝見させて頂きます」
「執事長達は、こっちに残れよ」
「それでは、お幸せに」にっこり。
アオに抱かれたサクラが、可愛く手を振る。
王子達は優雅に一礼し、隅に下がった。
緊張していた人々が慣れるのを待ち、式が始まると、静かに美しい音色が流れてきた。
司祭の声を厳かに引き立てている、その音色は、王子達が奏でていた。
――――――
素朴……?
まぁ、大神殿に連れては行かれなかったので、
『素朴』だったのでしょうね……
扉が開く微かな音がし、皆が視線を送ると、茶を置いて逃げる桜色の髪が見えた。
遅れて、心地よい香りが漂う。
「サクラ様!?」
『みんな、ありがと♪
俺達、地下魔界に行きますから、あとは、よろしくお願いします』
『爽蛇は明日からだからね』
魁蛇が慌てて扉を開けたが、既に姿は無かった。
「行ってらっしゃいませ。どうか御無事で――」
執事長達は、想いを込め、頭を下げた。
まだ結婚していない執事長達の話は――
さて、どうしましょうねぇ……
凜「蓮蛇、アカからの箱の中身は?」
蓮「耳飾りです。
結婚指輪の代わりとなる物です」
凜「天竜王国では、耳飾りが普通なの?」
蓮「そうですね。
指輪が邪魔になるような職業の場合は、
耳飾りを選びますね。
両方という方も多いですよ」
凜「もしかして、それ?」
蓮「はい。ずっと着けております。
妻のには、指輪を付ける事が出来ます」
凜「あ、あの揺れてるのって、指輪なのね~
いいなぁ、キラキラ綺麗」
蓮「ありがとうございます」
凜「あの指輪って、婚約の?」
蓮「あ……はい。
お恥ずかしいですが……」
凜「いいな~
サクラの歳くらい経ってるんでしょ?」
蓮「そうですね」
凜「あ……」
蓮「どうかしましたか? ……ああ、
爽兄さんと琉蛇さんと風蛇くんですね」
凜「さ、話そうね♪」
蓮「は?」




