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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
278/429

執事長4-引っ越し

 本格的に地下魔界へと進む朝です。


 翌早朝――


「それじゃ、アオ兄♪ せ~のっ♪」


アオとサクラが、サクラの屋敷を持ち上げた。


「爽蛇、礎底石(ソコイシ)の片付け、頼んだよ。

移築先には設置しているからね」


「畏まりまして御座いますぅ、アオ様♪」


「もっかい、せ~のっ♪」

アオとサクラが曲空した。



 そして、アオの屋敷の壁に立て掛け、鈴蛇が支えていた鏡から、アオが戻って来た。

サクラが鏡から顔と手を出す。

「ラン~♪ 俺達の家だよ~♪」


「では、兄様方、お気をつけくださいね」

虹藍が、地下魔界に進む事を心配しつつ、鏡をくぐった。


サクラが出て来た。

「移築完了~♪ みんな、くぐって~♪」


サクラの屋敷の蛟達が、アオの屋敷の蛟達に挨拶し、礼をしては、双掌鏡をくぐって行く。


「なあ、爽兄……あの鏡は何だ?」


「あれは、双掌鏡という竜宝ですよ。

サクラ様のお屋敷と繋がっているんです。

これからは、アオ様のお屋敷と、サクラ様のお屋敷を、自由に行来して頂くんですよ」


「アオ、もう一組だ」アカが現れた。


「急に言って、すまなかったね。

ありがとう」


「磊蛇、鈴蛇、一枚ずつね~♪ はい♪」


「サクラ様……この鏡は、まさか……」


「いつでも会えるからね~♪」

「それぞれの部屋に置いたらいいよ」


「ありがとうございます!」二人、うるうる。



「蓮蛇、愛蛇(アイダ)が探していた」

アカの後ろから女中が顔を出した。


「あっ、申し訳ございませんっ、アカ様っ!」

あわあわわっ!


「構わない」肩に手を置く。「行くぞ」


「皆様っ、お先に失礼致します!」礼っ!

「磊兄ちゃん、鈴ちゃん、お幸せにねっ♪」


執事長夫妻を連れて、アカは曲空した。



「愛ちゃんは、蓮蛇を探して来たのではなく」

「磊蛇と鈴ちゃんを見に来たんだろうな……」


双子が呟き、二人を見ると――


二人は真っ赤になっていて……


「箜蛇、屋敷に行くぞ」クロが肩に掌を当て、

「魁蛇殿、帰りましょう」フジも掌を当てた。



「磊蛇、鈴蛇、幸せにな」


「恒兄……」「兄さん、ありがとう」


キンと恒蛇が微笑み、消えた。



「ハク兄さん、邪魔はいけませんよ。

爽蛇、鏡をお願い。すぐ戻るからね」

アオがハクを連れて消えた。



「こちらは、またアオ様のお屋敷のお庭に戻るのですね……」


「爽蛇、長~く置かせてくれて、ありがと♪

みんなのお世話も、たっくさん、ありがと♪」


「私は何も致しておりません。

皆様には、大変お世話になりました。

ありがとうございました」


爽蛇は礎底石と双掌鏡を持って、サクラに深く一礼し、アオの屋敷に向かった。


「爽蛇、また後でねっ♪

鈴蛇は、今日はお休みだよっ♪

磊蛇も、お休みでいいでしょ♪」

サクラも消えた。



「ええっと……どうしましょう……」


「そうだな……ここ、庭に戻すか?」


「そうね。それがいいわ♪」


 二人は、なんだか、どうしていればよいのか分からず、サクラの屋敷が建っていた場所を庭に戻すべく動き始めた。


一緒に居られる、協力している、それだけで胸がいっぱいで、土が剥き出しの、その場所には、既に幸せの花が咲き誇っているようだった。



 ちゃんと咲いてるよ~♪

 二人の心の色がね、

 綺麗な花になってるんだよ♪



――――――



 少し時を遡り、前夜――


 夜も更け、まだ騒いでいる王子達の部屋に、箜蛇が来た。


「皆様、寝所が整っております。どうぞ」


「箜蛇~、俺達は、ここだからな~」酔っ払い。


「承知致しております、ハク様。

御客様、御婚約者様方々、ご案内致します」

優雅だが隙の無い所作で、恭しく礼。


アオとサクラの屋敷の蛟達が案内し、部屋には王子達だけになった。


箜蛇は、ハクの周りの瓶を回収しながら、クロに近寄った。


「クロ様、急な事で誠に申し訳ございませんが、明日の午前中、お休みを頂きたいので御座います」


「いいぞ。半日と言わず、一日 休めよ」


「有難う御座います」


「滅多に休みゃしねぇんだからなぁ。

遠慮せずに、もっと休めよ」


「お心遣い、痛み入ります」


「でも、何かあったのか?」


「喜ばしい事が御座いまして」フッ……


「なんだよ~、いい事なら言えよなっ」


「結婚の祝いの相談を――」


「箜蛇のかっ!?」


「私は、祝う方で御座います」


「なぁんだ……で、誰のだ?」


「磊蛇と鈴蛇で御座います」にっこり。


「磊蛇がどうしたっ!?」「鈴蛇、結婚!?」

ハクがガバッと起き、サクラが跳んで寄った。


「はい。近いうちに」にこにこ。


「鈴蛇チャンって、磊蛇の妹じゃねぇのか?」


「いや、恒蛇の妹君だ」キンも来た。


「磊蛇の家で育っただけだよ~」


「では、執事長の皆さんで相談するのですね?

でしたら、魁蛇殿にも、明日は休むよう伝えてくださいますか?」

フジも寄った。


「有難う御座います、フジ様」


「あ、でしたら、私の屋敷に集まってはいかがですか?

位置的に、お二人に気付かれにくいと思いますよ」


「ああ、そうで御座いますね。

フジ様、重ね重ね感謝の極みに御座います」


「大袈裟だなぁ、箜蛇は~

もっと気楽にしねぇと、嫁なんて来ねぇぞ」


「クロ様、私は生涯、貴方様に全てを捧げる覚悟で御座いますので、結婚など致しません」


「いや、してくれよ……」


 勘弁してくれ……

 結婚してくれ……

 頼むから、もっと気楽に生きてくれ~

 でないと、オレが苦しい!


兄弟が笑い出す。



「ん。解った」「急で、すまないね」

「気にするな」「ありがとう、アカ」

背を向けて話していたアオとアカが微笑み合う。


アカが立ち上がった。

「帰る。ワカナの部屋に案内頼む」



♯♯♯♯♯♯



 夜明け前――


 赤虎工房の隣に移築したアカの屋敷から出た愛蛇は、夜中に突然戻り、作業し続けている主の為に、朝食を運んだ。


「アカ様、失礼致します」


「ん?」作業の手は止めず、チラと見た。


「あの……」


「蓮蛇か? アオの屋敷だ」


「いえ、あの……」


「磊蛇も、他の執事長達も居る」


「では、鈴ちゃ――いえ、鈴蛇様もご一緒なのでございますね?」


「そうだ。

サクラの屋敷の引っ越しの件か?」


「はい。

あの……その、お引っ越しは……既に、決まった事なのでございましょうか?」


「決定事項だ。今、引っ越しの最中だ」


「それは、あまりに酷い事では――」


アカが手で制した。

「心配無用だ。

これは双掌鏡という竜宝だ。

この鏡は天竜王国と魔竜王国を繋ぐ物だ」


「えっ……では――」


「アオとサクラの屋敷と、ハク兄の屋敷は、東西に長い王都の東端と西端だ。

蛟が飛ぶには、かなり遠い。

だから、引っ越しを急いだ。

双掌鏡で繋げば隣室同然だからな」


「あ……ありがとうございます!」


「と、アオが言うから急いで作っている。

サクラも騒がしいのでな」フッ……


「アカ、装飾部品は出来たわよ」


「ありがとう、ワカナ。

急に言って、すまなかったな」


「いいわよぉ、嬉しい事なんだから♪

愛蛇さん、蓮蛇さんをお迎えに行ってね」


「よろしいのですか!?」


「今日は、蓮蛇も愛蛇も休め。

祝いの予定を立てればいい。

フジの屋敷に集まるそうだ。

では、行くぞ」


「行ってらっしゃ~い♪」



――――――



 時を戻し、アオの屋敷の庭では――


「私ね……執事になろうと決めたのは……

磊蛇さんの下で働きたかったからなの」


「えっ……恒兄と同じ道を、とか言ってなかったか?」


「うん。言ってた。

だって……恥ずかしかったから……

ずっと……好きだったんだもん」真っ赤。


「そ……ぅか……」真っ赤っか。


「お城の執事として頑張っていたら、いつかは、ハク様のお屋敷で働きたいって希望を出したら、通るかな……って……

女中だったら、そんな遠回りしなくても働けたと思うけど……でも、同じ仕事がしたかったの」


「ありがとう……」


「え? どうして、お礼なの?」


「嬉し過ぎる……だから、ありがとう」


「……うん」


 それから暫く無言だったが、やわらかく、あたたかい空気を感じながら、二人は並んで生垣を整えていた。


屋敷の境界にしていた生垣を整え終え、磊蛇が地均(じなら)しをしている竜宝を止めた。


「あとは……芝生か何か……花も植えるか?」


「あ……あれは――」「芝生だな……爽兄か」


二人で花や木の位置を決め、空いた場所に芝生を配していく。


「小さい頃ね、愛ちゃんとよく、

『一緒にライ兄ちゃんのお嫁さんになろうね』

って言ってたのよ」ふふっ♪


「オレなんかの? 二人とも変だぞ」はははっ


「ライ兄ちゃんは、言葉は乱暴だけど、その向こうに、とっても大きな優しさが見えてたから……だから大好きだったの」


「優しさなんか……

たぶん、そんな余裕なんて無かったよ」


「余裕で生まれるものじゃないでしょ。

優しさは本質よ。


だからね。

本当の兄妹じゃない、って判った時……

すっごく嬉しかったの。

お嫁さんになれるんだ、って思って……」


「そうか……

もっと早く言えばよかったな……」


「うん……私も、怖くて……聞けなかった……」


「やっぱ、オレって怖いよなぁ」


「そうじゃない!

……そうじゃなくて、妹以上には思えない、って言われたら、どうしよう、って……思って……」


「同じだな……オレも同じだ。

二人とも、同じ事 考えてたんだな」


「兄妹だから似るのかな……」


「これから、似たもの夫婦になればいい」


「あ……うん!」



「花、調達しに行くか?」「はい♪」





凜「あ♪ 爽蛇、その子達は?」


爽「アオ様のお屋敷には、

  託児所も御座いますのです♪」


凜「その子……爽蛇そっくり……」


爽「えっ? あ……そうで御座いますかぁ?」


凜「いや、そっくりでしょ」


爽「そそそそそんな事は――」


風「とーちゃ、このオバチャだぁれ?」


凜「オバ――」


爽「し、失礼致しますっ!!」


凜「逃げるなっ! その子を貸せっ!!」




キン   恒蛇(コウダ)────┐

ハク   磊蛇(ライダ)─┐兄 │

アオ   爽蛇(ソウダ) │妹 │

クロ 双┌箜蛇(クウダ) │  │兄

アカ 子│蓮蛇(レンダ)愛蛇(アイダ) │妹

フジ  └魁蛇(カイダ)    │

サクラ  鈴蛇(リンダ)────┘


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