妖狐と竜-覚醒への道
二つ目のオマケは、紫苑と珊瑚のお話です。
♯♯ 大婆様の部屋 ♯♯
くノ一達に会いに行った姫を待つ間に――
(サクラ様、見て頂きたいのですが……)
「珊瑚さん、なぁに~?」
「これは『曲空』でしょうか?」
消え、ほんの少し離れた場所に現れた。
「うん♪ 曲空だよ♪ だってね~」にこっ♪
「やはり、そうですか」
「うん♪」
サクラ様にお尋ねして正解でした♪
やはり、サクラ様は――
――――――
ハザマの森に入り、すぐに見つけた狐の社の前に佇み、紫苑と珊瑚は、島での修行の事を思い出していた。
「あの時、サクラ様にお助け頂けなければ難儀していた事でしょうね」
「そうですね。
解らぬまま手探りでは、いずれ途方に暮れたでしょうね。
サクラ殿は、本当に凄い方ですね」
「ええ。全てに於いて抜きん出ておりますね」
「アオ殿と共に、これから益々、高みに昇るのでしょうね」
「負けられませんね」
「勿論です」
二人は意欲満々で微笑み合った。
――――――
霧が立ち込める島の森で、紫苑と珊瑚は修行を始めた。
しかし、どのように気を高めれば正解なのか解らず、気を掴み辛い事も有り、困っていた。
「この霧……私達の邪魔をしているのかしら……」
「確かに、これまでに無い状況ですね」
これまで、互いの気が掴めないなど有り得なかった二人は、霧の薄い場所を求めて歩き始めた。
濃い霧の中、唐突に蹲る背中が見え、慌てて歩を止めた。
「サクラ様?」
「あ……」振り返った。「見つかっちゃった~」
サクラが淡い光を帯び、少し霧が薄れた。
「え……?」
「お話しもできないでしょ?」
「確かに……」
「それで、何をなさっているのですか?」
「ん~とぉ、黒い何かを追っかけて来たんだ。
でも、ここに逃げちゃった~」地面を指す。
「黒い……」「何か……ですか?」
「うん。黒いの。でも、わかんないもの」
「そう……」「ですか……」顔を見合わす。
サクラが立ち上がった。
小屋が有る草地の方を見詰め――
「だいじょぶだね……」呟いた。
「紫苑さん、珊瑚さん」
「何でしょう?」二人、にっこり。
「気の修行、どうです? 進んでますか?」
「え……?」「サクラ様……?」
二人は、これまでとは違うサクラの様子に戸惑っていた。
「驚かせて、すみません。
俺には、妖狐の力は開けませんが、お二人が持っている竜の力なら、開く事が出来ます。
今は、深層で完全に眠っていますけど」
「まさか……」「竜の力なんて……」
「確かに有ります。
竜血環を嵌められた後、仙竜丸も効きました。
仙竜丸は、竜にしか効かない薬なんです。
ですので、お二人は竜の血族でもあるんです。
もしかしたら、神竜なのかもしれませんが」
「もし、竜の力も有るのならば」
「お願い致します!」
「はい。では、失礼します」
二人の額に掌を翳し、術を唱え始めた。
サクラの掌から光が流れる。
紫苑と珊瑚の中では、輝きの炸裂が連鎖していた。
「これで、気を掴み易くなると思います」
サクラは手を下ろした。
「あ……確かに」「ええ、掴めるわ」
「サクラ様、ありがとうございます!」
「俺なんかに、お礼なんて……
それより、この霧は感覚を惑わしますので、お気をつけください」
サクラは、軽く頭を下げ、去ろうとしたが、
「あ、俺が竜になる時の気を見ますか?」
振り返った。
「お願い致します!」
サクラは微笑み、人姿と竜体を数回、行来した。
「掴めましたか?」
「はい!」
紫苑と珊瑚は頷き合い、気を高めた。
淡く光を纏うと、二人は妖狐の姿に変わった。
真っ白な霧に溶けてしまいそうな、真っ白な妖狐達が喜びの気を溢れさせる。
「あとは、術力の代わりに妖力を使うよう心掛ければ、自然と伸びると思います」
サクラは、もう一度、頭を下げ、霧の向こうに去って行った。
――――――
「あの頃は、砂漠での悔しさで、焦るばかりでしたよね」
「そうですね。
次は負けたくない、そればかり考えておりましたね」
「サクラ様には、全てお見通しだったのでしょうね」
「きっと、そうですね。
ですから、真の姿を見せ、私達を導いてくださったのでしょうね」
「あのサクラ様の導きがなければ」
「今、ここには居ないでしょうね」
二人は、決意を新たに、社を見上げた。
唐突に珊瑚が笑いだした。
「でも、草地に戻れば、サクラ様はいつも通りで――」
「確かに。
厨で、クロ殿に追い掛けられておりましたね」
「二人で唖然としましたよね♪」
「まさに、狐に摘ままれた気分でしたね」
「本当に♪」ふふふっ♪
♯♯♯♯♯♯
そして、ハザマの森で存分に楽しんだ紫苑と珊瑚は、狐の社に入り、桜華に依って、妖狐としての力が解放された。
白九尾と成った二人は、妖狐王の前に連れて行かれ――
「あ……」揃って、立ち尽くした。
玉座には、紫苑と珊瑚を助けてくれていた、碧の煌めきを纏った大きな白狐が居た。
「ふん。やっと来たか。
まずまずの出来だな。
よし、王を譲るぞ。二人で次の王だ」
「えっ!?」声を上げたのは伯母達。
桜華は、やはり――という顔をしていた。
「あ、あのっ!」
「不服か? しかし、問答無用だ」ニヤリ
「私共は、これから魔王を倒さねばなりません。
ですので、王には――」
「解っておる。アオの力と成れ。
その間は、儂が玉座に座る。
しかし、王の力は与える。どうだ?
悪い話ではなかろう?」
「王の力……とは?」
「如何なるものでしょう?」
「全てを大きく底上げする。竜の力をもだ。
ま、流石に竜にはなれぬだろうがな」
紫苑と珊瑚は、顔を見合わせた。
そして、妖狐王に向き直り、しっかりとその目を見、
「更なる力が得られるのならば」
「妖狐の王を継がせて頂きます」
決意の気を輝かせた。
「そうか。では、決まりだ」
言うと、妖狐王は立ち上がり、二人に掌を向けた。
強烈な光に包まれた二人には、妖狐王に竜の神の姿が重なって見えていた。
ゆっくりと光が収束する。
「では、行け」
己が両掌を見詰めていた二人が、顔を上げた。
「はい! ありがとうございます!」
揃って言い、姿を消した。
「何処に行ったのかしら……」
「力を試しに行っただけであろうよ。
その余剰で子狐を作ったならば、儂に見せよ」
それだけ言うと、妖狐王も姿を消した。
♯♯♯
ひとしきり術を繰り出し、落ち着いた紫苑と珊瑚は、妖狐王城を見上げた。
「先程は、自身の内での変化に圧されて思いが至りませんでしたが――」
「お祖父様に重なっていた竜の神は――」
「珊瑚も、そう思いますか?」
「ええ、確かに、あのお姿は――」
「アオ殿でしたよね」
「アオ様でしたよね」
二人、揃って言い、頷き合う。
「お祖父様がアオ殿に固執する理由は」
「その辺りに有りそうですよね」
「アオ殿が竜の姿で降下して来るのを初めて見た時、私には、その背に翼が見えたのです」
「紫苑も!?
私にも、見えたのですよ!
それに光輪も!
ですから、お祖父様に重なっていた竜の神はアオ様で間違いないと確信したのです」
「同じくです。
陽の光を背に受けていたので、あの時は、錯覚かとも思ったのですが――」
「確かに有りましたよ!
それに、サクラ様にも!」
「そうですよね。
見間違いではなかったのですね」
「その後、見ていないのは――」
「隠す術を見つけたのでしょうか……」
二人は、まるで鏡のように、揃って首を傾げた。
――――――
(サクラ様には翼が有りますよね?)
(ふえっ!? ……見えちゃった?)
(アオ様が竜に戻られて初めて降下された時に――
陽を背にしておりましたので、錯覚かも、と思っておりましたが――)
(アオ兄のも……)
(光輪も……)
(……うん。アオ兄には光輪、俺には翼が有るけどね、ヒスイのなんだ。
俺達、死卵みたくなってたから、神様がソレ込めて命を保ってくれたんだよ。
で、アオ兄と俺は同調――連動するから、時々両方に、どっちも出ちゃうんだ)
(そうでしたか……)
(今も見えますか?)
(はい。
――と申しましても、今は見えておりません。
先程、微かに見えておりましたよ)
(大きな術とかしたら、どぉしても出ちゃうんだ。
キン兄の虹紲で、すっごい大神様 喚んじゃったから~
みんなにはナイショにしてねっ、妖狐王様♪)
(はい♪ えっ!? どうしてそれを――)
(あ……紫苑さんもアオ兄に聞いてる~
紫苑さんと珊瑚さんも同調するの?)
(さぁ……どうなんでしょう……)
凜「術力と妖力って?」
桜「術力は人が技や術を発動する時に使う力。
コレ持ってる人は、ほとんどが
天人か魔人の血族だよ~」
凜「姫は? 前に火の球 降らせたよね?」
桜「姫は純粋に人だと思うんだけどねぇ」
珊「そうですよね。不思議です」
桜「属性も持ってたからねぇ」
紫「妖力は一部の魔人だけが持つ魔力です。
妖狐は妖力の強い種族なのです」
凜「じゃあ、二人は両方 持ってるのね?」
紫&珊「はい♪」
凜「あ……三人とも魔界の王様なんだ……」
紫&珊「いえっ! それは――」
凜「だって、決めたんでしょ?」
桜「俺、まだ決まってないも~ん♪」
紫「魔王を倒す迄は、王太子という事に――」
珊「それすらも、気恥ずかしいのですが……」
凜「いや~、三人とも、
おめでとうございますぅ♪」
「凜っ!!」「凜殿!!」「凜様!!」
凜「なんで気を溜めてるのっ!?」




