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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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海賊砦4-天罰

 さて、顛末は――


 そして、双方の料理が卓に並んだ。

焼いた味噌の食欲をそそる香が漂う。


カシラは、先に並んだ干支衆の料理に箸をつけた。

ガッと取って、豪快に頬張る。

そして、ニッと笑った。


「いい味付けだな」


姫の方を向く。


「で、結局、何しに、ここに来たんだァ?」


「諌めに来たのじゃ。

海は皆のものじゃからの」


「皆のもの……か」


「然様じゃ。

高い山や砂漠で隔てられておる、この島には、海路は重要なのじゃ。

誰でも通れるよう、皆の安全を守る役目を頼みたいのじゃ」


「で、何で、料理なんぞを?」


「先程のよぅに攻め込めば、話を聞いては貰えぬじゃろ?

これならば、こぅして、聞いて貰えておるからの」


「ふん。ま、一理有るな。

で、これが不味かったら、斬って捨ててもいいってんだなァ?」


「ふむ。よかろぅぞ。

不味いなど有り得ぬからの♪」


「いい心構えだ。

気に入ったから、食ってやる」


先ずは刺身として、ザザッと掬い取り、口に放り込んだ。


「切れ味いい包丁使ってんだな。美味い。

で、この妙な色の湯は何だァ?」


「その湯に、その刺身をくぐらせるのじゃ。

一枚ずつ湯の中で、ゆらゆらと泳がせれば出来上がりじゃ」


「こうかァ?」ゆらゆら、あむっ。

「確かに美味ぇな……おメェらも食えや」


手下達が集まり、同じように、ゆらゆらして口に運んだ。


「うめぇ……」「湯の色は物凄ぇがイケるな!」

「こんなの初めてだ……」「何だ? こりゃあ」


「鰤しゃぶ、といぅ料理じゃ♪」


皆、集まって、我先にと頬張った。


「ふぅん……で、この湯には何が入って――!!」


カシラが突然、目を剥き、口と尻を押さえて走って行った。


「およ?」


手下達も次々と、同様に必死の形相で何処かへと走って行く。


「はて?」ぱちくり。


阿鼻叫喚を呈していた。


「ウシ、ウサ、タツ!」


「え?」「あっ」「はい!」


「何が入っているんだっ!?」


「厨に有ったものばかりだよ!」


「何で、こうなってるんだよ!?」


「知らないよ!!」


「毒以外の何だと言うんだ!?」


「ホントに怪しいモノは入れなかったんだ!」


「おいっ! 姫っ! 何を入れた!?」


「普通に食材じゃ。

戸棚の物が腐っておったのかのぅ」


「とにかく、薬だ!」

干支衆数人が走って行った。


「姫、おとなしくしてくれよ」

ネが怒りを露に、姫の腕を捻上げた。


「ワラワが何をしたと言うのじゃ?」


「この有様だからな。

一先ず、こうするしかないだろ!」



♯♯♯♯♯♯



 そして、三日後――


「姫、悪かったな。

こんな所に閉じ込めて――何やってんだ?」


姫を閉じ込めた牢には、ウシ、ウサ、タツとイノも一緒に入っていた。


「こんな忙しい時に……」


「いや、ウチらにも責任が有ると思ってな……」


「イノは何でだ?」


「食材管理は私の仕事だからな……」


「残ってた食材は、何ひとつ腐っちゃいなかったよ」


「そうか~

それ聞いてホッとしたよぉ」


「で、じゃ。皆、回復したのか?」


「ああ。

竜神様が光を当てて、薬をくれたからな。

で、カシラが呼んでるんだ」


「然様か」立ち上がる。


「おネェ……」ウシ、ウサ、タツが見上げる。


「大丈夫だ。そんな雰囲気じゃない」


「そうか……良かった……」


「もし、そんな雰囲気になったら、私が姫を連れて逃げる。安心しろ」


「皆で逃げよう!」

牢の外には、干支衆が揃っていた。


「皆の衆……何故(なにゆえ)……」

姫が見回した後、ネを見る。


「なんかさぁ、気に入っちまったんだよ。

あれだけの力が有るんなら、私らなんざ、すぐ殺せるだろうに、真っ向勝負だなんて……

なぁ?」

ネが振り返る。


干支衆が揃って頷いた。


「本当に怪しげなモノなんて入れてなかったし、全て正々堂々と戦ってくれたんだからな」


「そうだよ。それに……海賊の方が……

船から荷を奪ったり、船乗りを海に投げたり、悪い事してるからな」


「まだ、私らじゃ、大人達には勝てないけど、いずれ、戦えると思うんだ。

だから、その……海を守る役目とやらに、加えてくれないか?」


「なあ、ちゃんと鍛えるから、頼むよ」


「うむ♪ 断る理由なんぞ無いぞ♪」


「そうか。

ついでに、ワシらも加えてくれやせんかィ?」


干支衆の後ろに大きな人影が立った。


「およ♪」


「竜神様にも諌められやした。

海にも魔物がいるのを知っている筈なのに、人が人と争ってどうするんだ、となァ」


「その病は天罰だろう、と言われたよ。

姫様、疑ったりして、すみませんでした」


「親父……」


「ですから、もう、暴れる気なんぞ失せやした。

人と争うなど二度と致しやせん。

姫様に従いやす」


「然様か♪ これにて一件落着じゃ♪」

わははははははっ♪




「お♪ そぅじゃ♪

有り余る力は、魔物にぶつけよ♪

ならば、いくらでも暴れるがよいぞ♪」


「いえ、ですが、もう暴れる気は――」


「人が相手でなければよいのじゃ。

悪さをする魔物ならば、いくらでもじゃ♪」


「然様ですかィ。ならば――」後ろを向く。

「野郎共! これよりは、魔物が相手だ!」


「おーーーっ!!」


「じゃが、ムリはせぬよぅにの♪」


「ははーっ!」



♯♯♯



「おヌシらの名じゃが……可愛くないぞ」


「はぁ……」「そう言われても……なぁ」


「海賊は討伐されたのじゃ。

じゃから、おヌシらは、これより生まれ変わるのじゃ」


「そういう事ですか」十二人、頷く。


「後ろに並んでおる、おヌシらも、皆、名を変え、生まれ変わるのじゃ。

カシラ、字は書けるか?」


「あ? ああ、一応なァ」


「うむ♪ 皆の名を書いておけ。

その者らは、船で出た所を魔物に襲われ、海に沈んだと、殿に告げる。

そして、新たな名を、別の紙に書くのじゃ。

それは、皆、漁師じゃ。

ワラワに協力してくれた漁師なのじゃ」


「そんじゃあ……」


「城に召し抱えるぞ。

もちろん、褒美も与える。

海賊の財宝は没収じゃがの」


「うむ。解ったぞ。

皆、新たな名を付けるから並べや」


「へい!」


「返事は『はい』だ!」


「へい!♪」


「おメェらなァ……」


笑いが起こる。愉しげに岩山の洞穴に響く。



「で、干支衆は……十二人じゃからの、暦の月で如何じゃ?」


「と、いうのは?」


「干支の順に、睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、霜月、神無月、師走……だけは可愛くないのぅ……うむぅ……イノは氷月(ヒョウゲツ)じゃ♪」


「はい♪」


「他も覚えたな?」


「いえ……その……」

「初耳ですので……」


「ならば書いてやるぞ♪」


「あの、書いて頂いても、文字は……」


「ええい! 城に来い!」


「いや、それは……勘弁してよぉ」



♯♯♯♯♯♯



 こうして、元海賊達は、この南端の地に村を作り、城の海軍として、航行する船を護り、暮らす事となった。


 しかし、その後、海に魔物が増え、商船の航行が途絶えてしまう。

その為、彼らは海で活躍出来なくなり、城のお庭番や土木部隊として働く事となった。


 そして、元干支衆は、姫の くノ一衆として働く事となった。


「志乃、この者達に文字を教えてくれるか?」


「はい。喜びまして、指導致しますれば♪」


「おい、あれは菓子ではないのか?」

「うん。キレイだな」

「美味そうだ~」


「食べたいのか?

ならば、茶も教えて貰えばよいぞ♪」


 志乃に依って、ミッチリ厳しく嗜みやら何やら教え込まれる事も、サラッと決まったのだった。



――――――



「では、ワラワは参るからの。

この馬車は森に入れ、仲間の拠点とする。

森の口に立てば、ミズチかカリヤが話を聞いてくれるからの。

何ぞあったならば、すぐに、ここに来るのじゃぞ」


「姫様、お達者で――」


「じゃから! いつも通りでよいのじゃ♪

さっさと持ち場に戻れ♪」


「はいっ!」


「ならば『せ~の』で散るのじゃ♪」


「は???」


「サクラが、よぅ言ぅておるのじゃ♪

同時に動く時の合図じゃ♪」


くノ一達、頷く。


「ならば参るぞ♪ せ~のっ♪」曲空♪


くノ一達も頷き合い、微笑むと、持ち場へと駆け出した。





凜「で、くノ一の皆は、あっちこっちの国の

  忍さんと仲良くなってるんでしょ?」


睦「ええ……まぁ……はい」


凜「姫、平和になったら、どうするの?」


姫「各国の大使館で働くもよし、

  引退するもよしじゃ♪」


睦「姫様……」


姫「皆、幸せになればよいのじゃ♪」


凜「そうですよね~♪」


睦「ありがとうございます、姫様、凜殿」


姫「ただのぅ……皆、ワラワより先には、

  祝言をせぬと言ぅのじゃ。

  じゃから、ワラワが魔界より戻る迄は、

  今暫し働いて貰わねばならぬがのぅ」


睦「姫様の元で働けるのは、皆、幸せに

  思うておりますれば」


姫「友じゃと言ぅても、これじゃからのぅ……

  然らば、我等が魔界に進んだ後、

  人界の事は頼んだぞ♪」


睦「勿論でございますれば♪」


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