海賊砦4-天罰
さて、顛末は――
そして、双方の料理が卓に並んだ。
焼いた味噌の食欲をそそる香が漂う。
カシラは、先に並んだ干支衆の料理に箸をつけた。
ガッと取って、豪快に頬張る。
そして、ニッと笑った。
「いい味付けだな」
姫の方を向く。
「で、結局、何しに、ここに来たんだァ?」
「諌めに来たのじゃ。
海は皆のものじゃからの」
「皆のもの……か」
「然様じゃ。
高い山や砂漠で隔てられておる、この島には、海路は重要なのじゃ。
誰でも通れるよう、皆の安全を守る役目を頼みたいのじゃ」
「で、何で、料理なんぞを?」
「先程のよぅに攻め込めば、話を聞いては貰えぬじゃろ?
これならば、こぅして、聞いて貰えておるからの」
「ふん。ま、一理有るな。
で、これが不味かったら、斬って捨ててもいいってんだなァ?」
「ふむ。よかろぅぞ。
不味いなど有り得ぬからの♪」
「いい心構えだ。
気に入ったから、食ってやる」
先ずは刺身として、ザザッと掬い取り、口に放り込んだ。
「切れ味いい包丁使ってんだな。美味い。
で、この妙な色の湯は何だァ?」
「その湯に、その刺身をくぐらせるのじゃ。
一枚ずつ湯の中で、ゆらゆらと泳がせれば出来上がりじゃ」
「こうかァ?」ゆらゆら、あむっ。
「確かに美味ぇな……おメェらも食えや」
手下達が集まり、同じように、ゆらゆらして口に運んだ。
「うめぇ……」「湯の色は物凄ぇがイケるな!」
「こんなの初めてだ……」「何だ? こりゃあ」
「鰤しゃぶ、といぅ料理じゃ♪」
皆、集まって、我先にと頬張った。
「ふぅん……で、この湯には何が入って――!!」
カシラが突然、目を剥き、口と尻を押さえて走って行った。
「およ?」
手下達も次々と、同様に必死の形相で何処かへと走って行く。
「はて?」ぱちくり。
阿鼻叫喚を呈していた。
「ウシ、ウサ、タツ!」
「え?」「あっ」「はい!」
「何が入っているんだっ!?」
「厨に有ったものばかりだよ!」
「何で、こうなってるんだよ!?」
「知らないよ!!」
「毒以外の何だと言うんだ!?」
「ホントに怪しいモノは入れなかったんだ!」
「おいっ! 姫っ! 何を入れた!?」
「普通に食材じゃ。
戸棚の物が腐っておったのかのぅ」
「とにかく、薬だ!」
干支衆数人が走って行った。
「姫、おとなしくしてくれよ」
ネが怒りを露に、姫の腕を捻上げた。
「ワラワが何をしたと言うのじゃ?」
「この有様だからな。
一先ず、こうするしかないだろ!」
♯♯♯♯♯♯
そして、三日後――
「姫、悪かったな。
こんな所に閉じ込めて――何やってんだ?」
姫を閉じ込めた牢には、ウシ、ウサ、タツとイノも一緒に入っていた。
「こんな忙しい時に……」
「いや、ウチらにも責任が有ると思ってな……」
「イノは何でだ?」
「食材管理は私の仕事だからな……」
「残ってた食材は、何ひとつ腐っちゃいなかったよ」
「そうか~
それ聞いてホッとしたよぉ」
「で、じゃ。皆、回復したのか?」
「ああ。
竜神様が光を当てて、薬をくれたからな。
で、カシラが呼んでるんだ」
「然様か」立ち上がる。
「おネェ……」ウシ、ウサ、タツが見上げる。
「大丈夫だ。そんな雰囲気じゃない」
「そうか……良かった……」
「もし、そんな雰囲気になったら、私が姫を連れて逃げる。安心しろ」
「皆で逃げよう!」
牢の外には、干支衆が揃っていた。
「皆の衆……何故……」
姫が見回した後、ネを見る。
「なんかさぁ、気に入っちまったんだよ。
あれだけの力が有るんなら、私らなんざ、すぐ殺せるだろうに、真っ向勝負だなんて……
なぁ?」
ネが振り返る。
干支衆が揃って頷いた。
「本当に怪しげなモノなんて入れてなかったし、全て正々堂々と戦ってくれたんだからな」
「そうだよ。それに……海賊の方が……
船から荷を奪ったり、船乗りを海に投げたり、悪い事してるからな」
「まだ、私らじゃ、大人達には勝てないけど、いずれ、戦えると思うんだ。
だから、その……海を守る役目とやらに、加えてくれないか?」
「なあ、ちゃんと鍛えるから、頼むよ」
「うむ♪ 断る理由なんぞ無いぞ♪」
「そうか。
ついでに、ワシらも加えてくれやせんかィ?」
干支衆の後ろに大きな人影が立った。
「およ♪」
「竜神様にも諌められやした。
海にも魔物がいるのを知っている筈なのに、人が人と争ってどうするんだ、となァ」
「その病は天罰だろう、と言われたよ。
姫様、疑ったりして、すみませんでした」
「親父……」
「ですから、もう、暴れる気なんぞ失せやした。
人と争うなど二度と致しやせん。
姫様に従いやす」
「然様か♪ これにて一件落着じゃ♪」
わははははははっ♪
「お♪ そぅじゃ♪
有り余る力は、魔物にぶつけよ♪
ならば、いくらでも暴れるがよいぞ♪」
「いえ、ですが、もう暴れる気は――」
「人が相手でなければよいのじゃ。
悪さをする魔物ならば、いくらでもじゃ♪」
「然様ですかィ。ならば――」後ろを向く。
「野郎共! これよりは、魔物が相手だ!」
「おーーーっ!!」
「じゃが、ムリはせぬよぅにの♪」
「ははーっ!」
♯♯♯
「おヌシらの名じゃが……可愛くないぞ」
「はぁ……」「そう言われても……なぁ」
「海賊は討伐されたのじゃ。
じゃから、おヌシらは、これより生まれ変わるのじゃ」
「そういう事ですか」十二人、頷く。
「後ろに並んでおる、おヌシらも、皆、名を変え、生まれ変わるのじゃ。
カシラ、字は書けるか?」
「あ? ああ、一応なァ」
「うむ♪ 皆の名を書いておけ。
その者らは、船で出た所を魔物に襲われ、海に沈んだと、殿に告げる。
そして、新たな名を、別の紙に書くのじゃ。
それは、皆、漁師じゃ。
ワラワに協力してくれた漁師なのじゃ」
「そんじゃあ……」
「城に召し抱えるぞ。
もちろん、褒美も与える。
海賊の財宝は没収じゃがの」
「うむ。解ったぞ。
皆、新たな名を付けるから並べや」
「へい!」
「返事は『はい』だ!」
「へい!♪」
「おメェらなァ……」
笑いが起こる。愉しげに岩山の洞穴に響く。
「で、干支衆は……十二人じゃからの、暦の月で如何じゃ?」
「と、いうのは?」
「干支の順に、睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月、長月、霜月、神無月、師走……だけは可愛くないのぅ……うむぅ……イノは氷月じゃ♪」
「はい♪」
「他も覚えたな?」
「いえ……その……」
「初耳ですので……」
「ならば書いてやるぞ♪」
「あの、書いて頂いても、文字は……」
「ええい! 城に来い!」
「いや、それは……勘弁してよぉ」
♯♯♯♯♯♯
こうして、元海賊達は、この南端の地に村を作り、城の海軍として、航行する船を護り、暮らす事となった。
しかし、その後、海に魔物が増え、商船の航行が途絶えてしまう。
その為、彼らは海で活躍出来なくなり、城のお庭番や土木部隊として働く事となった。
そして、元干支衆は、姫の くノ一衆として働く事となった。
「志乃、この者達に文字を教えてくれるか?」
「はい。喜びまして、指導致しますれば♪」
「おい、あれは菓子ではないのか?」
「うん。キレイだな」
「美味そうだ~」
「食べたいのか?
ならば、茶も教えて貰えばよいぞ♪」
志乃に依って、ミッチリ厳しく嗜みやら何やら教え込まれる事も、サラッと決まったのだった。
――――――
「では、ワラワは参るからの。
この馬車は森に入れ、仲間の拠点とする。
森の口に立てば、ミズチかカリヤが話を聞いてくれるからの。
何ぞあったならば、すぐに、ここに来るのじゃぞ」
「姫様、お達者で――」
「じゃから! いつも通りでよいのじゃ♪
さっさと持ち場に戻れ♪」
「はいっ!」
「ならば『せ~の』で散るのじゃ♪」
「は???」
「サクラが、よぅ言ぅておるのじゃ♪
同時に動く時の合図じゃ♪」
くノ一達、頷く。
「ならば参るぞ♪ せ~のっ♪」曲空♪
くノ一達も頷き合い、微笑むと、持ち場へと駆け出した。
凜「で、くノ一の皆は、あっちこっちの国の
忍さんと仲良くなってるんでしょ?」
睦「ええ……まぁ……はい」
凜「姫、平和になったら、どうするの?」
姫「各国の大使館で働くもよし、
引退するもよしじゃ♪」
睦「姫様……」
姫「皆、幸せになればよいのじゃ♪」
凜「そうですよね~♪」
睦「ありがとうございます、姫様、凜殿」
姫「ただのぅ……皆、ワラワより先には、
祝言をせぬと言ぅのじゃ。
じゃから、ワラワが魔界より戻る迄は、
今暫し働いて貰わねばならぬがのぅ」
睦「姫様の元で働けるのは、皆、幸せに
思うておりますれば」
姫「友じゃと言ぅても、これじゃからのぅ……
然らば、我等が魔界に進んだ後、
人界の事は頼んだぞ♪」
睦「勿論でございますれば♪」




