海賊砦1-お転婆姫と海賊達
またまたオマケに入ります。
今回より、1日1話投稿にしますので、
急に少なくなるのも――と思い、今回だけは、
ほんの少しだけ長くしました。m(__)m
♯♯ 大婆様の部屋 ♯♯
「これからの事を打ち合わせたいんだけど、俺の屋敷に移動しないかい?」
「そぉしよ~♪」「いいなっ、それ♪」
「アオ殿、少々お待ちください……あ、姫様ですか。
わかりました。
慎玄様より、姫様に伝言です」
「うむ」
「くノ一の皆様が、馬車でお待ちだそうですよ」
「また大陸で何か有ったのか?」
「いえ、お見送りのようですね」
「姫、行って来たら?」
「ふむ。そぅじゃな。
クロは先にアオの屋敷に行っておれ。
ワラワひとりで参る故」
「えっ!?」
「クロ、女性同士の話も有るだろうからね。
姫の言う通りにさせてあげたらどうだ?」
「そっか……気をつけて行けよ」
「曲空するだけじゃ♪ では後程な」曲空♪
――ハザマの森口、馬車の中。
「姫様♪」一斉。
「およ? 慎玄殿とカリヤとミズチは何処じゃ?」
「森を散歩なさるとか……」
気を遣われてしもぅたのぅ……
「して、如何用じゃ?」
「我等は人界に残ります故、ご挨拶をば」
「然様か……しかし、人界に戻らぬ事も無いからの。
あまり心配するでない」
「然様で御座いまするか……」
「でも、危険な所に向かうんですから、せめて、これをお受け取りください」
如月が、睦月が握っていた物を奪うように取り、姫に差し出した。
「海賊のお守りなんて、嫌かもだけど、これしか知らないから……」
「遠出する仲間に、無事を願って渡す物で御座いまする。
心は共に……その想いで御座いますので……」
「如月、弥生、よく解ったぞ。
皆、ワラワの為に、誠に忝ない。
心は常に皆と共にじゃ♪」にこっ♪
姫は海賊のお守りを受け取り、竜鱗璧の組紐に通し、首に掛け直した。
「姫様ぁ」一斉に、ひしっ。
「泣くでないっ!
ワラワは死にに行くのではないのじゃっ」
「あ……」遅れて、笑いが起こった。
「でも、私らは、姫様と出会わなかったら、まだ人様に迷惑しかかけてなかっただろうし――」
「卯月、口調がっ」「あ……」
「皐月、構わぬ。普通に話せばよい。
畏まられると、志乃に囲まれておる気分になるからの」
また笑いが起こる。
「しかし、姫様に救われたのは事実。
お供できない歯痒さは、とても大きいんです」
「だから、さっきの言葉が、とても嬉しくて……」
「水無月、共に魔界には行けぬが、人界の事、ワラワの代わりに宜しく頼むぞ」
「姫様の代わり……」
「そぅじゃ。頼んだぞ。
文月、ワラワも皆が、こぅして集まってくれた事が、真、嬉しゅうて仕方がないのじゃ。
ま、一年も掛からぬ。
首が長くなる暇も無しじゃ♪」
「姫様なら、納得ですね」
「じゃあ、皆の祝言も早く出来そうね~」
「葉月だけでのぅて、皆、納得じゃろ?♪」
くノ一達、大きく頷く。
「長月、皆は何故、祝言を遅らせよぅとしておるのじゃ?」
「それは、当然、姫様をお待ちする為ですよぉ」
「待つ必要は無いぞ。
祝言の時くらいは、人界に戻るからの」
「しかし、姫様より先にしようなどとは、全く思っておりません。
睦月姉も、そうでしょう?」
「当然で御座いますれば」
「霜月まで……いや、霜月は若いから、それでも良かろぅが、睦月はワラワより七歳も上じゃ。
先に祝言をせよ」
「お待ち致したいので御座います」
「あ……絶対に譲らないって顔だわ……
姫様、私共はお待ちしたいのです。
一年も掛からないなら尚更です。
待たせてください」
「神無月……皆、それで良いのか?」
くノ一達、また大きく頷く。
「祝言も引退も好きにすればいいって、先日、姫様が仰ったんですから、好きにさせてくださいね」
「確かに……言ぅてしもぅたのぅ……
ならば無理強い出来ぬか……
ふむ。氷月の言ぅた通りじゃ。好きにせよ♪
あ……これも、命じておるかのよぅじゃな……
ワラワは主従じゃとは思ぅておらぬ――」
「えっ!?」「そんなぁ」「何で!?」
一斉に声が上がる。
「あの時よりずっと、友じゃと思ぅておるからの♪
じゃから、好きにすればよいのじゃ♪」
「姫様ぁ~」うるうる……
そぅじゃ。あの時からずっと友なのじゃ……
――――――
「この辺りの筈じゃがのぅ……」
左には、山の連なりが唐突に切れ、その崖下には海原が広がっていた。
右には、湖が在り、あとは、大小の岩山が点在している。
高い松の枝に立っている少女は、ここ、中の国の姫君である。
お転婆姫として、その名を轟かせている静香姫は、額に手を当て、もう一度、ぐるりと見回すと、目の前の大きな岩山に視線を戻し、睨みつけた。
「怪しぃのぅ……ふむ、調べよぅぞ♪」
姫は、猫の如く身軽に飛び降りると、岩山に向かって、弾んで行った。
♯♯♯
岩肌を撫でながら、一周する。
「上かのぅ」見上げた。
先細りしていく岩山の中腹に違和感を覚え、目を凝らしたが、出っ張りが邪魔で、見えない箇所が有った。
姫は、おもむろに岩肌の凹凸に手を掛け、登り始めた。
♯♯♯♯♯♯
「カシラ! 登って来るヤツがおりやすゼ」
「なんだとっ!?
入口も船も見つかってねぇんだな!?」
「い、いや……そこまでは……」
「確かめろィ!!
おメェは登って来るヤツの方だ!!」
海賊達が散った。
♯♯♯♯♯♯
「ここじゃな……」
姫は岩山の中腹の出っ張りに立った。
見えなかった辺りの岩肌を確かめる。
「継ぎ目も何も、見当たらぬのぅ……」
ふ~む……と首を傾げる。
その時、視界の隅を何かの影が過った。
地上を見る。
何者か居るな……
山に向かって、別の影が走った。
ここで間違いなさそぅじゃ♪
姫は、走った者達が戻るのを待つ事にした。
暫くして――
湖の方角から人影が、小さな岩山へと素早く走った。
その岩山から、次へ――
とは、待っていても、人影が出て来なかった。
「いざ、参らん♪」
姫は、ヒラリと飛び降りた。
♯♯♯♯♯♯
「カシラ、登っていたのは、娘っ子でやした」
「娘だとぉ!?」
「子供じゃねぇかと……」
「カシラ、もしや、お転婆姫では?」
「鬱陶しぃこったなぁ……
もし、何か見つけやがったら、干支衆にでも相手させてろィ」
「へい!」
♯♯♯♯♯♯
「この岩山じゃな」ぐる~り……「ん?」
この跡は……
しゃがみこむ。
砂を撫で、ひとつ頷くと、岩山を押した。
ズズッ……
小さな岩山が、少し動き、縄の端が現れた。
岩山から手を離すと、岩山が戻り始める。
「およっ」急いで縄を引くと――
岩山に穴が開いた。
「見つけたぞ♪」ぴょんっと入った。
穴が塞がる。
微かな足音が遠ざかっていた。
♯♯♯♯♯♯
「カシラ、船は無事でやす」
「ん。見張りは残してきたか?」
「もちろんでサァ」
別の男が駆け戻る。
「カシラ、二の蔵も無事でやしたゼ」
「そうか。見張りは?」
「あ……いえ……」
「見張ってろィ!」
「へいっ!」
踵を返――「ぅわっ!!」
「アジト、見つけたぞ♪」ふふん♪
「つけられやがって!」「すぃやせん!!」
「放り出せっ!!」「へいっ!!」
海賊達と姫の鬼ごっこが始まった。
♯♯♯♯♯♯
「おい、干支衆、出番だ」
「親父、侵入者か?」
「そうだ」
「どんなヤツだ?」
「この国の姫だとよ」
「ふぅん。なぁんだ」
「かなり、すばしっこいぞ。気をつけろよ」
「任せとけって♪ 行くぞ」
干支衆が頷き、立ち上がった。
♯♯♯♯♯♯
「どこ行きやがった!?」「上だ!!」
「消えやがった!!」「向こうだ!!」
「待ちやがれっ!!」「うわあっ!!」
姫ひとりに翻弄されている手下を見て、幹部は財宝を移し始めた。
「カシラ、干支衆は湖の口に潜みやした」
「ん」
カシラは、立ち上がると、ダッと地を蹴り、後ろに跳んだ姫の項に手刀を打った。
姫がカクンと落ちる。
カシラは襟首を掴むと「開けろ」壁に向かった。
岩壁が開く。
カシラは、気絶した姫を放り投げた。
♯♯♯♯♯♯
「おネェ、なんか落ちてくぞ」
「あれが姫なんじゃねぇか?」
「えっ!?」「何っ!?」「ワッ!!」
岩山から放り投げられた姫が、砂地に叩きつけられる寸前、黒くて長い影が掬い受け、上昇し、辺りを窺うと、干支衆が潜む湖に向かって飛んで来た。
「来るぞ!」「見つかってはいない筈だ!」
干支衆は息を殺して通り過ぎるのを待った。
――長く大きな影が頭上を通り過ぎた。
「竜……だよな?」「竜でなければ何だ?」
「降りたぞ」「人になった!?」「夢か?」
「いや、どうやら本当だぞ」「竜が人……」
「水を飲ませているのか?」「まさか……」
「また竜になったぞ」「黒竜だな」「ああ」
「飛んで行ったな」「あの姫、どうする?」
「私が確かめる。ウシ、ここを頼む」
「わかった」
「おネェ、私も行く」
「ん。トラ、行くぞ」
二人は湖へと、足音も立てず走った。
♯♯♯
「生きてるな……」「そうだな」
岩に凭れ掛け横たわっている姫の口に手を翳し、息をしている事を確かめた。
「今のうちに――」「動いたっ」
「ん……」
顔を見合せ、跳び退り、岩影から様子を窺った。
姫が目を開けた。
ゆっくり、身を起こし、辺りを見回す。
状況を理解したらしく、大きな岩山――アジトに目を向ける。
目に光が宿る。
ニッと笑うと、サッと立ち上がり、アジトの入口の小さな岩山に、真っ直ぐ駆け出した。
トラが立ち塞がる。「行かせねぇっ!」突撃!
凜「姫、この話は、いつ頃なの?」
姫「五年程前じゃな」
凜「じゃあ、天竜王子達は人界に来たトコね」
黒「そうなるな」
凜「クロは覚えてるの?」
黒「う~ん……」
姫「まさか、クロに助けられたとはのぅ」
黒「あ! あったあった!
飛んでたら、子供が宙にポーンってのが
見えたんだよ。
だから、拾って、水かけたら起きるかな?
って……そうだ! 顔にかけたんだよ!」
凜「なんで、放ったらかしたの?」
黒「人の気配が有ったんだ。
だから、逃げたんだよ。
人姿になるトコは見られちまった
だろうから、もういっか~って、
隠れずに竜に戻ってな」
凜「良かったね~」
黒「ん?」
凜「大事な姫が助かって♪」
黒「あ……まぁな」真っ赤。
 




