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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
263/429

次への1-スミレ王妃

 アオには、皆で地下魔界に踏み込む前に、

しておきたい事が幾つか有るんです。


 サクラの成人とアオ、クロ、サクラの婚約に関する儀式は、全て滞りなく終わった。

そして夜、アオは再び翁亀を訪ねていた。


「おや、アオひとりとは珍しいのぉ。

どうしたんじゃ? 心配事か?」


「いえ、お教え頂きたい事が有りまして……」


「ふむ。今日は、女神様は居らぬのじゃな」


「今日は王妃様していましたから、そのままコハク王様に付いて行きました。

その、スミレ様の生前を知りたいのです」


「ふむ……

まぁ、元気にしとるから、よかろぅな。

アレも、いろいろと苦労したからのぉ」


「やはり、そうですか……

知らずに傷付けてはいけないので、知っておきたいんです」


「解っとる。

アオが興味本位だけで、ここに来たなんぞと思ぅとらんわぃ。


スミレは……

なんせ、出自不明の卵じゃったから、王族会が認めぬと煩ぅてのぉ……

ベニ女王の外套に包まれておっただけでは信用出来ぬ。

神殿に持ち込んだ神竜は誰なんだ、となぁ。


モモ王妃が『私が親になります!』と一喝して王族会を黙らせ、孵化したスミレに個紋が有ったからの、もう、王族としては認めざるを得なかったんじゃ。

しかし、ベニ女王の実子という証拠は無い。

じゃから、王位継承権は認められんかった……」


「幼い頃のスミレ様には、安らげる居場所が無かったんですね。

だから、あんな風に、内と外で顔が違うようになってしまったんですね」


「外では完璧でなければ、生きてはゆけぬ。

必死で生きておったんじゃ。

モモさんだけは気付いておって、常にスミレを護っておったがの。

如何せん王族会は強かったからのぉ。

じゃから、お前さんに解体されてしもぅたんじゃがの」


「いや……それは……」恥ずかしさで俯く。


「王族の為だけでのぉて、この国の為にも、良い事を成したと思ぅとるぞ」


「ありがとうございます」


「スミレも、モモさんとコハク、ギンの前でだけは、安心して自分を出しておったがの。


スミレが成長するにつれ、ベニ女王そっくりになった事で、王族会の中に『スミレ派』が出来てしもぅての。

それが、長老会や王族会長を巻き込み、強大な力を得、スミレをベニ女王の実子と認めさせたんじゃ。

それにより、王位継承権が、スミレ、コハク、ギンの順になったんじゃよ」


「ああ、そうか。

昔は、ややこしかったんですよね。

親の即位順とかも絡んで、単純に孵化順ではありませんでしたね。

しかも、今は一位が二人だけど、当時は ひとりで、二位以下は、実力優先で入れ替わるとか――」


「その通り。

じゃから、今度はギンが躍起になってのぉ。

単純に王位だけでのぅて、恋敵としても、コハクと張り合ぅたんじゃ。


あの頃のギンは、天狗じゃったからのぉ。

何事もコハクより(まさ)っておると、信じて疑ぅてはおらんかった」


「伯父が、爪も牙も隠しているだけ、という事に気づかなかったんですね」


「そういう事じゃ。

ギンは、爪も牙も出したまま、見せびらかしておったからの。

その差に気付かぬスミレではなかったんじゃ。

スミレはコハクを選び、そして、王位継承権を放棄したんじゃよ」


「父の為に……ですか?」


「おそらくなぁ。

当時の決まりに則れば、そのままじゃと、夫婦で王、女王となる事が確定するからの。


兄弟の仲を裂きたくはない。

要らぬ争いの種にはなりたくない。

ギンに対する罪悪感……

そんな様々な思いから、女王ではなく、王妃を選んだのじゃろぅな」


「なんだか……申し訳なく思えてきました」


「アオが、そんな事、思わんでもよいよい。


それでも拗ねたギンは『生涯 結婚せぬ』と言い、そこそこの騒ぎになったんじゃ。

全てモモさんとスミレが鎮めたがの」


アオが ため息をつき、俯いた。


「若い頃の話じゃから、そう気にするでない。


まぁ、ギンは、スミレが亡くなるまで落ち着かんかったのぉ。

スミレが亡くなって初めて、兄弟で慰め合い、今のように仲良ぅなったんじゃ」


「父が即位当初から大人だったら、三人での充実した統治が出来たんでしょうね……」

また ため息……


「ま、過去の事じゃ」


「スミレ様が亡くなられた時の事も、お願いします」


「あの時は、コハクはハザマの森付近で、ギンは人界上空で戦ぅておってな。

シロとムラサキが援軍を率いて、各々の戦場に向こぅておったんじゃ。


城にはモモさんとスミレだけ。

その時を狙ぅて、王都上空に魔物が現れ――


引き止めるモモさんを逃がすよう、王の代理として衛兵に命じ、スミレは、自ら出て行ったんじゃ。

スミレは万有の盾を限界まで拡げ、王都を護ろぅとしたのじゃが、全ては覆い尽くせなかった。

その隙間から入った魔物に襲われ、命を落としたんじゃ」


「輝きを放って、魔物を一掃したと聞きましたが」


「半神竜じゃからの。

スミレは光も、天性・治癒も持っておった。

命尽きる間際、全力で放ったのじゃろぉな。


最期の瞬間、背に輝く翼が見えたと言う者も多くての。

それまで出ておらんかった、半神竜としての力が、迸ったのかも知れんのぉ」


「だから『女神の如き慈愛の王妃』……

魔物は傀儡兵だったんですね……」


「おそらくのぉ。

スミレは、王都には全く被害を出さず、護り抜いて散ったんじゃ。


しかしのぉ、こぅ言うと何じゃが……

今の方が、断然、幸せそぅじゃぞ。

スミレが育つのを二度 見たが、王女として育った一度目よりも、森に閉じ込められはしたが、二度目の方が幸せそぅに、よ~う笑ぅとる」


「それなら……嬉しいです」


「兄として、これからも見守ってやるんじゃな。

伯母じゃと思う必要は無いと思うぞ」


「ありがとうございます、翁亀様」


【兄様~♪】「ほれ、妹が来たぞ」


【翁亀様、ごきげんよう】にこっ♪


「良い事が有ったよぅじゃな」にこにこ


【はい♪

コハクとギンが、仲良く祝い酒してるの。

嬉しくって♪】


「そぉかそぉか」


【それとねっ♪

ヒスイも神になったの♪】


「ヒスイは?」【サクラと話してるわ♪】


「行ってやれ」はっはっは♪ 「では、またな」

翁亀は沈み、桜の木が離れて行った。


【行きましょ♪】


 サクラは――「えっ? 俺の屋敷!?」


【集まって待ってるわよ】本当だ……


 各々婚約者と一緒に居ると思って、

 一生懸命 拾わないようにしていたのに……


「何で我が家(ウチ)なんだ?」

笑いながらスミレの手を取り、曲空した。



――アオの屋敷。


「おかえり~♪」ぱふっ「アオ兄~♪」


一斉に兄弟の声が上がった。


「婚約者は?」見回して尋ねた。


「もう遅いからな」「帰さねぇとなっ」

兄弟皆、にこにこしている。


「アオこそ、どこ行ってたんだよぉ」絡む。


「いや、別に……」また随分と酔っていますね?


「また地下魔界か? 竜宝の国かぁ?

今日くらいは、ゆっくりしろってぇ」バシッ!


「ハク兄さん……

手加減って知らないんですか?」いたた……


楽しげな笑い声が湧いた所に、爽蛇が食事を運んで来た。


「まだ食べるんですか?」ぱちくり


「食べる~♪」晩餐会とは別腹~♪


「爽蛇、その酒は何だぁ?」


「千年竜喜と、今年の初物で御座います。

ハク様、どちらを――」


「勿論、両方だっ♪」瓶ごと奪う。


「あ♪ キュルリ~♪」きゅ~♪ ふよふよ♪


「どこにいたんだ?」クロの頭に乗る。


「星輝の祠で休ませていたんだ。

俺が体に戻る時に使ったから」


「私の回復にも、随分 使ってしまいました。

大丈夫でしたか? キュルリ」きゅる♪


芳小竜のルリは、いつの間にか、そんな名になっており、本人は喜んでいて、呼ばれた方に、ふよふよと飛び回っていた。


「食べるのぉ~?」「やめてね」

「お♪ 飲むか?」「やめてくださいっ!」

「アオ、そろそろ」「はい?」


「長老の山の中庭が、全面 池になった経緯を話して欲しいのだが――」


「サクラは話さなかったんですか?」


「ずっとヒスイ様と話してたんだよ」


「そうですか……」



 そんなこんなで深夜まで、アオの屋敷は賑やかだった。





 婚約の儀は、前に王太子ので書きましたので、

主役の儀式ですが、サラッと素通りしました。

これで、サクラも成人して婚約したし、

アオとルリ、クロと姫も正式に婚約しました。



琥「この酒は、どうしたんだ?

  かなり上等なものじゃないか」


銀「アオがくれたんだよ。千年竜喜だと。

  心が洗われるような酒だな」


琥「仲直りの品って事か……」


銀「俺が全て悪かったんだけどな……」


琥「自覚しているなら、アオも解っているさ」


銀「アイツは賢いからな」


琥「そうだな」


銀「いいヤツだよ。我が息子ながら、

  俺なんか、到底 敵わん」


琥「魔王を倒すんだろうな……」


銀「必ず倒す。アオなら、やってくれる」


琥「安心したよ。やはり親子なんだな」ふふっ


銀「俺達の親父も呼ぶか?」ニヤッ


琥「そうだな。

  私達も親を大事にしなくては、な」


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