涅魁北1-簪
サクラは隠し部屋に保管されていた鏡達とも、
すっかり友達です。
もちろん、魔王作の鏡も、です。
♯♯ 人界 ♯♯
「アオ兄、ここは?」雲の上~♪
「涅魁の国、氷神子山だよ」
「鏡達が言ってた『北の果ての山』だねっ」
「たぶん、この山だと思うんだ」
「『凍ったままの湖』探そ~♪」降下。
――――――
隠し部屋に歴代魔王達が保管していた鏡達の話では、古の人々が使っていた地上と地下の人界を繋ぐ通路は、魔王達に依って悉く破壊されており、
北の果ての山の麓に在る、
『永久に凍ったままの湖に浮かぶ洞窟』が、
唯一、魔王に発見されずに残っている通路だという事だった。
――――――
「どこまでも雪原だね」「さむぅいぃいぃ」
アオがサクラに、光の球を優しく投げた。
「あったかぁ~い♪ ありがと♪ アオ兄♪
その光、なぁに? 前にも使ってたよね?」
アオが微笑みながら掌を翳す。
「ほとんど治癒なの!?
でも、いろいろ混ざってるんだね~♪」
二人は山の周りを低空飛行した。
「一周してしまったね。
どうやら湖は、厚い雪で、すっかり覆われているんだね」
「神眼で探そ~」「そうだね」
慎重に探しながら、もう一周――
「水に水だから見つけにく~い」むぅ
「魔王に見つからなかっただけあって、これは難しいね……」
「クロ兄が早く開けばね~」
(サクラ、どこにいるんだ?)呼んだの?
(クロ兄、どぉしたの?)呼んでないよ~
(ちょっと教えて欲しいんだが――)
(数学ぅ?)(ちげーよっ!)(なぁにぃ~?)
(クロ、こっちに来ないか?)(来て来て~♪)
(一緒なのか?)(ならば丁度良いではないか)
(あ♪ 姫~♪)(んじゃ、そっち行くからな)
「寒っ!!」すぽっ「――くねぇな」
「サクラ、ここは何処じゃ?」
「北の果て~♪ で、なぁに?」
「神眼の使い方でな――どう言えばいいんだ?」
サクラがクロの額に掌を当てた。
「ちょうどいいから、この山の麓にある湖を探してみて~」
「雪しか見えねぇぞ」
「だから、ちょうどいいんだよ♪
雪の下のどこかに、凍った湖があるハズなんだ。
クロ兄の神眼なら、俺達に見えないモノも見えるハズだから」
「雪の下か……」目を閉じて集中――神眼発動!
(サクラ、それはもしや、水の中から水を探すのか?)
(当ったり~♪)
(凍てついた雪と、凍った湖のぅ……)
(地面の水分も凍っているから、俺とサクラでは見つからなかったんだよ)
(アオとサクラに出来ぬ事が、クロに出来よぅ筈がなかろ!?)
(いや。
クロの神眼は、とてつもなく大きな力なんだよ)
(ホントだよ~)
(クロが……のぅ……)
(ちゃんと、ぜ~んぶ開いたら、クロ兄がイチバン強いんだよ)
(真なのか!?
アオとサクラは桁外れじゃろ!?
その上をゆくと!?)
(俺達のは、ほとんど竜宝の力だからね~)
(しかし、使い熟せば、己が力じゃ。
そぅでなくば、ワラワも甲斐が無い)
(ありがとう、姫。
そう言って貰えると俺達も嬉しいよ)
(しかし……クロが……のぅ……)
(姫、手伝ってあげて~)
(何故、知っておるのじゃ!?)赤面!
(なんとなく~)アオとサクラ、にこにこ。
「すぐ戻るから、お願いねっ」
(アオ兄、竜宝の国 行こっ♪ せ~のっ♪)
(ぅわっ! 姫!? 何すんだっ!
アオとサクラがいるだろーがっ!!)
(居らぬ。供与せよ)(あ? おぅ)
(反復供与!)閃光迸る!
(見易くなった。ありがとな)(うむ)
しっかし……どーすりゃ見えるんだ?
掘っていく感じで、気の杭を打っていくと――
雪、雪、雪、雪、雪――分厚いなっ!
しかも固まってんじゃねぇのか?
もう、雪なんだか、氷なんだか……
んじゃ、逆に、
もっと下から上がってけばいいのか?
まずは、下に――
地面から上がればいいよな。
――って! 地面どこだぁ?
どんだけ深いんだろ……この雪……
ん? もしかして岩盤か?
って事は……
微かな土が判らねぇとダメなんだな。
よしっ!
どーせ やるなら、供与も利用して、
姫にも見せられたら、これから使えるよな。
僅かな違い、見極めて……
供与と絡めて……
研ぎ澄ませて、集中して、
姫の気と合わせて……
クロの内にある何かが弾けた!
連鎖するように次々と――
(あった!)(ワラワにも見えたぞ!)
「ならば――」
朱鳳を構え、炎を竜巻に込め放った!
雪原に大穴が開き、水面が見えた。
「姫♪ すごぉい♪」「どぅじゃっ♪」
「見つけたのはオレだ!」「まぁまぁ」
「姫、コレあげる♪」「簪か?」「うん♪」
「クロ、簪に気を込めて、姫の髪に挿すんだ。
それで解決すると思うよ」
「俺達 行くから~♪ お幸せに~♪」
アオとサクラは湖に向かって降下した。
「とりあえず戻るか」「そぅじゃな」曲空。
♯♯ 神楽の風穴 入口 ♯♯
「気を込めるのか……」めーいっぱい!
「んで、挿すんだな。落ちねぇように――
ん? どうしたんだ?」覗き込む。
「何でもないわっ」ぶんぶんっ
「よし! 落ちねぇなっ♪」満足♪
姫が無言で俯いたまま、背を向けた。
「え? ホントどうしたんだ?」心配 溢れる。
(アオ、姫の様子が おかしいんだ。
あの簪、何なんだ?)
(簪、それ自体には問題無い筈だよ。ただ――)
(何だよぉ。教えてくれよ。頼むっ!)
(中の国では、簪を挿してあげるのは、求婚だから。
ちゃんと雰囲気、作ったのか?)
(えっ!? そーゆー大事なコト!
ちゃんと教えろよっ!!)
「姫っ! 悪かった! ちゃんとするからっ!」
簪を抜き取り、もう一度しっかり気を込める。
『気』よりは『願い』や『祈り』なのかもしれないが――
「こないだは、ちゃんと言ってなかったからな。
今度こそ、正式なヤツだ」
向き合って、しっかり目を見た。
「私、天竜王国・第四王子、クロ=メル=シャルディドラグーナは、生涯、貴女を愛し、慈しむ事をこの簪に誓います。
静香、受け取ってくれるか?」
姫は瞳を潤ませて、コクンと頷いた。
クロは優しく簪を挿した。
もう一度、視線を合わせ――
「オレ、勉強とか大っ嫌いで、考える事っつったら料理の事ばっかで、兄弟の中で一番ダメだけど――
さっきも、簪の事 知らなくて……
せっかくアオとサクラが、わざわざ簪にしてくれたのに、危うく とんでもない大失敗するトコだった。
だから勉強するよ。
必要なんだって痛感したから。
中の国の事も、ちゃんとする。
しっかり知って、考えて、一緒にいい国にしよう。
その後で……子供に殿を任せてからでいい。
竜人になって欲しいんだ。
人にとっては、とんでもなく長い時間だけど、オレと一緒に生きてくれ」
「クロ、ワラワは嫌じゃぞ」平然。
「何がっ!? 何でっ!?」愕然!
「そんな婆になってからなど嫌じゃ。
クロは、まだまだ若いままなのじゃろ?
ならば、すぐにでも竜人になるぞ」
「そ……そこかぁ……」脱力~~
「リリスから聞いておるぞ。
人界に行く為の竜宝が有るそぅじゃ。
それと、卵から竜が生まれるのじゃろ?
二代続けて竜が殿でも良かろぅぞ♪」
「姫……じゃあ、いいのか?
オレと、ずっとだぞ。ホントにいいのか?」
「そんな長い時など、考えた事も無いからのぅ。
先の事など分からぬが……今のところは、クロがワラワのイチバンじゃっ♪」
「姫~っ♪」ぎゅっ♪
――の後は、もちろん……
(クロ……)(何だ? 静香)(幸せじゃ♪)
凜「アオ、サクラ、あの簪は何?」
青「竜宝の塊だよ」
桜「いろいろ組み合わせたの~♪」
青「中心になっているのは神眼鏡だね」
桜「うん♪ 神眼の天性竜宝なんだよ♪
だからクロ兄の神眼で、姫が見るのを
助けるんだ」
青「供与と同時発動すれば、あの二人なら
見えるよ」
凜「でも、確か天性って、
共有できないんじゃないの?」
桜「フツーできないよ~」
青「でも、クロと姫の同調具合なら、
あの竜宝達の助けが有れば大丈夫だよ」
凜「同調?」
桜「アオ兄と俺みたいなヤツ~♪」
凜「連動しちゃう、アレ?」
桜「そ♪」
青「まぁ、流石に、一緒に気絶したりなんかは
しないと思うけどね」
桜「アオ兄と俺のはベツモノだから~」




