闇拠点15-カラクリ鏡
前回まで:魔王の鏡部屋を調査中です。
♯♯ 長老の山 ♯♯
「兄上が生きておったじゃと!?」
シロは驚き過ぎて、それ以上、言葉が出なかった。
「まだ意識は戻っておりませんが、時間をかければ、お話しも出来ると思います。
たくさんの神様がいらしておりますので」
「行ってもよいのじゃろうか……」
「その為に参りました」シロの手を取り、曲空。
――深蒼の祠。
「スピネル様、ありがとうございました。
呼び掛けて貰おうと思い、祖父を連れて参りましたので交替します。
隣室でお休みください」
「兄上……本当に、兄上じゃ……」
「そうですか。でしたら、お言葉に甘えます」
(サクラ、スピネル様を頼んだよ)(うん)
アオはアサギに光を当て始めた。
「しかし……あまり変わっておらんのぅ……」
「時空の間に閉じ込められておりました。
その為だと思います」
「そうか……
兄上、あれから八百年も経ちました。
兄上がいなくなり、代わりに私が即位し、姉上が亡くなり、ムラサキが即位しました。
今は、私の子供達が統治しております。
兄上、早くお戻りください。
未熟な息子達に、政の何たるかをお教えください――」
キンが来た。
「アオ、ここは、私とハクに任せて欲しい。
サクラと二人、すべき事が有るのだろう?」
「ありがとうございます。では、お願いします」
(サクラ、鏡を片付けようと思うんだけど、一緒に行ってくれるかい?)
(もっちろ~ん♪
こっち、ハク兄が来てくれた~♪)
♯♯ 地下魔界 ♯♯
アオとサクラは鏡の部屋に戻り、一枚一枚 確かめ始めた。
「アオ兄、この鏡……誰かの視線を感じるんだ」
「うん……確かに、どこかに繋がっていて、誰かがこっちを見ているね」
掌を当てる。
サクラも掌を当てた。「移動用じゃないね」
「他の移動鏡で繋げる事が出来るのかな?」
「あ、さっき『鏡なら』って言ってたヒト~」
一枚 光った。
「キミは?」
【迸案鏡と申します】
「この向こうって鏡だよね? 行ける?」
【はい。お繋ぎ致します】
「ここどこ? ――って、あれれ!?」「ん?」
「志乃さんだ~♪」「ああ、姫の――」「ん♪」
「こんにちは~♪」鏡の向こうに声を掛けた。
『へっ!? さっさっさっ――』わたわたっ!
「鏡が繋がっているだけです。
驚かせて、すみません」アオも声を掛けた。
「見えてるんだよねぇ?」手を振る。
『あっ、はいっ!』声 裏返る。
「この鏡は、前々からお城にあった物ですか?」
『いえ。
先日、仁佳の国より賜った物でございますが……』
(監視用だったのかもしれないね)(そっか~)
「視線など感じた事はありませんか?」
『はい……腰元達の部屋の姿見として置いたのでございますが、見られている気がすると申しますので、先程、広間に飾りましてございます』
「それで、ずっとこっち見てたんだ~」
サクラが対の鏡を持って、迸案鏡をくぐった。
「桜丸様っ!? 鏡からっ!?」
「これ、この鏡の対なんだ♪ あげる♪」
並べて置くと、自然と覗き込む形になり――
「こちらの鏡にも桜丸様が……」ぱちくり。
サクラが少し離れて、手を振った。
「まあっ! しかも左右が!?」
「近くだからかなぁ? ハッキリ見えるね~♪
じゃあ『カラクリ鏡』ってことでっ♪」
(アオ兄、聞こえる?)
(うん、迸案鏡から聞こえているよ)
(じゃ、くぐれるかなぁ?)
(サクラ、掴んで)鏡から手が出た。
「ひゃあっ!」
「驚かせて、すみませんっ!」顔も出した。
「あ……青右衛門様……」
「別の鏡で繋いでいるんです。
今後は、こんな事ありませんので御心配無く」
「お客人ですかな? 志乃殿」家老が来た。
中途半端に鏡から出ているアオとサクラが振り返り、目が合った。
「のわわっ!?」腰抜かす。
「志乃さん、説明よろしく~♪」きゃははっ♪
二人は鏡の向こうに行ってしまった。
「しっかりなされよ、御家老様。
竜の皆様の『カラクリ鏡』でございますよ」
「この向こうは……?」
「それは伺ってはおりませぬが、もう出入りは出来ぬようでございますよ。
ただ――」一枚の前に立つ。
「ほお……二枚共に姿が……」
「こうして楽しむ鏡だそうでございますよ」
「ならば……」もう一枚の前に立つ。
各々、相手側の鏡に映った。
「写っているのではなさそうですな」
「然様でございますね。左右が……」
「ならば――」一枚 持って、襖の向こうへ。
『離れても見えますな』そのまま歩いて行く。
「声も聞こえておりますれば」
『然様ですな。あ、殿』『何をしておる?』
『仁佳よりの賜物の鏡で御座いまするが――』
志乃側の鏡に、殿が映る。
『儂が志乃になっておるではないか!』
「いえ、それは――」『貸せっ!』『殿っ!?』
手が迫り、暗くなった。
袖で拭いているらしい。
『殿、こちらへ――』団体さんの足音が近付く。
「おお、志乃」鏡を拭くのを止めた。
「儂が、そちらに!?」
「カラクリ鏡にございます」
「この鏡は確か……仁佳からの賜物……」
「先程、申し上げましたが」ぼそっ
「その対なる鏡を、青右衛門様と桜丸様がお持ちくださいましてございます」
「竜の方々ならば、さもありなんじゃな。
儂が貰ぅておこう」二枚共、持って行った。
こうして、魔王作・監視用の鏡は、中の国で客人を楽しませるカラクリ鏡として、新たに活きる道を得たのだった。
「これ なんだろ?」拾い上げる。
【先程お持ちになられた鏡の一部です】
「これが取れちゃってたから、ちゃんと見えなかったの?」
【その通りです】
「じゃ、付けるから、また繋いで~
あれ? 違う部屋だ。だれか、いる……」
「背中だね。着物が上等だから、殿様かもね」
「ふ~ん……こんにちは~♪」顔を出す。
「おおっ!?
そのような事も出来るのですかな?」
「これは特別だよ」にこっ「ちょっと修理♪」
カチャカチャ「失礼しました~」引っ込んだ。
「ほう、この飾りを付けに――
細やかなるお気遣い、誠に忝ない」
♯♯ 赤虎工房 ♯♯
夕刻、ワカナは妃修行を終え、工房に帰った。
しかし、作業場にアカの姿は無く――
コトッ……カタカタッ……
暗室から物音が聞こえた。
扉を叩き「アカ?」覗いてみた。
「ワカナ、どうした?」ぽふっ
背後から掌が肩に乗った。
「ねぇ、アカ……
あの鏡は何? 今度は何を作るの?」
恍恒大鏡の周りに、たくさんの鏡が有った。
「知らぬ」鏡に近寄る。ワカナも。
「鏡の名前? それと、使い方なのかしら?」
全てに小さな紙が貼られていた。
(この鏡は何だ?)
(アカ兄が気づいた~♪)
(魔王作の鏡達だよ。
暫く預かって欲しいんだ。
呪は浄化したけど、魔王や配下が、まだ使えるかもしれないから、蔵には置けないんだよ)
(移動用のには、相殺は、かけてあるよ~)
(うむ。置いておけ)(ありがと♪)
「安全を確かめる。近寄るな」
ワカナの手を引いて、庇うように肩を抱き、暗室を出た。
「どうした?」「何でもないっ!」真っ赤!
「友に紹介する。こちらだ」
そのまま居間へ向かった。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
「アオ兄、竜宝と魔宝の鏡は、どぉするの?」
「星輝の祠で浄化して貰ってから使おう」
「深蒼の祠じゃないの?」
「いっぱいだからね。
闇を浄化するんだから、光の祠にも浄化竜宝は揃っていると思うよ」
「その後は、道 探しに行くの?」
「鏡達から情報を貰ったからね。
行ってみるよ」
「アオ兄も、もらったんだ~」
「やっぱりサクラも、なんだね」にこっ♪
「もっちろ~ん♪」にゃは♪
桜「姫~♪ 俺、成人したら、
なんて名前になるの?」
姫「桜左衛門じゃ♪」
桜「それって、なんだか~
背中に桜吹雪があるヒトみたいだねっ♪」
青「それは、遠山左衛門尉様だよ。
それより、俺のは、どこかの世界の
耳を鼠に噛られた猫型の――」
桜「あ♪ ドラえ――」
姫「アオ、サクラ。
まさか文句が有るのかのぅ?」
桜「いやっ! ないないっ!」(せーのっ!)
姫「曲空しよぅとも追えるのじゃぞっ!」
黒「あれ? 姫~、どこ行ったんだ?
修行の続きしねぇのか~?」




