闇拠点14-鏡の中
魔王は何をしているのやら……
♯♯ 地下魔界 ♯♯
アサギとスピネルを深蒼の祠に預け、アオとサクラは鏡の部屋に戻った。
「サクラ、ここで鏡を確かめながら待っていてくれるかい?」
「この鏡に入るんだね?」
「俺は二人を連れて行けるし、引き出す方が、強い力が必要だからね」
「あんまり遠くに行っちゃダメなんだよぉ」
「解っているよ。頼んだよ、サクラ」
アオは光を纏い、両手を鏡に突き、鏡から術を聞き出し、唱え始めた。
鏡に入って行くアオに、サクラは光の紐を巻き付けた。
(念のためだからね)(うん。ありがとう)
アオは、どこまで見えているのかも分からない灰色の世界を進んでいた。
(違和感は、まだまだ先だぞ。
あまり遠くには行けない。どうするのだ?)
(ここまで離れれば、鏡には影響しないかな……
吸着してみようと思うんだ。
ルリ、闇障をお願い)
ルリが発動した闇障に、アオが光を注ぎ込み、増大させた。
闇の球が膨れ上がると、アオも闇障を発動し、それを圧縮し、小さく纏めた。
(繰り返して、大きな引力を生むんだ)
三度目に纏めて、小さな球にした時、周りに歪みが生じた。
(何かが来るぞ!)【闇に覆われてるわ!】
(捕まえるから、ルリは、この球を支えて。
スミレは浄化して――来たっ!)
アオが掴み、スミレが浄化する。
(背後には、闇の球を影響させぬ。
後ろに置け!)
ルリが、背後を闇の牆壁で囲んだ。
次々掴んでは浄化を繰り返す。
(もう来ないのかな……?)
可能な限り遠くまで、辺りの気を探る。
【少なくとも、生きている方はいないわ】
(…………)
【何で返事してくれないのっ!】
(念の為に探っているから、静かにしてね)
【信用してくれないの? 神なのに~】
(光も闇も無い気を探した?)
【あ……】
(天人も魔人も、その可能性が有るんだからね)
【何も無い人は?】
(何の為に、魔王が、そんな人を連れて来て、態々ここに放り込むんだい?)
【あ……】
(一応、無属性も探してはいるけどね)
【兄様の意地悪ぅ~】(何か言った?)
【何も言ってないっ】(そう?)
ルリは必死で笑いを堪えていた。
(もう居ないみたいだ。ルリ、解除しよう)
二人は慎重に闇の球を解除し、牆壁も解除した。
アオは巻き付いているサクラの紐を解き、複数本に分割して、うち一本は再度、自身に巻き付けた。
そして、横たえている ひとりに、分けた一本を巻き付けた。
(サクラ、この紐を引いて。
魔人に巻き付けたから)
(うん)スッと、紐を巻き付けた魔人が消えた。
(流石、サクラだな)(そうだね)
(もぉいいよ~)
アオは次の魔人に巻き付け、引いて貰った。
そうして、横たえていた人々をサクラに回収してもらい――
(この方が最後だよ)
(じゃ、アオ兄♪
手を繋いで~、せ~のっ♪)
――鏡の部屋に出た。
横たえられた人々には、サクラが光の球を被せていた。
「これ、移動用の鏡だよ。
深蒼の祠に繋いでるんだ」
「流石、サクラだな……」
「ありがと♪ ルリ姉♪」るんるん♪
「なら、先に運べるくらいに浄化しないとね」
スミレがアオから出て、浄化を始めた。
「神様が浄化してくれるんなら~」
サクラが鏡をくぐった。
(アオ兄、浄化したヒト送って~♪)
(解った。待ってて)
アオとルリも浄化し始めた。
(サクラ、そっちはいいかい?)
(は~い♪ 集まったよ~♪)
深蒼の祠には、神竜や神達が集まっていた。
「皆様、重篤な方々が運び込まれますので、どうかよろしくお願い致します」
鏡から引き出しているサクラの横で、ムーントが神達に声を掛け、頭を下げた。
「サクラ様、私でも、引き出す事は可能でしょうか?」
「ムーントさん、ありがと♪
それじゃ、お願いしま~す」ぺこり♪
サクラも魔界側に行き、浄化を始めた。
(アオ、あの鏡の向こうは、仕置き部屋か?)
(たぶんね。
魔王に叛いたとか、失態があったとか、そんな事で放り込んで、じわりじわりと苦しめながら、命を蝕む場所なんじゃないだろうか……)
(酷い事をするのだな……)
【伯父上様は、なぜ そのような所に……】
(いつから影を作るようになったのかも分からないからね……
影にしていて何かがあったのか、それとも、依代にしようと試みたけれど出来なかったのか……)
(アオの体も放り込まれたかもしれぬのだな)
(そうかもね……)
(奪還出来て本当に良かった……)
(ありがとう、ルリ。ありがとう、サクラ)
【私が間に合わなかったから……】
(言いっこなしだよ、スミレ)(そうだよ)
話しているうちに、残るは ひとりになった。
(浄化おっしま~い♪)
サクラが抱えて、鏡をくぐった。
「スミレ、まだ何か気になる?」
【そうじゃないけど……】
「どうしたの?」
【私……アオの役に立ててる?】
「もちろんだよ。
何を言い出すのかと思ったら……
ずっと待っていたんだよ。俺もサクラも」
【ホントに?】
「今は戦っていないから、神としての力を出しきって貰えないけど、これから嫌と言う程、頼りにするからね」
【うんっ♪ 任せといて♪】
「戻るよ。入って」【うん♪】
アオとサクラは、アサギとスピネルの様子を見に行った。
スピネルは、すっかり元気になり、アサギに回復の光を当てていた。
【まだ寝てなきゃ駄目よ!
神竜も神も大勢 来てるんだから、貴方が無理する必要は無いわ!】
「いや、もう大丈夫だよ。ありがとう」
(スミレ、役に立ちたい思いは、きっと同じだよ)
「それではスピネル様、少し離れますので、よろしくお願い致します」
(サクラ、隣の部屋から、スピネル様に回復を当ててくれるかい?)
(どこか行くの?)
(王と大婆様に話さないといけないからね)
(父上と会うの!? だいじょぶなの!?)
(大丈夫だよ。ここの事は頼んだよ)
(うん……)
♯♯ 天竜王城 ♯♯
ギンとコハクは各々の執務室に居た。
ギンの執務室の扉を叩く。
(スミレ、コハク王様を呼んでくれるかい?)
ギンの返事を待つ間に、そう頼み、扉を開けた。
「なんだアオ、どうしたんだ?」
コハクも来た。「何があったんだ?」
「単刀直入に申します。
魔界でアサギ様を発見しました」
「御存命であったのか!?」王達。
「まだ意識は戻られておりませんが、御命は御無事です。
即位より千年経過しておりませんので、今後の事を検討する必要があるのではないかと思い、先に、こちらに参りました」
(スミレ、こっちに残ってくれるかい?)
【王妃として?】
(それを王子に聞くの?)
【あ……】
(姿を見せて、話し合いに加わってもいいし、消したまま聞いていてもいいと思うよ。
それじゃ、長老の山に行くからね)
「では、大婆様に報告しなければなりませんので、失礼致します」曲空。
♯♯ 長老の山 ♯♯
アオの話を聞いた大婆様は、大層 喜んだ後、暫し考え、口を開いた。
「まずは、アサギの意識が戻るかどうかじゃな。
アサギが、どうしたいと言うかにも依るしのぅ。
全ては、これからじゃな。
アオ、医師としても、よろしく頼むぞ」
「はい。全力を尽くします」
「シロには?」
「これから一緒に、深蒼の祠に向かおうと思っております」
うんうん。「そちらも頼んだぞ」
「はい」礼。
瑠「アオ、ひとつ頼みが有るのだが……」
青「どうしたの? ルリ。
遠慮なんかしないでよ」
瑠「ふむ。では……
複製の服なのだが……」
青「うん」
瑠「確かに以前よりは動けるが、
もっと動き易さを重視してくれぬか?」
青「どんなのがいいの?」
瑠「ヒラヒラしていなければ構わない」
青「うん♪ わかったよ♪」
瑠「何を企んでいるっ!?」
青「なんにも~♪」
瑠「企んでいるだろ!」
青「ちゃんと考えるから~♪」
瑠「いや、私に選ばせろ!」
青「それはダメ~」
瑠「このアオ……皆に見せてやりたいものだな」
青「それもダメ~」
瑠「まるでサクラだな」
青「そぉ?」
瑠「とにかく!
服は私が選ぶからなっ!」
青「させないよ♪」
瑠「戦う事を考えろ」
青「考えているからね♪」




