表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
254/429

闇拠点9-妻と妹

 前回まで:魔王について判った事を

      兄弟に報せました。


 深夜、アオは屋敷の倉で酒を選び、その瓶に浄化の光を込めた。

そして、曲空した先の卓に、その酒瓶を置こうとしていた。


「なんだ、アオか……どうした?」

ギンが目を覚ました。


「起こしてしまって、すみません。

これから地下魔界に行くので、その前に置いて行こうと思ったんです」

酒瓶を掲げた手から浄化を闇で覆って放ち、ギンの内に入る瞬間、闇を解除した。


「夜中だろ? 今からなのか?」起き上がる。


「はい、魔王が動き出す前に、しなければならない事が、たくさん有るんです」


「それは?」


「千年竜喜です。それでは――」


「なぁ、あの場では言えなくても、今なら教えてくれるよな?

スミレと何を話してたんだ?」


「お伝えしたままですよ」


「神になると性格が変わるのか?」


「おそらく。多少は……」


「それなら言ってるだろ」


ため息ひとつ。

「『本っ当にギンの方がオネショ王子だったんですもの♪』と仰ってました」

言い方、真似る。


「その言い方……まんまだな」


「それでは、お休みの所、申し訳――」


「だけじゃないだろ?」


もう一度ため息。

「本当に聞きたいのですか?

あの場では……皆が居たから、よりも、自分に置き換えてしまって……

だから言えなかったんですよ」


「なら、フッ切るには丁度いい。教えろ」


ため息、三つ目。

「『スミレ様にとって父上は?』と尋ねました」


「ふむ」


「……弟だと……」


「……そうか……」

自嘲の笑いなのか、泣きなのか、ごく微かな声が、顔を押さえ項垂れたギンから漏れ聞こえた。


「俺は……ルリに、そう言われる事を、何より恐れていましたから……だから……」


「ありがとう、アオ」想いの詰まった息を吐く。

「……すまなかったな」


「いえ……」

アオは、そっと治癒の光でギンを包み、頭を下げて、曲空した。



♯♯♯



【――って、分かっても『弟』なのよね~

ルリ、アオの事は、そう思わなかったの?】


(あまりに年齢差が有り過ぎて『弟』とも思えず、生意気でマセたガキだな、と――すみません……)


【アオって、その通りよね~♪】うふふっ♪


【それで、いつから好きになったの?】


(えっ……いや、それは……自分でも、よく分からなくて……)


【あ……それは、そうよね。

私も、いつからコハクが『兄』じゃなくなったのか、よく分からないわ】

うんうん


【コハクは、普段は陽だまりみたいなんだけど、時々『きゅん』って、させてくれるの♪


それが、ギンには無かったのよね~

だから『弟』から脱皮しなかったのよ。


アオは『きゅん』って、させてくれたんでしょ?】


(え……あ……まぁ……はい)真っ赤!


【ホント、おマセさんなんだからぁ♪】


(あの……スミレ様は――)


【スミレでいいわよぉ】


(いえ、無理ですから、ご容赦ください。

スミレ様はアオ様の――)


【伯母なんだけど~

成長を見守ってきた訳ではないし、そんな自覚なんて持てないわ。

私が死んだから、ギンが結婚して、王子達が生まれたの。


私、父が神竜だなんて知らなくて……

私の魂を父が保護してくれて、初めて知ったの。


父は、私の魂も生まれ直さないと、神竜の魂としての永遠が得られない事を知らなくて……知った時には、サクラの卵しか残ってなかったのよ。

だから私は、絆竜のアオではなくて、サクラと一緒に生まれ直したの。

ヒスイも一緒にね。


その時からアオが成人するまで、私の竜としての記憶は封印されてたの。

私とヒスイとサクラは、ひとつの卵から生まれた『三つ子』だと思ってたわ。


私とヒスイの姿が見えてたのは、アオとサクラだけだったんだけどね。

ずっとそうだったから、不思議とも思ってなくて……

天界と神界を行ったり来たりしてたけど、それも、学校にでも通ってる感覚で……

そうして育ったから、記憶が戻るまで『アオ兄様』って呼んでたわ。


だから、伯母って――無理なのよね~

アオも普段は『様』なんて付けないわ】


(ルリ、呼んだかい?

あれ? スミレ、ここに居たのか)


【ルリと話したかったの♪】


(じゃあ、ゆっくりしてて)


(アオ、闇障が必要なのか?)


(いや、大丈夫だよ。

ルリも、ゆっくりしててね)気配が消えた。


【ねっ♪ 兄と妹でしょ♪】


(確かに……)


【同じなのよね……

抜けないわよ。ギンには悪いけど……】


(スミレ様。

どうしようもない事は、気にしてはならないと思います。

ギン王様も、乗り越えようとなさっていらっしゃいますし)


【そうね~】


(あっ、あの……偉そうに、すみませんっ!)


【どうして謝ってるの?】うふふっ♪


【ありがとう、ルリ姉様♪】


(やっ……おやめくださいっ!

あのっ、それっ!)


ルリが、わたわたして、スミレが一層 楽しげに笑った。


――が、二人に緊張が走った。


(アオ!)  【アオ!】

(融合しろ!)【後ろは任せて!】


眼前の鏡から、幻影のように透けて揺らめく魔物が溢れ出で、背後の鏡からは闇黒竜が現れた。


【光輝神雷!】

闇黒竜が降って来た輝きに包まれ、神竜に戻った。


前方の魔物は、ルリが掌握で掴み、それをアオが光で消し去り、瞬く間に戦闘は終了した。


(ルリ、スミレ、ありがとう。

ゆっくりさせてあげられなくて、すまない)


(ちゃんと声をかけろ)【そうよ~】


 (ルリ)(スミレ)が相乗効果で強さを増した……


そう感じてしまったアオだった。


(ここは?)


(魔王の鏡部屋みたいだ。

用途不明な鏡だらけなんだよ)


【ここ、地下魔界なの!?】


(そうだけど――あ……)(アオ、どうした?)

(神は入れない筈なんだ)(地下魔界の境界!)

(そう。何故――)


【アオの中に入っていればいいの?】


(現に入っているんだから、そうなんだろうね)

(闇障のせいではないのか?)(そうかもね)


【カルサイ様なら、お分かりになるかしら……】


(後で確かめてくれるかい?

今は迂闊に俺から出たりせずに――スミレ!?)


【大丈夫よ♪ 出ても平気だわ♪

あ……とにかく呪を探すわねっ♪】

楽しそうに鏡の間を縫って歩き回っている。


(出たとたん滅されたら、どうするんだ!!)


【そんなに怒らないでよぉ、兄様~

平気なんだから、いいじゃない♪】


(あのなぁ……)(アオ、私が闇で包んでおく)

(頼んだよ、ルリ)(任せろ)ふふっ♪



 スミレが光で、ルリが闇障で、呪を探し始めた。


(スミレ様、これは?)【呪だわ】


スミレが光を当て、闇黒色の滲みを浮かび上がらせた。

【掴めるかしら?】(お任せください)


スミレが術を唱え始めた。


ルリが掌握で捕らえると、もがく小さな闇黒竜に雷が突き刺さり、塵となって消えていった。


アオは魔物が現れたら動こうと決め、楽しそうな二人に暖かい眼差しを向けた。


【アオ、ひと通り見たわよ】


(ありがとう、スミレ、ルリ)

アオは掌を翳しながら、鏡の間を歩いた。


(これかな? 二人は少し待ってて)

(君は話せるかい?)


【貴方様は……竜宝の王なのですね?】


(うん、させてもらってるよ)やっぱり照れる。


【私は迸常鏡(ヘイジョウキョウ)

『移動鏡の元祖』と呼ばれております】


(どう使えば、どこに行けるの?)


【私が示します扉や鏡のうち、ご希望の場所にお繋ぎ致します】


鏡の中に扉が映し出された。

次々と扉や鏡が現れる。


(あ、ここは、老竜の神殿だね?)


【はい】


(じゃあ、魔竜王城もあるのかい?)


【御座います】


(あっ、サクラが置いた鏡!

この鏡にお願いします)


【畏まりまして御座います】


「神竜様、天界に参りましょう」


「あ……はい」


まだ状況が呑み込めていない神竜を連れて、迸常鏡をくぐり、魔竜王城の双掌鏡に出、同じ鏡をもう一度くぐり、天竜王城の双掌鏡に出た。


そこから曲空して深蒼の祠へ――


「こんな時間に申し訳ありません。

ムーント様、こちらの方をお願い致します」


「アオ様、ありがとうございます。

少しはお休みになってくださいね」


(そうだぞ、アオ。少しは休め)


(うん、屋敷に戻るよ)


【あら、珍しく素直ね♪】


(珍しく、って……)(その通りだろ?)

(あのなぁ……)(睨んでいないで戻れ)


【私、コハクの所に行くわ♪

また明日ねっ♪】


(行ってしまわれたな)(ルリ、疲れてない?)

(可愛い神様だな)(そうだね……ありがとう)

(どうしてアオが礼を?)(妹だから、かな?)

(本当に、互いを兄・妹だと思っているのだな)

(うん、妹だね。伯母だとは……どうしてもね)

(良い関係だな)(そう? 変な関係だけどね)



(ねぇ、ルリ……)


 すんなり受け入れてくれたのは

 嬉しいんだけど……

 妬いては、くれないのかい?


(寝たのかな?

おやすみ。今日も、ありがとう)

アオは微笑み、ルリの髪を撫でた。




 心配するな。

 私の知らないアオをたくさん知っている。

 それだけで、十分――




 ――妬いている。





『千年竜喜』という酒は、味も珍しさも

最上級なんです。


ハクのように酒好きな竜にとって、

竜喜は放ってはおけない酒なので、

千年保管するのは至難の技なんです。



白「アオ♪ 竜喜くれっ♪」


青「どうしたんですか? こんな夜中に」


白「匂いだよ♪ 持ってんだろ?」


青「知りませんよ」


白「出せよ~♪」うりうり♪


青「おやすみなさい!」


白「出すまで帰らねぇからなっ♪」


青「そうですか……」キラン


白「おいっ! 何だよ、コレ!?」


青「相殺です。それと――」


白「え!? ……ぐぅ……」


青「治癒の眠りですよ。ハク兄さん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ