闇拠点2-負の感情と闇
地図や人物紹介、言葉の説明などは、
『ぱられる三界奇譚』の『はじめに』の方に、
まだ少しですが、書き加えています。
こちらには、各章の終わりにと考えていますが、
とりあえず、そちらをご参照ください。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
アオ、ルリ、サクラは魔王の隠し部屋で、魔竜の前王と王子の亡骸の浄化を急いでいた。
「あ、サクラ♪ 探したのよ~」
今だけは来て欲しくない者の声がした。
「ラン……なんで、こんな所に……」立ち尽くす。
アオは隅に置いていた幕布を広げ、寝台を覆うべく放った。
(サクラ、そっち引っ張って!)
しかし、サクラは動けず、虹藍が入って来た。
アオは幕布を引く為、サクラの傍に曲空したが――
「えっ……その個紋……見せてください!」
「これは複製体です!
浄化中ですから近寄らないで!」
「複製? ……父の?」
「ここに御遺体が有る筈がありません。
そうですよね?
ここは魔王の実験室のようです。
魔王は依代を得る為に様々な試みをしていたようです」
(サクラ、しっかりしろ! 乗り切るんだ!)
(……赦せない……)
(それは後にしろ!)サクラから闇が!?
(アオ、闇の力が反応しているぞ!)
「今……布の中が光ったわ……」
「危険です! お逃げください!」
アオは虹藍を庇いながら通路に向かった。
(サクラ! 後ろだ!)
幕布が持ち上がる。
中の手が幕布を除け、上体を起こした。
「お兄様!?」
「複製体です! お逃げください!
護衛兵! 女王陛下を安全な場所へ!」
引き渡し、部屋に戻り、牆壁で穴を塞いだ。
(サクラ! 闇に呑まれるな!)
アオは亡骸とサクラの間に割って入り、サクラを闇に染めようとする力の元を掌握で掴み出そうとした。
ルリはサクラから流れ込む闇を、アオの光明で打ち消していた。
元から断たねば、アオの浄化が間に合わぬ。
(アオ、そっちは任せたぞ!)「サクラ!」
(えっ? ルリ、その声――)(似ているか?)
(虹藍様が戻って来たのかと思ったよ)(よし)
「サクラ! 目を覚まして!
私は大丈夫よ。
ちゃんと死から立ち直ってるから!」
「ラン……」サクラが、ゆっくり顔を上げた。
虹藍を探して視線を漂わせる。
「でも……俺、赦せないんだ……」
「その気持ちだけで十分よ。
ありがとう、サクラ」
駄目か……侵食が止まらぬ。
闇障を持つサクラをも蝕むとは……
(アオ、骨折くらい治せるな?)
(もちろんだが、何をする気だ?)
「だから、しっかりしてっ!!」
ガッッ!! ドッ!! ゴグシャッ!!
アオが一体の内から膨れ上がった闇の力を掴み出した時、尾に激痛が走り、サクラが壁を突き破った。
「った~~っ! なに? これ?」
瓦礫を掻き分けて出、頭を抱える。
(アオ、すまぬっ!)
ルリはアオに謝りながら振り返り、空いている手で、もう一体の闇の力を掴んだ。
サクラは慌てて立ち上がると、光の球を、アオが両手に持っている闇の力に被せた。
そして、もうひとつ大きくして、自分がその中に入った。
「ルリ姉、ごめんよぉ」うるうるうる~
「いつもは冷静なのにな」治癒、始める。
「闇に魅入られてしまっていたね。
ルリ、一体 何をしたんだ?」
「お前ら兄弟が闇に堕ちそうになったら、頬をブン殴れと桜華様から伝授されたのだ」
「いつ、そんな……」恐ろしい事を……
「お茶会で、皆 集まっていた時だ。
女性全員に、一斉に伝わったようだ」
「闇には気をつけよう」「うん」頷き合う。
「アオ兄、それ、コレに入れて」器を出す。
「浄禍器か」光の球ごと入れた。
「コイツは、すっごく小さな負の感情を増幅して、闇に染めようとするんだね……」
「しかも、その力を吸収して、自らも強大になるようだ。
おかげで見えたけどね」
「御遺体……複製って事にしたんだね。
ランは……複製でも見たいんだろうか……」
「本人に確かめたらどうだ?」
(ルリ、もう少し優しくね)(あ? ああ……)
「うん……」(ラン、大丈夫?)
(大丈夫よ。サクラこそ大丈夫なの?)
(うん、俺は大丈夫だよ。
ラン……複製でも見たいの? 怖くない?)
(本当に、お父様とお兄様だったら怖くないし、会いたいけど……複製なのよね?
あ、また動いたりしない?)
(もう動かないよ。闇の力は取り除いたから。
あと少し浄化したら、色も元通りになるよ)
(そう……行ってもいい?)
(いいよ)「アオ兄、牆壁 解除して?」
サクラは虹藍を迎えに行った。
アオは亡骸を寝台に横たえ、二人を待った。
サクラと虹藍は、静かに入って来た。
「本当に、そっくりね……
色も……さっきは黒かったのに……
触ってもいい?」
サクラが頷いた。
(アオ兄、だいじょぶだよ。
ランの属性は闇だから。
魔王の闇とは別物だけどね)
(属性が闇で、天性が光明なんだね。
サクラと、ちょうど逆だね)(良い相性だな)
(アオ兄とルリ姉だって、そぉでしょっ)真っ赤!
(火と水か?)(光明と闇障もね♪)
(……そうか)(うん。いい相性♪)
「魔王は、どんな方法で複製を作るのかしら……」
虹藍が呟いた。
「術とかは知らない。
でも禁じ手には違いないんだ。
核となる物に、因子を植え付けて作るんだよ」
「この複製には、父の因子が込められてるの?
少しは父なのね……
これは……これから、どうするの?」
「きちんと浄化して、調べたら……ラン、どうしたい?」
「父と兄が少しでも含まれているのなら、それぞれの傍に埋葬したいわ」
「うん、そうしよう。アオ兄、いいよね?」
「ああ、そうしよう」
亡骸は、アオが運んで行った。
「私……紫紅お兄様を初めて見たの……
あ、肖像画は、毎日 見てるわ」
「同腹ではないんだね?」
「母が違うの。
兄と前王妃、そして二人の姉は、一緒にいる所を襲われ、亡くなったと聞いたわ。
伯父一家も亡くなっていたから、父は私の母を迎えて――」
サクラはランを抱きしめた。
「ごめん。辛い事なんて話さなくていいから」
「ありがとう、サクラ。
平気でもないけど、大丈夫よ」にこっ
「そう……」でも、笑顔がツラそうだよ……
「そんな、心配そうな顔しないで。
私は、もう大丈夫。
だってサクラが居てくださるんだもの」
「ラン……」治癒で包む。
「ありがとう、サクラ……」
サクラは虹藍の髪を優しく撫でた。
虹藍は目を閉じ、サクラの胸に頬を寄せた。
暫くそうしていたが、
「サクラ、私は、もう幸せになったわ」
顔を上げ、サクラを見詰めて、何かをふっ切るように微笑んだ。
「あ、それにねっ♪
たくさん お兄様とお姉様ができたから今は、とってもとっても幸せよ♪
ギン王様も毎日いらしてくださるのよ♪」
「毎日!?」
「ええ、まだ鏡を置いて数日だけどね♪
昨日なんて、飛んでいた魔物を退治してくださったのよ!
『父なのだから当然だ』って♪」
「そんな事があったの!?
あ、それで、今日も約束してるの?」
「いいえ、まだよ」
「これからの予定は?
あ……そういえば、なんで ここに来たの?」
「午後の予定が変わって、空いたからサクラに――
何でもないわ! 視察よ! 視察っ!」
「俺に、なぁに?」ぱちくり。
「何でもないからっ!」
「へ??? ん~、まぁいっか。
何も無いなら、天界に行く?」
「サクラは、いいの? 忙しくない?」
「ランの時間が空いてる方が珍しいよ。
行こっ♪」
「うん♪」
鏡を覗く。「工房だ。ここから行こう」手を繋ぐ。
「アカ兄、お邪魔しま~す」「こんにちは♪」
アカが無言で何かを差し出した。
「ありがと♪
絵付は、今朝、キン兄がしてくれたから、も少し待っててね~」
「それは?」「昇華器って竜宝♪」
サクラは、それを水筒に取り付けた。
水筒の口を外に向け、栓を抜くと、水は勢いよく飛んでいった。
「よく飛ぶのね♪」「でしょ♪」
ワカナが入って来た。「サクラ様、これも」
「ワカナさん、ありがと♪」組み立てる。
「水鉄砲?」
「そう。中に増幅鏡も入ってるから、無限に放てるんだ。
聖輝煌水を入れれば、姫の武器になるんだよ」
「聖水で戦えるのね……」
「まさか、って感じでしょ?
攻め込まれた時には、壺爆弾で応戦したんだ。
中身は、聖輝水と、治癒と浄化の光♪」
「それなら魔人にも無害ね♪」
「そうだ! 後で魔竜王国にも配備しよう」
「うんっ♪」
青「クロ、何をしているんだ?」
黒「見ての通りだよ……勉強だ……」
青「どうして相殺なんかに閉じ込められて
いるんだ? ヤル気になってたろ?」
黒「いや……凜から逃げようとして……」
青「納得したよ。で、凜は?」
黒「姫と一緒に、どっか行った」
青「そう……頑張れよ」
黒「アオ、出してくれよぉ」
青「逃げても無駄だからね。
全部 解くしかないだろ」
黒「う……だよなぁ……」
青「相変わらず、答えだけ埋まっているんだな」
黒「解けねぇけどな。浮かぶんだ。
ってか、この力 鍛えたの、アオじゃねぇか」
青「だったな。うん、全部 合っているよ」
黒「なぁ、アオ――って!
どこ行くんだよっ!」
青「凜と姫が――ほら」曲空。
黒「ゲッ……戻って来やがった……」




