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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
244/429

伽虞禰12-心の距離

 前回まで:伽虞禰の暴動は未然に防げました。


「終わりましたね……」


「はい。お庭の皆さん、笑っておりますね。

あの笑顔は、フジ様が齎したので御座いますよ。

あっ! フジ様、お体の方は――」


「大丈夫ですよ。

私には、私の戦い方が有る、という事もよく解りました。

それでも……やはり、共に戦いたいのです」


「フジ様……」


「ですから、天界に戻って、しっかり治します。

次に魔界に行くまでに、必ず治します!」


「はいっ♪」



「お~い、フジ~」

神竜を連れて、クロが飛んで来た。

「天界、行くぞ。フジも帰らねぇとな」


「でしたら、神竜様は私がお連れしますよ」


「いや、オレも行きたいんだ」

フジの手も掴んで曲空した。



♯♯♯



 神竜を深蒼の祠に預け、クロが祠の外でアオの気を探していると――


「クロ兄様、悩み事ですか?」


「まだ帰ってなかったのか!?

リリスさんが心配するだろっ」


「心配……かけているとは思いますが、私はクロ兄様の事が心配なのです」


「オレ!? オレは大丈夫だよ!

何 言ってんだよぉ」


「姫様は、クロ兄様のお荷物にはなりたくなくて、頑張っているのです。

今も……将来をも……考えて」


「将来? 魔界での事か?」


「いえ、中の国を治める、その時の事ですよ。

御自分で、全て担うおつもりなのでは……?

そう、私は思うのです」


「オレは? 名前だけの殿になるのか?

オレが人じゃねぇからか?」


「そうではなく、天竜王族としても活動し続けられるように、ですよ」


「それって……」


「先日、治療に来たサクラに、姫様が付いて来られて、私の病室で将来について話していたのですよ。

その時は、私は夢物語的なものだと思っていましたが……

サクラも婿入りですから、二人は真剣に話していたのです。


サクラから婚約すると聞いて、その事に気付き、今朝、大婆様にお会いしました。

魔竜王国も二王制ですが、今は虹藍女王様のみ。

ですから、サクラは、いずれ王となるでしょう。


しかし、サクラは、二国の懸け橋として、天竜王族としても存在し続けたいと願い出たのです。

その願いをアオ兄様が支え、両国に働きかけているそうです。


それを聞いた姫様は、クロ兄様も同じだと……

ですから姫様は、クロ兄様にも、人界との懸け橋として、天竜王族としても存在し続けて欲しいのだと、大婆様と王に、直接 願い出たのです。

その将来の為に、姫様は、支え合える存在になりたいと頑張っているのですよ」


「話は解った。けど……」


「姫様が遠くに行ってしまったような寂しさを感じるのでしょう?」


「フジ……お前……」


「私も、妃になろうと努力して、日に日に、それらしくなっていくリリスに、そう感じていましたから……

私が、こんな事になっても、気丈に振る舞い、笑顔を絶やさず、時には毅然と……

でも……私は、そんなリリスに、寂しさを覚えてしまっていたのです」


「どうやって乗り越えたんだ?」


「アオ兄様が気付かせてくださいました。

リリスの想いや、私が成すべき事。

私には見えていなかった、いろいろな事を教えてくださって……


互いに、引き離されないよう成長し続け、目を向け合い、心の手を離さなければ、支え合えるので、寂しさなど無い、と」


「そっか……フジ、ありがとなっ。

オレも、引き離されねぇくらい努力する!」


フジが立ち上がり、

「では、屋敷に戻ります」微笑んだ。


「あ、そーだっ!

フジ、数学の問題集、持ってねぇか?」


「え? どうして今頃?」


「アオやサクラに言われても何ともねぇが、姫にまで言われると、さすがになぁ」


「では、屋敷まで一緒に」手を取り、曲空。



♯♯♯



「フジ様、こちらで御座います」


フジの執事長・魁蛇(カイダ)が、問題集だけでなく、教科書や参考書、フジが書いた帳面等々、一式が入った箱を持って来た。


「ありがとうございます」


魁蛇は恭しくお辞儀して去った。


「フジ、ここに通ってもいいか?」


「構いませんけど……」


「教えてくれ! 頼むっ!」拝む。


「クロ兄様……」苦笑。


「暫く養生するんだろ? なっ」また拝む。


「私で、よろしければ……」


「恩に着る!」


「この部屋をお使いください。

私は隣に居りますので、いつでもどうぞ」


「今夜、ここで勉強してもいいのか?」


「構いませんよ」


「ん? これ……中等? 高等のは?」ごそごそ


「そこから制覇してくださいね」


「お前まで~」ぱらぱらぱら……


「未使用の帳面です。こちらに置きますね。

それでは」隣室へ。




 フジは寝台に腰掛けた。

(リリス、起きていますか?)


(フジ、お帰りなさい♪)


(遅くなって、すみません)


(そんな事いいの。

フジが無事なら、それだけでいいの。

ね、行っていい?)


(え? 来ていたのですか?)


扉から軽い音がした。


駆け寄り、開ける。


(フジ♪)そっと抱きしめた。

(リリス……)抱きしめ返す。


寝台に並んで腰掛ける。


リリスが、たたんだ紙を差し出した。

(姫様からのお手紙なの。

クロ様が飛ばれてから思い出したって、サクラ様がお持ちくださって)


読んだフジが微笑む。

(天界でも読んで頂けたら、人の存在が身近になりますね♪)


リリスが頷く。

(だから嬉しくて、早く見せたかったの♪)


(サクラが知っているのなら、もう、兄様方もご存知でしょうか……)


(伝えてくださるそうよ)


(でしたら、早急に、こちらの言葉にしなければなりませんね)


(ありがとう、フジ)

(フジ兄、ちょっといい?)


(サクラ、原稿の件ですか?)


(お願いしてもいいの?)


(私に、書かせてください)


(今、持ってっていい?)


(はい)(リリス、サクラが来ます)


「お邪魔しま~す」卓に原稿を置いた。

「兄貴達みんな喜んでたよ~♪

でも無理しないでね、フジ兄」光を当てる。


「次に魔界に行くまでには治したいので、無理などしませんよ、サクラ」にこっ


「じゃあ、よろしくお願いしま~す♪

リリスさん、お邪魔しました~」曲空。



――した先は、隣の部屋。


(なぁに? クロ兄)


(教えてくれ!)拝む!


(いいよ~って、中等!?)


(ここ、何 書いてるんだ?

これだけだから、なっ)


(それはね~――――)



 こうしてサクラは、明け方までクロに教える事となってしまった。



(俺、眠~い)(解いてる間なら寝てていいぞ)

(そんな隙ないでしょっ!)(あっ、これは?)

(ほらぁ、またぁ~)(いや、これだけ、なっ)

(それで、どぉして答えだけ埋まってんのぉ?)

(カンで埋めてみた♪)(ふぅん)(ここは?)

(合ってるから、解かなくていいんじゃない?)

(サクラ、見捨てないでくれぇ)(おやすみ~)

(サクラ! なぁ、おい、サクラ?)(や~ん)

(なっ、ここだけだから)(アオ兄、助けて~)


(クロ、サクラは、かなり消耗しているんだ。

休ませてやってくれないか?)


(じゃ、アオ来てくれよぉ)(嫌だ)(断る)

(ルリさんまで、そんなぁ)(俺も眠いんだ)

(アオも消耗している。休ませてくれ。頼む)

(クロ、何時だと思ってるんだ?)(寅か?)

(分かってるんなら、お前も寝ろ)(え~っ)

(起きていたいのなら、自力で解いてくれよ)

(そんなぁ)(頑張れよ)


(なぁ……アオ……

姫は、オレの事……頼り甲斐の無いヤツだと思ってるのかなぁ……)


(お前……姫が、一生懸命、背伸びしている理由が分からないのか?)


(あれは……背伸びなのか?)


(そこすら見えていないのか……

クロと肩を並べようと、健気に頑張っているのに)


(オレと? オレなんかと並ぶ為に、背伸び?)


(人にとって竜は、とてつもない存在なんだ。

その竜と並びたいと思ったら、姫のように常人離れな運動能力を以てしても、必死で背伸びしなきゃならないんだよ)


(でもオレは、そんなたいした――)


(そうやって自分の力に蓋をしているから伸びないんだよ。

クロの力は大きいんだ。

お世辞や慰めなんかじゃなく、本当にね)


(皆、そう言うけど……)


(実感が無いよね?)(まぁ、な)


アオが現れた。

クロの額に掌を当て(神眼 発動して)(おぅ)


(何か見えたかい?)


(湖? 海? 凍ってるみたいな……)


(うん、具体的に見えるんだね。

それなら、どこかに少し、水面が見えないか?)



(ん~~……有った!

解けてる所が有る!)


(それが今、開いてる部分だよ。

因みに、俺のは――)


(あ……何か重なった! ちゃんと湖だ!)


(だから皆の力が大きいと、勘違いしてしまうんだよ。

今、開いてる大きさしか感じられないから。

でも全体を見ると、よく分かるだろ?)


(どうやったら全部 解けるんだ?)


(それはクロが見つけないと。

クロの力なんだからね。

でも、勝手に限界を決めてはいけない事が解れば、それだけでも解け始めていないか?)


(あ……ヒビ入って崩れた!

見やすくなったぞ♪)


(そうか……あとは頑張って――)ドサッ!


(え!? アオ!?)


(眠っただけだ。心配ない)


(ルリさん……すみませんっ!)


(構わぬ。連れて帰るからな)曲空。


(ありがとう!)


(それは、アオが起きたら言ってくれ)


(いや、ルリさんも、ありがとう)


(私は何もしていない。

言ってる暇が有るのなら、その広大な海を早く解かして、アオを助けて欲しい)


(うん……)


(ん? まさか……泣いているのか?)


(いや……)


(大きな力を持っているのだ。縮こまるな。

他との差を感じたなら、取り残されたなどと拗ねる無駄な時を、努力の時に変えて、必死で差を詰めればいい。


姫様は遠くになど行っていない。

常に傍にいたいから、懸命に努力しているだけだ。

そうでなければ、人が竜の力を使い熟すなど到底出来ぬ。

帰ってやれ。待っているぞ)


(え!? こんな時間に!?)


(空を見上げている)



 行ったか……世話の焼ける義弟だ。



アオが目覚めた時、ルリの寝顔は微笑んでいた。





凜「あれ? サクラ?」


桜「ん~……ここ……どこ?」


凜「寝ボケ曲空?」


桜「ん……甘いヤツね……とーぜんでしょ……」


凜「寝ちゃった……?」


桜「うん♪ ごちそぉさま~♪」


凜「いい夢……っぽいよね……」


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