伽虞禰10-待機
魔界組は、これで落ち着くかなぁ。
ということで、伽虞禰の方を進めます。
♯♯ 伽虞禰 老中屋敷 ♯♯
夕刻、蔵にクロが曲空して来た。
「動き、あったか?」「いや、まだじゃ」
「オッサン達は?」キョロキョロ
「馬車の中じゃ。
イザとなったら、丸ごと曲空で運べるじゃろ?
魔王が来たならば、逃げねばならぬからの」
「考えてるな」「クロも、少しは考えよ♪」
「あのなぁ~」「何じゃ?」「いや、いい」
「あ、フジ~」逃げた。
フジは水薬を壺内で増幅し、集縮の水筒に吸い込ませていた。
「クロ兄様、お帰りなさい」にこっ
「アオとサクラが、笛の音 重ねてくれて、ありがとうって言ってたぞ」
「笛の飾りから聞こえてきたんです。
重ねなくてはならない気がして……」
「魔王の笛に対抗して、二人が吹いてたんだ。
フジが加勢してくれたから魔笛が砕けたよ」
「そうですか……よかった……」
「一緒に行けなくて悔しかったんだろ?」
「そんな事――いえ、そうです」俯く。
「誰だって同じだから、落ち込むなって。
皆それぞれ後処理に追われてるから、これから、こっちのはフジが主役だ。
他の誰にも出来ねぇ事やるんだからなっ」
ぱしっとフジの肩を叩くと、
フジが「うっ……」と、お腹を押さえた。
「あっ! フジ 、悪りいっ! 痛むか!?
医者 連れて――」フジがクロの袖を掴んだ。
「大丈夫ですよ……傷は塞がっていますから。
ありがとうございます、クロ兄様」
「ホント悪りいっ! すまんっ!!」拝む。
「フジを苛めたら容赦せぬぞ!」
姫が朱鳳を構え、気を溜めている。
「誤解だっ! 勘弁してくれ~っ!」逃げる!
「逃げられると思うな!」曲空!
二人は宙で曲空を繰り返し、姫は続けざまに炎を放ち、風で加速した。
「マジかよ!?」竜体になって飛んで避けた。
「ならばじゃ」背に曲空し、炎を打ち消し――
「まさか!?」「その通りじゃ♪」なでなで♪
「やめっ! 落ちる! 姫っ!」
激突寸前、地に風を放ち、黒竜を巻き上げた。
――無事 着地。
「姫様の方が使い熟していませんか?」
「さよぅじゃ」クスクス♪
「逆鱗 撫でられただけだっ!」
「薬の準備、出来ましたよ」
「もぅすぐじゃのぅ」夕闇の空を見上げた。
♯♯ 伽虞禰 礼拝堂 ♯♯
礼拝堂は騒めいていた。
興奮し始めた人々が城に向かいたがる。
「今暫し待たれよ!
時を此方の味方とせねば、事、成らぬぞ!
祈祷の間、静かに待たれよ!」
騒めきは収まらない。大きくなるばかりだ。
教祖の声も届いていないようだ。
「皆が興奮する迄、待ちたいのだな……
皐月、姫様に、そのように伝えよ」
皐月は頷き、走った。
♯♯ 伽虞禰 老中屋敷 ♯♯
「姫様っ」
「水無月か。如何じゃ?」
「陰陽新道の巫女達は、西の屋敷にて乳母に仕える者達でございました。
今宵は、西の屋敷の者は皆、乳母の命に依り、外出を禁じられましてございまする」
「うむ。思ぅた通りじゃ♪
おぉ皐月、如何じゃ?」
「信者達は興奮し始めております。
教祖は予定通り、事を運びたく、宥めておりますが、聞く耳、既にございませぬ」
「では、早まるやもしれぬな」
姫は二人に耳打ちし、二人は走った。
「フジ、城に向かう信者達への散布は、任せても大丈夫かの?」
「少しばかり飛ぶだけでしょう?
大丈夫ですよ」にこっ
「ならば任せるぞ。
地上の事は、紫苑と珊瑚に任せよ。よいな?」
「はい。ありがとうございます、姫様」
馬車に向かって弾んで行き、
「ミズチ、フジを頼んだぞ。
さて、では各々方、城へ参るぞ♪」
姫は袋を抱え、クロはオッサン達を抱えて曲空した。
入れ替りに、桜竜が赤竜を連れて現れた。
「フジ兄~♪ 笛 吹いてくれて、ありがと♪
すっごく助かったよ♪」光を当てる。
「サクラ、呼んでくれたのでしょう?
関われて嬉しかったのですよ。
ありがとうございます」
「ホントに吹いて欲しかったんだよぉ」
「そうですか……聞こえてよかった……」
「フジ兄、無理はできないんだからねっ」
「解っていますよ、サクラ先生」
「それ、やめてってばぁ」二人で笑う。
「アカ兄様は何を?」
「念のため炎鉱石に結界。
そのあと魔界で結界するの」
(終わったぞ)(あ、うん♪)
「じゃ、行くね~♪」
赤竜に抱きつき、手を振って消えた。
「爽蛇殿、私達も近くまで参りましょう」
「はい♪ フジ様♪」大きな袋を背負う。
紫苑殿と珊瑚殿は……見つけました!
爽蛇の手を取る。
その上空に……曲空!
「フジ様も、とうとう……」
「クロ兄様から頂きました♪」にっこり♪
♯♯ 伽虞禰城 ♯♯
クロと姫が、桜華の近くに曲空すると――
桜華の傍には、念網で包まれた侍が十人程、転がっていた。
「あら、老中様は正気に戻られたのね。
でしたら浄化しましょ♪」
放った御札が侍達の額に貼り付き、闇を吸い取り、煙となって消えた。
「お殿様、この方々は操られていただけ。
御咎め無しで、お願い致します」にこり
「うんうん、よう分かったぞ」にこにこ♪
桜華の手を取り、撫でる。
「さて、好色ジジ――いや、殿」
「ん? 何か申したか?」
「お願いがあるのじゃ」
「何なりと申せ」
「ご子息方をお借り致したいのじゃ」
「病は?」「治りましてございます」
「そうか」にこにこ♪
「兄弟、力を合わせる事こそ、これからの伽虞禰の国にとっての要」
「その通りじゃな」うんうん、と桜華に。
「我等がご子息方を必ずやお護り致す故、御心配召されるな」
「うむ。宜しくお頼み申す」桜華に、ぺこり。
「では参ろぅぞ」ため息……
「あの……何処へ?」黒槎柯と小金以、戸惑う。
「ご子息方の寝所に決まっておろぅ?
先ずは話をせねばならぬじゃろ?」すたすた。
「失礼致す」言いながら開ける。
「これより、兄弟、力を合わせ、四男殿をお助けするのじゃ」
三人が驚き、起き上がる。
「およ? これはまた、随分と年の離れた――」
三十路半ば、二十歳そこそこ、未元服少年か?
「四男殿は乳呑子と聞いたのじゃが……」
「その通りじゃよ。あとは皆、姫でのう」
「一体 何人、姫が居るのじゃ!?」
「嫁いだ姫様が……十四人」指折り数える。
「こちらに居られる姫様が、八人」
「いえ、先日、もうおひと方……」
「九人になり申したのか!?」
「もぅよいわ……」
「なぁ姫、人って、ひとりずつ産むんだろ?」
「だいたい、そぅじゃな」
「どうやって、そんなに?」
「側室が大勢おるに決まっておろぅ」
「ソクシツ??」
「嫁じゃ!」
「嫁が大勢???」
「後で説明するっ!」
ごちゃごちゃ言っている間に、ご子息方は着替え終えていた。
「殿は何故、寝間着のままなのじゃ!?」
「儂も行くのか?」桜華に尋ねる。
「しかと見届けねばならぬじゃろ!?」
「お殿様、ささ、着替えましょう」
殿は桜華に手を引かれ、奥に行った。
「おヌシら、その格好でよいのじゃな?」
姫に睨まれた老中と代官も、大慌てで着替えに走った。
凜「アオ、竜の国は、一夫一婦制なの?」
青「明確な決まりなんて無いよ」
桜「竜は、そんなの決めなくても
問題 起きないから~」
青「そうだね。
そもそも、争い事が嫌いだからね」
凜「でも……クロを見てると、けっこうな
独占欲だと思うんだけど……」
青「うん。クロが、あんなふうになるなんて
思わなかったよ」
桜「だね~」
凜「クロは特別なの?」
桜「どぉだろね~」
凜「アオとサクラは、どうなの?」
青「それなりに有るとは思うけど……」
桜「あそこまでは、ねぇ……」
青「あ……もしかして……」
桜「アオ兄も、そぉ思う?」
青「可能性は有るよね」
桜「うん」 (せ~のっ)
凜「ちょっ! どこ行くのよぉ!」




