伽虞禰9-魔王
追い詰めました。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
天竜の兄弟は、目指す部屋の扉前にも張ってあった結界を突破し、その余波で扉も破壊した。
中では、寝台に人が横たえられ、神に似た闇黒色の靄が浮かんでいた。
その背後には大小数枚の鏡が有り、水晶玉のような物が、いくつも見える。
闇黒色の靄が竜の形になる。
【たかが竜の分際で……】
「その、たかが竜を依代としなければ生きていけないお前が何をほざくか」
アオが淡々と言った。
【竜如きに何が出来る!】闇が拡がった。
「たかが竜? 竜如き?
そう言わねばならぬとは、負けを認めたようなものだな」
瞳に冷光が宿る。
アオは魔王の懐に曲空し、
(輝神竜牙!!)
ルリと共に闇の一点に鋭い光を射ち込んだ。
【グオッ! 】闇が一瞬、揺らぎ、薄れた。
サクラも曲空し、別の一点に鋭い光を射ち込む。
アオが再び曲空する。
二人が次々と曲空しては光を射ち、キンとハクも加勢する。
闇が薄れ、後退していく。
【離せっ!】
(全て確保した。存分にヤれ)
アカが掌握で捕らえていた。
クロの供与が加わる。
アカは、四人の攻撃中にクロが集めた鏡や水晶、魔王の依代の前に結界を張った。
【卑怯な竜共め!】
「卑怯の権化が何をぬかすか。
俺達は、お前との力量差を弁えている。
協力は必須。それだけだ」
(魔王は俺の光を持っている。
定着はしていないようだから、今のうちに、サクラ、ルリ、それを闇に変えるぞ)
キンとハクが後退し、供与を発動した。
アオとサクラが、神眼で魔王の中の光を捕らえ、闇障で闇に変えていく。
【何を!? ……やめろ!!】
(勝輝、魔王の闇を吸い取ってくれるかい?
最初は気付かれない程度でね)
【畏まりまして御座います】
「使えもしない光など無用の長物だろう?
お前の大好きな闇に変えてやるよ」
【お前の方が『魔王』に相応しいな】
魔王はアオを闇に染めようとし始めた。
「無駄だ。俺には、もう傷は無い。
知っているのだろう? お前の負けだ」
ルリがアオに侵入する闇を、光明で光に変える。
【我が闇の強化、有り難く受け入れよう】
「強がるのも、そこまでだな。
さっき俺に注いだ分程も無いだろう?」
【口の減らぬ小童め! 思い知れ!!】
魔王が闇の気を爆発させ、アカの掌握から抜け出た。
――が、爆発は大した事は無く、アカは空かさず再び掌握で捕らえた。
ハクも続いて双璧で真似、押さえ込んだ。
「たかが竜の光だからな。
大した強化にはならないよ」クスッ
魔王が悔しさを滲ませ、足掻く。
(キン兄、ハク兄、も~い~よ♪)
(閃煌激放!!)
キンが昇華した光を炸裂させ、ハクも、それを双璧した。
(みんなで浄化、せ~のっ! 浄癒閃輝!!)
アオとサクラも光明を昇華し、その空間は光で満ちた。
【その程度で消せると思うな!
我が依代は、ひとつでは無い!】
(逃げたぞ!)
輝きの中、闇の突風が吹き抜け、アカの掌握が追う!
離れた所に闇黒色の染みが出来、拡がり、人の姿になった。
(アカ! サクラ! 魔王を掴め!)
言いながらアオも神眼と掌握を発動した。
【無駄だ】鎌を笛の如く構えた。
(魔笛だ!)アオとサクラも笛を構える。
双方の笛の音が激しく衝突し、打ち消し合う。
アカは回収物から大鏡を抜き出し、術を唱え始めた。
キンとハクは光の牆壁で魔王を囲み、攻撃を始めた。
(あの体、光を持ってる!)
サクラが叫んだ時、魔王が深く被っていた帽子を雷が弾いた。
(アオ!?)
「実験体か。光が発現していようが問題無い。
所詮は擬物。
本物に勝つ事など不可能だ」
アオとサクラが闇障を爆発的に発動した。
(なんか、ちゃんと入れてない感じ~)
(そうだね。魔王と依代が反発しているね)
(追い出せるかなぁ?)
(笛を何とかしてからだね)(だね~)
アカが鏡から太鼓を取り出した。
「どこから出した?」「クロ、叩け」
「何だ? この太鼓」「鼓武羅。破魔と強化だ」
アカはクロに撥を投げ「供与に乗せろ」
もうひと張り取り出し、笛に合わせ叩き始めた。
アオとサクラの音に、更に笛の音が重なった。
(フジ兄だ♪)(通じたね)微笑み合う。
魔笛に亀裂が走り、弾け散った。
「叩き続けろ」
アカは叩くのを止め、掌握を発動した。
兄弟の一斉攻撃で一瞬よろけた体から、弾き出された魔王を掴む。
攻撃の焦点が魔王に移った瞬間、クロが曲空し、依代を奪った。
クロが結界の内に戻った時、魔王と依代を繋いでいた気の紐が燃え切れた。
【赦さぬ……】
「最初っから、お前の許しを乞う気なんぞ、さらさら無い」
魔王が怒りを露にし、闇が炸裂した。
攻撃していた四人が飛ばされ、掌握が打ち消された。
魔王は即座に何かを発動しようと闇の気を高めた。
(勝輝! 今だ!)
勝輝が輝き、立ち込める闇を一気に吸い込み、魔王を引き寄せ始めた。
【勝輝かっ!? 何故、意識を――】
四人が体勢を立て直し――
(もっかい! 浄癒――あ……)
――魔王の気が消えた。
コロン、コロロン、コン……
青い光が瞬く玉を残して――
「逃げちゃったね~」
「これだけ奪還出来れば上出来だよ」
(勝輝、ありがとう)【有り難き御言葉】
「魔王の気が全く感じられないのだが……」
「アイツ、どこ行ったんだ?」
「『深魔界』とでも言ったらいいのかな?」
「そぉだね~、神界の真似っこだよね~」
「深神界の境界が闇を通さないのと同様に、魔王が作った、光を通さない境界の向こうです」
「この向こうに、昔、地下人界として栄えていたトコがあるんだ。
たぶんソコ」指す。
それを見て、アカが結界を張り直した。
「魔王、閉じ込められる?」「わからん」
「これは?」クロが転がっている玉を指す。
「アオ兄の因子。
光あるから持ってけなかったんじゃない?」
「ふうん……
しっかし、久しぶりに『アオ』が炸裂したなっ♪」
「何だよ、それ」アオがムッとして睨む。
「サクラ、あんなアオ、初めてだろ?♪」
「兄貴達が言ってたアオ兄ってコレなんだ~って思った~♪」
「まだまだ、あんなものではなかったがな」
「ルリまでっ」
「体ひとつで夫婦喧嘩はヤメてくれよなっ♪
だが、確かに百分の一くらいだよなっ♪」
「ハク兄さん……」鋭く睨む。
皆の笑い声が、拠点に明るく響く。
「冷静さを欠いて貰わないと、太刀打ち出来ないと思っただけなんですが……
まだ若そうで煽り易そうだったから……」
ぶつぶつぶつ……
「お陰で、これだけの成果が有り、誰ひとり怪我すらも無かったのだ。
そのくらいにしてやれ」キンも笑っている。
「だよねっ♪
コレ、天界で浄化しないとでしょ?」玉を指す。
「なぁ、こっちの色とりどりの玉は何なんだ?」
「たぶんね~
それで俺達の心を見てたんじゃない?」
「そっか。確かに同じ色だな」
「んで、この依代だった二人も、天界に連れて行くのか?」
「勿論だ。浄化してアオの因子を――
それは、この二人に確かめてからにしよう。
クロ、二人を連れて、船で行って欲しい」
「解った」二人を抱えて消えた。
「あとは皆で運ぼう」「はい」
鏡に太鼓を入れていたアカが振り返り、
「工房と繋がっているが――」
言い終わる前に、ハクとサクラが、ガチャっと全部 押し込んだ。
アカが二人を睨み、ため息をつき、鏡を通った。
ハクが笑いながら続いた。
「サクラ、魔竜王国から神竜方々を天界に連れて行って欲しい。
アオ、この鏡を持って来て欲しい」
言いながら、キンも鏡を通った。
サクラが鏡に掌を当て、術を唱え、
「じゃ、アオ兄、後でね~♪」鏡を通った。
アオとルリは笑って鏡を持ち、曲空した。
凜「あっ、コギさん!」
儀「ああ、凜殿」
凜「お疲れ様で~す。
アオに魔王の事、教えたんですか?」
儀「いいえ。アオ様はご自分で魔王の性格を
見抜いたのです」
凜「コギさんって強いんですね~
ひとりで魔王を追い詰めたんでしょ?」
儀「今回は魔王が弱っていましたからね。
無理矢理にアオ様の光を我がものに
しようとした報いでしょうが。
弱っていなければ私なんぞ――」
凜「ダメですよ~、無茶しちゃあ。
梅華様を悲しませてはいけませんよぉ」
儀「あ……それは……」
凜「もうアオは強いんだから大丈夫よ~
お幸せに~♪」
儀「あ……はい……」




