伽虞禰7-老中屋敷の蔵
伽虞禰の怪しい人達は、老中・黒槎柯、
代官・小金以、豪華な籠の女、
それと、地下礼拝堂の教祖。
この四人のようですね。
♯♯ 伽虞禰城 ♯♯
侍に連れられ城に入った慎玄と桜華は、城内に漂う闇の気を浄化しながら進んだ。
嫡男の寝所に通され、桜華が掌を翳す。
「間違いなく炎鉱石です」
人には聞こえぬよう話した。
慎玄は頷き、
「他にも熱の高い方が居られますな」
いかにも高僧らしく話した。
「は、はっ」
「この部屋に、お運びくだされ」
「許しを得て参りますので、お待ち下さい」
御付きの侍が出ようとした時、初老で威厳のある男が入って来た。
「黒槎柯様っ、如何なさいましたかっ」
御付きの者達が控え、平伏する。
慎玄と桜華も頭を下げた。
「高僧様に、若様の病をお治し頂きたく、お願いに参りました」
言葉は丁寧だが傲岸不遜で、治せるものなら治してみよと言わんばかりであった。
「ご丁寧に、ありがとうございます。
拙僧共にお任せください」合掌。
黒槎柯がフフンと笑った気がした。
偉そうな一団が去り、
「あの老中は、影ではないけれど……
人に魔王の因子を加えると、ああなるのかしら?
初めて感じた気だわ」桜華が呟いた。
二人で嫡男に纏わり付く闇を浄化し、体内の炎鉱石を凍鉱石で中和すると、熱は嘘のように下がった。
「この毒を仕掛けた者を炙り出しますので、今暫し、熱のある振りをお続け下さいませ」
桜華が耳打ちすると、嫡男は小さく頷いた。
次男、三男が運び込まれた。
「やはり、三男殿も……」
二人の熱も下げ、嫡男と同じく病の振りを続けて貰った。
慎玄は読経を続け、桜華は城内の浄化をすると言って、侍達に案内させ、出て行った。
♯♯ 伽虞禰 代官屋敷 ♯♯
代官・小金以の屋敷を見張っていた弥生と皐月は、慌てて駆け込んで来た侍から、身を隠した。
屋敷内が騒めき、慌ただしく人が行き交う足音がする。
裏門から荷車が三台、飛ぶように走り去った。
弥生がそれを追った。
♯♯ 伽虞禰 老中屋敷 ♯♯
黒槎柯の屋敷も同様に騒めいており、黒塗りの艶やかな籠が急いで入って行った。
「焦臭い事、甚だしいですね」
「クロ様と姫様は馬車のようね」
珊瑚が跳び、向かった。
紫苑は姿を消し、屋敷に入った。
「炎鉱石は運び出せるようになっておるか!」
質問と言うよりは、叱責に近い声が聞こえた。
籠の前に来た早馬で知らせたのは
屋敷の主であったのか……
それにしても、この老中、闇が濃いですね。
濃いと言うよりは同化しているのでしょうか?
さて、炎鉱石を何処に運ぶのでしょう……
蔵には、炎鉱石を詰める専用の箱が、次々と運び込まれていた。
しかし、出て行く気配が無い。
これは……もしや!
クロ、姫、珊瑚が現れた。
「クロ殿、炎鉱石が運び出されるようです。
もしかしたら、魔界へと運ばれているのではないでしょうか?」
「そぅやもしれぬ……火の気が減っておる!」
「姫様っ」人影が駆け寄る。
「弥生、如何した!?」
「代官屋敷より荷車が到着致します」
弥生が指す先から、荷車が裏門へと駆け込んだ。
「荷は炎鉱石じゃな」
「あれだけの大きな力、魔王に渡すワケにはいかねぇ! 行くぞ!」
「弥生は、ここを見張れ!」「はい!」
四人は蔵に向かった。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
(魔王いるね)
最後の大拠点に入った天竜の四人は、頷き合い、奥へと飛んだ。
(この向こう、物凄い熱気だな)
(増えていってねぇか?)
(コレぜ~んぶ使う気なのかなぁ)
(まだそんなに必要なんだろうか……)
(とりあえず入る?)サクラが壁を指す。
兄達が頷いた。
サクラが穿った穴の向こうは、大量の炎鉱石で灼熱になり、空気が揺らいでいた。
(集縮、炎鉱石は大丈夫かい?)
【勿論で御座います、我等が王】
(全部、頼むね)
【畏まりまして御座います】
次々と集縮の大壺が現れ、炎鉱石を吸い込み始めた。
山が低くなり、向こうの壁に闇の穴が開いているのが見えた。
その穴から、箱が運び込まれている。
箱は宙で開き、炎鉱石を撒いては、穴の向こうに戻されているようだ。
(穴の近くに魔物がいるよ)
(こっち側の炎鉱石が減ってるのに、気付かねぇのかよ)
(魔王が回収している、とでも思っているのではないか?)
(そぉかもね~)
(集縮、回収を加速出来るかい?)
【勿論で御座います】壺が増えた。
(壺だらけだ♪
これは、どっちがやってんだ?)
(アオ兄だよ~♪ そろそろ気づいちゃうよ)
(んじゃ、行くか♪)
熱気が減ってきたので、アオを残し、三人は魔物に向かって飛んだ。
♯♯ 伽虞禰 老中屋敷 ♯♯
蔵に向かった四人は――
蔵の中で、汗だくで炎鉱石を箱に詰め、奥へと運んでいる男達を、姿を消した紫苑と珊瑚が放り出し、
姫を乗せた黒輝の竜が入ると、外に出て扉を閉め、その前で姿を現した。
「狐だっ!」「化け物ぉ!」
「慣れはしましたけど」
「やはり傷付きますね」
「喋ったぁ!」「お助けを~」
人足達は腰を抜かし、震えながら拝み、
侍達は必死の形相で剣を構え、カクカクと定まらぬ切先を二人に向けていた。
白妖狐達は、やれやれと肩を竦め、ため息をつき、顔を見合せた後、御札を放った。
御札が貼り付いた人々が固まった。
「皆様には、闇の気が付いてしまっております」
「浄化しますから、おとなしくしていてくださいね」
一方、蔵の中では――
姫が、フジから貰った凍鉱石の粉を撒いて道を作り、黒竜は奥へと進んでいた。
(あれは闇の穴だな)
(つまり、魔物が居るのじゃな)
「早く次を運ばぬか!」
奥から、怒りと焦りの露な声が飛んで来た。
(屋敷の主じゃねぇのか?
熱いのに頑張ってるんだな)
(あの者が闇の穴を穿っておるのじゃな)
(って事は、魔物だな)
(ならば――)水筒銃を取り出す。
炎鉱石の山に隠れつつ、そっと近付き――
聖輝煌水を浴びせた!
黒槎柯が悶絶し、闇黒色に変わった。
黒槎柯は直ぐに気付き、立ち上がろうとした。
しかし、その時――
姫が抱えている特大の水筒銃から放たれた聖輝煌水の洪水が達し、
それと同時に、
浄化の光が、闇の穴の向こうから闇黒色の黒槎柯を包んだ。
闇黒色の被膜が剥がれるように、黒槎柯が再び色を取り戻した。
「姫~♪ クロ兄~♪」
闇の穴から綺桜の竜が顔を出し、手を出して振った。
瑠璃の竜が穴をくぐって現れ、
小壺を出し「凍鉱石を集めて」、
大壺を出し「炎鉱石を集めて」と指示した。
そして、炎鉱石が無くなった空間に、金華の竜と白銀の竜が壺を並べ始めた。
「クロ! 見てねぇで手伝えよ!」
言われて、慌てて穴をくぐろうとすると、
「姫は通っちゃダメ~」
穴を保っていた桜竜に、姫を離された。
青竜は壺をあちこちに置いた後、黒槎柯の浄化を始めた。
「悪い夢を見ていたようだ……」と呟いた後、
「いかん! 若様の御命がっ!」
黒槎柯は叫んで、立ち上がろうとした。
しかし、足に力が入らず、ペタンと座り込んだ。
「大丈夫じゃ。
あの僧侶も、尼僧も、ワラワの仲間じゃ」
姫が黒槎柯の前に仁王立ちし、微笑んだ。
白狐が、小金以を咥えて入って来た。
青竜の傍に降ろすと、
「浄化、お願い致します」外に出た。
青竜を挟んで座り込む二人に浄化の光を当てていると――
「口封じされる前に、狐に捕まって良かったのぅ」わははははっ♪
姫は、今度は小金以の前に仁王立ちしていた。
振り返り「そぅなのじゃろ?」にやり
「申し訳ございません」黒槎柯、平伏。
「しかし、やったのは、全て魔王じゃ。
老中殿も代官殿も操られておっただけじゃ。
殿にも若君にも、しかと、そぅ申しておく。
ただし、再び私利私欲に走らば、次は容赦せぬぞ!」
「ははぁ~っ!!」
黒槎柯と小金以、平伏しっぱなし。
凜「竜体の時って、どうやって話してるの?」
桜「フツーに話してるよ」竜体になる。
凜「いやいや、竜にとっては普通だろうけど、
人には謎だよ」
桜「どゆイミ?」
凜「ほら! それよ、それ!
口、ほとんど動いてないでしょ?
隙間くらいしか開いてないし。
そもそも大きくなってるのに
声が低くなるとか、何もないし~」
桜「言われてみれば~」きゃははっ♪
青「人の常識からは、かなり外れているの
かもしれないね。
竜体だと、喉の声帯を使ってはいなくて、
鼻の奥、眉間の辺りに有る『人声帯』を
使っているんだよ」
凜「声帯が二つ有るの!?」
青「正確には、人が考える『声帯』は
喉のものだけなんだけどね、
近い働きをする小さな器官が有るんだよ」
凜「じゃあ、喉の声帯は?」
サクラが咆哮を上げた。
凜「うわっ!? 急に何よっ!!」
桜「喉の使った~♪」
凜「鳴き声になるんだ……」
桜「竜らしいでしょ?」
凜「うん……竜だったんだ……」
桜「目の前にいるの何だと思ってたの?」
凜「竜……だね」
青「だから、口は動かさなくても、
もっと言うと、開けていなくても
話せるんだよ」
桜「開けてないと、鼻から声出る~♪」
凜「へ? じゃあ、竜体の時は
「」じゃなくて【】?」
青「なんか、紛らわしいから、
あまり深く考えないでよ。
俺達が話すんだから「」でいいよ」
桜「竜宝とか神様とか増えるんでしょ?」
凜「確かに、そうだね……」




