伽虞禰5-熱病
地下魔界を進行している竜達は、境界通過と
本気で攻撃する為に、竜体で行動しています。
心での会話は、直接話せない兄達の会話を、
サクラが声と話し方を真似て中継しています。
♯♯ 馬車 ♯♯
「しかし……この薬は、興奮作用が出てからでなければ効かないようです」
「なら、準備して待つしかないよな」
「ところで、こちらの方は?」
「伽虞禰の城主様じゃ」
「然様じゃ……が、そなた……どこぞで……」
「中の国の静香姫様で御座います」爽蛇、礼。
「然様か! おお、そうじゃ、静香殿じゃな。
して、何故、我が国になど?」
「ハザマの森に向こぅておっただけじゃ」
「あの人拐いの森にと!?」
「これから魔界に向かうのじゃ。
ハザマの森は、ただの通り道じゃ」
「魔界……とな……」
「殿の城にも、魔物の匂いがプンプンしておったぞ。
最近、妙な事は起こっておらぬのか?」
「……あの病も……なのかのぅ……」
「お心当たりが御有りか? 何でも構わぬぞ」
「嫡男が病にかかり、高熱が続いておるのじゃ。
次男が儂の補佐を頑張ってくれておったのじゃが、昨日とうとう熱を出してのぅ。
同じ病やも知れぬのじゃ」
「フジ、炎鉱石の粉って、凍えた時なんかに、ほんのちょっと飲むヤツじゃねぇのか?」
「はい。低体温などの薬として用います。
ですから、健康な方が摂取しますと、高熱が続き、人界の薬では下げる事が出来ないと思います。
ですが、発熱要因など沢山ありますが……
炎鉱石が、どうかしたのですか?」
「桜華様が、炎鉱石を集めてるヤツがいるって言ってたんだよ」
「しかし、この為ではなかろ?
あの量じゃと、人が皆、熱で死んでしまうわ」
「確かに、あれだけの力を発してたのが、全部 炎鉱石なら、人を皆殺しにする量だな……」
「殿には、男子は何人おるのじゃ?」
「四人じゃが」
「三男殿と四男殿は如何しておるのじゃ?」
「三男は城に居る筈じゃが……
四男は乳呑子故、熱が移ったら大事と、城下の西外れの屋敷に、母親や乳母らと共に移ったそうじゃ」
桜華達が戻った。
「桜華様、あの豪華な籠は、城下の西外れの屋敷に入りましたかの?」
「姫様、よく御存知ですのね」にこっ
「おそらく今頃は、三男殿も熱を出されておるじゃろぅよ」
「なんで、そんな事が言えるんだ?」
「クロ達には無縁の話じゃ。
人とは欲深きものなのじゃ。
こちらもまた東の国と同じ、私利私欲じゃよ」
「わかったんなら、すぐ動くのか?」
「夕刻まで待つしかなかろ?
しかとシッポを掴まねば、成敗出来ぬわ」
姫と桜華は紙を広げ、城下の地図を描き始めた。
「皐月、水無月、二人ずつに分かれて、この屋敷と、この屋敷も見張るのじゃ」
「はい、姫様」二人は走り去った。
「紫苑、珊瑚、屋敷の図面を描いたら、この屋敷を見張ってね」
二人は頷き、描き始めた。
魔界組が曲空して現れ、アオとサクラは、キンとハクを残して消えた。
「様子を見に来たのだが――」
「フジ! 無理すんなって言ったろ!?」
「ハク殿、ムリはさせぬ。しかし必要なのじゃ。
許してはくれぬか?」
「しゃーねぇなぁ。おとなしくしてろよ」
光を当てる。
「それで、こちらは、どうなのだ?」
「フジが居れば、暴動は阻止できまする。
大丈夫じゃ♪」
慎玄が戻った。
「城に祈祷の為、呼ばれましたので、着替えて、行って参ります」
「殿の御子様方の病で、じゃな?」
「はい。町衆を治しておりましたら、お侍様より、お声が掛かりました」
「では、御子様方を護りましょう。
慎玄様、この袈裟を。私が織りましたの」
桜華は瀟洒な袈裟を出し、微笑んだ。
紫苑と珊瑚は屋敷の図面を姫に渡し、出て行った。
「兄貴、ここは任せて、地下魔界に戻ろうぜ」
「夜になれば、怪我人など出るやもしれませぬ。
その頃に、お願い出来ますや?」
「うむ、解った」
「何かあったら千里眼で呼べよ」
アオとサクラが、アカを連れて現れた。
キンとハクが掴むと、五人は消えた。
着替え終わり、高僧と尼僧に扮した二人が、
「お殿様、御子様方は必ずお護り致します」
と声を掛け、城に向かった。
「おそらく、私利私欲の権化達は、今宵は屋敷から動かぬ気じゃろぅよ。
我等は無関係とばかりにのぅ。
城からの知らせで、慌てて登城。
そのよぅなフリをする筈じゃ」
「静香殿、何が起ころうとしておるのじゃ?
儂にも説明してくれぬかのぅ」
「オレにも説明しろよなっ」
フジは苦笑いし、姫は ため息をついて、
「仕方ないのぅ……」説明を始めた。
♯♯ 地下魔界 ♯♯
地下魔界に曲空した兄弟は、ワン将軍から貰った地図を広げ――
(今、ここだよ~)
(占拠した拠点に色を着けます)
(これから、こっちに進むんだよ)
キンが、占拠済みの拠点と未だの拠点を分ける線を、地図の中程に引いた。
(アカ、この線上に結界を頼む。
闇を通さないものにしておいて欲しい)
サクラが中継する。
(アカ兄、俺は他の道で戻るから遠慮しないでね。
進んだら連絡するから、結界も動かしてね)
(解った)
四人は結界の拡張を手伝った後、進んで行った。
(マオさんの追加で、大拠点は七つ。
そのうち四つ占拠しちゃったから、そろそろ魔王に当たるかもね~)
(そうだね。気を引き締めよう)
皆 頷き、キンとサクラ、ハクとアオの二手に分かれた。
二組は中小拠点を落として進み、五つ目の大拠点に集まった。
サクラが目を閉じる。
待っていると――
(アオ、これか? 見てくれ)
(うん。当たりだよ。流石、ルリだね。
開いたけど、まだ無理に使わないようにね。
融合して、俺が伸ばすからね)
(解った。世話になる)
(これから大拠点だから、ルリも攻撃に加わって――あ、探して疲れてなければだけど、大丈夫かい?)
(勿論、大丈夫だ)
(なら、後ろを頼むよ)
(任せよ)
(ハク兄さん、ルリが加わるので、サクラに付いて行ってください)
(天性、もう見つかったのか!?)
(はい)にっこり
(なら、任せた。ルリさん、アオを頼む)
(お任せください、ハク様)
(見えたっ!)サクラが穴を開いた。
四人、サッと入り、飛んで進む。
(ここにも魔王いないね~
最初の大拠点と同じ造りだからね。
また左の通路から下に行けるよ)
(影は、下に……ひとり、正面に二人だね)
(うん。だから、正面には三人で行くよっ)
(解った)(おうっ)(では、下に行きます)
アオが左の通路へと離れた。
(影は同じ部屋にはいないね~)
(ひとり目は近いな)
(すぐ後ろに開けるからっ♪)
サクラが穴を穿った。
ハクが羽交い締めにし、穴から引き出した。
声を上げる隙も与えず、サクラが浄化する。
状況が呑み込めないでいる神竜をハクに預け、キンとサクラは奥の部屋に向かった。
♯♯ 馬車 ♯♯
「ふむ、解り申した。
して、先程の尼僧殿は、真の尼僧なのかの?」
「いや、装束だけじゃが……
ご不安召されるな。治療は得意じゃからの」
「不安など有りはせぬ。
あの女人が出家しておらぬのならば、それで良いのじゃ」にこにこ♪
「出家など、してはおらぬが……」
「して、名は何と?」にこにこにこ♪♪
「桜華様じゃが……」
「桜華殿と。うんうん♪
姿だけでのぅて、名まで美しいのじゃのぅ♪」
にこにこにこにこ♪♪♪
「殿……もしや……」
♯♯ 地下魔界 ♯♯
「アカ様、これは……結界で御座いますか?」
「コギ殿か……闇を通さぬ、光の結界だ。
案ずるな。進行に合わせ、移動する」
「案じてなどおりませぬ。
ただただ素晴らしい御力に感服致しておりましたので御座います」
「向こうに行きたいのか?」
「……いえ……」
「妖狐王様より、アオを護るよう遣わされているのだろう?」
「お見通しで御座いますか……」
「常に世話になっていると兄から聞いた。
通るならば開ける」
「お願い致します」
アカは結界に隙間を作ったが、拡張を止めてコギの方を向いた。
「これまで御護り頂いた事、心より感謝致しております。
アオは既に大きな力を得ています。
もう護られるべき者ではありません。
ご自身の御命を最優先すると、御約束頂きますよう、お願い致します」
深く頭を下げ、拡張を再開した。
「御心遣い、有り難く存じます」
コギは、もっと深く頭を下げ、結界の穴を通り抜けた。
黒「伽虞禰は殿なんだな?」
姫「今更、何じゃ?」
黒「いや、仁佳も東も帝だっただろ?
だから確かめたんだ」
姫「伊牟呂と魯茉丹も殿じゃぞ」
黒「そうなのか~。涅魁は?」
姫「帝じゃ」
黒「ふぅん。で、どう違うんだ?」
姫「大した差は無い。
武家か貴族か、その程度じゃ」
黒「そういや、西の国は?」
姫「領主を民が選ぶのじゃ。
彼の国は、ずっと昔に魔物に滅ぼされ、
砂の地になってしもぅたのじゃ。
それを商人達が栄えさせたのが、
今の西の国なのじゃ」
黒「へえぇ~。人って、やっぱ強ぇなっ♪」
姫「そぅじゃろ♪」
 




