伽虞禰3-炎鉱石
一方、馬車の皆は――
♯♯人界 ♯♯
馬車は伽虞禰城下の直ぐ南の村に到着した。
「既に闇の気が漂ってる。
城下は、かなり染まってるぞ」
「クロ、よく分かるのじゃな」
「染まりかけたからな。分かるようになった」
「いつ、そんな事があったのじゃ?」
「あ……いや……」
「姫様が天界にいらっしゃった間ではございませんか?」
ひっぱたいた人が微笑む。
「さよぅか……そぅじゃろぅのぅ。
ワラワが寝ておった間も、クロは戦ぅておったのじゃなぁ」
しみじみ~と頷く。
「気にすんなって。
ほら、話 聞きに行くぞ」すたすた。
「あっ! 待たれよっ!」
「ほら」振り向かず、手だけ差し出す。
姫が駆け寄り、おずおずと手を取り、歩きだした。
「更に仲良くなられましたな」
慎玄は、そう言って微笑み、托鉢に出た。
「紫苑、珊瑚、鉱山地帯に向かいましょう。
爽蛇殿、馬車をお願い致します。
皐月殿、連絡は爽蛇殿にお願い致します」
妖狐達は東へ向かって跳んで行った。
♯♯ 伽虞禰 城下 ♯♯
クロと姫が城下に入った時、千里眼が着信を告げた。
「志乃か。如何した?」
「静香姫様、ご機嫌麗しゅう御座います。
黒之介様もご一緒で御座いましょうか?」
「居るぞ」クロに千里眼を渡す。
「志乃さん、どうしたんだ?」
「天界より、出版社の方がお見えになっておりまして、天界でも、彼の本を出版したいと申しておるので御座います。
如何致しましょう?」
(姫、聞こえたよな? どうする?)
(天界の事はクロに任せるぞ)
「兄弟とリリスさんに相談するから、連絡先を聞いといてくれ」
「畏まりまして御座います」切れた。
「しかし……何故に、あの本の事を知っておるのじゃ?」
「そうだよな……
こっちに来た誰かが見たのかなぁ?」
「さもありなんじゃな」
♯♯ 伽虞禰 東部 ♯♯
鉱山地帯に入った妖狐達は、魯茉丹から国境を越えようとしている山賊達を見つけた。
「荷車に積んであるのは炎鉱石のようですね」
「伽虞禰には元々少なく、魯茉丹の火神子山には豊富ですからね」
「では、火の神の使いにでもなりましょうか」
妖狐達は、山賊達の前に降り立った。
「その石、如何致すおつもりじゃ?」
「き、き、狐が喋ったーーっ!」
手下達は散り散りに逃げ去った。
「お主が頭か? 我が問いに答えよ」
「おめぇら、何様なんだよ!
消え失せやがれっ!!」
「我等は火の神の使い。
祟りを畏れぬと申すなら、向こうて来るがよい!」
「ヤれっ!!」
……しーん……
頭が振り返ると、そこには誰もいなかった。
「クソッ! ぅおおおりゃあっ!!」
「ほぅ……逃げぬか」フフッ……
頭は見えない何かに弾き飛ばされた。
紫苑が念網で受け止める。
手下達も紫苑と珊瑚が念網で包んでいた。
「さて、お話し頂こうか」
頭がフンッと、そっぽを向いた。
「そうか。口が利けぬか。ならば――」
桜華が極弱で髭を炙った。
「熱っ!! やめっ!! 助けてぇっ!!
話すっ!! 何っでも話しますからっ!!
消してくれぇぇぇーっっ!!」
紫苑が水を浴びせた。
「何故、炎鉱石を?」
「高く売れるからに決まってらぃ!」
桜華が鋭く睨む。
「い、いや、その……
お代官様が集めてなさるんだよ」
「何故に?」
「知らねぇよ。本当だ!
何も知らされてねぇんだよぉ。
ただ、根刮ぎ集めろって言われただけで……」
「ほぅ……それで、お主は改心するのか?」
「はぁ?」
「山賊から足を洗うのか?」
「いや、しかし、真っ当な仕事なんぞ就ける筈もねぇ。……です」
「鉱山で働けばよい。
これ程も採って来られるのだ。
十分、働けるであろうよ」
「いや、それは……盗って来ただけで――」
「知っておる。
だが、我が、それを認めれば、仕置きせねばならぬ」
「仕置き……?」
「火神子山の火口など如何か?
少しずつ、少しずつ、炙って差し上げようぞ」
紫苑と珊瑚が念網を引き上げた。
「わ、わ、わ、わ、わかりやしたっ!!
改心いたしやしたっ!!
もーーっ! すっかり真っ当!
真人間でさぁっ!!
採掘人足にさせてくださいやしっ!!!」
「では参りましょう」
桜華は荷車に念網を掛け、引き上げた。
母の後を追い、宙を跳びながら、紫苑と珊瑚は顔を見合わせた。
(母様って……凄みが……)
(まさに『火の神』でしたね)
(女頭領にもなれそうですよ)
(容赦なさそうですよね)
桜華が振り返った。
二人は慌てたが、降下を始めただけだった。
三人は火神子山近くの鉱山に降り、人姿になった。
鉱山頭に人足希望者だと言って、元・山賊達を渡した。
荷車は山道で見つけた、とだけ言って渡した。
「火の神は、常に御覧になられております。
真面目に生きなされよ」にっこり
そして、三人は姿を消した。
「消えた……」鉱山頭が呆然と立ち尽くす。
「あの山の、火の神の使いだそうでさぁ」
元・山賊達は、火神子山に手を合わせ拝んだ。
鉱山頭も慌てて拝んだ。
「次は、代官殿にお仕置きねっ♪」
(母様、楽しそうですね)(そうですね)
「ねぇ、さっきから、何を楽しそうに話してるの?
二人だけでズルいわ」母が拗ねる。
「えっ、何もっ」「ええ、何もありませんよ」
「母としては認めて貰えなくても仕方ないわ。
でも……せめて仲間として認めて欲しいのよ」
「母様っ! そんなっ!」二人揃って慌てる。
「可愛いっ♪」あははははっ♪
二人は愉しげに弾む母を呆然と見ていたが、
「母様こそ可愛いですよ」
揃ってそう言い、母の両側に寄り添った。
♯♯ 伽虞禰 城下 ♯♯
「この屋敷じゃ。
ここから強い火の気を感じるのじゃ」
「そうだな。強い力と、闇の気を感じるぞ」
「さて、如何致そうかの。
忍び込むか、堂々と正面から入るか――」
「おい、正面からって……」
「ワラワは中の国の姫なるぞ。
何とでもなろぅ?
クロも少しは頭を使うがよい」
姫は考え始めたが、すぐにクロの方を向いた。
「クロは試練の山で、算術の問題を解いたのか?」
「あ? ……そーいや、あったかな……」
「しかと解けたのか?
合格したのじゃから、解けたのじゃろ?」
「ん~~……あ! 思い出したっ!
壁が迫って来たから適当に押したっ♪」
「はぁっ!? 全て適当に!?」
「ああ。だから、何 押しても開くんだと思って通ったよ♪」
「そんな筈、ある訳なかろぅよ……」
ちょっぴり――たぶん、ほんのちょっぴりだけ、中の国の将来に不安を感じる姫であった。
「其処許等、何を騒いでおる!」
屋敷の門から男が出て来た。
「我等は旅の者。
立派なお屋敷じゃと感心致しておったのじゃ。
こちらは何方様のお屋敷で御座るか?」
「此方は、老中・黒槎柯様のお屋敷である!
分かったならば、早々に立ち去れ!」
「小金以、何を騒いでおるのじゃ?」
門の内から女性の声が聞こえた。
「大した事では御座いませぬ。
旅の者が、お屋敷を誉めておっただけに御座いまする」
「然様か。ならば参ろうぞ」
女性が乗っているらしい豪華な籠が出て来た。
もうひとつ籠が出で、門前に降ろされた。
「お代官様、此方に」若い男が開ける。
小金以が乗り込み、豪華な籠を追って行った。
♯♯♯
「母様、瘴気は、あの屋敷からですね」
「あら、姫様とクロ様」
「母様、あちらからは慎玄殿がいらしてますよ」
「集まりましたね」
「降りましょう」「はい」
凜「やっと捕まえた!」
孤「尾を離せ」
凜「質問にお答え頂けるなら♪」
孤「滅するぞ。もしくは元の世界に帰す」
凜「どちらも困ります!
本当はお優しいの知ってますから~」
孤「フンッ」
凜「どうして、お孫様ではなく、
アオの周りに、いつもいらっしゃる
ので――消えちゃった……
妖狐王様も、シルバコバルト様も
アオが大好きなのね……」
始【違ーうっ!!】




