試練山9-挨拶回り
前回まで:姫は試練の山を合格しました。
♯♯ 長老の山 ♯♯
(フジ兄、具合どぉ?)
(もう大丈夫ですよ。
サクラ 、毎日ありがとうございます)
(入っていい?)
(もちろんですよ)
「フジ兄、リリスさん、こんにちは♪
ラン、入って♪」
「サクラ様、いつもありがとうございます」
フジの腹部に手を翳す。
「もぉだいじょぶだね。
明日から少しずつ普通にね。
リリスさん、無茶しないように見ててね」
サクラはフジから離れ、虹藍と並んだ。
「魔竜王国の虹藍女王様。
俺達、婚約します」にこっ
「サクラが婚約ですか!?」
「うん。ランは、ひとりで頑張ってるから。
俺、とにかく支えたいんだ」
フジとリリスの驚きの表情が笑みに変わる。
「虹藍様、サクラをよろしくお願い致します」
「私の方が支えて頂くのですから……
フジ様、どうぞよろしくお願い致します」
「それじゃ、また診察しに来るからね~」
サクラと虹藍は、次に向かった。
――会議室。
「キン兄とボタンさん。ハク兄とミカンさん。
キン兄とハク兄は、王太子なんだ」
「サクラが護りたい方ってぇのは……?」
「そ♪ 魔竜王国の虹藍女王様♪
竜宝で城を繋いだから、挨拶回りしてるんだ」
「やるな~♪ 竜宝の王様っ♪」
「では、魔界と繋がったのか?」
「魔界と言っても地上界だから、魔王がいる地下界には、簡単には行けないんだ。
倒しに行くのは、ハザマの森からになるよ」
「ふぅん……地上にも魔界が在るのかぁ」
「虹藍様、今後は両国の交流を密とし、互いに発展し合えるよう尽力致しましょう」
「はい。ありがとうございます。
キン様、ハク様、今後共どうぞよろしくお願い致します」
「ボタンさん、ミカンさん。
ランもお茶に誘ってあげてね。
よろしくお願いします」
「いいの?♪」「この後のご予定は?」
「今日はもう公務も謁見もないよね?」
「ないわ♪」
「じゃ、これからアカ兄トコ行くから、ワカナさん連れて、いつもの中庭に行くねっ」
「準備して待ってるわね♪」二人、立ち上がる。
「え~っとね~
リリスさん、だいじょぶだよ。
姫は……ちょっと、声もかけらんない」あははっ
「クロは一緒に儀式するのか?」
「そのつもり~♪ やっと決心したよ♪
あと、アオ兄も母上がノリノリで準備してる~」
キン、絶句。ハク、爆笑。
「じゃ、アカ兄トコ行くから~」曲空。
――赤虎工房。
「アカ兄、ワカナさん、こんにちは♪」
「ん……」作業続行。
工房の奥からパタパタと足音が駆けて来た。
「あら♪ サクラ様、こんにちは♪」
「俺達も婚約します♪
魔竜王国の虹藍女王様です♪」
アカが手を止め、顔を上げた。
そして奥に向かった。
「サクラ様は婿入りなさるの?」
「うん♪ ランを支えたいんだ♪」
「遠くに行ってしまわれるのね……」
「ちゃんと竜宝で城を繋いだから、すぐそこだよ♪」
「もうひと組、補修出来たぞ」
「ありがと♪ アカ兄♪」
「それも双掌鏡?」虹藍が覗き込む。
「そ♪ 友達の家にあったのが割れたらしいんだ。
お世話になったから、あげようと思ってね」
アカが虹藍の前に立った。
「サクラを宜しくお願いします」深く礼。
そして作業に戻る。
「こちらこそ、よろしくお願い致します!」
アカは、サクラ達の方を向いて微笑むと、作業を再開した。
「アカ兄は、めったに声出さないし、表情も変えないんだ。
だから今、とーっても喜んでるんだ」
「よかったぁ……」
「ワカナさん、これからお茶するから一緒に行こ~♪」
「行ってこい」「ありがとう、アカ」
――中庭。
「お茶 淹れるね~♪」
「サクラ様、いつもありがとうございます」
「いいから~♪」
「だから手慣れてるのね♪」「えへへ~♪」
「サクラ様が淹れてくださると香りが違うの!」
お茶を並べて、
「俺、ソラちゃん家 行ってくるから、ランは楽しんでてねっ」
虹藍に鏡を示す。
「えっ!?」皆さん固まる。
「行ってきま~す♪」手を振って飛んだ。
――ソラの家の玄関。
「こんにちは」にこっ♪
「サクラ様!? あのっ、あっ、ソラ!
いるんでしょ!? ソラ!!」母、大慌て。
ソラが出て来た。
「慌てて、どうしたのよ~
あ、サクラくん、いらっしゃい」にこっ♪
ソラの母は、わたわたと引っ込んだ。
「鏡、これだと思うんだ。使ってね」
「え!? それ……高価なんじゃ……」
「まだあるし、作れるから、だいじょぶ~
どこに掛ける?」
「でも叔母さん家、行けないでしょ?」
「もうすぐ行けるようになるよ♪
俺、婚約するから♪
そしたらもう狙われないと思うんだ」
「婚約!? サクラくん、その歳で!?」
「サクラ様っ、玄関なんかで……こちらへ!
あ、あの、申し訳ございませんっ」母、戻る。
「お母さん、サクラ様、ご婚約だって♪」
「へっ!? ソラ……あなた……と?」
「何バカなコト言ってるのよ~
サクラくんは王子様なのよ。
私なワケないでしょ」あははっ♪
「そ……そうよね……」複雑な ため息。
「鏡を持って来てくれたの。
魔界に行く鏡、割れちゃったでしょ」
「あ……とりあえず、お上がり下さい。
お茶を――」
「淹れますね」にこにこ♪
「いえっ! あのっ!」
――結局、サクラが淹れる。
「以前お持ちでした鏡は、何故 割れたのですか?」
「それが……妹の家に行こうとしたら、黒い魔物が見えて……怖くて花瓶を――」
「お母さんが割ったの!?」
「ええ。つい、投げてしまって……」
「申し訳ございません。
おそらく、私との接触が原因だと思います。
ですが、もう婚約を公表しますので、魔物は二度と現れません」
「そうですか……
あ、でも、その鏡は特別な物なのでしょう?」
「集縮などと同じ竜宝です。
割れた原因も私ですので、お受け取り頂かなければなりません。
この鏡も、現状では珍しい物ですが、これから量産に向けて動きますので、いずれ、どこにでも有る物になります」
「前の鏡は、妹が友人から頂いたと……ですから価値も分からず割ってしまって、妹には二度と手に入らないと叱られて……
本当に、ありがとうございます」恐縮至極。
「いえ、私の方こそ、多大なる御迷惑をお掛け致しまして、誠に申し訳ございません。
まだ暫くは、念の為こちらでお過ごし頂きたく存じますが、出来る限り早急に、元の生活にお戻り頂けるよう努めますので、不自由お掛け致しますが――」
「いいわよぉ、サクラくん。
ここ、とってもいいトコだもん。
毎日 楽しいわよ♪
私、卒業するまでお世話になっちゃうから♪」
「はい♪ ずっと居らして下さい♪」
そして、玄関の外で――
「皆さん、中庭でお茶してるんだ」
「でも……」
「俺の彼女、紹介するから~♪」
「じゃあ……挨拶だけね」興味津々。
「うん♪」曲空。
――中庭。
「そろそろ、おかわり いかがですか~♪」
「お邪魔しま~す」
「ソラさん、ごきげんよう」ビミョ~な空気……
「ラン、友達のソラちゃん♪
俺をフッたヒト~♪」きゃははっ♪
「え……」一瞬 固まり……ぷっ♪ あはははっ♪
「サクラくん! その言い方ってないよぉ~
サクラくんがダメなんじゃなくて、王室がムリなんだってば!」
「あ、ソレ解る~♪」笑ったままの虹藍。
「ランまでぇ」
「私は、そこに生まれちゃったから仕方ないけど、『普通』って憧れるわ♪」
「私『普通』を捨てられなくて……
それにサクラくんって、カッコよすぎて……
なんか、遥か彼方~な感じなんだもん。
そもそも王子様なんて、私には別世界。
おとぎ話の架空の生き物だよ~」
「なんか解る~
確かに『カッコよすぎ』よね♪」
皆さん、ハラハラして見ていたが、二人は、なんだか意気投合して盛り上がっている。
「サクラ様、上手く仰ったわね」
「どうなる事かと思ったわよ~」
「人徳ですよね。あ……竜徳ですか?」
「竜徳って……あるのかしら?」
「あの……全然 違う話なんですが――」
「「「何?♪」」」
「サクラ様って、いつもあのように移動――」
「してるわ。ハク様もするわよ♪」
「やっちゃったぁ」手で顔を覆った。
「ワカナさん、何があったの!?」
「ちょっと、失敗……夢だと思って――」
「何?」「それで?」
「アカ様に……どうしよう! 私……」あああ~
そして、こっちはこっちで盛り上がった。
夕刻になっても、おしゃべりは止まる所を知らず――
「女王様って、お堅くて威張ってるのかと思ってた~」
「ミカンさんっ!」
「ですよね~
だから私、結婚なんて諦めてたんです」
「その若さで!?」一斉!
「だって六年間、一度もお話が無かったのよ。
一度もよ! そりゃ諦めるわよ~」
「全てはサクラ様に巡り会う為の道だったのね~♪ 素敵ね~♪」
「サクラ様が、お城に伺ったのがお出会いですの?」
「いえ……即位直後に、無理矢理 人界に視察に行って、魔物に襲われた所を助けて頂いたんです」
恥ずかしくて俯く。
「魔物に囲まれて窮地!
そこに颯爽と現れる、美しい鱗の王子様!
ますます素敵よねっ♪」
サクラでも、これは恥ずかし過ぎると俯く。
「で、カッコよく倒しちゃったんでしょ♪」
「……はい」ぽっ
「そして月日は流れ、予期せぬ再会!
これも本にしたら売れるわよ♪」
「そぉいえば、リリスさん、あの本は?」
「はい、好評だそうです。
昨日、クロ様から、第五刷のお知らせを頂きました。
絵本は、もう第七刷が出ているそうです」
「凄いわね~」
「どんな本なの?」
「あとであげる~♪」
「私も、絵本 見てみたいわ」
「じゃ、持って来る~♪」消えて――
――戻る。「これ♪」ドサッ
手に手に読み始める。
「サクラくん、私も貰っていい?」
「もっちろ~ん♪」
「じゃ、そろそろ帰るね。お誘い、ありがとう」
「送るよ」握手して消え、
すぐに「ラン♪ ただいまっ♪」戻った。
クロと姫が現れ、
「サクラ、ちょっと教え――お邪魔しましたっ」
逃げようとしたが――
「クロ様も、お座りになって♪」
「静香様、おめでとうございます」
「お茶 淹れるね~♪」
引っ張り込まれた。
(サクラ、もう皆の所を回ったのかい?)
(今、お茶してる~♪ ルリ姉も来てよ)
(そういうのは苦手だ)
(でも挨拶はしなきゃ、ねっ)
(挨拶か……やむを得ん)
ルリが現れた。「サクラ様、挨拶だけ――」
「はい、お茶♪ 座って~♪」
「あら♪」「アオ様?」「ルリ姉だよ♪」
サクラが説明し、ルリは暫く所在なさげにしていたが、やがて慣れ、和やかな光景を眺め始めた。
「ミカン、打ち合わせの続きは、こっちって――」
「キン兄、ハク兄、座って~♪」お茶係♪
アオが女姿のまま、フジを連れて来た。
リリスが駆け寄る。
「もう大丈夫そうだからね」
クロが、アカを掴んで現れた。
ワカナがボタンの後ろに隠れる。
「おい、ケンカ中か?」アカを睨む。
「いや、何も無いが……
誤解されるだろ、どうしたんだ?」
アカが焦っている。
「ワカナさん、仰ってくださらないのよ~
アカ様、何があったのですか?」
「何も無――あ……うむ……何も無い」
「絶対イイコトあったのよ♪」
「確定ですわね」
「仲良くされるのは素敵な事ですよ」
「そうよね~♪」
女性達は揃って、にこにことワカナを見る。
そしてアカを見る。
「お幸せに~♪」一斉。
「皆様も、です」ルリが微笑む。
揃って赤面。
「こりゃいい♪ 流石だなっ」あははっ♪
「今のはアオなのか? ルリ殿なのか?」
「さぁな♪」アオとルリ。
(皆、明日は人界に戻るから、今宵は大いに楽しもう。
せっかく揃ったんだからね)
兄弟は顔を上げ、そして笑顔で頷いた。
黒「今回イカツク長いんじゃねぇか?」
藤「また2回分 繋げたそうですよ」
桜「俺が1回だけ待ってもらったから~」
青「それにしても、いつもなら少し削るのに
ほぼそのまま繋げたらしいよ」
黒「凜らしいなっ♪」
凜「皆で何かヒドイ事 言ってなぁい?
地上に話を戻さなきゃ、って
思っただけなんだけど~」
黒「絡まれるぞ! 逃げろ!」
藤「失礼します!」
桜「凜♪ またね~♪」
青「また俺の屋敷かい?」
桜「うんっ♪ せ~のっ♪」




