試練山8-助けたいのじゃ!
場面うろうろも、これで落ち着きます。
あ、いや……そうでもないかも……
♯♯ 試練の山 ♯♯
「姫様、最後の試練で御座います。
荒地から森を抜けた所が、最終地で御座います」
「また、とにかく着けばよいのじゃな?」
「はい。その通りで御座いますぅ」
「あい解った! いざっ!!」
姫は荒地へと踏み込んだ。
禍々しい気が、空を覆う。
「魔物か……」
闇黒色の魔物が、無数に飛来していた。
ワラワとて、助けられるものなら助けたい!
集縮の水筒を取り出し、栓を抜く。
溢れる聖輝水を竜巻に乗せ、上方に放った。
魔物達が色を戻し、落ちる。
このままでは地に激突じゃ!
地に風を当て、巻き上げた。
そして風竜と炎竜を喚んだ。
「落ちてくる者を助けよ!」
三本目の水筒が空になった時、魔物の飛来は止み、空に居た魔物達は退却した。
姫は、召喚竜達が地へと降ろした者達に、駆け寄った。
「皆の衆! この水を飲――」
降りた者達は、皆 微笑みながら消えた。
「そぅじゃった……試練じゃったな」
ホッとして、また進み始めた。
少し進むと、俄に雲が垂れ込め、稲光が走り、大粒の雹が襲いかかるかのように降り、地に落ちては転がるので、走る事も儘ならなくなった。
また雷かっ!
しかし、前より遥かに強力じゃ。
しかも雹とは……
これでは思うよぅに動けぬではないか!
竜を喚び、足に掴まり飛んでいると、降り注ぐ雹で炎が消され、突風に煽られ、風も打ち消された。
地に落ち、転がっていると、雷が狙いを定めて迫った来た!
手を突き、転がる方向を変えて雷を避けた。
雷は、すぐ側の木に引き寄せられるかのように落ち、燃え上がった炎が拡がり、囲まれてしまった。
消して進むか……それとも跳ぶか……
立ち上がってみたが、転がる雹で足元が おぼつかなく、膝を突いた。
次の雷が眼前に迫り、視界が真っ白になる!
――が、
衝撃は無く――
「およ?」立ち上がる。
ここは……森???
「姫様ぁ♪ こんなに早く!
流石で御座いますぅ♪」
「ミズチ……」森……の出口か?
「姫様♪ 早く こちらにいらしてくださいませ♪」
爽蛇が嬉しそうに手招きしている。
もしや……咄嗟に曲空したのか!?
爽蛇に向かって駆けて行く。
「これでよいのかのぅ……」森から出る。
「合格で御座いますよねっ♪ 審判様♪」
「はい。技も術も、ご自由に」
竜が現れ、微笑んだ。
「クロ様は、本当に素晴らしき方と、ご縁を得られましたな」
もうひとり、竜が現れ微笑んだ。
「その声は案内人殿!
お世話になり申した」ぺこり
「いえいえ、あれしきの事。
後進に伝えるべき素晴らしい戦い振りでございました」
「お褒めに与り、光栄至極に御座いまする」
「中橘 静香様、合格証でございます」
「更なる精進を重ねる所存にて、有り難く頂戴仕りまする」深々と礼!
♯♯♯
試練の山の領域を去ったとたん――
(姫! 無事かっ!?)
(クロ~、無事に決まっておろぅ?)
(爽蛇に伝えろ。薫風の祠に来いってな)
(すぐ行くからの)
「ミズチ、ワラワは曲空を覚えたぞ♪」
「それは、難しい技なのでは――」
クロの気、掴んだ! 曲空!
――薫風の祠。
「クロ♪ 只今、戻ったぞ♪」胸に飛び込む。
「姫……今、曲空したのか!?」
「したぞ♪ それと、ほれ♪」合格証を出す。
「姫なら当然だけど……やっぱ よくやったな♪」
にこにこなでなで♪
「あ、おい、爽蛇。どこ行くんだよ。
ちょっと手伝ってくれよ」
「お邪魔かと――」
「何 言ってんだよ。
来てくれ。姫も」姫の手を引いてスタスタ。
「何をするのじゃ?」
「アオが奥さんと交互に攻撃する練習してたんだよ」
「アオの奥さんじゃと!?」
「アオ様に奥様で御座いますかっ!?」
「あ……知らなかったのか……
おいっ! 爽蛇っ!!」尻尾 掴む!
「待てって! アオの居場所 分かるのかよ」
「あ……深蒼の祠では?」
「今、城に居るよ。
で、オレ達も練習したいんだよ。
爽蛇、特別 頑丈なマト、作ってくれねぇか?」
「それでしたら、丁度良い竜宝が御座いますので、少々お待ちください」
「どこにあるんだ?」
「長老の山の蔵に――」爽蛇を掴んで曲空。
「便利で御座いますねぇ」蔵に入る。
出て来た。「こちらで御座――」また曲空。
「――います……では」ぽいっ
頑丈そうな壁が聳え立ち、半分程 地に潜った。
それでも木々より遥か上まで壁が有る。
「これでしたら大丈夫かと存じますよ」
「ありがとな、爽蛇♪
引き止めちまって、すまなかったな。
アオの所に行っていいぞ」
「待て! ミズチ、アオとサクラがこちらに来ると言ぅておる!」
「姫様、どうやってお話ししていらっしゃるので御座いますか?」
「オレと同じなんだ」照れる。
「然様で御座いますか……」
アオとサクラと虹藍が現れた。
「ラン、クロ兄と静香姫だよ。
静香姫は人界の姫だから、クロ兄は人界で殿になるんだ」
「はじめまして」可愛くお辞儀した。
「愛らしいのぅ。
サクラのお相手なのじゃな?」
「うん。魔竜王国の女王なんだ」
「ならば、サクラは魔界で王になるのか?」
「はい。そう願っております」頬を染める。
「でね、クロ兄。
ランは本当に、ひとりで統治してるんだよ。
だから俺、婚約だけは急ぎたいんだ。
婚儀は魔王を倒してからって思ってるけどね。
それで今日は、ランと父上を会わせたんだ。
だいたいの予定も決めた。
アオ兄の婚約から婚儀もね。
クロ兄、どぉするの?
クロ兄も婿入りだから、俺と同じでしょ?
一緒にしない?」
「サクラ……お前いつの間に、そこまで……」
「うん、確かに急に展開したかもだけど、俺なりに、ちゃんと考えてるから。
俺なんかに、どれだけ出来るのかなんて、力も自信も、なんにもないけど、それでもランを護りたいし、助けたいんだ。
それには、堂々と傍にいられるようにしなきゃならない。
それだけなんだよ」
虹藍が嬉しそうに、更に頬を染める。
「そっか……堂々と傍にいられる立場か……
ん。ありがとな、サクラ。
オレも決めた!
姫、オレで本っっ当に、いいのか?」
「クロ……真か?
中の国を担ぅてくれるのか?
ワラワに異存などあるものか!
どうか、宜しくお願い申し上げる!」
「姫、良かったね~♪」にこにこ♪
「サクラのおかげじゃ。
誠に感謝致すぞ」うるうる
「あ! 姫、さっきの合格証、見せてくれ」
「これか?」
「ああ。中橘 黒之介、か……」
「名など、殿になれば変えるのが常じゃ。
好きに名乗ればよいぞ」
「そうなのか?
でも、このままでも悪くない」にこっ
「じゃ、俺達は他の兄貴達トコに挨拶しに行くからね~」
サクラと虹藍は消えた。
「爽蛇、妻を紹介したいから、深蒼の祠に行こう」
アオと爽蛇も消えた。
「姫、オレ……どうしても心配はしてしまうけど、姫が やりたい事を反対なんてしねぇからな。
もう、黙って消えるなよな」
「うむ。これからは真っ先に申すからの。
今日の事は、許して頂けるか?」
「許すも何も、怒ってもねぇから」ぎゅっ
「本物のクロじゃ……」包まれて呟く。
「何か言ったか?」
「ワラワは幸せじゃ」上を向いて、にっこり。
「そうだな……幸せだな」微笑み返す。
「静香……」
「その名は――」
「ちゃんと姫の名だ。いい名だよ」
姫は恥ずかしげに俯いた。
「静香、これから、もっとずっと幸せにしてやるからな」
姫の顎を掬い、顔を寄せた。
凜「サクラの試練は、どんなだったの?」
桜「知らな~い」
凜「え? 受けたんでしょ?」
桜「ぜ~んぶ曲空したから~♪」
凜「岩窟は、どうやって終点へ?」
桜「神眼で探したよ。とーぜんでしょ」
凜「あ……そ……
最短記録は、そうして生まれたのね……」
桜「うんっ♪
兄貴達は、ちゃんと受けたらしいけど~
ハク兄とクロ兄とアカ兄は
『試練の山』壊しちゃったって~
ハク兄が上りの洞穴で暴れて、
山の上半分が爆発しちゃって~
アオ兄は後回しにせざるを得なかった
って言ってた~♪
クロ兄は最終の場所、ぜ~んぶ
おっきな穴に変えちゃって~
アカ兄も山頂ふっとばしたって♪
水竜に襲われて、火球ドーン! って♪
凜、聞いてる?」
凜「あ……うん。
それで、アオは受けるの遅くなって、
サクラは忘れてたんだよね?」
桜「うん。アオ兄が受けた時、一緒に受ければ
よかったんだけど~
他の試練とか試験とか、
ぜ~んぶ合格しなきゃダメだったからね~」
凜「人界に行くって、そんなに大変なんだね」
桜「竜にとっては最前線だからね~」
凜「あ……その最前線に戻さねばっ!」
桜「あ~っ! 1回だけ待ってぇ!」




