試練山6-算術の壁は嫌じゃ
本編と『ぱられる』とでは、多少の前後があります。
何の?
――修得とか出来事とか色々です。
♯♯ 試練の山 ♯♯
「また行き止まりじゃ……」
右へ右へと進んでいると、壁で塞がっている場所に着いた。
しかも今度は風が吹いていない。
正面の壁には、文字と丸が描かれており、その丸は凸状に壁から出ていた。
「読めぬ……如何したものか……」
『壁の『人』の突起を押しなさい』
「誰じゃ!?」
『案内人です。『人』を押しなさい』
壁には『人』と書かれた丸と、何かの紋様が描かれた丸が、並んで出っ張っている。
『人』を押してみると、文字が人界のものに変わった。
『丸の中に一から九の数字を、縦・横・斜め全て和が十五になるよう配置した時、
五は、どこに入るか』
丸は縦横三列三段に並んでいる。
正解を押せば、開くのじゃな……
「真ん中じゃ♪」ぽち♪
壁が地響きを立てながら上がった。
「子供騙しじゃ♪」弾んで進む。
また壁――文字と丸が並んでいる。
が、今度は丸の中にも文字が有る。
『人』の丸を押す。
『九百九十九の烏が、九百九十九の山で、九百九十九回鳴いた時、
全部で何回 鳴いたのかを算出し、一の位の数字を押せ』
「一の位……ならば簡単じゃ♪」『九』を ぽち。
壁が上がる。
三度目の壁――
『鶴と亀が合わせて十三匹いる。
足の数の和が三十八本となる時、亀は何匹か』
また数字を押すのじゃな……
「亀は四本じゃろ? 鶴は二本じゃから――」
ぶつぶつ言いながら、地面に書き始めた。
ぶつぶつぶつ……
クロも、これを解いたのかのぅ……
違う道を通ったのやもしれぬ……
という事は、この道は間違いであろぅか?
ぐごごご……ズズーン!
振り返ると、さっき上がった壁が下りていた。
ズズズズズ……迫って来る!
ぐずぐずしておると挟まれるのか!?
ズズズズズ……
そぅか!
迫った壁が背中に触れた時、姫は『六』を押した。
前の壁が上がった。
「間一髪じゃったのぅ……もぅ算術は嫌じゃ」
その願いが通じたのか、算術の壁は、その先には現れなかった。
その代わりに現れたのは――
「紫苑、珊瑚、何故ここに居るのじゃ?」
二人は返事もせず、いきなり氷の槍を放った。
姫が跳び退ったのを追うように、次々と氷の槍が地面に突き刺さる!
「ワラワじゃ! 分からぬのか!?」
問答無用とばかりに、今度は雷が襲う!
違う! 紫苑と珊瑚の気ではない!
しかし術は、まさしく二人のもの。
ならば本気で攻撃せねばなるまい!
姫は火と風を駆使して応戦した。
じゃが……これでは埒が明かぬ。
術で、この二人に勝とうなどと
思ってはならぬな。
この二人よりも勝っているのは
剣しかなかろぅよ!
姫は偽紫苑に向かって跳び、振り被った。
見事に袈裟懸け!
偽紫苑が、かき消えた。
偽珊瑚には返す刀で下から斬り上げた!
偽珊瑚も消えた。
ふぅ~っと、大きく息を吐き、
「偽りと解っておっても刃を向けるのはツラいのぅ……」呟いた。
更に進むと、外に開けた。
「まだまだ高いのぅ」額に手を当て眺める。
はて、道は何処じゃ?
下を見ると、綱が下に延びていた。
背後に辿ると、岩に括りつけられている。
綱を引いてみると、しっかりしているので、綱を頼りに山肌を下りて行った。
そして次の穴に着いた。
誰か居るな……
音を立てぬよう慎重に進む。
「姫~♪」
「サクラか……」しかし……
「うん♪ コレあげる♪」
サクラは光の球を大きくしながら近寄り、スポッと姫に被せた。
「これは? もしや!」
「うん♪ 相殺~♪」きゃははっ♪
サクラが奥に向かって駆けて行き、入れ替わりにアオが近付いて来た。
「アオ! サクラのイタズラじゃ!
早ぅ出してくれ!」
「うん。サクラに捕まえて貰ったんだよ」
いつものように微笑みながら、そう言い、そして剣を構えた。
この気……また偽りか……
姫も慌てて構えたが、気を込めようとしても全て球に吸い取られて溜まらない。
光が円弧となり、次々と飛んで来る!
偽アオの光は、吸い取られる事無く球に入った。
刃で弾こうとしたが、姫の方が弾き飛ばされ、球の壁に磔にされ、直撃を受けた。
ベッタリ接すると、普通の力すら
吸い取られてしまうのじゃな……
しかし……クロは破ったのぅ……
吸い取りきれぬ程の力でなら破れるのか?
水!?
偽アオから放たれた激流が、瞬く間に球を満たしていく。
大きな力など、この状態では……
ならば小さな力でなら……
クロに出来る事ならば、
ワラワにも出来る筈!
目の前の偽アオの気を掴む。
この偽者に曲空じゃ!!
水圧から解放された瞬間、何かに おもいっきり ぶつかった!
勢いそのまま、ぶつかった何かに馬乗りになる。
弾力? 偽アオの腹の上か♪
「偽者、覚悟っ!」
至近距離で風の波動を放った。
偽アオが消えた。
この調子で偽者が現れるならば、いずれ……
いや、姿や技をいくら真似よぅと偽者じゃ!
気を引き締め、前を睨み、進み始めた。
♯♯ 深蒼の祠 ♯♯
「父上~♪」
深蒼の祠の庭でギンとアオが話していると、サクラが現れ、飛んで来た。
「サクラもアンズにならんか?」
「父上ぇ」ぶぅ
(サクラが女性になるとアンズなのだな?)
(察しがいいな。その通りだよ)
(他の御兄弟も女性になるのか?)
(いや、サクラと俺だけだよ)
「父上、これを城に置いて欲しいんです」
サクラは鏡を差し出した。
「城がダメなら、この祠でもかまいませんが」
「何だ? この鏡は」
「双掌鏡という竜宝で、天界と魔界を繋ぐ通路なんです」
「この向こうは魔界なのかい!?」
「うん。魔界と言っても地上界にしか繋がらないから、魔王がいる地下界には行けないんだけどね」
「ああ、そうか。
魔竜王国は地上魔界なんだね?」
「うん♪
父上、今、この向こうは魔竜王城です」
「そうか。ならば、こちらも城に置かねばな」
「ありがとうございます、父上」
「移動しよう。
アオ――いや、ルリ殿も一緒に来なさい」
「俺じゃないんですね?」言い直してまで……
「同じではないか、アオ」クスクス♪
「アオ兄、ルリ姉、行こっ♪」
ギンとアオの手を取り、「せ~のっ♪」
――天竜王城、ギンの執務室。
「サクラ、許可を取っていないんだから、アンズにならないといけないよ」
「そっか~
だからアオ兄、ずっとルリ姉でいるんだね」
アンズになる。
ギンが執事長を呼んだ。
「この二人の為の部屋を用意してくれ。
アオの婚約者となる、エレドラグーナ家のルリ殿と、その妹君のアンズ殿だ」
「畏まりました」
恭しく一礼し、執事長が去った。
「その鏡は二人の部屋に置いてくれるか?
万が一の為に、結界も頼む」
「はい、ギン王陛下」
執事長が戻って来た。
「ご用意、整いまして御座います」
執事長に案内された部屋は、かなり豪華で――
「居場所が掴めぬ……」ルリが呟いた。
「ギン王陛下、このような素敵なお部屋、勿体無き御心遣いに感謝の申し上げようも御座いません」
アオが代わって言った。
執事長は満足気に一礼し、扉を閉めた。
(アオ……流石、王子だな)
(ルリも、そのうち慣れるよ)
(いや……無理だな)
サクラは鏡を壁に掛け、首を突っ込んで、
「ラン、来て♪」鏡の向こうに手を差し伸べた。
サクラの手を取り、魔竜女王が現れた。
「父上、虹藍女王陛下です」
「ギン王陛下、正式な謁見を申し込まず、このような形で失礼致します」
「いえ、こちらこそ、このような姿で申し訳ございません」サクラを睨む。
「父上、ラン、この場は非公式だから、王と女王は忘れて、ねっ♪」
「それがいい」「はい♪」
和やかな話が始まった。
これで息子達は皆、結婚が決まったのだな……
しみじみ思うギンであった。
凜「あ、アオ~!」
?「ん?」
凜「もしかして、ルリさん?」
瑠「そうだが。アオは眠っている。
用ならば起こすが――」
凜「いえ、寝てていいです。
ルリさんはサクラだけ敬称略なんですね?」
瑠「『様』を付けると、
サクラが返事してくれないからな。
仕方なくだ」
凜「お部屋の居心地は?
もう慣れましたか?」
瑠「いや……」
凜「妃修行は?
アオの記憶で勉強してるんですよね?」
瑠「覚える事に難は無い。
しかし……実行は……」
凜「……でしょうね~」
瑠「何だ?」
凜「いえ、何もっ!
アオの中に居る事については?」
瑠「何も問題は無い。
アオが気を遣ってくれているからな」
凜「サラッと惚気られてしまった……」




