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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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双青輝3-アオとルリ③

 前回まで:サクラは、キンの力を借り、

      蒼牙からルリの記憶を拾っています。


 特級修練卒業から五年後――


アオは、天界の王子や皇子が集まる会議の為、キンに付いて麒麟国を訪れた帰り、自国に入った所で、魔獣と戦闘している部隊を発見した。


「キン兄さん!」「加勢するぞ!」「はい!」


漆黒の炎を上げる巨大な魔獣が六体。


二人は手近な一体を蹴散らし、二手に別れた。


アオが次の魔獣に水竜を放ち、粉砕した時――


「アオ!? 何故ここに!?」

青い煌めきが飛んで来た。


「通りすがりだ。

こいつらは火だ。ルリは下がってろ!」


「問題無い。炎を水に変えるだけだ」ニヤリ


「そこまで出来るようになったか。

ならば行くぞっ!」


離れていた時を感じさせない変わらぬ呼吸で、双青輝は活き活きと舞うように戦った。

最後の一体は、キンと三人で止めを刺した。


「噂に聞く『双青輝』とは、二人の事か?」

キンが寄って来た。二人が照れながら頷く。


「アオ、離れているのは勿体無いな。

補佐として近くに置いたらどうだ?」


ルリの後ろで、アオが口に指を立て慌てている。


「もしや、貴方様は、キン王子殿下では!?」

ルリが宙で跪き、頭を下げ、アオも早く! と、下から睨む。


「畏まらなくていい。

アオは私の専属医であり、護衛だ。

双青輝が揃ってくれるならば心強い。

共に、どうだろうか?」


二人から喜びが溢れ出す。


「はっ! 有り難き御言葉、謹みまして――」


その時、新たな魔獣が、十数体 現れた。


兵士達が再び展開する。


三人も急ぎ向かった。


「今度は水だぞ! アオ!」


「問題無い。俺は光も出せる」にこり


「特殊ときたか。流石だな。

だが、私も今度は雷に変える」ニヤリ


「流石、ルリだな」嬉しくて仕方ない。


鮮やかに次々と撃破していた時、

「あれは!」ルリが離れて行った。


「ルリ! 何処へ!?」アオが追う。


ルリの向かう先には、立ち竦む若い兵士達が居た。


「初陣で突っ込むなどと!」ルリが斬り込む。


「後ろ!!」アオが蒼牙を放った。


蒼牙が盾となり、魔獣が放った激流を伴う黒い波動を止めた。


若い兵士達が、ルリに下方に突き飛ばされる。

「全力で逃げろ!!」

ルリの怒号で慌てて逃げ出す。


アオが逃げる兵士達を庇っている間に、新たな魔獣が現れ、ルリが魔獣に囲まれた。


「あっ!!」「ルリ!?」


壁のように立ち塞がる闇黒の魔獣の向こうで、ルリの悲鳴が宙を斬り裂いた。


朱牙が弾け飛び、砕け散る。


アオは、ルリを囲んでいる魔獣達を、光の波動で粉砕しながら突進した。


「蒼牙!! ルリを護れ!!」

手に戻っていた蒼牙を、再び光に乗せ放った。


眼前を遮る魔獣を消し去った刹那、他の魔獣が放った闇黒の波動の槍が、蒼牙を撃ち抜き砕いて、ルリを背から貫いた!


「ルリ!!!」

アオの怒りの咆哮が全ての音を飲込み、一瞬の爆発的な閃光が視界を真っ白く変え、全ての魔獣を包み、消し去った。


「ルリ! すぐ治す! 少しの我慢だ!!」


ルリの背には、直前に受けた大きな傷も有った。

アオは全力で治癒の光を高め、当て続けた。


「死ぬな! やっと一緒に居られるんだ……

これからなんだぞ! ルリ!!」


「しくじったな……私とした事が……」


「今は喋るな。後で、ゆっくり聞く。

後でな……だから……

俺を置いて逝くな!! ルリ!!」


「共に戦えて……幸せだったぞ……」


「言うな……そんな事……」


「ありがとう……アオ……」


「ルリ!? 逝くな!! ルリ!!!」



悲しみの咆哮が、長く……長く、轟く。



 アオ、そう悲しむな。

 誰しも一度は死なねばならぬ。

 愛した男の腕の中などと

 私らしくはないが……

 悪くは……ない……


 いや……最高に……幸せだ……


 私のような、出来損ないの女ではなく、

 可愛い女と……幸せになれよ……アオ……


 ありがとう……アオ…………



――――――



 そこで流れ込む記憶は途絶えた。


 確かに受け取ったよ。

 蒼牙とルリさんの記憶……


 蒼牙が砕かれた後の記憶は、

 ルリさんのだから……

 今なら、ルリさん自身の記憶に触れてる

 って事だよね。


 だったら、アオ兄と出会う前の記憶も、

 卒業後の記憶も、ちゃんと中継しなきゃ。


 ルリさん、アオ兄だと思って

 俺に心を開いてね……


 ……ありがとう。

 ね? おんなじでしょ?

 俺はアオ兄で、アオ兄は俺だから――



♯♯♯



 サクラは涙を拭い、ゆっくりと顔を上げた。


「サクラ……大丈夫なのか?」


「うん……だいじょぶ。心配しないで」


「そうか……

再生した蒼牙と、元の蒼牙を合わせた時、おそらく、ルリ殿も目覚める。

混乱するだろうから、その時は頼んだぞ」


「うん」


「記憶も――」


「任せといて。

だから受け入れたんだよ」弱々しく微笑む。


「そうだな」

キンはサクラの顔をじっと見た。


「サクラにも護りたい相手がいるのだな?」


「……うん」


「そうか……護り抜けよ」


サクラは決意を新たに大きく頷いた。




♯♯ 赤虎工房 ♯♯


「アカ兄、持って来たよ」


「うむ。では、蒼牙を重ねる。

卓の上にある物を身に着けろ」


黒い長衣、長手袋に仮面を着けた二人が、光を遮断した部屋に入る。


「この鏡――恍恒大鏡、大きくなった?」


「ああ、作り直した。何かと必要だからな」


闇の中で、アカが鏡に向かい、再生蒼牙を掲げ、術を唱える。


青く輝く再生蒼牙を、鏡の中に差し込んだ。


アカが術を唱え続けながら、体をずらす。

(蒼牙を掲げ、再生蒼牙に重ねろ)


サクラは蒼牙を掲げ、慎重に蒼牙の鏡像を再生蒼牙に重ねた。


(時短しろ)


サクラも術を唱え始める。


桜色の光が、サクラの手から流れ、蒼牙を包む。


蒼牙の欠片ひとつひとつが、青い光の粒に変わり、桜色の尾を引きながら、次々と鏡の中の再生蒼牙に吸い込まれていった。


全ての光の粒が再生蒼牙に吸い込まれた時、一体となった蒼牙は、一際 強く輝いた。


アカが鏡に両手を差し込み、蒼牙を取り出す。


「あとは任せた」


アカは蒼牙を渡し、サクラの肩に掌を当て、そう言うと、暗室から出て行った。




 蒼牙が目覚めるのには、

 もう少し力が必要だね。


 ちゃんと起こしてあげるからね。


サクラは蒼牙を撫でた。


 キン兄からも、記憶が少しだけ

 流れてきてしまったけど……


 でも、おかげで、アオ兄の悲しみは

 そっちに流れてくれたから

 俺は無事だったみたい。


 直後のアオ兄の事も分かったから、

 絶対、ちゃんとルリさんを復活させるよ。

 アオ兄、もう少しだけ待っててね。



 ルリさんの記憶……ちゃんと戻ってね……


 でも……


 軍人学校に入るまでの記憶は

 全部ぼやけていて……

 いっぱい途切れていて……


 特に、ご両親の姿は殆ど見えなくて……

 声も聞き取れなかった……


 まるで封印されてるみたいだった。


 このまま流してもいいのかな……

 ツラくて思い出したくないのかな……


 お祖父様も、お祖母様も、ご両親も……

 ルリさんを護ろうとして

 みんな目の前で亡くなったんだもんね……

 当然だよね……


 だけど……

 大好きな人達の事、無くせないよね。


 うん、そうだよね。

 このままの記憶を流そう!


サクラは術を唱え、蒼牙に光を当てた。





凜「サクラ……本当に大丈夫?」


桜「まぁね。

  どぉしても俺、アオ兄と気持ち

  同化しちゃうから……

  ちょっと沈んじゃったけど、

  もぉだいじょぶだよ」


凜「この後のアオって……」


桜「俺が二十歳(二人歳)、アオ兄が百十五歳(十一人歳半)の誕生日に、

  アオ兄は目覚めたんだ。それからずっと

  俺とヒスイとスミレと一緒にいたよ。


  いつも静かに本読んでるか、笛吹いてた。

  俺が大学院を出てからは、

  一緒に竜宝とか術とか、いろいろ

  研究してたんだ。


  いつも穏やかに微笑んでて……

  でも、寂しそうで……


  やっと全部わかったから、

  ちゃんと幸せになってもらわなきゃ。


  調べなきゃなんない事あるから、

  今日は、もぉついて来ないでね~」曲空。


凜「行っちゃった……

  ホント、いい子なんだから……」


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