双青輝1-アオとルリ①
前回まで:サクラは蒼牙からルリの記憶を拾い、
不安定に込められているルリに
流そうと決めました。
サクラの心に、蒼牙の記憶が流れ込む――
アオ三十歳の誕生日。
祖父が差し出した蒼牙を、幼いアオが受け取った。
そこから蒼牙は、ずっとアオの背に有り、アオの手に有った。
ハクと共に修練をし、他の兄弟と手合わせをし、襲って来た魔物とも戦い――
そんな記憶が、次々と流れ込む。
六十歳…………七十歳…………
そろそろ、ルリさんに届くかな?
あっ、気配が……ゆっくり見なきゃ……
――――――
八十二歳になったアオは、修学をサッサと終え、その報告の為、長老の山を訪れた。
天竜王族にとっての修学とは、一般の高等学校にて学ぶ義務教育である。
一般の入学は、百五十歳であるが、王族の場合は、百歳から入学可能となり、卒業するには、十年以上の在学期間が必要とされていた。
アオは、その修学前に、入学年齢など無意味であると示す為、先に医学博士号を取り、修学開始年齢を引き下げ、八十二歳で入学した。
半月程、在席はしていたが、その日数の殆どを、卒業条件を『在学期間』ではなく、『課題試験合格』に変更する為に費やしており、実質 登校したのは、入学・課題受験・卒業の三日間だけであった。
「そんなに慌てて卒業せんでも……
同世代と接する良い機会じゃというのに」
シロが呆れている。
「同世代でもありませんし」
「まぁ、そうじゃが……
今日からの修練は、特級じゃからの。
心して掛かれよ」
「はい。行って参ります」
修練とは、天竜王軍の軍人学校での実技訓練である。
王族は、上級までは必須。
特級は希望すれば受ける事が出来る。
修学は貴族の子も多い為、王族である事を隠しようも無いが、
修練は、王族である事を伏せて入学する事が慣習となっている。
アオは、上級修練卒業後、王族会解体に尽力する為、修練は休学していた。
そこで、特級修練場で教官に腕を試される事となった。
試された結果――
「第一班に入れ。班長はルリ=カムルだ」
特級修練場では、腕の立つ者ほど数字の小さい班に属する事になり、第五班までは出撃要請も掛かる。
案内役の蛟が、ルリと思しき青竜と言葉を交わし、その青竜が近付いて来た。
「班長決めだ。全員と手合わせ願おう」
女性!? 第一班長が!?
流石のアオも驚いたが、圧倒的な男の世界で、凛とした輝きを放つルリに、敬意と共に不思議な嬉しさを感じていた。
「方式は、上級までと同じだ。
班員とは、各自の得意武器にて、副長と私とは、剣・槍・戟・弓・弩の五武器にて勝負を行い、班内における位置を決める。
よろしいか?」
「はい」
班員との勝負は、全て圧勝。
副長との勝負も、難なく全勝した。
「女だからとて、手加減無用ぞ!」
ルリが剣を手に立ち上がった。
アオは蒼牙を構えた。
素早い!
副長までとは桁違いに強い!
的確な太刀筋に、圧倒されそうになる。
手加減なんて出来そうにない!
蒼牙を持ち直したアオの眼差しが変わる。
得意な剣で本気を出さねばならなかったが、先ずは一勝した。
槍も互角に戦ったが、接戦の末、ルリが勝った。
戟は、ルリが僅かに よろけた時、つい、手を差し伸べ、支えてしまい、その隙を突かれてしまった。
「女だと思うな!」鋭く睨まれた。
弓はアオが圧勝。
おかしい……もしや、戟の時に怪我を?
アオの視線に、ルリが気付いた。
「これは戦いだ。情けなど無用!」
「いや。今、要請が掛かれば、共に戦う仲間だ。
主戦力の貴女が万全でなくて、どうする?」
「そうなれば、その時、医者に診せる。
今は、如何な状態であろうが、考慮に値せぬ。
さっさと勝負せよ!」
「俺は医者だ。放ってはおけん。
そのような意地で、悪化させたら、皆にも迷惑だと思わないか?
すぐに終わる。診させろ」
睨み合う二人に、審判をしていた副長が割って入った。
「ここは、アオの言う事が正しいと思う。
双方、一時中断だ!」
「治るまで再開する気はない。診させろ!」
アオは強引にルリを座らせると、不満気なルリの足に掌を翳した。
「こっちか……中指、骨折――が、治りかけている?
怪我を治さずに鍛練などして……
後遺症が残ったら、どうする気だ?
手を出せ。さっきのは、こっちか……
無意識に足を庇い、無理な体勢となったから、捻ったな」
治癒の光を当て、どちらも完治させた。
「ありがとう……だが、後悔するぞ」
「勝ち負けの事か?
そんな事より、治療しない方が後悔するさ。
では、再開――あ、弓の試合、やり直すか?」
「その必要は無い。弩で勝つまでだ」ニヤリ
「そう言うと思ったよ」にこっ
「再開するぞ」「ああ」
小弩の試合が進み、この試合での五本の矢のうち、それぞれ四本の矢が、的の中央の円内に刺さっている。
ルリが弩を構える。
緊張の中、放たれた矢は、的の中央の円周上に刺さった。
ルリが不満気に顔をしかめる。
続いて、アオが弩を構える。
放った矢は、既に刺さっていた矢に弾かれ、地面に落ちた。
「俺の負けだ」にっこり
ルリがアオの的に向かい、中央に刺さっていた矢を抜き取った。
「この矢に当たって落ちたのだから、最後の矢は、中央に当たっている。
他の矢も中央に集まっているのだから、私の負けだ」
ルリは副長に、その矢を見せた。
「確かに、当たって割れている。
しかし、当の矢は刺さっていない……」
規則本を捲る。
「私の方がバラけている。一目瞭然だ。
だから私の負けだ」
「刺さらなければ意味がない。俺の負けだ」
また睨み合う。
立ち会っていた教官が、とうとう声を発した。
「得点は同じだ。この試合、引き分けだ!
班長は、引き続きルリ、副長がアオだ」
「宜しくお願いします」手を差し出した。
「よろしく頼む、アオ」握り返した。
爽やかな笑みを浮かべる二人に、班員達の温かい賞賛の拍手が湧いた。
「では、鍛練を始める!」
よく通るルリの号令が修練場に響いた。
♯♯♯
午後は自由時間になっていたので、アオは勉強の時間と決めていた。
自室で医学書を読んでいると、扉が叩かれた。
「アオ、手合わせ願いたいのだが――」
机に向かっているアオを見て、
「本当に医者を目指しているのか?
軍人ではなく?」眉をひそめた。
アオが王子だとは知らされていないルリは、腑に落ちないという表情で入って来た。
「あれだけの腕が有りながら、勿体無いぞ」
「誉めて貰えるのは嬉しいんだが、俺は既に医者だ」
「嘘だろ!?
まだ学校も出てない歳なのだろ?」
「年齢だけなら、そうかもしれないが、本当だ」
医師章を見せる。
もちろん、姓の部分は、さりげなく隠して。
「医学博士……しかも金章って……
では、何故、軍人学校に!?」
「我が家の習わし――と言った所かな。
それより、手合わせ願いたいんだけど?」
「私が願いに来たのだが……よいのか?」
「もちろん。今まで本気になれるのは、二人の兄だけだった。
ルリ殿との手合わせは楽しい」にこっ
「私は、初めて本気になれた」にこっ
ルリが槍を持っていたので、アオも槍を手にした。
そして、二人は修練場に向かった。
『『殿』など付けるな』
『いや、しかし――』
『年上だから、とでも言うのか?』
『それは……』
『失礼ではないか』
『こんな時だけ女性を盾に?』
『女だからなっ』あはははっ♪
『では……ルリ……』
『…………』
『って! 何で、そこで照れるんですかっ!?』
『さぁな……何故だか分からぬ』
二人の笑い声が遠ざかる。
凜「サクラ、医師章って?」
桜「コレ~♪」
凜「金属板?」
桜「体に くっつくんだ。
アカ兄が作った竜宝だよ。
んで、医者だよ~って目印。
って、前にも言った~」
凜「おさらいよっ、おさらい!
で、サクラもアオと同じ金色なのね」
桜「試験98点以上が金なの。
アオ兄が満点1号で、俺2号♪
前に書いたの忘れたんでしょ?」
凜「だから、おさらいだってば!
で、ハクは?」
桜「ギリギリの銀♪」
白「言うなっ!」




