愛溢れ11-蒼牙
前回まで:サクラは虹藍と歩むと決めました。
♯♯ 魔竜王国 ♯♯
上空で結界を補強していたサクラは、木々の隙間に小さな光を見つけた。
竜宝、見~つけたっ♪
補強を終え、降下した。
大きな神殿だね。
でも、ここ……
地図には神殿の印しか載ってなかった。
こんな大きいのに、不思議……
光は、あの蔵の中だね。
「失礼します」神殿の入口で声を掛けた。
「どなたですかな?」老齢の神官が現れた。
「天竜のサクラと申します。
竜宝を探しているのですが、こちらの蔵を拝見する事は出来ますか?」
「サクラ――メルドブルング教授殿でしょうか?」
「あ……はい。そうです」赤面。
学長さん、どこまで広めちゃったんだろ……
「どうぞ、こちらに」
神官は奥へと入って行った。
奥には、大きな竜が二体、並んで座していた。
大婆様よりは、お若いけど、
かなりなお歳だよね……
「長老様、お客人で御座います。
王立大学のメルドブルング教授――と申すより、天竜王国のサクラ王子様と申した方がよろしいでしょうか」
「えっ……それを何故……」
「こちらは、魔竜王族の長老様で御座います」
「これは失礼致しましたっ!」跪き、礼!
地図には神殿名が記されてはいなかったが、そこは、天竜の『長老の山』に当たる、『老竜の神殿』であった。
「よいよい。
内々しか知らぬ、名もなき神殿じゃ。
楽になされよ。
して、如何用ですかのう?」
「はい。
私は、竜宝を求めて、天界より参りました。
こちらの蔵に、求めている物の ひとつが有るようですので、出来ましたら、お譲り頂きたく、お願いに参りました」
虹藍女王から受けた許可証を提示する。
「そうか……虹藍とも会うたのか。
何なりと持ってゆくがよろしいぞ。
ただ……ひとつ頼みがありますのじゃ」
「何でしょう?」
「虹藍には、もう家族が居らぬ。
ひとりきりで国を治めておるのじゃ。
どうか……友となってはくれまいか?」
「もう、既に友達です」にこっ
「そうか……それは良かった」にこにこ
「はい、いずれ、両国の発展の為に尽くしたいと存じております」
「そうかそうか。
いつでも、何でも、お持ちなされよ。
年寄りの話し相手なども、頼んでもよろしいかのう?」
「喜んでっ♪
どうか、魔界の事をお教えください」
そしてサクラは、長老から魔竜王国の古い話を聞き、また来る約束をして、蔵に向かった。
蔵では、いつものように竜宝達が輝き、騒ぐのを宥め、浄化した。
「恵雨璧いる?」
しーん……
「恵雨璧の居場所、知らない?」
【東の国境付近に御座います、小さな祠に、沢山の璧が奉られております。
何か手掛かりが掴めるやもしれません】
「ありがと♪ 留尊鐸♪」
【私の名を……有り難き幸せに存じます】
「みんなも、ありがと♪」光に向かって歩く。
「みんなが、ここに居る事、ちゃ~んと覚えたからね~♪
その時が来たら助けてねっ♪
あった♪ 蒼牙の切先♪」
蔵を出、窓越しに、蒼牙の切先を掲げ、礼をして飛んだ。
ソラ達が引っ越した今も、拠点として使わせてもらっている屋根裏に行くと、蒼牙の切先も仮止めした。
そして、置いていた竜宝を全て抱え、サクラはアカの工房へと曲空した。
――赤虎工房。
「アカ兄、コレ」包んでいた緑の竜綺を開く。
「蒼牙だな?」
「うん。魔界に有ったんだ」
「再生蒼牙を持って来てくれ」
「うん」仮止めした蒼牙を渡す。
「これは……誰か入っているな」神眼発動。
「そうなんだよ。アカ兄、誰だか判る?」
「蒼牙に天竜の魂……
という事は、アオの相棒かもしれん」
「アオ兄に相棒さんなんていたの?」
「サクラが孵化する少し前にな」
――――――
アカは鍛冶の修行を優先していた為、修練は他の兄弟に比べれば、かなり遅く、七十歳で入った。
しかも、修練よりも鍛冶修行を優先したままだったので、特級卒業は成人の儀の直後、百五十歳であった。
アカは武力は突出していたが、鍛冶の修業を主とし、軍事大学にも通っていた為、少しでも自由な時間を得ようと、ずっと第一班の副長をしていた。
他の兄弟が第一班長を維持し、卒業したにも拘わらず、アカとしては最強だと信じているアオが、特級修練でも副長を続けている事が不思議でならず、他人の動向には無頓着なアカだが、アオの事だけは気に掛けていた。
アカが上級に上がったばかりの頃、アオは特級の第一副長で、その班長と組んで実戦に出ており、二人の活躍は軍内に轟いていた。
そして、アオの相棒は修練卒業の数年後、戦死したという噂を耳にした。
その噂は、当時、兄弟の中では唯一修練をしていたアカだけが知り得たものだった。
アカはアオを心配し、探したが、アオの消息は掴めなかった。
――――――
「サクラ……俺の勝手な想像だが――」
「ん?」
「隠さぬ事にした。前に進む為に。
アオの気持ちも、前に向かせたい。
サクラの気持ちを少しでも楽にしたい」
「アカ兄……」
「アオには特級修練の頃、相棒が居た。
あのアオを副長にしていた、第一班長だ。
アオが姿を消したのは、修練卒業から五年程経った頃だった。
丁度その頃、その相棒が死んだという噂を聞いた。
しかも、その場には、キン兄とアオが居たのではないか、とも。
数年離れていたとは言え、息の合った相棒を助けられず、医師でありながら救えなかった。
その事が、アオを変えてしまったのだと、そう思っていたのだ」
「そんな事もあったんだ……」
「『も』とは?」
「アオ兄が隠してる色は、深い愛と悲しみ。
友愛じゃなくて恋愛の愛……
大切な人を失った悲しみ……
だから、恋人さんだと思うんだ」
「そうか……
念の為、キン兄にも確かめてくれ」
蒼牙をサクラに戻した。
サクラは受け取った蒼牙を見詰めた。
「アカ兄、神眼と掌握、一緒にお願い。
もっと見たいんだ」
「ふむ。暗室に行くか?」「うん」
♯♯ 深蒼の祠 ♯♯
キンがアオの体に浄化の光を当てていると、サクラが現れた。
「キン兄、コレ見てくれる?」
「蒼牙か!?」受け取り、気を探る。
「この気……
ルリ殿は、ここに込められていたのか……」
「やっぱり、ルリさんだったんだ」
「見えたのか?」
「アカ兄と一緒に見たんだ。
竜の女性だって事は判ったけど、アカ兄も知らないヒトだったから、それ以上は探れなくて……」
「それにしても……この状態は……」
「込め方が不完全だよね?
不安定って言うか……ギリギリ保ってる感じ。
それもあって、掌握を使えなかったんだ」
「そうだな。触れようが無い状態だな。
この状態では、ルリ殿が目覚めたとしても、記憶の保証は無い」
「俺を中継すれば大丈夫だよね?」
「サクラ、しかしそれは――」
「アオ兄と同じ心の傷を負う事になるんでしょ? 俺の場合。
でも、他に方法は無いよ。
アオ兄の心の傷が消えるなら、
俺、何でもするよ!」
「私に出来たなら――」
「ありがと、キン兄。
今の俺なら大丈夫だと思うんだ。
ルリさんは、アオ兄の恋人さんで、既に亡くなってる……それだけで十分、アオ兄の傷の深さが解るから……
俺も解るようになったから。
あ……アカ兄は、相棒さんだって言ってたけど、ルリさんは、相棒さんでもあったの?」
「そうか……
二人は軍人達から『双青輝』と呼ばれていた」
「ルリさんの事、よく知ってるの?」
「いや……
私がルリ殿と直接会ったのは、彼女が命を落とした戦いの時だったからな。
護る事が出来なかった……
今でも悔やまれて仕方が無い」
キンは更に蒼牙の気を探った。
「サクラ……
これが出来るのは、確かにサクラだけだが……
この記憶……本当に中継して貰っていいのか?」
「うん。アオ兄は俺だから、何でもするよ」
決意の眼差しでキンを見詰めた。
「ありがとう。頼りにしている。
私には何も出来なくて……本当に、すまない」
「そんなこと……俺はキン兄がいないと何も出来ないんだよ」
キンは自嘲気味にフッと笑った後、真顔に戻り、目を伏せた。
「辛い記憶だが――」
「アオ兄の事だから。俺、頑張るよ」
「では、手を重ねて。
ルリ殿と蒼牙の記憶を流すが、ルリ殿の側からは触れぬように。
蒼牙から、ルリ殿の記憶を引き寄せるのだ。
いいな?」
「うん」
サクラは、キンの手に掌を重ね、蒼牙の記憶の中に残る、アオの心に気持ちを重ねた。
そして、ルリの記憶を受け入れるべく、心を開いた。
アオが感じた悲しみや苦しみを、等しく受ける覚悟を以て――
屋根裏から曲空しようとしたサクラを掴まえた。
凜「サクラ! 待ってってばっ!」
桜「なんで、追っかけて来れるのぉ?
凜って、やっぱり魔物なの?」
凜「魔物じゃないけど、
そこ、ツッコまないの!
サクラがよく言ってる、
『アオ兄は俺で、俺はアオ兄』
って、どういう事?」
桜「まんまだよ~、そのうち判るよ♪」
凜「アオは嫌がらない?」
桜「どゆイミ?」




