愛溢れ9-虹藍とサクラ
次は、サクラの方を――
♯♯ 魔竜王国 ♯♯
竜宝を探して飛んでいるサクラの携行用千里眼が着信を告げる。
「キン兄、どしたの~?」
『ホントだ、サクラだ♪』
「ハク兄? なぁに?」
『天界に戻れねぇか? 頼みが有るんだ』
「うん♪ いいよ~♪」
ハク兄に会うなら、先にシトリンさんトコ
行ってみよ~♪ 器、できてるといいな♪
――集縮工場横の小さな陶芸工房。
「あ♪ サクラ様♪
やっと納得いく物が出来ました!」
「良かった~♪ すぐに見せてくるねっ♪」
――竜宝の国。
唔器呟に見せると――
【本当に、この色……出しおったか……】
すんなり入ってくれた。
「じゃ、護竜槍、お願いねっ」
【はい。神竜様と話して参ります】
ハク兄へ曲空♪――
ハクは翁亀の所に居た。
「ハク兄、コレ、唔器呟って竜宝。
竜宝の魂を運べるんだ。
今、護竜槍が入ってる。
神竜さんと直接 話してもらってね」
【ハク様、お連れくださいますよう、宜しくお願い致します】
「竜の話を聞かねぇ頑固ジジィなんだ。
宜しく頼むよ」
【頑固ジジィで悪かったな】フンッ!
「唔器呟さんの事じゃないからぁ」
【さっさと行け!】【申し訳ございません】
「ハク兄、がんばってね~」
♯♯♯♯♯♯
魔竜王国の女王・虹藍は、謁見が途切れ、窓の外の桜並木を眺めていた。
今は、とっても生き生きとした緑だけれど、
早く、また咲かないかしら……
サクラ……今、何してるのかしら?
あらっ? あの煌めきは……
他にはいないわ!
サクラ……まだ探してるのね……
お手伝いする方法はないのかしら……
それにしても、やっぱり綺麗だわ♪
初めて見た時も、あの状況なのに
美しさに圧倒されたもの!
それに……強くて、格好よくて……
とっても優しくて!
――――――
魔竜王国の女王に即位したばかりの虹藍は、人界での戦の様子を直に見たいと、大臣の反対を押切り、東の国を訪れていた。
都にて、人々を操り、戦へと駆り立てる禍々しく強い気を察知し、帰国を決めた時、闇黒色の魔物の大群に襲われ、追われているうち、護衛兵と逸れてしまった。
どうしよう……こんな知らない土地で……
必死で逃げる虹藍の背後に魔物が迫った。
その時、一陣の花嵐が虹藍と魔物の間に舞った!
――虹藍には、そう見えた。
そして、迫っていた魔物が光に包まれ、かき消えた。
「だいじょぶ? ケガない?」
桜色の絹織物のように美しい竜が、虹藍を、その背に庇っていた。
虹藍が頷いたのを見て、
「俺の背に乗っててね」微笑んだ。
虹藍は、邪魔にならないよう人姿になり、その背に、しっかり掴まった。
「そんな緊張しないでいいからねっ♪
万有甲、展開っ♪」
虹藍は淡い光に包まれた。
「これで落ちないからね♪」にこっ
綺桜の竜は、美しい鱗を陽に煌めかせ、舞うように次々と魔物を蹴散らしていった。
綺麗……
こんな時なのに、虹藍は怖さも忘れ、ただただ美しさに魅了されていた。
「おしまいっ♪」
あっという間に、魔物の群れは全滅した。
綺桜の竜は森へと降下し、虹藍を降ろすと、人姿になった。
鱗と同じ色の、結い上げた長い髪が風に揺れる。
「魔物に気づかれないよぉにねっ」
声を潜め、人差し指を口の前に立てる。
「人界は魔物がいっぱいで危険だから送って行くよ。
どこに行ったらいい?」
「魯茉丹の国、火神子山の麓に――」
「あ~、あの煙が出てる山?」
「そう、洞窟があるの」
「わかった~♪ 行こっ♪」手を差し出す。
その手を取った瞬間、山の麓に立っていた。
「ここでいいの?」洞穴を指す。
「もう少し北の洞窟なの」
「うん♪」竜体になる。「乗って♪」
ゆっくり北に向かう。
「あの……私はラン。あなたは?」
「俺、サクラ」
「天竜なの?」
「そぉだよ♪ そぉ聞くってことは魔竜?」
「ええ、そうよ。
サクラさんの鱗、とっても綺麗ね♪
キラキラして、とっても格好いいわ♪」
「ありがと♪ 敬称いらな~い。
ランちゃんの鱗、深い海みたくて綺麗だよ♪」
「ありがと♪ 私も敬称いらな~い」
二人で笑った。
「サクラ……友達になってくれる?」
「もう友達でしょ♪ ラン♪」
「また来れたら、案内してくれる?」
「もっちろ~ん♪
中の国の、竜ヶ峰近くの洞窟に住んでるから」
「うん♪ 一番 高い山ねっ」
「そ♪」
「あっ、もうすぐ洞窟があるの」
「ランは、ここの洞窟に住んでるの?」
「ううん、通路よ。
魔竜王国の近くに繋がってるの」
「魔界に行けるの!?」
「竜宝があれば、ね」
「竜宝、なんて名前?」
「解空鏡。それじゃ……またね……」
「うん♪ またねっ♪」にこにこと手を振る。
虹藍は何度も振り返りながら、洞窟を進んだ。
♯♯♯♯♯♯
そして、桜が咲く季節――
虹藍は王立大学に新しく迎えた学長の挨拶を受けていた。
「これから、天竜王国で蓄えた知識を我が国に広めてください」
「はい。謹みまして職務に励みます」
「学長殿、天竜の――あの花のような美しい鱗の御方をご存知ですか?」
「桜色……その稀なる御色は、天竜王国の第七王子、サクラ様で御座いましょう。
只今、王子様方は人界にいらっしゃる筈で御座います」
「そう。ありがとう」にこっ♪
そのやり取りを聞いていた大臣は、密かにサクラ王子について調査した。
報告を聞いた大臣は、
「物凄過ぎる……」
それ以上、言葉が続けられなかった。
その後、戦禍が激しくなり、自国を護る事に専念せねばならず、虹藍が再び人界を訪れる事は叶わなかった。
天竜王に会い、サクラ王子にツバを付けておきたい大臣も、そうする事が出来ないままであった。
先日、サクラが竜宝を求めて訪れた時、虹藍が喜んだのは勿論だが、大臣も執務室で小躍りしていた。
――――――
その大臣は――
魔竜王族が、長老達を除けば虹藍女王しかいない、この国には、サクラ王子を迎える他に道は無いと、独断で再び天竜王国を訪問していた。
「誠に不躾で申し訳ございませんが、サクラ様におかれましては、御婚約など、既にお決まりでございましょうか?」
この場で首を撥ねられても致し方無し、と覚悟して尋ねてみると――
「サクラは、まだまだ子供ですので、まだそのような話はございません。
しかし……婚儀に関しては、本人に任せると決めておりますので、私から話を持ち込むつもりもございません。
女王陛下は、サクラよりもお若い。
焦らず、成り行きを見守っては如何でしょうか」
サクラの父・ギン王が、そう、にこやかに答えたので、大臣は一先ず安堵した。
そして改めて、天竜王国との親密化を進め、サクラ王子を迎えようと心に決めたのだった。
♯♯♯♯♯♯
サクラが魔界に戻って飛んでいると、再び携行用千里眼が鳴った。
「ハク兄、なぁに?」
『他に手は無ぇのか?』ため息。
「もぉコレしか……うん。
そっち行くけど、俺、下層までしか行けないからね」曲空。
下層神界入口でハクが待っていた。
「闇も光も、おもいっきり使うから、ちゃんと浄化してね」
「ここでか?」
「深蒼の祠だと、キン兄に心配かけちゃう~」
「そっか……すまないな。
浄化なら、神様、呼んだ方がいいんじゃ――」
「だ~か~らぁ、みんなにナイショ!」
「そっか……」
「最後の手段だからね。
神竜の魂、助け出すからねっ」「えっ!?」
止めようとするハクを無視して、サクラの纏う気が変わる。
「治癒での浄化で十分ですので、即、お願い致します」
光を纏い、闇に変える。
目を閉じ、術を唱え――「見つけた!」
穴を穿ち、光の念網を放ち、籠に掛け、引く!
念網をハクに託し、次を放つ!
数回 繰り返した時、魔物が気付き、迫った!
「最終っ!」
最後の網を引き、強い光を浴びせ、穴を塞いだ。
振り返り、沢山の籠を、強力な浄化の光で包む。
「あと、お願い~」サクラが倒れた。
ハクが浄化の光で包むと、すぐに気付き、
「みんな連れて……シトリンさん達の神様もいっぱい連れて、説得に行ってね」消えた。
(サクラ! 大丈夫なのか!?)
(あとは自力で浄化するよ。
やんなきゃなんないコトいっぱいなんだ。
ハク兄、がんばってね~)
(サクラ、ホントすまない!
必ず護竜槍を手に入れるからな!)
(うん。俺、そっち行けなくて……ごめんね)
(任せろ、今度こそだ。少しは休めよ)
(ありがと♪ ハク兄♪)
王立大学の学長さんは、どうやら天竜王国から
魔竜王国に行ったようです。
どうやって行ったのか――は、またいずれ。
凜「あ……シルバコバルト様……」
始【また来やがった】チッ
凜「それ……サクラでしょ?」
始【眠らせて浄化してるだけだっ!
どっか行きやがれっ!】
凜「やっぱり、お優しいのね~♪」
始【うっせーっ!】
凜「はいはい♪ サクラをヨロシク~♪」




