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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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愛溢れ7-アカとワカナ①

 竜スケールの年月は、ひと桁下げると、

人には、ちょうど良い感覚になります。


「姫様♪ 中庭でお茶しましょ♪」


「リリス、フジを放っておいてよいのか?」


「もう、自分で何でも出来ますから」にこっ


「リリスは、すっかりお妃様じゃの」


「まだまだですよ~」ぽっ


リリスに連れられ中庭に出ると、木陰の卓にボタン、ミカン、ワカナが居た。


「ソラちゃんは?」リリスが首を傾げた。


「もうすぐ学校から戻るそうよ♪」

ミカンが座るよう促す。


「お茶を頂きながら待ちましょう」

ボタンがお茶を差し出す。


「私、ワカナさんのお話、伺いたいわ♪」


「アカ様とは、どう お知り合いになったの?」


「父の元で鍛冶の修業してただけですよ~

面白い話なんてありませんからぁ」


「銀虎で修業なんて、王子様とは、とてもじゃないけど思えないわよね~」


「ですから、私も王子様だなんて思いもよらなくて……

でも、これからも赤虎としても鍛冶を続けるって仰るんですよ」


 赤虎……虎……銀虎……


「それじゃ!

赤虎は、アカ殿の事じゃと判った。

金虎ならば、伝説の刀鍛冶として有名じゃが、銀虎と申すは、如何なる者なのじゃ?」


「姫様の国の屋号みたいなものです。

三代金虎の弟子が、初代銀虎なの。


父が三十六代銀虎で、兄がそれを継ぐの。

それで、私が分家として、初代の某虎かをいずれ夫となる方と立ち上げる事が決まっていたんですけど……


まさかアカ様が王子様だなんて知らずに……

その……私から申し込んでしまって……

それで『赤虎』……」


「アカ殿は何と?」


「『うむ』って言っただけ……」真っ赤。


「アカ殿らしいのぅ」


「ちゃんと王子様だって仰って下さってたら、『赤虎』にはしなかったのに~」


「アカ殿ならば両立するであろぅよ。

剣を頂いたが、しなやかで粘りがあり、扱い易く、『素晴らしい』なんぞと、ひと言では、とてもとても言い表せぬ逸品じゃ。

王子は他の六人が()るのじゃから、鍛冶を続けぬのは勿体無いの極みじゃ」


「嬉しい御言葉です」照れまくり~



――――――



 今度の弟子は、どんなかしら~♪


鍛冶匠『銀虎』の娘・ワカナは、わくわくしながら新入りの顔を見に行った。


 えっ、もう鎚を振ってる!?

 経験者なの? でも……コドモよね?


小窓から覗いていると、赤い鱗の少年は、銀虎親方直々の指導を受け、黙々と鎚を振るっていた。


「ワカナ、入れ」父の鋭い視線に射抜かれた。


「はい」


「相槌しなさい」


「はい」


交互に打ち始める。


 なんか……打ち易い……兄さんより、ずっと!



 兄と組んで打つ事は、もっとずっと幼い頃から、やってきていたので、それが普通だと思っていた。

しかし、この少年とは、身構える事も、合わせる為に動きを捉えようと必死になる事も不要で、もしかしたら、目を瞑っていても打ち損じる事など無さそうだと思えるくらい、自然に打てるのだった。


 ふしぎ……

 鎚の音が、こんなにも心地良いなんて……



♯♯♯♯♯♯



 そんな出会いから二十年――


「親方、アカが どこに居るのかご存知ですか?

朝から見当たらないのですが――」

親方である父に尋ねた。


「今日から、午前中は修練だ」


「修練? あの、軍人が やるヤツ?」

驚いて、弟子ではなく、子に戻ってしまった。


「そうだ。毎日、共に鎚を振るっているのに聞いてなかったのか?」


「滅多に声を聞く事は無いから……」


「お前は午前中、母さんから組紐を習いなさい。

いずれ柄糸も巻けるようにな」


「はい」



♯♯♯



 修練から戻ったアカに、

「教えてくれないにも程があるわ!

アカは鍛冶師じゃなくて軍人になるの!?」


「軍人になどならん」着替える。


「じゃあ、何で?」


「そういう家だからだ」火を確認。


「鍛冶師に……なる?」


「生涯続けるつもりだ」道具を出す。


「良かった……」


「今日は打たんのか?」構えて待っている。


「あっ! ごめんなさい!」




 一心不乱に打ち続ける二人を、親方は、じっと見ていた。

親方は、アカが王子である事を知っていたので、当然、銀虎を継がせようなどとは思ってはいなかったが、自分の息子より娘の方が腕が良く、アカは、その娘より遥かに腕が良い為、惜しくて惜しくて仕方がなかった。



♯♯♯♯♯♯



 アカが特級修練を卒業した日――


「アカ、私と……ずっと相槌してくれない?」


「構わんが……急に、どうした?」


「銀虎は、兄が継ぐの。

だから私は、『虎』を分けて貰う事になってるの。

でも……私ひとりじゃ、そこまでの腕は無いし……

アカと一緒なら、ちゃんと初代を名乗れると思うの!」


「俺も大した事は無い」


「そんな事ないっ!

兄より、ずっと腕がいいわ。

もちろん私より、ずっと、ずっとよ!」


「買い被りだ」


「何でもいい!

アカの鎚が……息が……その……

とっても自然で……だから……

アカと、ずっと打ちたいのっ!」


「異存は無い」


「だから……二人で……初代『赤虎』で、どう?」


「うむ」



♯♯♯



 翌日、アカは親方に呼ばれた。


「本当にいいんですかい?

ウチの娘なんかで?

それに、初代『赤虎』なんぞと……

虎を分ける事は、前々から決めておりましたが、まさか……そのような……」


「構いません。

元々、生涯、鍛冶師を続けるつもりでしたから。

父も、自由にしていいと言っていますし」


「鍛冶しか知らない不束者ですよ?

育てた私が悪いんですけどね。

本当に、あの娘でいいんですかい?」


「息が合いますので。

親方こそ、私で、よろしいですか?」


「どこに断る理由がありますかい。

どうか娘を宜しくお願い致します」



♯♯♯♯♯♯



 そんな話が有っても変わる事なく、アカは毎日鎚を振るっていたが、

ある日、唐突に――


「人界に行く」


「えっ!? 何しに?」


「家の習わしだ。百年程、戻らない」


「そんな、に……長く……?」


「待っていて欲しい。

……が、無理にとは言えん」


「もちろん待つわよっ!!」

叫んだワカナが、アカの胸に顔を埋めた。

アカは、そっと抱きしめた。


「戻ったら、結婚して赤虎を名乗ろう」


アカに包まれたワカナが頷いた。



♯♯♯



 翌日、アカが去った部屋には、小さな箱が、ぽつんと有った。


豪華な宝箱のような、その蓋には、天竜王家の紋章が刺繍されていた。


「う……そ……」


蓋を開けた箱を持ったまま、ワカナは、その場に へたり込んだ。



――――――



「アカ様って、甘い言葉とか仰るの?」

興味津々でミカンが尋ねた。


「えっ!? 覚えが無いわ……」

 『戻ったら結婚して――』って、

 あれが唯一よね……

 声を聞かない日の方が

 圧倒的に多いんだから!


「ハク殿とフジは、言いまくっておりそぅじゃの♪」


ミカンとリリスが噎せる。


「クロ様もねっ!」二人、お返しとばかりに。


姫が真っ赤になる。


「ちゃんと仰ってるのね♪」にこにこ♪


「いや……リリス、そんな事は――」


「あるんでしょ♪」ミカンとリリス、揃った。


「う……」たじたじ


「キン様は?」

ワカナの問いで、皆、ボタンを見る。


「それなりに……」視線を逸らし、頬を染める。


「あのキン殿が……」「仰るのね……」


「ただいま~♪」「こんにちは~♪」

ソラとサクラが飛んで来て、人姿になる。


「サクラくん、皆様に、お茶のおかわりね♪」


「は~い♪」

慣れた手つきで優雅に――るんるんるん♪


「香りが……」「違うのぅ……」「不思議……」


「ありがとう、サクラくん♪

お菓子あげるから、竜宝探し頑張ってね♪」


「いってきま~ふ♪」もぐもぐ♪

ごきげんに手を振って、竜体に戻り、飛んだ。


「調教じゃの……」「ですね」「凄いわね……」



 甘い言葉って……

 皆さん、どんな御言葉を

 頂いてるんでしょ……?





 ワカナさんはアカより、ほんの少し年下です。

ですので、アカと出会ったのは、5人歳少し前。

幼いけれども、鍛冶に関しては、弟子達からは、

既に一目置かれていました。


 アカが銀虎での修業に入ったのは、5人歳の頃。

修練に行き始めたのが7人歳、卒業が15人歳です。

成人の儀も15人歳なので、結婚を決めた時には、

ちゃんと大人だったんです。


まぁ、そもそも卵の中で、既に大人だったらしい

ので、何も問題ありません。



凜「ね♪ アカ♪」


赤「む……」ふいっ……


凜「逃げちゃった……」


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