愛溢れ6-折り紙
前回まで:フジと姫は、長老の山の病院に
入院しています。
「ソラちゃん、おはよ~♪
こっちは どぉ? 慣れた?」
「『慣れた?』って、昨日来たとこなんだけど~」あはは♪
「イヤなことって、すぐ感じるでしょ?
ソレなかったら、だいじょぶだよね~♪」
「ねぇ、サクラくん」
「なぁに?」
「どのサクラくんが本物なの?」
「ぜ~んぶ俺だよ~♪」
ぴょ~ん ぴょ~んと弾んで進み、くるっと振り返った。
「ソラちゃんが好きなのは、どの俺?
二人だけの時はソレで通すから」
「もし……好きなのが無かったら?」
サクラが固まり、呆然と立ち尽くす。
「あっ、『もし』って言ったでしょ!?」
「ひどぉい」うるうる~
「かわいいサクラくんも、
カッコいいサクラくんも、
落ち着いたサクラ教授も、
別人全開なサクラ王子も、
ぜんぶ大好きだからっ!」飛んで行った。
「待って! ソラちゃん!」追いかける。
「初日から遅刻できないでしょっ!」
「だから待って!」手を繋ぎ――
一瞬で大学へ。
「サクラ様!?」
「ウェイ先生!?」
「ウェイ教授、ソラちゃんをよろしく~♪」
サクラが消えた。
「ウェイ先生♪
今日から、またよろしくお願いします。
あっ、こちらでは教授なんですねっ♪」
「ソラ君、いろいろ ありがとう。
いや、昨晩、突然 言われてね。
私も今日からなんですよ」
でも、今、判りました。
仕掛人は、サクラ様なんですね。
ありがとうございます、サクラ様。
♯♯♯♯♯♯
「サクラ、魔界から戻っておったのか?」
「あ♪ 姫♪
うん♪ 行き来できるようにしてるから、毎日ちょっとだけど来てるよ。
姫はクロ兄が治すから行かなかったけど、もぉだいじょぶなの?」
姫の額に掌を翳す。「いい感じだねっ♪」
「ワラワは、もぅ大丈夫じゃ。
いろいろ すまなかったのぅ」ペコリ
「俺は、なんにも~」
そんな事は なかろぅぞ。
じゃが、サクラは そぅは言わぬから、
サクラなのじゃな……
「フジの具合は如何なのじゃ?」
「手は治ったよ♪」にこにこ
「『手は』? ……手だけなのか?」
「不便だから、先に手だけ治してって言われたんだよ。
だから、今日から お腹~」
「さよぅか。
ならば、これを持って行っても良さそうじゃな」
「折り紙? とってもキレイだね♪
そういう色の、初めて見たよ♪」にこにこ
「ワラワの国の特産品じゃ。
クロが持って来てくれたのじゃが……
あまり折った事が無いのじゃ」あはは……
「フジ兄は得意だよ♪」
「ならば、折った物を頂くとしよぅぞ♪」
数歩進んで「あ……」姫が立ち止まった。
クロ兄……姫と離れたくないんだね。
俺も、よ~く解る……
そっちの探し物も、俺、できるかなぁ……
「姫、コレちょーだいねっ♪
ゆっくり お話ししてね」にこっ
サクラは姫の手から、折り紙の包みを受け取り、フジの部屋へと駆けて行った。
♯♯♯
「フジ兄、調子どぉ?」
「サクラ、毎日ありがとうございます。
もう、手は、すっかり治りましたよ」にっこり
フジはサクラが持っている包みに気付いた。
「それは?」
「姫から もらった~♪」取り出す。
「折り紙……ですか? 懐かしいですね」にこっ
「でしょっ」にこにこ♪
「サクラは、折り紙が大好きでしたね――」
――――――
(フジにいちゃま♪ あっそぼ♪)
長老の山の書庫で、薬学の古文書を読んでいたフジの心に、サクラの元気な声が響いた。
この時のフジは、八十八歳で、大学で薬学を学んでいた。
三人歳で長老の山入りしたフジは、天界一の薬師になるべく、大学のみならず長老の山でも、修業と勉学に励んでいた。
(サクラは、お城ではないの?)
一方、フジにとっての唯一の弟・サクラは、兄達が、しきたりに則り、孵化後すぐに各自の屋敷で、蛟達に依って育てられたのとは異なり、母・ミドリが頑として手離さず、二人歳間近となった今も城で暮らしている。
(おしろだよ。でも、すぐだよ♪)
本棚の向こうから、サクラが ぴょこっと顔を出した。
「来ていたのですか」にっこり
「うん♪ いま きたの♪
フジにいちゃま あそぼ~♪」
「では、遊びましょう。何をしますか?」
「にいちゃまたち つくってぇ」
「折り紙ですか。一緒に作りましょう」
「うんっ♪ キンにいちゃま♪」
金色の折り紙を両手で差し出した。
サクラが、いつも竜を折って欲しいとねだるので、手を抜けないフジは、最近では立体的な竜を折る事が出来るようになっていた。
フジが竜を折っている横で、サクラは緑と茶色で、何かを折っていた。
「それは何?」
「き♪」
両掌に乗せた、それは、確かに樅の木で、しかも立体的で、しっかり立っていた。
「凄い……ね……」
「えへへ♪
にいちゃま、つぎ、ハクにいちゃま♪」
銀色の竜を折りながら――
「そういえば今日は、伯爵が御子息を連れて見える予定ではありませんでしたか?」
親に連れられて城に来る貴族の子供達の相手をするのが、サクラの役目になっていた。
「……キライだもん!」ぷいっ
「どうしたのです?」
「あのコ……ボクのこと『ひめ』って よぶんだ。
だからキライ!」
サクラは、淡く美しい鱗の色と、その名前と、醸し出す愛らしさから、よく、女の子みたいだと言われていた。
サクラ自身は、その事が嫌で嫌で堪らなかったが、幼さ故に、どうすればよいのか分からず、この日も、こうして逃げ出して来たのだった。
フジも同じように悩み、早々に長老の山に逃げ込んだようなものだったので、サクラの気持ちは、よく解った。
「サクラ、私は、そう言われるのが嫌で、天界一の薬師になろうと決めたのです。
からかわれる余地が無くなるように」
「じゃあ、ボクは……ボクは……
なんでも いちばんに なってやる!
しれんも、しけんも ぜんぶ!」
目に涙をいっぱい溜めて、そう宣言した通り、サクラはその後、全ての試練と試験と課題を年齢制限を撤廃しながら、全て満点で、最年少記録や、最短記録を塗り替え、突破していったのだった。
――――――
「フジ兄♪ 竜、折って~♪」
久しぶりに折り紙を差し出してみた。
「いいですよ」にっこり♪
♯♯♯
「フジ、お昼よ」
リリスが午前の妃修行を終え、フジの病室に入ると、フジは本を持ったまま眠っていた。
疲れるまで読んじゃうんだから……
それとも、夢の中でも読んでいるのかしら?
リリスはクスッと笑って、昼食を置こうとした。
「あら? これは……綺麗ね♪」
卓の上には、淡くて上品な藤色と桜色の、精巧で緻密な折り紙の竜が有った。
桜「フジ兄は、貴族の子供達に
なんて呼ばれたの?」
藤「それは……サクラは『姫』ですから、
まだ良いですよ……」
桜「ねぇ、なぁに?」
藤「……『フジばぁちゃま』」ボソッ
桜「…………」肩が震えている。
藤「笑いを堪えなくてもいいですっ!
でも……今は、この名で良かったと
思っていますよ♪」
桜「うんっ♪ 俺も~♪」
♯♯♯♯♯♯
凜「ね、あのサクラって……」
青【うん。あれが素直なサクラだと思うよ】
凜「やっぱりね~」
青【俺が弱っていたから、支えようとして
くれていたんだよ。
幼いサクラに無理をさせてしまったんだ】
凜「それで『自分』を見失ってるのかぁ」
青【誰とでも友達になりたがるのも、
寂しがりなサクラを閉じ込めてしまった為
だと思っているんだ】
凜「そっか……でもね、アオも、そんなに
自分を責めちゃダメだよ。
歪んで育っちゃったかもしれないけど、
サクラは、今を本当に幸せだと
思ってるんだからね」
青【ありがとう。
でも、まさか、凜に慰められるとは、ね】
凜「あのねぇ。
――って、なぁに笑ってんのよっ!」
青【うん。気にしないで。
とにかく、ありがとう】くすくす♪
カサッ……
凜「ん?」
私の頭に、桜色の折り紙の竜が乗っていた。




