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三界奇譚  作者: みや凜
第三章 大陸編
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愛溢れ6-折り紙

 前回まで:フジと姫は、長老の山の病院に

      入院しています。


「ソラちゃん、おはよ~♪

こっちは どぉ? 慣れた?」


「『慣れた?』って、昨日来たとこなんだけど~」あはは♪


「イヤなことって、すぐ感じるでしょ?

ソレなかったら、だいじょぶだよね~♪」


「ねぇ、サクラくん」


「なぁに?」


「どのサクラくんが本物なの?」


「ぜ~んぶ俺だよ~♪」

ぴょ~ん ぴょ~んと弾んで進み、くるっと振り返った。


「ソラちゃんが好きなのは、どの俺?

二人だけの時はソレで通すから」


「もし……好きなのが無かったら?」


サクラが固まり、呆然と立ち尽くす。


「あっ、『もし』って言ったでしょ!?」


「ひどぉい」うるうる~


「かわいいサクラくんも、

カッコいいサクラくんも、

落ち着いたサクラ教授も、

別人全開なサクラ王子も、

ぜんぶ大好きだからっ!」飛んで行った。


「待って! ソラちゃん!」追いかける。


「初日から遅刻できないでしょっ!」


「だから待って!」手を繋ぎ――



 一瞬で大学へ。


「サクラ様!?」

「ウェイ先生!?」

「ウェイ教授、ソラちゃんをよろしく~♪」


サクラが消えた。


「ウェイ先生♪

今日から、またよろしくお願いします。

あっ、こちらでは教授なんですねっ♪」


「ソラ君、いろいろ ありがとう。

いや、昨晩、突然 言われてね。

私も今日からなんですよ」


 でも、今、判りました。

 仕掛人は、サクラ様なんですね。

 ありがとうございます、サクラ様。



♯♯♯♯♯♯



「サクラ、魔界から戻っておったのか?」


「あ♪ 姫♪

うん♪ 行き来できるようにしてるから、毎日ちょっとだけど来てるよ。

姫はクロ兄が治すから行かなかったけど、もぉだいじょぶなの?」


姫の額に掌を翳す。「いい感じだねっ♪」


「ワラワは、もぅ大丈夫じゃ。

いろいろ すまなかったのぅ」ペコリ


「俺は、なんにも~」


 そんな事は なかろぅぞ。

 じゃが、サクラは そぅは言わぬから、

 サクラなのじゃな……


「フジの具合は如何なのじゃ?」


「手は治ったよ♪」にこにこ


「『手は』? ……手だけなのか?」


「不便だから、先に手だけ治してって言われたんだよ。

だから、今日から お腹~」


「さよぅか。

ならば、これを持って行っても良さそうじゃな」


「折り紙? とってもキレイだね♪

そういう色の、初めて見たよ♪」にこにこ


「ワラワの国の特産品じゃ。

クロが持って来てくれたのじゃが……

あまり折った事が無いのじゃ」あはは……


「フジ兄は得意だよ♪」


「ならば、折った物を頂くとしよぅぞ♪」


数歩進んで「あ……」姫が立ち止まった。


 クロ兄……姫と離れたくないんだね。

 俺も、よ~く解る……

 そっちの探し物も、俺、できるかなぁ……


「姫、コレちょーだいねっ♪

ゆっくり お話ししてね」にこっ


サクラは姫の手から、折り紙の包みを受け取り、フジの部屋へと駆けて行った。



♯♯♯



「フジ兄、調子どぉ?」


「サクラ、毎日ありがとうございます。

もう、手は、すっかり治りましたよ」にっこり


フジはサクラが持っている包みに気付いた。

「それは?」


「姫から もらった~♪」取り出す。


「折り紙……ですか? 懐かしいですね」にこっ


「でしょっ」にこにこ♪


「サクラは、折り紙が大好きでしたね――」



――――――



(フジにいちゃま♪ あっそぼ♪)


 長老の山の書庫で、薬学の古文書を読んでいたフジの心に、サクラの元気な声が響いた。


 この時のフジは、八十八歳(八人歳)で、大学で薬学を学んでいた。

 三人歳で長老の山(ヤマ)入りしたフジは、天界一の薬師になるべく、大学のみならず長老の山でも、修業と勉学に励んでいた。


(サクラは、お城ではないの?)


 一方、フジにとっての唯一の弟・サクラは、兄達が、しきたりに則り、孵化後すぐに各自の屋敷で、蛟達に依って育てられたのとは異なり、母・ミドリが頑として手離さず、二人歳間近となった今も城で暮らしている。


(おしろだよ。でも、すぐだよ♪)


本棚の向こうから、サクラが ぴょこっと顔を出した。


「来ていたのですか」にっこり


「うん♪ いま きたの♪

フジにいちゃま あそぼ~♪」


「では、遊びましょう。何をしますか?」


「にいちゃまたち つくってぇ」


「折り紙ですか。一緒に作りましょう」


「うんっ♪ キンにいちゃま♪」

金色の折り紙を両手で差し出した。



 サクラが、いつも竜を折って欲しいとねだるので、手を抜けないフジは、最近では立体的な竜を折る事が出来るようになっていた。



 フジが竜を折っている横で、サクラは緑と茶色で、何かを折っていた。


「それは何?」


「き♪」


両掌に乗せた、それは、確かに(もみ)の木で、しかも立体的で、しっかり立っていた。


「凄い……ね……」


「えへへ♪

にいちゃま、つぎ、ハクにいちゃま♪」


 銀色の竜を折りながら――


「そういえば今日は、伯爵が御子息を連れて見える予定ではありませんでしたか?」


 親に連れられて城に来る貴族の子供達の相手をするのが、サクラの役目になっていた。


「……キライだもん!」ぷいっ


「どうしたのです?」


「あのコ……ボクのこと『ひめ』って よぶんだ。

だからキライ!」


 サクラは、淡く美しい鱗の色と、その名前と、醸し出す愛らしさから、よく、女の子みたいだと言われていた。

サクラ自身は、その事が嫌で嫌で堪らなかったが、幼さ故に、どうすればよいのか分からず、この日も、こうして逃げ出して来たのだった。


フジも同じように悩み、早々に長老の山に逃げ込んだようなものだったので、サクラの気持ちは、よく解った。


「サクラ、私は、そう言われるのが嫌で、天界一の薬師になろうと決めたのです。

からかわれる余地が無くなるように」


「じゃあ、ボクは……ボクは……

なんでも いちばんに なってやる!

しれんも、しけんも ぜんぶ!」


 目に涙をいっぱい溜めて、そう宣言した通り、サクラはその後、全ての試練と試験と課題を年齢制限を撤廃しながら、全て満点で、最年少記録や、最短記録を塗り替え、突破していったのだった。



――――――



「フジ兄♪ 竜、折って~♪」

久しぶりに折り紙を差し出してみた。


「いいですよ」にっこり♪



♯♯♯



「フジ、お昼よ」

リリスが午前の妃修行を終え、フジの病室に入ると、フジは本を持ったまま眠っていた。


 疲れるまで読んじゃうんだから……

 それとも、夢の中でも読んでいるのかしら?


リリスはクスッと笑って、昼食を置こうとした。


「あら? これは……綺麗ね♪」


卓の上には、淡くて上品な藤色と桜色の、精巧で緻密な折り紙の竜が有った。





桜「フジ兄は、貴族の子供達に

  なんて呼ばれたの?」


藤「それは……サクラは『姫』ですから、

  まだ良いですよ……」


桜「ねぇ、なぁに?」


藤「……『フジばぁちゃま』」ボソッ


桜「…………」肩が震えている。


藤「笑いを堪えなくてもいいですっ!

  でも……今は、この名で良かったと

  思っていますよ♪」


桜「うんっ♪ 俺も~♪」



♯♯♯♯♯♯



凜「ね、あのサクラって……」


青【うん。あれが素直なサクラだと思うよ】


凜「やっぱりね~」


青【俺が弱っていたから、支えようとして

  くれていたんだよ。

  幼いサクラに無理をさせてしまったんだ】


凜「それで『自分』を見失ってるのかぁ」


青【誰とでも友達になりたがるのも、

  寂しがりなサクラを閉じ込めてしまった為

  だと思っているんだ】


凜「そっか……でもね、アオも、そんなに

  自分を責めちゃダメだよ。

  歪んで育っちゃったかもしれないけど、

  サクラは、今を本当に幸せだと

  思ってるんだからね」


青【ありがとう。

  でも、まさか、凜に慰められるとは、ね】


凜「あのねぇ。

  ――って、なぁに笑ってんのよっ!」


青【うん。気にしないで。

  とにかく、ありがとう】くすくす♪


 カサッ……


凜「ん?」


 私の頭に、桜色の折り紙の竜が乗っていた。


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