愛溢れ5-ウェイレイ
年末年始……どうしましょ……
サクラは人界と魔界の境界に置いた布石像に曲空した。
そこで暫く佇んで考え込んでいたが、意を決して顔を上げ、ソラの部屋に置いた布石像に曲空した。
「こんにちは♪」
「そろそろ来ると思ってたわ♪」
「ソラちゃん、やっぱり 天界には来てくれないの?」
「ん~とね……やっぱり行けない……」
「なんで? 俺には言えない?」
「言ったら迷惑かけそうだから……」
「俺、迷惑かけるの得意だけど、迷惑って感じたことないから。ねっ?」
「だって……ホントに迷惑だから……」
これまでは、ここでやめてたけど、
もぉ引き下がってる場合じゃないんだ。
と、サクラは頑張って食い下がり、やりとりを続けた。
「いつもそんなふうには聞かないのに、今日はどうしたの?」
「こないだ、クロ兄の大切な人が、魔物に襲われて死にそうになったんだ。
俺達と接触すると、魔王に目を付けられる。
だから……心配なんだよ」
「サクラくん……」
「今、兄貴達の婚約者さん達は、みんな、おんなじ所にいるんだ。
何重にも結界が張ってあって、天界でイチバン安全な所に。
ソラちゃんも、俺と接触してしまったから、そこで暮らして欲しいんだ。
もちろん、おじさんと、おばさんにも」
「恋人ですらないのに?」
「なら、恋人になったら来てくれる?」
「そんな、簡単に……」頬を染める。
「俺……この戦が終わるまで、そゆのナシって決めてた。
でも、護るために必要なら……
ソラちゃんが、俺でいいと思ってくれるなら、恋人になる」
「待って。それって……
サクラくんの気持ちは?」
「……そうだね、イキナリだよね。
ごめんね。ちゃんと話すよ」
でも、好きだとは言えないけど……
「俺は、一度 決めた事は、絶対 守る。
でも、初めて揺らいだんだ。
クロ兄の大切な人は、まだ正式に婚約者じゃないんだ。
でも、もう何度も命を狙われてる。
今回、本当に危なかったから……だから……
自分が決めた事とか、どーでもいい。
なんとしても護りたい。そう思ったんだ。
もし、ソラちゃんに好きな人がいるのなら、その人と一緒に来てくれたらいい。
護れるなら、俺に目が向いてなくても構わないんだ。
今、誰か探してるんだよね?
その人が好きだから……だから、天界には来れないんだよね?
俺が、その人を探すから。
天界に来てよ……お願いだから」
「サクラくん……知ってたの?
私が人を探してる事……」
「考えて、辿り着いたんだ」
「そう……」
「ねぇ……ウェイミンさんって知ってる?」
「えっ!? どうして……?」
「良かった……知ってるんだ……」
「良かった?」
「うん。天界にいるんだ。
ソラちゃんに行って欲しい所に」にこっ
「先生……天界にいたの?」
「そっか。学者さんだもんね。先生なんだ……
ソラちゃん、魔宝学じゃなかったの?」
「古典文学よ。尊敬してる先生なの。
お休みの時に帰省して、それっきり戻って来なくて……
この前、サクラくんの講義 聞いてたら、どうしても会いたくなって……
先生の故郷に行ってみたら、焼け野原で……
でも……諦めたくなくて……」涙が流れる。
「ごめんね。もっと早く言えば良かったね」
「ううん……私が相談しなかったから……」
「会いに行く?
住むとかは、後で考えたらいいから」
「うん! 奥様も一緒に、いい?」
「へ!?」
「友達のお姉さんが、先生の奥様なの♪」
「ソラちゃんの好きな人じゃ――」
「ないわよ!」今度は笑いだした。
「そぉ……なんだ……」
「先生の家に行きましょ!♪」
ソラがサクラの手を取る。
二人でウェイミンの家まで飛んで行った。
「レイ姉さん! 天界に行きましょ♪」
窶れた女性が驚いて出て来た。
「どうしたの? ソラさん、その方は?」
「ウェイ先生の居場所を知ってる人♪」
「本当に……?」大粒の涙が溢れ落ちた。
「とりあえず行きましょ♪」
サクラは二人の手を取って、布石像から布石像へ、そして長老の山へと曲空した。
書庫の中庭に出ると、ウェイミンが、大池で翁亀と話していた。
「ウェイミンさ~ん!」大きく手を振る。
振り返ったウェイミンが目を見開き、慌てて転びそうになりながら駆けて来た。
レイが涙を煌めかせながら抱きつく。
サクラとソラは、目を潤ませて二人を見ていた。
「ここ、大学もあるからさ。編入しなよ」
「うん」
「おじさんと、おばさんに話しに行く?
それとも、ご両親に先に話す?」
「えっ!? 両親に!?」頬が染まる。
「ん? だって、引っ越すなら、知らせとかないと――」
「あっ! そっちねっ!」焦りまくり。
「サクラ、何の騒ぎだ?」クロが来た。
「ウェイミンさんの奥さん、見つけた~♪」
「え!? 奥さん、いたんだ……」
「クロ兄、姫がお待ちかねだよ♪」
「ばっ! んな事、ヒトいるトコで言うなっ!」
逃げるように飛んで行った。
追い返し成功♪
「家、王都だったよね? 行こっ♪」
手を取って……見つけたっ♪ 曲空した。
――ソラの家の玄関。
「お母さん、ただいま♪
お父さんは書斎?
サクラくん、入って――」
サクラの方を振り返って、ソラが固まった。
なんか……別人?
「失礼致します」丁寧に礼。
「も、もしかして……サクラ王子様!?
あなたっ! あなた、早くっ!」
わたわたと奥に走った。
バタバタと両親が玄関に戻った時、まだサクラは頭を下げていた。
「あのっ! 王子様、そんなっ、あの!
下げないでっ!」
「お母さん、慌て過ぎ」ため息。
「と、とっ、とりあえず中へ…」
「お父さん、同級生として来ただけなのよ」
居間に落ち着く――いや、落ち着いていないが――
カタカタカカチャッ…
ソラの母が茶を淹れようとしたが、手が震えて、どうにもならない。
「私にお任せください」
サクラが慣れた手つきで優雅に茶を淹れる。
「これ、いつものお客様用の?」
ソラが母の耳元で、そっと尋ねた。
母が頷く。
香りが、ぜんぜん違う……
そのままの優雅さで、卓に茶を置き、
「爽やかさと、ふくよかな深みのある香りが素晴らしいお茶ですね。
私も頂いてもよろしいですか?」にこっ
両親、こくこくと頷く。
お茶を味わい――
落ち着かれましたでしょうか? と前置きし――
「突然お邪魔致しまして、申し訳ございません
お詫びと、お願いを申し上げねばならず、こうして伺いました次第にございます」
「お詫び……ですか……?」不安が過る。
「はい……
私は、魔界に君臨する者に命を狙われている身でございます。
それ故、接触した方々も、同様に標的となってしまう可能性がございます。
挨拶を交わす事すら慎重にならなければならないのに、迂闊にも、ご令嬢様と接触してしまいました。
兄達が接触した方々、特に女性には、その方との関係性の如何に関わらず、『王子の弱点』と勝手に認識され、標的とされる為、厳重な結界を幾重にも施している場所に住んで頂いております。
私の不心得な行動により招いた事で、ご令嬢様の御命に危険を及ぼしました事、
如何に陳謝しようとも慙愧の至りでございます。
ですが、この上は、先んずるより他に方法はございません。
誠に勝手なる事でございますが、ご令嬢様にも、その場所に移り住んで頂きたく、お願いを申し上げます」
再び深々と頭を下げた。
沈黙……
「お父さん、お母さん、聞いてる?
サクラく……様、謝らないでください」
「あ、ああ……すみません。混乱して……」
父、やっと口を開く。
「私が声をかけてしまったの。
サクラ様は何も悪くないの。
魔界で、まさか、同級生に会えるなんて!
って、嬉しくて……つい……」
「声をかけて……?」母も、どうにか。
「お話しして、魔界で探し物してるって仰るから、地図をあげたりとか……」
「お話ししただけ、なのか?」
「そうよ」
「それだけ……なの?」
「それだけでも十分、標的となる事が、つい最近、兄の友人が襲われた事で判ったのです。
私の考えが、そこまで至らず、大変な事になってしまい――」
「まだ、一度も危険な目に遇ってないから、そんな御大層に言わないでよ~」
「これっ! 王子様に失礼なっ!
この娘は もうっ!」
「大学の学位に関しましても、その場所にて取得可能ですので、どうか、移住のお許しを――」
「私の先生も、そこに住んでるから、私、引っ越しますからねっ」
「ソラが、そうしたいのなら、好きにすればいい。
サクラ様、娘がご迷惑をおかけ致しますが、宜しくお願い致します」
「つきましては、御両親様にも、お移り頂けましたら、安心出来るのですが、如何でしょうか?
勿論、外界と遮断する訳ではございませんので、お仕事にも支障無きよう、整えさせて頂きます」
「娘と一緒に住むのに、異存も何もないわよねっ♪
王子様をお待たせしないように、決めちゃいましょ♪」
え~っと、ソラちゃん?
俺が、何度 誘っても、動こうとしなかったの
だぁれ?
「まぁ……一緒に暮らせるのも――」
「――嬉しいですよね、あなた♪」
「そうだな……うむ……」
そんなこんなで、引っ越すと決めたソラは、半ば以上強引に、両親と叔父・叔母と共に、長老の山で暮らし始めた。
凜「サクラのイカツイ長セリフ、
怖いんだけど~」
桜「なんで怖いのぉ?」
凜「だって、いつもはタ~ラタ~ラまったり
話すでしょ?」
桜「うん。まぁね~」
凜「そっか、それ、フリだもんね」
桜「う~ん……俺にも、どれがフリなんだか
わかんなくなっちゃった~」
凜「素直に話すって、サクラには無いの?」
桜「どぉだろ~ね~」
凜「たまには素直に、おねーさんに話しなさい」
桜「お……ねぇ……???」キョロキョロ
凜「それは、前にもやったからっ!」




