愛溢れ4-アオにも……
前回まで:アオは芳小竜に入れられたまま
フジに治癒の光を当てています。
♯♯ 天界 長老の山 ♯♯
「フジ兄、今日から、手を再生するねっ♪」
サクラが瓶を二つ抱えて、入って来た。
「中身は軟膏ですか?」透明ですが……
「うん、六花膏。
それと、白い粒が真芯粒。
形が出来てきたら、六花膏を昇華膏に入れ換えてね」
「はい♪」
両手を包んでいる物を取ると、腕は、まだ細いが、手首近くまで伸びていた。
「肘まで入れてね。
ルリ、お手伝いヨロシクねっ♪」なでなで♪
左手の瓶に芳小竜が、ふよっと乗った。
サクラと芳小竜が瓶に両掌を当てる。
サクラが術を唱え始めると、真芯粒が輝きながら移動し、骨の形になっていった。
(フジ兄、真芯粒、追加できる?)
(はい♪)瓶の中に、新たな白い粒が現れた。
フジの腕が、真芯粒の骨を包みながら、伸びていく。
まだ半透明だが、きちんと手の形になった。
早いね……アオ兄が時短してるのかな?
「ルリ、だいじょぶ?」
きゅるる~♪
芳小竜が楽しそうに頷く。
(いけそうだから続けるね)
サクラが唱える術が変わった。
六花膏が、フジの半透明の手に吸収されていく。
(昇華膏をお願い)
(はい♪)
透明な六花膏が全て吸収され、新たに赤みがかった半透明の軟膏が湧いてくる。
昇華膏の淡い赤が、フジの手に吸収され、しっかり手が形成された。
サクラと芳小竜が目を閉じ、全身から放つ光を各々の手に集め、一気にフジの手に流した。
「今日は、ここまで~」
サクラが額の汗を拭った。
サクラが汗を……珍しいですね。
そんなにも大変な術だったのですね……
「サクラ、ありがとうございます」
「ここまで二、三日かかると思ってた~
さっすがフジ兄だねっ♪
薬が勝手に出てくるから楽だったよ♪」
「私は何も……
本当に、ありがとう、サクラ。
ルリも、ありがとうございます」にこっ
きゅ~♪
サクラが芳小竜の頭を撫でる。
「いいコだね~♪ がんばったねっ♪」
芳小竜は嬉しそうに目を細め、首を竦めた。
「サクラ、ルリからアオ兄様の気を感じるのですが……」
あ……バレた?
「うん。ソレあると思うよ。
ルリはアオ兄の写し身だから。
それに、今はアオ兄の力の一部を、ルリの中に保管してるからね」
「だからですか……
アオ兄様が傍にいてくださっているようで、安心出来ます」
目を閉じ、安らいだ表情で微笑んだ。
フジ……
「俺も、アオ兄 大好きっ♪」ルリを抱きしめた。
サクラ……って、ちょっ! サクラ!?
すりすりするサクラの頬を、芳小竜が両手で突っ張って、首を横に ふるふるしている。
フジが吹き出した。
「あら♪ 楽しそうね♪」
リリスが入って来た。
「サクラ様、毎日ありがとうございます。
あら?」瓶を見て、近寄る。「手が――」
リリスが瞳を輝かせ、フジと目を合わす。
「治ったのね!」抱きしめる。
サクラは、芳小竜を持ったまま、そっと病室を出た。
(フジ兄、今日は、まだ動かないからね。
そのまま浸けといてね。
ルリは後で返すからね)
(アオ兄、休憩だよ。毎日ありがとねっ)
(サクラの苦労が、よく解ったよ)
(なぁに? 苦労って?)
(皆の心が、勝手に流れ込んでくるんだ)
(とうとう……アオ兄も……)
(どうやって調整してるんだい?)
(できれば……いいんだけど、ね……)
(もしかして……)
(うん……俺にも、まだ……わかんないんだ)
二人で、ため息。
(子供の頃は、まだ よかったんだけどね。
最近、本当に困ってるんだ……)
(よく解る……)
(姫まで流れてきちゃうようになったから、本当に、なんとかしたいんだけどね)
(二人で探そう)
(そだね♪ 一緒に探したら見つかるかも~♪
竜宝達にも相談しよっ♪)
(その為にも、早く体に戻らないとね)
(うんっ♪ 俺、魔界に行ってくるね!)
(ソラさん、こっちに連れて来ないのかい?)
(う~ん……なんでか、来てくれないんだ。
接触してしまったから、魔王にカンチガイされて、狙われるんじゃないかって心配なんだけど……)
『カンチガイ』ね……
(また……勘で、こんな事 言って悪いんだけど――)
(なぁに?)
(ソラさんは、ウェイミンさんと繋がりが有るような気がするんだ)
(聞いてみる! アオ兄♪ ありがとっ♪)
歩きながら話していて、庭に出ていた。
フジの病室の真下に行く。
「窓まで飛んでね~♪」芳小竜を放った。
そして、サクラは魔界に向かった。
♯♯ 人界 岩戸地帯 ♯♯
岩戸での修行の進み具合を確かめる為に、開ける事を決めていた時が来、
慎玄が雷崋の岩戸から出ると、フジではなくキンが待っていた。
「私の属性が雷ですので、フジと代わりました。
気を拝見致します」
竜の血は、薄い筈なのに、
こんなにも発現するとは……
キンは驚きつつも、丁寧に気の扱い方を伝え、
供与で竜の力を強めた。
そして、次に開ける時を決め、桜華に報告する為に、神楽の風穴に向かった。
「桜華様、こちらの進み具合は如何ですか?」
「ひとつ越えた所でございます」にっこり
キンは、アオ、フジ、姫の現状を伝えた。
「でしたら、こちらは腰を据えて、しっかり伸ばした方がよろしいですね」
「はい。足止めしてしまいまして申し訳ございませんが、そのように宜しくお願い致します」
「いえ、狙われる事は重々承知。
慎玄様にはコギを付けておきます。
こちらの事はお任せください」にっこり
頼りになる桜華の存在に、気を張り詰め続けていたキンは、初めて安堵出来た。
♯♯ 深神界 ♯♯
その頃、ハクは――
案の定、話すら聞いて貰えない深神界の神竜の態度に、頭を抱えていた。
見かねた神達も説得に当たってくれたが、それでも『家宝だから』の一点張りで、挙げ句、屋敷に籠ってしまった。
『家宝』つったって、蔵で埃たんまり
被ってるのによぉ……
魂が入ってねぇ事すら気付いてねぇし、
質が悪ぃったってありゃしねぇ!
サクラが何か当たってくれてるのを
待つしかねぇのかな……
助けてくれた神達に、丁寧に礼を言い、ハクは天界に戻った。
♯♯ 人界 神楽の風穴 ♯♯
(あなた達、いい加減に休憩しなさい)
(あ……母様……)二人、ピッタリ。
(どうして揃うのよ?
そこ、真っ暗闇よね?
それに、音なんて聞こえていないんでしょ?)
(そうなのですが……
それに、揃えようなどとは思っておりませんよ)
一音たりともズレない。
(もういいわよ)クスクス♪
(とにかく、定期的に休まなければ、かえって効率悪いのよ)
(はい。休みます)どうしても揃う。
(紫苑、母様の声、よく聞こえるようになったと思うのですが……)
(そうですね。
これが、この風穴での修行の成果なのでしょう)
(紫苑の声も、よく聞こえるようになったわ。
竜宝も術も使えないなんて、この風穴は、どうなっているのかしら……)
(そこは、俺達の祖先が、人界の任の最中に、天性や属性を鍛える為に作った修行の場ですよ。
その風は、実際にも吹いていますが、気に対しても吹いているんです。
だから、術を心で唱えても、かき消され、竜宝達は気を乱されるのを嫌って、閉じ籠ってしまうんです。
ただし、天性と属性を使う為に高める気には、影響しないように調整されているんです)
(アオ殿……ですね?)
(聞こえてしまったんです。
割り込んでしまって、すまない)
(いえ、お答えくださり、ありがとうございます)
(今、どちらにいらっしゃるのですか?)
(まだ天界です。
体の闇が消えるまでは動けないんですよ)
(そうですか。
しかし、お元気そうな声が聞けて、嬉しいです)
(私達は、こちらで修行に励みますので、しっかり闇を消してくださいね)
(はい。俺も気を高める修行に励みます)
(お互い、新たな力を掴みましょう)揃った。
(はい。頑張りましょう)
(アオ殿には――)(負けられませんね)
互いの顔は見えなくても、同じように微笑んでいる事は確かだった。
(始めましょう)また揃った。
(あなた達、ご飯よ。出ていらっしゃい)
(おや)(あら)
(参りましょう)どうしても揃う。
暗闇で掌を合わせ、気を高める。(騎流!)
ここでの移動の為に、編み出した技で、外に出た。
「良い技ね♪」「二人は風なのか?」
「いいえ、闇だそうです」
「クロ様、いつもありがとうございます」
「でも、風でも使えると思うわ。
やってみたらどうかしら?」
三人、喜び勇んで風穴に入ろうとする。
「もちろん、食後よっ!」「あ……」
凜「やっぱりいた~♪ シルバコバルト様♪」
始【また追っかけて来やがった!
ついて来るなっ!】
凜「キン様が動いたから、今度は
雷崋の岩戸だと思ったのよね~♪」
始【だから、どっか行けって! あ……】
凜「消えちゃった……
キン様が戻って来たからなのね~」




