愛溢れ1-救う!!
この回が、惨状としては最大です。
姫とフジの現状は、あまり想像しないでください。
(兄貴達!! 助けてっ!!!)
サクラは姫を治癒の光で包み、術を唱えながら叫んだ。
「何があった!?」クロが現れた。
(フジ兄が落ちた! この下にっ!
長老の山に運んで!!)
サクラは言いながら長老の山へと曲空した。
「シロお爺様! 医師を集めて下さい!!」
♯♯深蒼の祠♯♯
【私達は、こちらでよろしいのですか?】
【妖狐王様にお任せ致しましょう】
【でも、あの子を連れて行くなんて……】
【姿を見せるのではないでしょうから、大丈夫です。
ご指示通りに動きましょう】
カルサイとドルマイが、アオの必死な気を感じつつ、水槽に光を当てていると、ギンを連れたキンが現れた。
アオが入っている芳小竜のルリが明滅する。
「父上、私は長老の山に向かいます。
こちらも襲撃を受けるかもしれません。
申し訳ございませんが宜しくお願い致します。
カルサイ様、ドルマイ様、ムーント様、
アオの体を宜しくお願い致します」
キンは芳小竜を水から出すと、曲空した。
♯♯ 長老の山 ♯♯
姫とフジへの治療が始まった。
キンがルリを連れて治療に加わり、ハクも神界から戻って来た。
サクラは姫を治療していた。
そのサクラに、グリッターローズの魂が重なっている。
【サクラの頭に、ルリを乗せて下さい】
芳小竜からアオの声が聞こえた。
乗せると、サクラの光が増した。
(クロ兄! 力を貸して!)
(オレに何が出来るってんだ!?)
部屋の隅で踞り、領域供与を発動していたクロが、心の苦痛で歪む顔を上げた。
(姫を引き止められんの、クロ兄しかいないでしょっ!!)
(オレ……だけ……医者じゃねぇのに……)
(そんな事、関係ないからっ!
しっかりしてっ! 姫は生きてるからっ!!)
クロがバッと立ち上がり、治療台に駆け寄った。
(これが……姫……?)
(早くっ!!)(……ク……ロ……)
「姫っ!!」
クロは小さな塊を抱きしめた。
「死ぬな! オレを置いてくんじゃねぇっ!!」
(……ク……ロ……ど……こ……じゃ……)
(ここだ。どこにも行くな……戻って来い!)
クロが光を帯びる。
(ずっと一緒にいてくれよ……なぁ、姫)
(クロ……聞こ、え……る…………が……)
(ああ。何だ? オレには、聞こえてるぞ)
(何、も……見……えぬ……真……暗じゃ……)
姫の塊に口づけた。
クロの体から、力が輝きとなって迸る。
その輝きを全て姫に向けた。
……ドクンッ……
(姫!?)
……ドクンッ! ドクンッ!!
(早く戻れ! ここだっ! 姫!!)
まだ実体を持たぬ姫の手が、クロを抱きしめるように、その背に現れては消える。
(まだ光が足りねぇのか? 見えねぇか?)
クロの輝きで、医師達には二人の姿が見えなくなった。
見えているのはサクラだけ。
(クロ兄、心の中で、手を伸ばして!
そう! もう少し……頑張って伸ばして!)
サクラがクロの手を握る。
(姫、そのまま進んで……うん、そうだよ。
今、向いてる方向に。俺の声に向かって。
クロ兄は俺と一緒にいるからね。
大丈夫だよ。進んで……前に手を出して――)
今度は、姫の手を握る。
サクラは気を極限まで高め、心の中で、二人の手を近付けた。
(クロ兄、姫。ほら、手を取って。
俺が離したら、引き寄せてね。
心の中だから、遠慮しないで。
何も壊れたりしないから、おもいっきりねっ!
二人共、しっかりねっ!)
クロと姫の手を繋がせ、覆っていたサクラの手が離れる。
(クロ兄! 今だよっ!)
クロは力の限り、姫の手を引き寄せた!
姫が、クロの胸に飛び込んで来た。
(姫!)(クロ!)
サクラは極大の光の球で二人を包み、その光を姫に押し込んだ。
(もぉ、だぃ……じょぶ、だ……よ……)
サクラは兄達に伝え、崩れ落ちるように倒れた。
芳小竜から発せられた光が、サクラを包む。
【サクラ、ゆっくり休んで】
【アオは、フジを助けよ】
グリッターローズも芳小竜の中に入った。
芳小竜が、フジの胸元に曲空し、強烈な光でフジを包んだ。
【兄上、腹部の穴を六花膏で埋めてくれ。
アオ、六花膏を内臓に行き渡らせるぞ。
治癒の光を当て、浄颯の術を唱えよ】
アオが唱え始めた。
【モモ、颯竜丸を聖輝煌水に溶かし飲ませよ】
【兄上、次は手だ。
六花膏と真芯粒でどうだろう?】
【それ以外に考えられんな】
【よし、また笛が聴けるよう、しかと治すぞ!】
【ハク、私に、その手を貸せ】
グリッターローズは、芳小竜からハクに移った。
【キン、サクラを頼む。そなたにしか出来ぬ。
静香は、クロと医師達に任せればよい】
【アメシス様、フジの意識は如何ですか?】
【私の中に保護しております。
私が代わりに、フジの体の生命力となりますので、御存分に】
【ありがとうございます。それでは――】
【アオ、今は、己が体が無い事を、最大限利用するのだ。
全ての力を解放せよ!】
芳小竜が咆哮を上げる。
皆の治癒の光が渦となり、立ち昇る。
芳小竜が上昇し、その渦を吸収して輝く。
両掌の間に、輝きを集め、小さな虹光の球を生んだ。
渦の収縮点が、虹光の球に移る。
芳小竜は、フジの腹部の穴に向かって急降下し、虹光の球を、その穴に押し込んだ。
虹光の球が六花膏の中で明滅しながら、渦を集め続ける。
【よし。後は医師達の体力勝負だ。
ハク、まだいけるか?】
(問題ありません。続けて下さい!)
【上げるぞ!】(はい!)
「先生方! 治癒を上げてください!」
(アオ、出来たぞ!)
(アカ、解った!)
【クロ、アカの気に、姫を連れて曲空だ!】
アオの声で、クロは引き戻され、曲空した。
♯♯♯
クロが曲空した先には――
アカ、ワカナ、リ姉弟が大きな箱を囲んでいた。
「入れ」
姫を抱きしめたクロが駆け込む。
「再生を加速する箱だ。供与で助けろ」
扉が閉められた。
(姫、元に戻してやるからな)
(クロ……かたじけない……)
(頑張ろうな)(うむ)
クロの内では、天性の殻に亀裂が入り、割れた欠片が散り続けていた。
供与の力が迸る。
箱の外で、アカと話すキンとサクラの声が微かに聞こえた。
キンとサクラが、箱に掌を当てたのが、何故か見えた。
二人の掌から、治癒の光が放たれる。
クロは供与を箱の外まで拡げた。
(姫、大丈夫か?)(大丈夫じゃ♪)
供与を極大にする為、クロは竜体に戻った。
境界に散った姫の欠片よ!
元の場所に戻れ!
オレの力、何でもくれてやる!
戻って来い!!
供与が爆発的に発動した。
殻の破裂が連鎖する。
そして、もうひとつの天性が目覚めた。
クロの意識は、姫の欠片が散らばる境界に飛んでいた。
よし、見えたっ!
姫の欠片! ここに集まれ!!
無数の小さな光が、クロの意識に吸い込まれる。
姫、一緒に戻ろう!
クロが目を開けると、箱の中に戻っていた。
(集めてやったぞ。受け取れ)
欠片達よ、元に戻れ!!!
小さな光の粒達が、箱の中いっぱいに広がる。
(キラキラと……綺麗じゃのぅ……)
(これ、お前だよ)クロが笑う。
(これが? ……ワラワなのか?)
(そうだよ。集めるぞ、吸い込め!)
(あい解ったっ!)
姫の塊に、光の粒が吸収され、次第に形を成していく。
まだ、透き通る姫の体を壊してしまわないように、クロは人姿になり、腕の力を抜いて、優しく抱き直した。
(もう少しだ)
姫が頷くのが見え、クロは微笑んだ。
竜の力が姫に流れ込み、一度、強く輝くと――
姫の体が、元に戻った。
(まだ不安定だからな。
もう少し、このまま我慢してくれ)
(我慢など……)
(何だよ?)
(クロは……我慢しておるのか?)
(あ……いや……)
(嫌なのか?)
(んな事あるかよ)
(ならば……このまま……)
(ああ。このままな……)
二人は、吸い寄せられるように、顔を寄せた。
♯♯♯♯♯♯
(キン兄、だいじょぶ?)
(なんとかな。サクラは?)
(俺は だいじょぶ~♪
キン兄、さっきは ありがとねっ♪
クロ兄は……もぉ ほっといてもいいのかも~)
(どうしたのだ?)
(うん……もぉ 治療じゃなくなってるから……)
サクラが頬を染める。
(そうか……ならば、フジの方へ行こう)
(うん♪
あ、コレ送り込んどかなきゃ)
(何だ?)
(姫の服~♪
姫自身しか集められないでしょ?)
(そうなのか……)今度は、キンが赤面。
キンとサクラは、フジの治療に戻った。
「出たくなったら曲空するだろ」
アカ達も、各々の仕事に戻った。
カルサイとドルマイは、姫とフジを
治療するに至った経緯をギンに話した。
銀「そういう事でしたか……」
カ【はい。ですので、こちらも――】
ド【来ましたね】
カ【ですが、こちらは、神の光の内です。
魔物は入れません。故に――】
銀「王都かっ!!」
ド【参りましょう! あっ、お祖父様――】
?【私が王子達を護る。行け!】
カルサイとドルマイはギンを連れて消えた。




