西航行12-告白
前回まで:スミレはハクに色々話しました。
竜が、神竜の事を知り、神竜と手を結ぶ事は、
魔王にとって大きな脅威であり、
なんとしても避けたい事。
だからこそ、魔王は、どんな手を使っても
『知る者』を排除しようとする。
翁亀様は、そう言っていた。
既に神竜と結び付いているアオとサクラは、
脅威そのものだよな……
だから狙われる。
護る為の封印か……
まだ解いてはいけないのか……
この前、俺は睦月に、知る事で、
知恵を使う事で、人界を護れと言ったが……
竜も同じだよな……
もっと神竜の事、知らなければならないな。
今は、知る事が危険過ぎる両刃之剣だが、
いずれは俺達だけにとっての
最強の剣にも盾にもしてやる!
ハクは洞窟の自室でスミレの言葉を聞き、考え込んでいた。
急いではいるんだが……
やりたい事だらけになっちまったな……
頭ン中、整理しねぇと動けねぇよ……
(ハク兄……今、いい?)
(どうした? サクラ)
(ヒスイから聞いた。
ハク兄、スミレから聞いたんだよね?)
(お前なぁ『様』くらい付けろよ)苦笑。
(だって~ 友達なんだもん♪)
(しょーがねぇヤツだな……
聞いたよ。
まだ話して貰えない事もあったが)
(うん。まだ、言えない事あるんだ……
でも、スミレが言ったなら、俺も……少しだけどね……話していい?)
(ああ。言えない事は、無理しなくていいぞ)
(ありがと、ハク兄。部屋、入っていい?)
(もちろんだ)
サクラが曲空して来た。
(お前……曲空……)
(うん。できるけど、気にしないで。
目の前だけど、声には出せないから、このまま話すね……)
ハクが頷く。
(俺……アオ兄が囮になって落ちるまで、ただ、兄貴達に甘えてた。
年が離れてて末っ子だから、どんなワガママでも許されてトーゼンだと思ってた。
あ、矛盾してる、って疑ってる色だ……
うん。確かに兄貴達には会ってなかったよ。
でも、それも、甘えてたからなんだ。
俺、公務も、な~んにもないし、好きなコト、自由にしてていいんだって思ってたんだ。
兄貴達、みんな人界に行くって聞いて、ひとり置いてかれたくなくて……
それだけの理由で、俺の中にある竜宝達の力 使って、ズルして試練の山 合格して、ムリヤリついて来てしまったんだ。
俺が……バカだったから……
アオ兄を苦しめ続ける事になってしまって……
アオ兄とは特別に繋がってるから、それ……ぜんぶ伝わってくるんだ……)
(サクラ……お前……ずっと、ひとりで……)
(俺は、自業自得だから……
それに、ひとりじゃない。
ヒスイも一緒だから。
ヒスイも、アオ兄を護りきれなかったって、封印する事になってしまって、すまないって、いつも言ってる。
でも……ヒスイが護りきれなかったのも……
俺が、落ちていくアオ兄を見て、暴走して、竜宝の力、ぜんぶ解放しそうになったのをヒスイが止めてくれてたから……
だから、アオ兄のトコに行くのが遅れたんだ)
(そんなに……全部、自分のせいにすんなよ)
(ありがと……でも……
どう考えても、ぜんぶ俺のせいなんだ……)
ハクはサクラを抱きしめた。
(そんなに自分を責めるなって。
皆、サクラのせいだなんて思ってねぇよ。
皆、自分のせいだと思ってるんだからな)
(うん。知ってる)
(そうだったな……
俺達の気持ち、筒抜けだったな……)
(だから……兄貴達、大好きなんだ……)
(そっか……)
(洞窟で目が覚めた時、アオ兄の居場所がわからなくて……
そんなこと、それまで無かったから、混乱して泣いてたら、ハク兄が『死ぬワケねぇだろ』って言ってくれて……
それで落ち着けて……
よく考えたら、俺が生きてるってコトは、アオ兄も生きてるってコトだよね……
って、気づけたんだ。
それで、ヒスイ 呼び出して、ぜんぶ聞いて、アオ兄と俺の力は、影響し合うから、俺も封印してもらったんだ。
アオ兄には、竜だってコトも忘れててもらわないといけなかったから、記憶と力が封印されたけど、
俺は、アオ兄の呪を刺激しないように、竜の力のうち強い部分と、力の成長を封印してもらったんだ。
竜宝の力は、使っても影響しないから、今の俺は、自分の力 少しだけと、竜宝の力と、ヒスイの力で、竜として動けてるんだ)
(時々、翼が有るんだってな。
ヒスイ様の力か?)
(ハク兄にも見える?
ヒスイの力、いっぱい使うと、出ちゃうんだ)
(俺には見えねぇよ。アオが見たっつってた)
(うん。アオ兄なら見えるハズだよ。
俺……
何かの間違いで、アオ兄の封印が解けてしまったら、全力でアオ兄を護るから)
(捨て身には、なるなよ)
(大丈夫。なれないよ。
俺が死んだら、アオ兄も死んでしまう。
それに、ヒスイが神に成れないから)
(ああ、そっか……
あとは、サクラが成人しなきゃ条件が揃わねぇんだな?)
(うん)
(今、モモお婆様とウェイミンが、封印解放の術を解読しようとしてるんだが……)
(それは、進めてほしいんだ。
アオ兄のも、俺のも、何重にも封印してるから、もう、ヒスイにも鍵がなければ解けないんだ。
たぶん、その術が鍵だと思うんだ。
ただのカンだけど……)
(解った。続けて貰うよ)
ハクは額をくっつけて、サクラの目をじっと見詰め、
(お前、ちゃんと成長してたんだな。
今まで騙しやがって~)
(ごめん……
でも、出来るだけ、力 使わない為には、こうするしかなかったんだ。
まだ暫くは、ガキのフリしてないといけないけど……笑わないでよね)
(たぶん笑う)ぷっ♪
(もおぉっ! 笑ってるし~)ぶぅ~
(見つからないように笑うさ)あははっ♪
(絶っっ対! 見つかったらダメなんだよっ!)
(わかった、わかった)はははははっ♪
(俺がハク兄の秘密、いろいろ知ってるコト、忘れないでね)じーーっ
(あ……)マジかっ!?
(あ♪ ハク兄、今度『俺』やってよねっ♪)
・・・ちょい待てっ!!
(いや、そ、それ……ムリだからっ!
もう笑わないからっ! 勘弁してくれ~っ!)
(誰がやるのか決めるの、俺じゃないし~♪)
「コイツッ!」
きゃははははっ♪
(ハク兄♪ 大好きっ♪)
(俺もなっ♪ 愛おしくって仕方ねぇよ!)
あはははははっ♪
「船に戻るが、サクラ、どうする?」
「いっしょに行くっ♪」
(その前に~ キン兄トコ行こっ♪)ニコッ
(そうだな。顔見せとかねぇとなっ)ニカッ
♯♯♯
「キン兄~♪」ぱふっ♪
「サクラ、もう大丈夫なのか?」
「うんっ♪ どっか行くの?」
「長老の山だ。シロ爺様に呼ばれたのだ。
ハクは何か有ったのか?」
「ああ、これを」檻を見せる。
「私の部屋は、鳥籠置き場では無いのだが……
そうだな……長老の山に運ぶとするか」
キンは檻を袋に入れて担いだ。
「んじゃ、そこまで一緒に」
「ああ」
「いっしょ~♪」
三色の竜が楽しそうに絡みながら朝陽を浴び煌めき、天に昇るのを見て、
アカは微笑み、鎚を振るった。
スミレが神界に逃げ帰った後、
ヒスイはサクラに、ハクに知られた事を話した。
翡【ごめんね、サクラ】
桜(ホント、どこまでいってもスミレだねぇ。
また、カッコつけて話しちゃったんでしょ?
光景、浮かんじゃうよぉ)
翡【どうするの?】
桜(ん~ そぉだねぇ……
ある程度、話して、それとなく釘刺しとく)
翡【怒ってないの?】
桜(スミレに怒るのって、大人げないでしょ)
翡【封印解いたら、滅したりしない?】
桜(俺が? スミレを? しないよ~
アオ兄もしないよ。
困ったコだけど、妹だからね。
あ……伯母上だっけ?)
翡【伯母だって自覚、ぜんぜん無いよ】
桜(知ってる~ いつまでもコドモ~
……でも、俺も……おんなじ……
人界に来るまではコドモだったよね……)
翡【それは……】
桜(ううん、わかってる。
俺が、あの時、もっとオトナだったら、
アオ兄は、あんな事にならなかったんだ)
翡【私も……同じだから……
スミレを連れて行けなかったから……】
桜(ヒスイのせいじゃないから。
俺がスミレとケンカしちゃったから、
スミレが拗ねて閉じ籠っちゃって、
アオ兄に呪が……
あの時、スミレが来てれば、防げたんだ)
翡【サクラ、それは――】
狐(それは、防げぬ事だ。
サクラが悔やむ事ではない)
桜(妖狐王様……でも――)
狐(もしも、スミレが、あの場に居れば、
飛んで来た刃は四本であったろうよ)
桜(えっ……それは、どういう――)
狐(長く生きておるとな、避けられぬ事が有る
と何度も思い知らされてしまうのだ。
『時流』に乗ってしまうと逃れられぬ。
その場では逃れても、いずれ同じ結果が
訪れてしまうのだ)
桜(では、どうしても兄は呪に掛かったと
いう事ですか?)
狐(儂は、そう思う。
だから、悔やむ暇が有るのならば、
己を高めよ。そして、アオを護れ)
桜(……はい! ありがとうございます!)
狐(儂も協力する。裏方は任せよ)
桜(妖狐王様が……?)
妖狐王はニヤリとして消えた。
桜(あっ!
ありがとうございます、妖狐王様っ!)
そして、サクラはハクに声を掛けた。




