第一話 ログイン
俺は、フルダイブシステム初のゲーム≪ナイト・サーカス≫をゲーム発売当日に手に入れることに成功した。
発売前日の午後11時から店の行列に並び、同じく並んでいる人とゲームに対する熱い思いを語らうことで、11時間もの長い待ち時間は全くというほど苦にならなかった。
最終的には、全員ゲームで使うアバター名を教え合い、中で出会ったら絶対に声をかける、という約束を交わして別れた。
発売日を日曜日に設定している辺り、中々気の回るゲーム会社だ。
自転車をこいで大急ぎで家に帰ると、親にただいまの一言もなしに俺は颯爽と自分の部屋へと駆け上がり、買ったその時はなめまわすように見まくったパッケージを開けそして自らの認証、計測を始めた。
計測はマニュアルに沿って行われるため、大した苦労はかからなかったが、早くゲームをしたいという気持ちで、その計測時間は、つまらない授業を聞いている時や、テストが終わった後の空き時間以上に長いものに感じられた。
そんな、短いようで感覚的には非常に長かった計測を終え、俺は箱の中にあったヘルメットを取り出した。
色はシルバーとシンプルな色。
特にバイクに乗るわけでもないので、フルフェイス型ではなくジェットヘルメットのような感じだ。
ちょうど目に当たる部分には遮光板が設置されているのはデザインか、それとも何か別の意図があるのかもしれないが、そんなことはどうだっていい!
俺はベットに横たわってからヘルメットについている、俺を夢の世界へといざなってくれるボタンであるログインボタンを「ゲーム・スタート!」とバカみたいに叫びながら押し、俺は現実での意識を失い
―――ゲームの世界へとダイブした……
目をつぶっていたはずの俺の目の前にはずらー、と目まぐるしいほどの大量の文字の列が並んだ。
かと思うと、それらはすぐに消え去り、そして次には大きく、華やかにこう表示された。
≪Welcome to Knight Circus !!≫
☆
確かに俺はそこにいると自覚ができた。
ベットで寝ていたはずなのに、俺には確かに地面を踏みしめて立っている感覚があり、窓を閉めた家の中にいるはずの俺の肌には心地いい風の感触がある。
俺はその世界を見るためにゆっくりと瞼を開けた。
まず目についたのは目の前にあるドデカい噴水。
レンガ造りの街並みは、ハンブルグの街をイメージしてつくられていると書いてあった。
そして、その奥にそびえたつ首を傾けなければ頂上を見れないほど高い塔。
おそらくはあれが≪騎士の塔≫
俺は確認のために手をゆっくりと動かした。歩いた。
そして、そこでようやく俺は自覚した。
俺はゲームの世界に入ったんだ!!!
今までの人生の中でおそらくこれほどまでに興奮し感動したことはない!絶対にない!
今すぐにでも叫びたい気分だった。
だが、それはあえてしない。
俺より少し後や少し先に入ってきた人間が周りで皆そうしているからだ。
ネットでそれなりには調べていたので今自分がどういう状況にいるのかは大方把握できていた。
叫ばなかった分、俺はその興奮を体で表現すべく、全力で走った。
現実で走ることと、この世界で走ること、二つはやっていることは同じ、走っている感覚さえ同じなのに、どうしてこっちの世界で走ることはこんなにも特別に感じられるんだろうな。
そんな答えるつもりもない疑問を頭の中によぎらせた。
随分と遠そうに見えた塔だったが、意外と早くに到着した。
それにしてもさすがはゲーム!
全然部活や運動をやっていない俺でもこんなに長時間走ることができる!
さすがに途中でいったんバテたものの、割とスグにしんどさも回復する。
俺がこのゲームで初めにしなければならないことは見習い騎士になること。
そもそも、このゲームは名前の通り騎士たちの集まり(といっても実際は剣士の方がイメージには近いかもしれないが)であり、用意されている数々のクエストをクリアすることでその騎士としてのランクを上げていく、という至極単純なゲームだ。
当然だがランクによって受けれるクエストは大きく変わっていく。
オンラインゲームなんてものは、設定自体はそれくらいのでいいと俺も思っている。
大事なのは、イベントだ!
そして、今回俺がこのゲームに惹かれた最大の理由は、このゲームのコンセプトとそれを生かしたゲーム設定にある。
コンセプトはいかにゲームの中で現実での体感を得られるか、というもの。
実際、走ってみてわかったが、その体感はかなり、というよりほぼ現実のものと同じだった。
そして、その体感を最大限に感じる今回のゲーム設定だが、魔法という概念が回復系を除いて一切存在しないということ。
つまり、剣や斧といった武器を自らが振り回して戦うことを要求される。
これだけのクオリティで現実の体感を再現したうえで、戦う時はこのまったく現実と変わらない体感で走り、武器を振り回して、相手を倒すのだ。
まるで自分の体じゃないような動きをゲームはシステムを使って俺たちに実現させてくれる。
決して現実ではできない動きを、あるいはステップをこの世界でなら実現可能にさせてくれるんだ。
レベルが上がれば、その迫力や速さもどんどん上がる。
あえて、魔法を入れないことで剣や斧などのスキルの量はかなり豊富にそろえてあるらしいからな。
塔に入ると、ネットに書いてあった通り、頭の上に!マークのついた女の人が一人いる。
この人に話しかけると、騎士見習いになるための検定がスタートする。
そして、このチュートリアルが終了すると、もれなく有料のガチャボックスを一度だけ引くことができる。
このガチャは無課金者にとっては今後を大きく左右するものだ。
ここでレアなものをひければ無課金であろうとも、いくらでも重課金者と渡り合える力を持つことができる。
だが、世の中はそんなに甘くない。甘かったら課金者なんてこんなに出ない!
普通は無課金者であろうと、残酷に最底辺ランクのアイテムしか与えられず、ひたすら時間を重ねて、行くしかない。当然、無課金なので効率もかなり悪い。
無課金者はそんな蛇の道を歩んでいかなければならないのだ。
だが、このゲームは少し無課金者にも希望が見える(ように感じる)設定が儲けられている。
このゲームは、今現在世界中でプレイされていると思うが国ごとに一つずつサーバーが設けられており、自分の居る場所の国のサーバーにしか入れない。
そして、そのサーバーごとにはレジェンド級の剣が一つと四つのS級防具が存在し、それは課金ガチャでは絶対に手に入らないということらしい。
(ちなみにガチャで手に入るのはAランク武器まで)
な、少し無課金でもいけるような気がするだろ?
って、そんなことはまだまだ気が早い!
今は、まず目の前のことをこなすことだ!
俺は女の人に話しかけた。
会話もだいぶ普通に話しかけている感じに近いようには作られているんだろうけど、やはりこれは少しセリフっぽい感じがする。
相手が質問を投げかけてくるまでこちらは何かを言う必要は無く、質問にも肯定なら、肯定の意思のある言葉をそっけなくでもフレンドリーにでもとりあえずは返せばそれでいい。
おかげで、若干コミュ障である俺でも簡単にチュートリアル開始まで持っていくことができた。
「じゃあ、行きましょうか」
これに対してあとは「うん」や「はい」と答えるだけでいい。
無難なところで、「はい」と答えた瞬間俺の足元には六角形の魔法陣が明るく光り、そして次の瞬間俺は街の外の草原に立っていた。
もう少し先まで書こうと思っていたのですが、今回はこのあたりにしておきます。なんせテスト期間中ですので(^_^;)
今回は少々設定をくどくど書きすぎてしまった気がします……




