平凡で普通な人間
耳元でアラームが鳴る。
僕は、飛び起きる。
寝起きの頭には、それが災害アラートのように感じられたからだ。
だが、すぐにそれが目覚まし時計の音であることに気が付く。
普段は、こんなバカでかい音はならない。
目を開いて、ぼやけた視界で目覚まし時計を確認する。
視界いっぱいに12から始まり12で終わる円が映る。
目覚まし時計は、耳元にあった。
寝相が悪かったようだ。
最悪だ。
強いて良かったことは、どこか遠くそれこそ足元あたりに時計を蹴飛ばし、寝坊するなんてことがなかったことだろうか。
時刻は、朝。
ここから朝の支度をするには、十分な時刻だ。
朝食を食べ、歯を磨き、着替え、身だしなみを整え、今日の予定を振り返ることができる。
しかし、眠い。
寝ないと死ぬほどではないにしろ、中途半端に眠い。
昨日は、ゲームをしていたが、それはあまり関係ない。
僕の好きなゲームは、最新技術をふんだんに詰め込んだゲームで驚くことに寝ながらプレイする。
文字通り夢のようなゲームだ。
だから、寝不足なんてありえないが、ゲームの内容が少しばかり面倒だったからだろうか、しっかり寝たのに疲れた。
まぁ、そのぐらいはいい。
良くはないが、いい。
こんなことを考えていても活動エネルギーを浪費するだけだし、さっさと日常に戻ろう。
僕は、朝の支度を済ませる。
毎日やっていることだ。
自慢だが、規則正しい生活をできているのは、誇りだ。
趣味との両立ができているというやつだ。
大した自慢ではないかもしれないが、別にいいだろう。
ちなみに朝の正座占いでは、7位という絶妙な結果だった。
僕は、時間になったので学校へ向かう。
普段通りの通学路。
学校までは、あまり遠くない。
徒歩、30分といったところだろうか。
正確に考えたことはない。
ホームルームに間に合えば何でもいい。
学校に着いた。
普段通りの学校だ。
昨日と同じ姿をしている。
自分も含めて、ありとあらゆるものが、同じ形、同じ色。
「ヨォー、おはよう!」
突如、背を叩かれる。
痛くはなく、ただ押されたような衝撃だ。
「おはよう、物部」
僕は、挨拶を返す。
「どうしたよ。寝不足か?」
物部が聞いてくる。
「いや、寝た気がしないだけ」
「そうか、まぁ、頑張ろうぜ」
そう言い残して、先に教室へ向かった。
彼は、友人兼クラスメイトの「物部 造」。
中学の頃から同じ学校だったが、仲が良くなったのは、高校に上がってからだ。
やっているゲームも同じ、例のゲームだ。
僕は、教室へ向かう。
癖のような歩みで扉の前まで歩く。
そして、扉を横へスライドし、開ける。
レールに何か挟まっているのか、開けづらい。
教室では、すでに来ていた何人かが、集まって談笑している。
僕は、自分の席へ行き、必要なものを鞄から出す。
「おはようございます。月並さん」
隣の席から挨拶される。
「おはよう。委員長」
僕は、定着した愛称のような相手の役割を言う。
彼は、僕の男友達の一人で、ザ・真面目の人間だ。
その真面目さを過度に人へ押し付けることもないので皆に好感を持たれている。
「委員長は、昨晩、あのゲームした?」
「えぇ。面白いですよ」
委員長は、答える。
一か月ほど前に僕が委員長へ勧めた。
それからハマっているそうだ。
楽しそうで何よりだ。
僕は、それから物部や委員長ととりとめのない内容を談笑する。
時間は、経過し、ホームルームになる。
これといった連絡事項はなく、速やかに終わる。
それから一限目にはいる。
机へノートと教科書を広げる。
教師が正面の黒板に文字を書き始める。
僕を含めた生徒がそれを見て、手元のノートに書き写す。
しかし、一部は、仮眠をとったり、不真面目だったりして、授業をそっちのけで己の世界に没入している。
悔しいことに僕も眠気で板書をとれない。
抗ってはみるが、これは無理だ。
起きられても脳が内容を理解をできない。
手もまともに動かせない。
後で復習しなければ。
そう考え、最低でも眠らないように目を開き続ける。
となりの委員長は、通常運転で板書を写している。
真面目なことだ。
後でノートを見せてもらおう。
授業が終盤にさしかかった頃、僕は少しばかり油断してしまった。
意識を持っていかれそうになる。
どうせ寝るのならゲームにログインしたい。
僕の抵抗もむなしく、瞼は重力に従順だ。
目に幕が下り始める。
もう、抵抗は、意味がない。
意識も薄れていく。
そこで夢のような、見間違いのような、光景が見えた。
眩しい、眩しい、光。
目の前に突如恒星が出現したような激しい光。
誰かが、僕を起こすために何らかの光源を当てたのかもしれない。
しかし、残念なことに目が覚めることは、なかった。
僕の意識は、そこで途切れた。
同時にそれが僕の最後に見た景色だった。
◆ ◆ ◆ ◆
教室にいた生徒全員、何が起こったのか、解らなかった。
各々が授業を受けていたら突如、光に包まれたのだ。
皆が個々の連想をする。
爆弾だったり、視覚の異常だったり、気が付かない者もいる。
それが彼、彼女たちの最後だった。
後日、メディアによって取り上げられた。
○○高校、生徒複数名が行方不明。
神隠しと世間に騒がれるほどになった。
教室は、授業当時のままで人だけが綺麗さっぱり消えた。
しかも、高校のとあるクラスだけで起こった。
正式に異常事件と認定されるのは、しばらく後のことだ。
魂は、光に掴まれ、世界から引きずり出される。
同時に肉体は、分解され魂に吸収される。
世界の輪廻から脱出し、また別の輪廻へ。
傲慢な世界の行動。
――――――ようこそ。
世界は、魂にそう投げかけた。
スタートボタンが押された。




