第5話 新たな一面
「……」
「……」
足音だけが響き渡る。
どうも不思議な感覚だ。
現在、幼馴染の花凜と帰宅している。
助けて……ほんと気まずい。
今もほぼ集団下校みたいだ。
いや、それ以下かもしれない。
「……なんか喋りなさいよ。」
彼女は気まずそうにそんな事を呟く。
というか、自分で誘ったんだろ。
……頑張れよ。
「そんな難しい話の振り方あるか?」
「だって!!……しばらく関わってなかったから、何話せばいいかわから……ないし。」
そう、中学の頃は趣味の漫画でとても気があったからよく一緒に帰ってはいた。
けど、高校に入ってしばらく関わってなかったし。
こんなのむしろこっちのセリフだ。
「なんかあるだろ、最近テスト勉強順調?とかあの番組みたー?とか。」
「それじゃすぐ話が途切れるじゃない。」
それはそうかも知れない。
「じゃあ、本の話題とかあるだろ。」
「……そんなに言うなら!あなたが話を振ればよかったでしょ!!」
なぜ逆ギレする。
帰るのを誘ったのは誰ですか……
「え……じゃあ、最近読んだ本とか?」
「なんで疑問形なのよ!自信持ちなさいよ。」
あんたにだけは言われたくない。
「僕は”非凡なる凡人”を読んだよ、国木田独歩の。」
「......渋。なんか気持ち悪い。」
おい、明治文豪全員に謝れ。
「……私は、”羅生門”を読んだわ。」
人の事言えないじゃないか……
「……」
「あーもう!なんかいいなさいよ。このポンコツ雨宮!」
「え、いや……明治文豪の作品読むんだね。ラノベ読むイメージあったら、意外で。」
「ふふーん。私だってそういう頭良さそうな本だって読むのよ。褒めなさい!」
え、なんで??
「え……頭いいじゃん。」
彼女は気まずいと不安の混じった顔から誇りの持った表情に変わる。
前から思ってたけど顔に出やすいタイプだな。
そんな噛み合わない会話を続けていたら、目の前にちょうど良さそうな古本屋が見えてきた。
「あ、ごめん。古本屋よっていい?」
「いいわよ。私もよろうと思ってたの。気にしないで。」
古本屋に用があるなんて珍しいな。
なんてことに感心しながら僕と花凜は古本屋に入る。
この古本屋は年季が入ってて、さぞかしいい本が眠ってそうだ。
この古本屋ですること……
こないだ読んだ”非凡なる凡人”を買うことだ。
なんせこんなに共感した本は久しぶりだ。
ぜひ部屋に飾りたい。
あいつは何見てるんだ。
ふと目線を彼女にフォーカスさせる。
「……!」
本をみているようで見てない。
……僕を見ている?
なにそれ怖い。
気を取り直して……国木田独歩……あった。
僕はレジを済ませ、本をリュックにしまいながら店を出る。
となりの電柱に花凜の姿はそこにあった。
「遅いわよ!」
「すまない、すまない。」
「はやく帰るわよ!」
「ああ、行こっか。」
彼女は先陣を切って歩き出す。
背丈的にもどうしても小学生に見えてしまう。
気のせいだろうか?
それよりもさっきから花凜の表情はコロコロ変わるがどこか不満そうな雰囲気が漂っている。
そんな事を考えていたら、別れる分岐道まで来た。
僕と花凜家が逆の場所にある。
だから、ここで中学のときも別れていた。
やっぱり花凜はどこか不満そうな顔をしているし、言いたげな顔もしている。
「どうしたんだよ?何か言いたいことがあるのか?」
「……ものやつ。」
「え?きこえな……」
「いつものやつをやって!!……ほしいの。」
そんな照れた顔されてもな……
あと、”いつものやつ”ってなんだ?
「いつものやつってなんだ??」
「んんんんもう!!なんでわからないの!!あなたってホント鈍感よね!勘弁して!!」
そんな怒って言われてもわからないものはわからないんだ。
「……腹筋触らせて。」
フッキンサワラセテ?……って!
「何言ってんだ!!この変態。」
なんで興奮した顔してるんだ。
「ち、ちがうわ。……違わないけど。とにかく!触らせて!」
「いきなり変なこと言わないでくれよ……」
「はぁ!?今までいいって言ってたじゃない!!なんで今ダメになるのよ!!」
「はぁ!?そんなこと……」
いや、待てよ。
そういえば中学の頃、本を読んでる時になんか言ってたような……。
集中したくて、テキトーに答えてスルーしてたけど、まさかあれか?
実際その受け答えした後に腹筋を触られてた気がするな……。
「あったな。」
「でしょ!じゃあいいわよね。」
「はぁ……わかったよ。」
シャツ越しに僕のお腹に花凜が小さい手を当ててくる。
こう意識した状態だとむず痒いというかこしょばいというか……
花凜は……なんか滾ってるぞ。こいつ。
めっちゃ興奮気味の顔をしてる。
こいつガチの変態だ。
「んふふふふ……落ち着くのよ私。ありがとう。堪能できたわ。」
彼女から不満の顔がなくなったのを確認する。
いやこんなのでいいのか?
花凜はそれでいいのか?
「じゃあ、帰ろうか。」
「そうね。じゃあまた明日ね。」
「ああ、じゃーな。」
僕は茜色に染まった綺麗な夕日にむかって歩きながら、今日のことについて考える。
幼馴染でも知らないことがたくさんあるんだな……。
中学からの幼馴染だというのに……
明日からどういう顔をして会おうか分からなくなってきた。




