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無能と追放された財務官、実務能力だけで世界を買い叩く  作者: 月城カナタ


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第25話:『敵対的買収の序曲 ――新大陸を、一株残らず買い叩く』

「……却下します。私の『人間性』を売るには、貴方たちの提示額はあまりにも安すぎる」


 監査官のモノリスが放つ、青白い徴用アップロードの光。

 それが私の額を貫こうとした瞬間、私は黄金の印章をその光軸へ叩きつけた。

 虹色の光と青の光が激突し、アイテールの塔が悲鳴のような金属音を奏でる。


「クロエ! 交渉決裂か!?」

 アラリックが漆黒の剣をモノリスの基部に突き立て、その不可視の障壁を力任せに抉り開ける。


「いいえ、陛下。これは交渉の『カウンター(反論)』です。……監査官。貴方たちは私をシステムに取り込み、演算資源として使いたいようですが……それは、最高に非効率な投資です」


【論理:矛盾。個体『クロエ』の演算能力は、惑星環境を安定させる最適解である。】


「それは貴方たちが『現状維持リスケ』しか考えていないからです。……ライラ、例のポートフォリオを全開にしなさい!」


「了解、ボス! ……あはは、宇宙の大家さんに『借金の付け替え』を教えてあげるね!」


 ライラがキーを叩くと、アイテールの全モニターに、これまで私が旧大陸で築き上げてきた『蒸気インフラ』『新決済ネットワーク』、そしてこの新大陸の『演算資源』を統合した、巨大な連結貸借対照表(BS)が展開された。


「……見てください。現在のこの惑星は、貴方たちが貸し与えた『魔法』という名の旧式設備に頼る不採算物件ではない。……私たちが実務で積み上げた『新しい文明』という名の、巨大な含み益を持つ成長株です」


 私は、印章を通じて母が遺した「真の帳簿」の最深部をハッキングし、監査官のモノリスへ直接、一つの『買収提案プロポーザル』を流し込んだ。


「和解条件を書き換えます。……私は貴方たちのシステムには入らない。代わりに、貴方たちが保有するこの惑星の『優先株(支配権)』を、帝国が発行する新通貨で順次買い取ります。……いわば、地球の『敵対的買収(TOB)』の開始です」


 モノリスの光が、かつてないほど激しく明滅した。

 宇宙の法理において、住人が大家を「買い叩く」などという事象は、想定外の極致だった。


【計算不能。……惑星の所有権を、住人が買い取るための『資本』はどこにある。】


「今、ここに生み出しました。……00(ゼロゼロ)、貴女ならわかるはずです」


 呆然と立ち尽くしていた演算人格の少女、00が、私の視線を受けて顔を上げた。

 彼女の瞳に、私の「数字」が同期していく。


「……。……。……そうか。クロエ、貴女……。魔法を止めたことで生じた『余剰寿命』……それを、この惑星の価値を裏付ける『信用資本』に変換したのね?」


「その通りです。魔法という名の借金を返済し終えた人類は、今や『負債ゼロ』のクリーンな会社です。……そこに、蒸気機関という名の『利益創出装置』がある。……監査官、貴方たちが持ち続けていても、この惑星は維持費メンテナンスがかかるだけの不採算物件です。……なら、今のうちに帝国に高く売り抜けなさい。……これは貴方たちにとっても、最高の『イグジット(出口戦略)』のはずですが?」


 沈黙。

 アイテールの空を覆っていた宇宙の影が、ゆっくりと揺らぎ、縮小していく。

 彼らの論理回路が、私の提示した「宇宙規模の買収劇」を、最も合理的な解決策として受理したのだ。


【……。……。提案を受理。……立ち退き要求を、買収契約バイアウトへ変更。……。……ただし、第一期の買収資金として、新大陸の最深部に埋蔵されている『旧文明の負債清算用アセット』――通称『黄金の都』の全資源を、一八〇日以内に納付せよ。】


「……一八〇日。……半年ですか。ちょうどいい決算期ですね」


 空の裂け目が閉じ、巨大なモノリスが光の粒子となって昇天していく。

 アイテールの広場に、かつてない静寂と、そして「自由」が戻った。


 アラリックが剣を収め、不敵に笑いながら私の肩を叩いた。

「……財務官。ついに宇宙の大家から、この星を買い取る契約を結んだか。……だが、その『黄金の都』とやらは、まだ誰も辿り着いたことのない死の土地だぞ」


「死の土地? いいえ、陛下。そこは、私たちがまだ手をつけていない『巨大な埋蔵金』の隠し場所です。……ライラ、船の整備を急がせなさい」


「はいはい、ボス! 次は、黄金を掘りに行くんだね?」


「掘りに行くのではありません。……落ちている資産を、帳簿に書き込みに行くだけです」


 私は、手に残った黄金の印章を見つめた。

 母の残した課題。それは、借金を抱えて逃げることではなく、借金さえも資本に変えて、世界そのものを買い取ることだった。


「……ジュリアン、セラフィナ。いつまで腰を抜かしているのですか。……次のタスクは『黄金の都への遠征資材の調達』です。一分でも遅れたら、貴方たちの給与から『宇宙維持費』を天引きしますよ」


「……っ! あ、ああ! すぐにやります、クロエ様!」


 逃げ腰だったかつての敵たちが、必死の形相で走り出す。

 不眠症。

 しかし、私の脳内では、新大陸の最深部にある未知の資源をどう換金し、宇宙の大家を黙らせるかという、史上最大の『決算報告書』がその輪郭を現し始めていました。


「……さあ、陛下。新大陸を、一株残らず買い叩きに行きましょうか」


 私の実務は、ついに星の裏側を越え、黄金の地平へと漕ぎ出しました。

最後まで「不眠事務官の惑星監査」をお読みいただき、誠にありがとうございました!


無能と蔑まれ、一国の財務官をクビになったクロエ。

そんな彼女が、最終的には宇宙の大家から「地球そのものを買い叩く」という、前代未聞のイグジット(出口戦略)に到達しました。


魔法という名の借金を清算し、蒸気という名の資本を築き、神や星さえも契約のテーブルに引き摺り下ろす。

彼女の戦いは、常に「数字」と「論理」と共にありました。

不眠症は相変わらずのようですが、これからは「自分の所有物(惑星)」を監査する日々が、彼女を退屈させることはないでしょう。


クロエとライラ、そしてアラリックの物語は、ここで一旦の決算クローズを迎えます。

皆様の応援があったからこそ、彼女は宇宙規模の負債を完済することができました。


もし「この実務無双、面白かった!」「クロエの働きぶりにボーナスをあげたい!」と思っていただけましたら、最後に【☆☆☆☆☆】の評価と、ブックマークでの「最終投資」をお願いいたします。

皆様の評価こそが、この物語の最高の「純利益」となります。


それでは、また別の「帳簿」でお会いできることを願って。

一級事務官・クロエ、これにて業務終了クローズいたします!

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