翡翠さん、マルグリットの借金返済ツアーに出かけ、札束の威力を実感する
女神が大好きなコスプレをしながら世界中で換金してきたお金でいよいよ借金返済です。
「マルグリット!」
「え?どなた?」
「私は試練の女神。人に試練を与えて成長を促す存在だ。」
「私、病気ですし、お金のために好きでもない男と夜をすごしますし、十分に過酷な試練を受けていますが....」
「うむ、それは認めよう。しかし、過酷な身の上がそのまま試練になるとは限らない。そのために私がいる。」
「新たな試練を課すのですか?」
「そうだ。そしてその代わり、おまえの過酷な条件を少し緩和してやろう。枕の下に手を入れてみるが良い。」
「お金が...こんなに...」
「それでまず借金を返すのだ。それも自分の手で。明日、ジャディという女がおまえを訪れる。女神である私が唯一信頼できる人間だ。彼女と相談して、さっそく債権者を回って借金を返すこと。ジャディが同伴すれば欺されることもないだろう。自分の手で自分が借りたものを返す、これが試練の第一歩だ。自分の尻は....いや、何でもない。良いな?これで私は消えるぞ。」
「ありがとうございました、女神様。」
翌日、女神が言ったとおりマルグリットをジャディが訪れた。
「こんにちは、マルグリット。女神様に言われてきました。よろしくね。」
「よろしく、ジャディ。」
「じゃあさっそく借金の返済を始めましょう。借用書は、たしかその戸棚の引き出しですね。プリュダンスさんが言ってました(私の分身壱に)。開けてもらっていいですか?」
「はい、全部ろくに読みもしないで投げ込んでいました。」
「さっそく整理しますよ。高利貸しに1万3千フラン、これが一番高いですね。宝石商に8千フラン、これが2番目。馬車関係で5千フラン。仕立屋に7千フラン。家具や絨毯に5千フラン。花屋に2千フラン、合計4万フランです。もちろんこれに利子が加わります。利子が一番高いのは、名前の通り高利貸しです。利子を含めるともろもろで5万近くになるでしょう。」
マルグリットの顔が青ざめたので、翡翠は笑ってとりなした。
「ここに12万フランあります。借金を全部返済してもまだまだ余りますよ。じゃあお付き合いしますから、全部返してしまいましょう。いいですか、女神様が言っていたように、自分で声をかけて自分で返すんですよ。相手が欺そうとしたときだけ私が介入します。よろしいですね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「じゃあ行きましょう。私の馬車を外に停めてあります。速いですよ。それに乗って借金完済大作戦です。」
「こんにちは、ムッシュ・サマノン。」
「おや、マルグリット嬢ではありませんか。珍しいですね、そちらからおいでとは。」
「もう来ることはありませんけどね。」
「とおっしゃいますと?」
「お金を返してあなたとはこれっきりということです。」
「一括でお返しになると?」
「はい、これっきりなのだからもちろん一括です。」
「利息も貯まっていますが...」
「それも含めてです。」
「では...利息を含めて15200フランになりますが、おまけして15000フランで結構です。」
翡翠が借用書をひったくって目を通して割って入った。
「ムッシュー、あなた、私たちが文字も読めず四則計算もできない女だと思っていませんか?ここに年利10%と明記してあります。借りてからまだ1年も経過していません。1年なら10%で1300フランですが、まだ8ヶ月です。利息は1300x8/12で866.67フランですね。元本と足して13866.67フラン。はした金はくれてやりましょう。13900フラン、どうぞお受け取りください。そしてその借用書を渡していただきましょう。」
「わかりました。どうぞ、ここに。それにしてもこんな金額を一括でお支払いになるなんて、いったいどんな殿方が....」
「ふん、女は男に貢がれるしか能がないと思ってるのかしら?世の中には投資というものがあるのよ。あなたのようにはした金の利息を数えるよりももっと楽しいゲームがね。」
サマノンが何か言いかけたとき、翡翠が割って入った。
「有望で魅力的な投資先を簡単にバラすと思ってるのかしら?Trop fou!」
次に翡翠たちが向かったのは宝石商のコンスタンだった。
「これはこれはマルグリット様、あなたを彩る新しい商品が揃っていますよ。」
「いらないわ。それよりツケを払いに来たの。8000フランだったわね。はい、これ。」
「えーと、まことに言いにくいのですが...」
利息を吹っかける気だと直感した翡翠が割って入った。
「借用書には何の記載もない利息を要求するつもりかしら?そんなゴミみたいなあなたにはこのゴミをあげる。」
女神がオデオン座で砕いた爪の先ほどのダイヤの破片を翡翠は指で弾いて宝石商にぶつけた。微細だが本物の高品質なダイヤであることをすぐに見て取ったコンスタンは卑屈な笑顔を浮かべた。
翡翠は借用書を破り捨てながら、借金返済リストにX印を付けた。
「次は仕立屋ですね。7000フラン。一晩しか着ない服によくもそんなにつぎ込みましたね。」
「同じ服を着て夜会には出られないもの。」
「そうですか。私なんていつも同じ巫女服....いえ、何でもありません。」
「ジャディーのその服、すごく素敵じゃない。高かったんでしょ?」
「いえ、これはその――(分身から剥ぎ取ったとは言えない)――女神様が魔法で出してくださったの。」
「こんにちは、マダム・ヴィトリーヌ!」
「あら、マルグリット様。私、ヴィクトリーヌでして、ヴィトリーヌ(ショウウィンドウ)ではありませんわ。」
「ツケを返しに来ました。もうあなたとの付き合いもこれでお終いね。」
「他によい仕立屋を見つけられたんですか?」
「ミニマリストになりますの。」
「は?」
「ゴテゴテした服はもういらないって言ってるんです。はい、ツケの7000フラン。利息の記載はないから、これで借用書を返してちょうだい。」
翡翠がこの時代に合わない笑顔で店内を一望した。
「なんだかダサーい!」
「は?何と?」
「あら、ごめんなさい。異国の形容詞です。意味は検索してくださいね。」
翡翠は借用書を破り捨ててリストにX印を付けた。
「あとは馬車と家具屋と花屋ですか。ちょっと疲れましたね。」
「いったん戻ってお茶にしましょうか?」
「プリュダンスに頼んであとの3人には家まで取りに来てもらいましょう。」
「プリュダンスとはちょっと気まずいのだけど...」
「あちらも同じで引け目があるから、ちゃんと働いてくれますよ。私、顔なじみですから。」
「じゃあ、プリュダンスに伝えてね。」
馬車を帰してアパルトマンに向かって歩いていると、いつの間にか男たちに囲まれていた。
「お嬢さん方、ずいぶんと景気が良さそうだな。」
「宝石店でツケを払ったうえダイヤモンドまでプレゼントしてたの、全部見てたぜ。」
「仕立屋でも千フラン札でツケを払ってたなあ。」
「少し融通してくれねえか?」
下卑た笑顔でジリッジリッと距離を詰めてくる。
「おやまあ、お行儀の悪い人たちですね?岩がいいですか、火の粉がいいですか、それとも雷?」
「は?何言ってやがる!」
「血を見るのはいやなので吹き飛んでしまいなさい!シルフェ、飛ばせ!」
翡翠は低位の風魔法で悪漢たちを吹き飛ばした。今頃セーヌ川に落ちているだろう。
「ジャディ、あなた...」
「女神様にいただいた力です。女ひとりだと何かと物騒ですからね。」
今回でエンディングかと思っていたら、楽しくなって長くなっちゃいました。次回かな?それともその次かな?




