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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
最終章

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96 過去と結論4

 ユリウスが思案顔で口を開いた。


「姉様は婚約者を作ろうとしていましたよね。姉様の考えだと、結婚後相手を愛してしまえば、相手は死ぬことになりますよ?」

「うん、だから、愛さなければ大丈夫でしょう? 家族として、家族愛のような形で夫婦になれればと……」

「姉様には愛さないなんて無理でしょう」

「無理じゃないよ!?」

「無理です。覚えていますか? 咲やジークや双子をうちに連れてきた時のこと。僕は得体のしれない者たちだと、家に入れるのを反対しましたよね。結果論としては、咲たちは皆いい人でしたが、いい人でないことのほうが普通ですよ? なのに、姉様は家に入れて、結局愛情まで注いでしまっている。姉様は情が深い人です。そんな姉様が、結婚相手に愛情を抱かないなんて、ありえません」


 ショックだった。そう言われると、そんな気もする。最初から私の計画は破綻していたのだろうか。


「どちらにしても愛してしまうなら、姉様が最初から好きな流雨さんを選んだ方が、よくありませんか?」

「そうだよ、俺を選んで」


 流雨が私の手をすくって、キスをする。止めてくれませんかね、流雨の色気がダダ漏れでドキドキする。


「でも、カーリオン様に、ルディとは関わるなって言われたから、建国貴族のるー君とも結婚はしないほうが……」

「なんで?」

「え、だって、また時間が遡ったりしたら……」

「リンケルト家の石の力には、時間の遡りはないよ」

「それでも、似た力があるんじゃ?」

「時間に関係する力はない。今は詳しくは言えないけれど、防御に適した力はある。だから、今の俺は、簡単には死なないよ」


 簡単には死なない?


「紗彩の心配している、俺がまた死ぬんじゃないか、という話なら、今の俺なら殺そうとするのはまず無理だろう。東京のころのように、トラックが突っ込んできたとしても、今なら防御ができる。ルーウェンの敵がたとえ俺を狙ってきたとしても、これも防御が可能。今、石の力を色々と実験中なんだ。『なんとかとハサミは使いよう』と言うでしょう。優れた力を持っていても使えなくては意味がない。今はまだ俺だけを守るのが精一杯だけれど、実験がうまくいけば、そのうち紗彩も守れるようになる」

「……私も?」

「当然だよ。俺は紗彩がいるから、この世界で生きることを決めたんだ。紗彩を守れなくては意味がない。紗彩とずっと、一緒に生きていきたいから」


 じわじわと涙が浮かぶ。そんな幸せに、希望を持ってもいいのだろうか。


「ずっとって、どれくらい……?」

「うーん、八十年くらい?」

「八十年かぁ……それはいいね」


 八十年一緒にいられるなら、すごく嬉しい。ルドルフとのように、たった二年の幸せでは足りない。物語のめでたしめでたしの先も、好きな人と末永く幸せに過ごしたい。


 流れる涙を流雨が拭う。流雨となら、困難も乗り越えていけるのではないかと思った。どうか、自分の幸せを願うことを、許してほしい。


「るー君と結婚したい……。ずっと一緒にいたい。るー君が好きなの」


 流雨が息をのんだと思うと、私を抱き寄せた。


「俺も紗彩が好きだよ。愛してる」

「私も! るー君、返品しないでねぇ」

「ははっ、するわけない。一生大事にする」


 ぎゅうぎゅうに抱きしめてくれる流雨が好きだ。思ってもみなかった急展開に、嬉しすぎて、こんなに幸せでいいのだろうかと思ってしまう。


 流雨が私から体を離すと、流雨の顔がスローモーションのように近づいてきた。あれ……? と思うと、ユリウスの手が私の顔下半分を覆った。


「危なっ!! 何やっているんですか! さすがに、僕の目の前でそれは許しませんけれど!?」

「……キスくらい、よくないか? たった今、紗彩は俺の婚約者になったようなものだし」

「どこにキスしようとしました!? 唇でしょう!?」

「当然」

「頬ならまだしも! 唇はまだダメです! というか、切り替え早すぎではないですか!?」

「愛情表現は『速攻』が俺の信条で」


 口だけでなく鼻も塞がれていて息ができない。私の口を覆うユリウスの手を私の手でペチペチとするが、ユリウスは流雨と言いあっていて気づいていないようだ。やばい、私、今死ぬかも。


 酸欠になり、私が意識を飛ばしかけた時、慌てたユリウスと流雨の声が遠くで聞こえるのだった。


 はあ、死ぬかと思った。せっかく流雨と結婚できるとなったのに、危ない危ない。ユリウスが座る椅子と私の椅子が横に並べられ、ユリウスが流雨から私を守ろうと抱きしめている。少し流雨が不本意そうな表情だけれど、私も唇にキスはさすがにまだ恥ずかしくて無理なので、ユリウスに守られておく。


 そういえば、死ぬかと思ったついでに、もう一度確認だけしておこう。


「るー君は、本当に死なないよね? 私と結婚しても、私がるー君大好きでも、死なないよね?」

「……死なないよ。やっと紗彩と結婚できるのに、死ねない。身を守ることは最優先にする」


 私だって『絶対』はないと分かっているけれど、どうしても不安なので確認せずにはいられない。流雨もそれは分かっていて、私を安心させようとこう言ってくれるのだろう。私が気にすることで、流雨がより一層、身を守ることに気を配ってくれると私も安心する。


「じゃあ、もし私が死んだとしたら、時間は巻き戻さないでくれる?」


 流雨だけでなく、ユリウスまで息をのんだ気配がした。

 リンケルト家の石の力には、時間に関係する力はないとは言っていたけれど、もし帝室に時間の巻き戻しを流雨がお願いしてしまったら? 神カーリオンは怒るだろうし、時間の巻き戻しをお願いしてしまった人物だって、何があるか分からない。もう二度と、私のせいで好きな人が不幸になるのは見たくない。


 しばらく沈黙していた流雨だったけれど、口を開いた。


「……約束する」

「……ありがとう、るー君。こんな約束をさせてしまって、ごめんなさい」

「いいよ。俺が紗彩を前世のような目に合わせなければいいんだから、何も問題はない。紗彩を死なせたりはしない」


 流雨は何か言いたげにはしていたけれど、それを飲み込んだようだった。そして顔をユリウスに向けた。


「もういいだろう。今日は唇にキスはしないから、紗彩をこっちに。いつまで抱きしめてる?」

「僕の姉様なので」

「俺の婚約者だ」


 流雨は麻彩とも時々私の取り合いをしていたけれど、ユリウスに対しては遠慮がない。ほとんど強制でユリウスから私を取り上げると、流雨は椅子に座り、私を膝の上に乗せた。


「何で膝の上……」

「紗彩、婚約者になったんだから、前のように頬にキスするのは、復活させていいよね?」

「う………………ぅん」

「返事が聞こえないよ?」

「はぁい!」


 顔が赤くなるのは、慣れるまで続くのだろう。さっそく頬にキスをする流雨が恥ずかしいし、ジト目のユリウスの視線がジリジリする。

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