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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
最終章

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82 公爵令息の力 ※流雨(兄(仮))視点

 ルーウェンとなった流雨に対し、紗彩にどうやって好きになってもらうか考えるが、あまり焦ってもよくないのは分かっている。少し落ち着こうと流雨はスマホを取り出した。当然見るのは紗彩のこれまでの写真や動画である。どれもこれも癒されるから、実海棠に無理を言って用意してもらってよかったと思う。


 実はこのスマホは実海棠に用意してもらった。流雨がルーウェンとなってから今までに紗彩は二度ほど東京に戻った。最初に東京に戻った時に、実海棠や麻彩には流雨がルーウェンとして生きることを紗彩は伝えたらしい。東京から紗彩が戻ってきた時に、実海棠から動画の手紙をもらった。


 最初の動画の手紙では、流雨が死んでしまったことで実海棠はさすがに暗い顔で話をしていた。その返事代わりに、二度目に紗彩が東京に戻る際に、流雨も動画の手紙を紗彩にお願いして持って行ってもらった。それとは別に日本語で書いた手紙も実海棠に渡した。


 動画は、ルーウェンとしての姿を実海棠に見せておいた方がいいだろう、という意味合いで送ったのだが、手紙については、二つのあるものを実海棠に依頼するために書いた。一つ目は今はまだ出す段階ではないので収納だけして秘密である。二つ目は、紗彩専用の動画と写真をインターネットのクラウドの記憶装置に保存しているので、そのIDとパスワードを教えるから、そこから全てのデータを流雨にくれ、とお願いしたのだ。


 すると、次に紗彩が戻ってきた時に、実海棠がスマホをプレゼントしてくれた。中にはお願いした動画と写真が全て入っていた。そして実海棠の動画の手紙がスマホに入っていた。その中で実海棠は呆れたように「死んだ後に最初にお願いする手紙がこれか? 相変わらず紗彩バカなところは変わらないな。もう紗彩を泣かせるなよ?」と言っていた。やはり流雨が死んだことは、紗彩の心の傷になっているのかもしれない。


 日本で死んで帝国にやってくる死人は、心の内に本人が抱える罪の意識というものが多少は関係があるらしい。流雨の抱える罪とは、間違いなく父を見殺しにしたことにあると思う。死神業を営む紗彩は、流雨のそんな罪を知ってはいるだろう。しかし紗彩はその話題に一切触れようとしない。死んだ人間の罪は、本人のものだから、紗彩が立ち入るべきでないと思っているのだろう。紗彩の死神業の仕事に付いて行った時に、魂の回収をしているのを見ても、やはり死人の事情を紗彩は自分から無理やり聞き出そうなんてしない。日本に未練があるならば、その未練を軽くする手伝いはします、と親身になることはあるが、それだけだ。


 流雨に無理やり聞いてこない紗彩に、流雨は救われている。あれは流雨が背負うべき負の感情で、紗彩に聞かせたい話ではないから。それに、そのことで流雨を避けようともしない紗彩に、どれだけ気持ちが助けられていることか。実海棠の言うように、もう二度と紗彩を泣かせるようなことはしたくない。


 帝国で生きていくと決めた以上、ルーウェンとして生きやすくするために、色々と動く必要があった。


 ルーウェンとなってすぐ、リンケルト公爵である父と話をした。今後、心を入れ替えてリンケルト公爵家の後継者として学んでいきたいと。父は大喜びで、公爵家の仕事の話、この国の建国と石の歴史などを話してくれている。


 この国の建国と石の歴史は、はっきり言って話が重すぎる。リンケルト公爵家の後継者だから知れる話なんかが、特に重い。この国の帝室とリンケルト公爵家は立場は違えど、権力に差はほぼない。リンケルト公爵家などと言われているが、別名では『大公家』と呼ばれるその事情を聞いて、なるほどとは思ったが、この国は帝室とリンケルト公爵家のどちらか片方でも断絶したら、国は亡びる。建国貴族は他にもいるが、とにかく帝室とリンケルト公爵家だけは無くなってはまずいことは分かった。


 この二家だけは、後継者がいなくなるということはタブー中のタブー扱い。リンケルト公爵家が使える石の力なんぞ、当主や後継者を失わないための付属品扱いという事実。建国貴族ではない新興貴族からすれば、建国貴族の使える石の力に敬う気持ちがあると思うが、みな石の力の本質から目を逸らされているだけなのだ。大事なのはそこじゃない。しかし、一般的にはそういう見方をするよう、建国当初から情報操作されているのだ。普通の国民は、実は自分が砂上の楼閣にいるとは知らないほうが幸せだろう。


 日本で生きてきた流雨には理解したくない部分もあるし、流雨だって知らずに生きられる立場のほうが幸せだったと思うが、ルーウェンの体を借り受けることを自身で決めたのだから、最後まで付き合うつもりだ。


 リンケルト公爵家に伝わる石の力、本質の方ではなく付属品扱いの力について。


 一つ目、エネルギー源化。石の力を派生させようとした実験の副産物で、『大公石』というものを作っている。帝室でいう『皇帝石』と似たものだが、皇帝石とは違い、大公石は細かなエネルギー調整ができないため、家庭用の機器では使用できない代物だ。そのため、帝国内で東西南北に伸びる列車なんかの動力源が現在の主な使用先になっている。


 二つ目、再生力、もしくは治癒力。石の力と血の能力で、生きている人間に対し傷や病気を治す、といったことができる。ルーウェンが先日刺された時に傷を再生させたのもこの能力だ。即効性はないし限度もある。ちなみに、この能力は他の建国貴族の当主や後継者も使える力だという。


 三つ目、重力操作。これはリンケルト公爵家だけの力らしいが、使い方が難しく、今までほとんど使われてきていない。いや、正確には帝国のあり方の本質のほうで使われているようだが、そちらは意識せずとも使えているから、現状では流雨が何かを考える必要はない。問題はこの力を応用できていないことにある。


 父から後継者として学ぶ傍ら、最近はこの重力操作をどうにか応用できないかと実験中である。


「少し浮ける様になられましたね」


 重力操作のできる石を手に持ったまま、自室で集中しているとソファーから体が少しだけ浮いていた。そんな流雨を見て、アルベルトが感想を述べている。


「ほんの少しだけな。これだけじゃ、あまり役に立たない。まだ基本中の基本だけだしな」

「ご自身が自由に浮けるようになったとして、その後はどうされるおつもりですか」

「第二段階は物を動かせるようになることだな」

「……その力、必要ですか? 物なんて、使用人に言えば取ってきてくれますよ?」

「物を動かすだけのはずないだろう。それもまだ基本中の基本だぞ。俺はさらに応用させたいから」


 東京での本業、システムの構築なんか、全て応用やアイデアのひらめきばかりだった。そういうのを考えるのは流雨が好きなことでもある。


「それに、これを自在に使えたら、ルーウェンを襲ってくる相手に対応もできそうだから」

「確かに先日ルーウェンさまが刺されたのは、ルーウェンさまにあるまじき失態でした。本当のルーウェンさまであれば、刺される前に軽々と避け、相手を打ちのめしていたでしょう」

「仕方ないだろう。日本で普通に刺されることはまずないのだぞ。そんな警戒もしてなかったんだから」


 ルーウェンがこれまで作ってきた敵は多い。ルーウェンとなった流雨は、すぐにそれらの対処に動いた。金銭や別の補償で解決できるものにはすぐに対応したが、全てがそれで解決できるわけはなかった。いつルーウェンに恨みを持つ者が襲ってくるとは限らない。先日紗彩が流雨を心配して泣いていたが、そんな理由でまた紗彩を泣かせたくはない。


 だから、この国で主流という剣や武闘なんかも最近訓練をしている。


「ですが、あの一件があったからこそ、ルーウェンさまの最近の訓練では、本当のルーウェンさまかと錯覚するような動きをされますよね」


 アルベルトには、流雨のことを今まで通りルーウェンと呼ぶように言ってある。


「ルーウェンの体は出来上がってるからな。それに俺も元は運動は得意だったから」

「あれって、運動と呼べる動きですか?」

「ルーウェンの記憶があるから、記憶通りに動けば、なんとか似た動きはできる。それでも似た動きなだけだ、まだルーウェンのように天才的な武術や剣術ができるわけじゃない」

「本当のルーウェンさまの動きまで、できる必要はないのではないですかね……。ルーウェンさまには手練れの護衛も付けているのに」

「最後に自分を守れるのは自分だけだ」


 自分を守れて初めて紗彩も守れるのだから。

 武術や剣術、それに重力操作も使いこなせるようになる必要がある。流雨は重力操作に集中するのだった。

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