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逆行死神令嬢の二重生活 ~兄(仮)の甘やかしはシスコンではなく溺愛でした~  作者: 猪本夜
第一章

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54 兄(仮)の回想1 ※流雨(兄(仮))視点

 流雨は小さいころから何かを欲しいと思うことが少なかった。

 友人が欲しがるゲームにも興味がなかったし、どうしてもやりたいことも特になかった。


 唯一、小さいころに欲しいと思ったものは、弟妹だった。友達と遊びに行くと、よく弟妹を連れてくる子がいた。「お兄ちゃん」と兄を慕い、いつも兄の後をついてくる弟妹は、すごく可愛かった。しかし兄である友達は弟妹を邪険にし、「いつもついてくるから嫌になる」と眉を寄せた。流雨だったら、弟妹がいたなら絶対に甘やかして可愛がるのに。弟妹のいる友達が羨ましかった。


 だから父には怖くて言えなかったが、母に少しだけ弟妹が欲しいと言ってみたことがある。そして、母が妊娠した時は、流雨にもついに弟妹ができると、本当に嬉しかった。しかし、弟妹が生きて生まれてくることはなかった。


 その後、父も亡くなり、母と二人暮らしになると、母は生活をするために働き、いつも忙しかった。流雨が子供の頃は、流雨が働いて助けることもできず、疲れている母に申し訳ない気持ちが強かった。


 そんな流雨は、知り合いの大人からパソコンの使い古しを貰うと、パソコンを使ってシステムを開発することにのめり込み、気づいたら中学生の時にはパソコン一台で少なくない報酬を得るようになっていた。だから高校生になって、すぐに起業した。


 そんな高校一年の時、よく一緒にいる実海棠と一弥と一緒に夕食をする約束をした。待ち合わせ場所に一弥と立っていると、その傍に一台の車が止まった。その車から最初に出てきたのは、麻彩だった。好奇心旺盛な瞳を一弥と流雨に向けていた。そして次に車から出てきたのは、紗彩を抱きかかえている実海棠だった。

 実海棠に妹が二人いることは知っていたけれど、会うのは初めてだった。


「悪い。出かけ時に連れていけと煩くて、連れてくることになった。麻彩、挨拶は?」

「こんばんは! 一条麻彩です! 六歳です!」

「おぉー、麻彩ちゃんかぁ、可愛いじゃーん」


 自身にも妹がいる一弥が、慣れた様子で麻彩に笑いかけた。麻彩はキラキラの瞳で一弥と流雨を交互に見ていた。実海棠と同じ緑色の、猫目の大きい瞳で、六歳というには背が高いけれど、イタズラ好きそうな、わくわくとした表情が可愛いかった。


「あと、俺が抱いているのは上の妹で紗彩って言うんだ。今九歳だな。車の中で寝てしまって、寝たままで悪いな」


 紗彩が九歳と聞いて、流雨はぴくっと反応した。もし流雨の弟か妹が生まれていたなら、同じ年だったはずなのだ。実海棠の肩辺りに顔を伏せて寝ている紗彩の顔は見えなかった。髪の色はミルクティー色で、実海棠の母は海外の血が入っていて、同じくミルクティー色だと聞いたことがあった。


「ねぇ、お腹の音がすごくしてるけど、実海棠じゃないよね」


 一弥が実海棠に耳を向けながら言った。流雨も音には気づいていた。実海棠が苦笑しながら口を開く。


「紗彩の腹の音だ。よく腹減ってて寝れると思う。今日帰ってきたばかりで疲れてるんだ」


 その時、麻彩が一弥の服を引っ張った。


「ねぇねぇ、知らない人だよね?」

「うん? まあ、そうだね。今日初めましてだね」

「よし!」

「よし、じゃない! 一弥! 麻彩を止めろ!」

「は!? え!?」


 麻彩は首から下げている人形のようなものを引っ張ろうとしたが、間一髪で一弥がそれを止めた。


「なになに!? これ、何なの?」

「危な……。防犯ブザーだ。音を鳴らすのが、今、麻彩のブームなんだ。いいか、麻彩、誰にでも使ったらダメだと言っただろう」

「知らない人には音を鳴らしていいって、さーちゃん言ったもん!」

「知らない人じゃないだろう。さっき挨拶しただろう」

「挨拶したのは、私だけだもん!」


 確かに。一弥と流雨は、慌てて麻彩に挨拶と自己紹介をした。

 それから行く予定だったイタリアン料理の店に向かい、個室に案内された。四人席にそれぞれが座り、実海棠は紗彩を抱いたままなため、まだ紗彩の顔が見られなかった。


「頼みすぎじゃない? 俺、そんなに食べられないけど」


 実海棠が頼む料理の量に、一弥が引き気味に言う。流雨もお腹は空いているが、十人前くらいありそうな料理はさすがに食べられない。


「大丈夫。紗彩が食べるから」

「え、そうなの? そのちっこい体で?」

「今日は腹減ってるのは分かってるから。紗彩から腹の大音量が聞こえてるだろう? 俺には振動まで来てる」


 苦笑する実海棠の言葉に、流雨は驚く。紗彩は九歳というが、背の高い六歳の麻彩と同じくらいの体格に見える。あの体に、本当に大量の料理が入るのだろうか。


 それから料理が運ばれてくると、実海棠は紗彩を起こして、四人席のサイド、いわゆる『お誕生日席』に紗彩を座らせた。この時、流雨は初めて紗彩の顔を見た。麻彩と似た緑色の猫目の瞳で、眠気眼のぽやっとした表情。それがあまりにも可愛くて、目が惹きつけられた。


「ほら、紗彩。お腹が空いてるんだろう。これ、フォークとスプーンだ」

「ありがとう、お兄様……」


 まだ眠いのだろう、しかしお腹も空いているようで、紗彩は目の前の食事を食べ進めていった。そして、五人前ほど食べた頃だろうか、やっと目も覚めたのか、一弥と流雨の存在に気づき、紗彩はビクっとした。


「……誰?」

「今気づいたんだぁ! 紗彩ちゃん、俺だよ俺」


 一弥のふざけた物言いに、紗彩は怪しい物を見る目つきをして、はっとした顔をした。


「まーちゃん!」

「ここにいる! 鳴らす!?」

「鳴らして!」

「駄目だ!」


 実海棠の声に反応し、麻彩が鳴らそうとした防犯ブザーを再び一弥が止める。


「お兄様! 不審者!」

「違う違う、俺の友達だから! 友達と一緒に夕食に行くって、言っただろう!?」

「怪しい知らない人に話しかけられたら、躊躇しちゃだめって、学校の先生言ったもん!」

「普段はな。今日は知り合いになった人だから、防犯ブザーは鳴らさなくていい。ほら、一弥と流雨はまた自己紹介して!」


 慌てる実海棠に、一弥と流雨も自己紹介を再びするが、紗彩の目つきはまだ怪しい物を見る目である。


「お兄様、不審者がおじさんとは限らないって、先生言ってた! はっ!? まさか、まーちゃんを狙ってる!?」


 紗彩は麻彩を抱き寄せると、一弥と流雨を睨んだ。


「まーちゃんが可愛いからって、連れて行っちゃダメ!」

「連れて行かないよ!? 紗彩ちゃん、誤解だよ! 麻彩ちゃんは可愛いけどね」

「ほらぁ! やっぱり、まーちゃんを狙ってるんだぁ!」


 一弥の返事に紗彩の警戒心がますます上がり、麻彩は『お誕生日席』に座る紗彩の隣に移動させられ、その後紗彩はずっと一弥と流雨を睨み付けながら食事を終えるのだった。


 あの小さい体の紗彩に大量の食事が綺麗に消えて流雨は驚いたが、それよりも紗彩から目が離せない。怒って警戒しているところも可愛いし、仕草一つ一つが愛らしい。もしかしたら、流雨の弟妹の生まれ変わりかも、とまで思った程、紗彩に興味が向いた。


 それからというもの、海外に住んでいて時々帰って来るという紗彩とまた会いたくて、実海棠に今後も一緒に食事をさせて欲しいと頼んだ。

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