02 : ILLUSION IS MINE
2.
――極めて当然のことだが、
この世には両手両足が化け物のようになる人間や、二足歩行で歩き、ましてや人語を解すことのできる白ウサギなどというものが一般的に存在しているわけではない。言ってしまえば、あれは例外中の例外だ。そして、例外ゆえにそれは坂下夕莉という人間以外は決して知らない事実であり、世間も知る必要のないことであった。
あの化け物たちのことを、夕莉は勝手に『幻想人』と呼んでいた。
幻想人――つまり彼らは、幻想に魅入られた存在なのである。ちなみに付け加えておくと、元は人間である。彼らは理由は定かではないが――とにかく幻想という名の悪魔に取り付かれた。そして、その幻想は取り付いた人間の『願い』や『欲望』を糧に成長し、徐々にその人間の身体に影響を及ぼすようになる。
特にそれが顕著になるのは、肉体面での話である。
取り付かれた人間は、肉体面において人間ではない怪物に変わっていく。ただ肉体面が顕著であるというだけで、精神面でも徐々に進行していく。やがて幻想に魅入られた存在は、肉体、精神の両面から本当の怪物となり――間もなく罪もない人間を殺し始める。
幻想人は、物語の中にしか存在しないような化け物に酷似していることが多い。あの飾磨恭二を例に挙げれば、彼はフィクション上での鬼が一番近い存在であるし、あの白ウサギに至っては『不思議の国のアリス』が有力候補だろう。
彼らは化け物である以上――人間以上の身体能力を持っている。それを放置することによって、後々の人間社会にとって与えられる損失は莫大なものだろう。ただ先ほども言ったとおり、その事実を正確に知っているのは坂下夕莉だけだ。
だから、その解決を願うならば――夕莉は独り、たとえ誰一人味方などいない状況であろうとも、幻想人を殺すしかなかった。
その先に自身の幸福がなかろうと。破滅しかないと分かっていても。
それがこの事件の元凶に関わりながら、唯一生きながらえてしまった――。
愚かな人間の、愚かな選択なのだから。