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魔法少女は絶望しました  作者: こねこねこ
第2章 願いとゲーム
9/9

第7話 モカ、最後の願い

 ゲームにおけるフローネの勝利が確定した。

 リコリスの言葉が事実なら、モカが殺されてしまう。

 それを避ける方法はないか。

 リコリスの提示したルールに穴はないか。

 フローネは考え続けていた。


 だが――。

 気が付けば、フローネは『空間』の外に転移させられていた。

 ゲームが終了したからか、魔法少女の衣装も復活していた。

 ただし、それはモカが手を加える前のものだった。


 キューブの内部には、モカだけが取り残されている。

 外からその内部に入ることは出来ない。

 内部には、魔法少女の衣装を着たマネキンが現れていた。


 そのうちの一体が、モカに攻撃を仕掛けた。

 だが、モカは軽々とその攻撃を弾き飛ばし、七体のマネキンをあっさりと切り刻んだ。

 その様子に、フローネは拍子抜けしていた。

 同時に、大きな違和感を持っていた。

 リコリスは処刑すると言っていたのだ。

 それなのに、これだけで終わるはずがない。

 モカもそれに気づいているようで、倒したマネキンを警戒していた。


 その時だった。

 モカの背後に、新たなマネキンが現れた。

 以前、モカがデザインを見せてくれた、自分自身のための衣装。

 それを着ていた。

 その手には、双刀を持っている。


「モカちゃん、後ろ!」


 フローネは叫んだ。

 だが、その声は空間内部には届かない。

 結局、モカは後ろから刺されてしまった。


 フローネは、空間内部に進入しようとした。

 だが、透明な障壁に阻まれてしまう。

 魔法少女の身体能力で障壁を叩いても、びくともしない。

 それでも、壁を突破しようと試みるフローネに、リコリスが声をかける。


「フローネ。君は何をしているんだい? 既に説明してある通り、この中に入ることは出来ないよ」

「でも――」

「万が一、入れたとしよう。それで君は何をするんだい? モカと一緒に戦うつもりかい? だとしたら、それこそ無駄というものだよ。モカを襲っているマネキンは、彼女自身の魔力によって作られたものだ。モカが死なない限り、これは終わらない」

「それを見ていろって言うの!?」

「見たくなければ、見なくてもいい。目をつぶって、耳を塞いでいればいい。どちらを選ぶかは、君次第だよ」


 ここで諦めたら、全てが終わってしまう。

 仮に助ける方法がないとしても、それが諦めていい理由にはならない。

 それでも、フローネには何もできなかった。


 空間の内部では、モカがマネキンと戦い続けていた。

 マネキンは、どれだけ攻撃されても復活してしまう。

 それでもモカは、果敢に戦い続けた。


 戦って、戦って、戦って。

 そして、とうとう気持ちが潰れた。


 モカの身体を刃が貫いた。

 後は、一方的だった。

 たたみ掛けるように、他のマネキンたちもモカを攻撃する。

 モカの身体は貫かれ、切断され、殴打された。

 何度も何度も。


 モカが諦めているのが、フローネにも分かった。

 諦めてほしくない。

 でも、それは彼女を苦しめるだけなのかもしれない。

 フローネは、顔をぐちゃぐちゃにしながら見ていることしか出来なかった。


     × × ×


 少しすると、モカがリコリスに話しかけた。


「言い残したいことがある」


 それは、完全なる諦めの言葉だった。

 それを聞いたリコリスは、攻撃を止めた。

 親切心からでないことは明らかだ。


 攻撃が止み、モカの傷が塞がっていく。

 だけど、これは救いでも希望でもない。

 傷が塞がったところで、状況は何一つ変わっていないのだ。


 モカは立ち上がると、魔法少女たちに向き合った。

 彼女が最初に発したのは、謝罪の言葉だった。

 そして――。


「君たちに、お願いしたいことがある」


 モカはそう告げると、パチンと指を鳴らした。

 すると、彼女の衣装が変わった。

 これまでの男性的な燕尾服から、可愛らしい魔法少女の衣装へ。

 先ほどマネキンが着ていたものと同じものであるはずだ。

 だけど、モカが着ているというだけで、別物のように可憐に見えた。


「まず、ゲームをしていた時の、僕の錯乱した姿を忘れてほしい。図々しい頼みだが、あれを僕だと思って欲しくない」

「分かった! 忘れる!」


 フローネの声は届かない。

 だが、こちらの姿は見えている。

 モカは、フローネに優しい笑みを向けた。


「二つ目。これは、誰でもいい。できる人にやってもらいたい。これから、僕の家の住所を言う。その住所に住んでいる子供たちの様子をたまに見に行ってほしい。そして、虐待を受けているようであれば、手を打ってほしい」


 モカは、住所を告げた。

 そこは、市営住宅の一室。

 フローネも知っている場所だった。


「こういうのが得意なのは、ブラックダリアかな? 君とは、何度も口論になったね。君は、魔法少女にしては暴力的過ぎた。でも、実のところ、僕も似たようなものだ。僕も、家族を守るために魔法の力を使っていた。君のことをとやかく言う資格はなかったんだ」


 ブラックダリアは、荒っぽい性格の魔法少女だ。

 気に入らないことがあると、暴力で解決しようとする。

 モカは、そんな彼女にあえて頼んだ。


「頼めるかな?」


 ブラックダリアは答えなかった。

 普段通りの不機嫌そうな顔つきで、モカを見ている。

 それに対し、モカは笑顔を見せた。


「その様子なら、引き受けてくれたようだね。安心したよ」


 モカはそう言った。

 本当にブラックダリアが引き受けたのか。

 モカは本当にそう思ったのか。

 フローネには分からなかった。


「さて、残り時間も少ないが、三つ目のお願いだ」


 そう言って、モカはスカートをつまんだ。

 そして、西洋の挨拶のようなポーズをとる。


「これは、私が本当に着たかったもの。私が私自身のために、デザインしたものだ。私の夢と憧れが詰まっている最高傑作だと自負している」


 それは、白と桃色を基調としたドレスだった。

 幾重にも重なったフリル。

 可愛らしい桃色のリボン。

 これまで見たどのドレスよりも、可憐なものだった。

 これから見るどんなドレスよりも、素晴らしいものであるはずだ。


「残念ながら、この姿を見せるのは君たちが最初で最後になるだろう。だから、この姿を目に焼き付けておいて欲しい。これが、ボクの夢――その第一歩だ。残念ながら、二歩目はないけどね」


 そう言って、ゆっくりと一回転する。

 幾重にも重なったフリルがふわりと広がり、桃色のリボンが揺れた。

 まるで妖精のように可憐な姿だ。

 フローネは、その姿に見惚れていた。

 回り終えたモカは、少し照れくさそうに笑った。


「なんだか、普段はこういう格好をしていないから照れ臭いな。どうだろう、似合っているかな?」


 フローネは涙を流しながら、首肯した。

 それで伝わるはずだ。

 モカは満足そうに笑った。

 だが――そんな時間も終わりを迎える。


「さて、残り時間も少ない。君たちに、最後のお願いをさせてくれ」


 モカの声は震えていた。

 きっと、これが彼女の最後の言葉になる。

 認めたくない現実だが、認めざるを得ない。


「これ以上は見ないでくれ」

「……え?」


 フローネは、声を漏らした。


「切り刻まれた僕の姿を君たちには見てほしくない。君たちが最後に見る魔法少女モカの姿は、このドレスに身を包んだ姿にしてほしい」


 モカの視線がフローネに向けられた。

 フローネは、大きくうなずいた。

 そして、後ろを向いた。

 他の魔法少女たちも、それに続いた。


「ありがとう、フローネ。皆のこと、よろしく。ああ、そうだ。ついでと言ってはなんだけど――耳も塞いでおいてくれないかい?」


 それが、最後の言葉だった。

 フローネは耳を塞いだ。

 それでも、完全に音を遮断することは出来なかった。

 叩きつける音、抉る音、切り裂く音。

 ありとあらゆる不快な音が、聞こえてくる。

 同時に、モカが発する鈍い声も聞こえてくる。


 フローネは、必死になってそれを無視した。

 そして、モカとの楽しい思い出のことを考えていた。


 公園のベンチで、とりとめのない話をしたこと。

 魔法でフローネの衣装を改造してくれたこと。

 一度だけ、モカの弱音を聞かせてもらったこと。

 モカが憧れる衣装のデザインを内緒で見せてくれたこと。

 全てが終わったら、変身前の姿で一緒に遊びに行く約束をしたこと。


 聞こえてくる音を思い出で上書きする。

 何度も何度も上書きする。


 ずっと、そうしていた。

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