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面識のなかった同級生と名前のない関係になったら、隙間なく重なる相性で離れられなくなった  作者: momomo
第三章:過去の影に煽られる、黒い嫉妬と剥き出しの熱
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第十四話:じゃあ、付き合う?

 同窓会の会場を出ると、「この後、二次会しようぜ」と盛り上がるメンバーもいたが、俺は適当な理由をつけて誘いを断り、一人で駅へと歩き出した。


 すぐにスマホを取り出し、高梨へメッセージを送る。

 今すぐ、彼女の肌に触れたかった。


『この後も来る?』


 駅に着く前に、返事がきた。


『ごめん、今日は自分の家に帰るね』


「…………」

 改札の手前でピタリと足を止め、数秒間、その画面をただ見つめた。


 誘いを断られたのは、初めてだった。

 胸の奥がざわつき、ややムキになって返信をする。


『じゃあ、俺がそっち行く』


 そう送って、俺は自分の家とは反対方向に向かう電車に乗り込んだ。


 ◇


 ――ピンポーン。


「あ……いらっしゃい」


 半ば強引に押し掛ける形になってしまったが、ドアを開けた彼女は、いつもより少しテンションが低いものの、そのまま俺を部屋へと招き入れてくれた。


 彼女の甘い香りが満ちた部屋に足を踏み入れ、薄紫色のシーツが掛けられたベッドの端に腰掛ける。


 彼女が冷たい麦茶を渡してくれて、短い会話を交わしていった。


 さっきの男は、やはり例の元彼だとのことだった。


「…………」

 俺の質問に答えながらも、高梨は時折、過去の何かを思い出しているような、どこか遠くを見るような表情をする。


 その視線にまた、どうしようもない苛立ちを覚えた。


(……こっち見ろって)


 俺は衝動的に、ノースリーブから出ている彼女の細い腕を引っ張り、ベッドの上に引きずり込んで上から覆い被さった。


 黒いワンピースに身を包む彼女は、いつもよりずっと大人っぽく見える。


「……家に来たりはしてない?」

 じっと見下ろし、彼女の揺れる瞳を真っ直ぐに捉えながら聞く。


「あ……うん、それは今のところ、ないかな。家は知られてるわけだし、来ようと思えば来られちゃうけど……」


 もし今後そんなことがあっても、絶対にこの部屋には入れるな。


 心の底から湧き上がる黒い独占欲に突き動かされるように、思わずこんなことを口走っていた。


「危ないし、俺の家住めば?」

「…………へ?」


 顔が触れ合う一ミリ手前の距離で、彼女の目が限界まで見開き、素っ頓狂な声が漏れる。

「いやいや、何言ってるの」

「どうせ週末、ほとんど俺の家いるじゃん」


(そうだ。そうすればいいじゃん)


 自分自身が不意に発した言葉に、俺は心の中で深く同意するように言葉を重ねる。


 そんな突拍子もない俺の提案に対しても、彼女の反応はどこか冷静だった。


 少しの間を置いて、彼女が言った。


「……付き合ってるわけでもないし」


(まあ、そうなんだけど)

 でも、これだけ一緒にいて、濃密な時間を重ねているのだから、名前なんてどっちだって同じだと感じている。


 俺にとって大事なのは、そんな肩書きの有無じゃない。


 なるべく感情の波を抑え、いつもの平静なトーンを装って試しに問いかける。


「じゃあ、付き合う?」


 彼女は驚いたように息を呑んで俺を見た。


「俺は、どっちでもいいけど」


 彼女に『付き合いたい』という気持ちがあるのなら、それでもいい気がした。


 彼女はしばらく何かを真剣に考えたあと、逆に問いかけられた。

「……芦田くん、私を好きなの?」


「…………」


(『好き』、ね……)


 彼女に対して俺がいつも感じているこの、渇望するような感覚。

 一人でいるより、落ち着く空気感。


 この感情に、世の中にありふれている『好き』なんていう軽い言葉を当てはめることには、決定的な違和感があった。


 適切な言葉が見つからず何も言わないでいると、彼女の中で一人で勝手に思考が完結してしまったらしい。

「……まあ、元彼のことは気にしないで」


(……あ。そう)


 俺がすぐに言葉を返さなかったことに、傷ついてもいなさそうな、あっさりとした彼女の表情。


 それを見て、俺もなるべくこれ以上何も感じないように、ただ彼女の熱い身体の奥底へと埋もれていった。


 ◇


 明かりを消した、夕方の薄暗い部屋の中。


 俺の腕の中で、切なげにキュッと目を瞑って耐えている彼女を見下ろす。


「…………澪」

 初めて、下の名前で呼びかけてみた。

「…………?」

 彼女がうっすらと潤んだ瞳を開く。


 汗ばんだ耳元に唇を寄せて、もう一度、「澪」と囁いた。


「……な、なに?」

 彼女は顔を真っ赤にして、ひどく恥ずかしそうに返事をした。


 その初々しい反応がたまらなくて、調子に乗った俺は何度も彼女の名前を呼んだ。

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